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煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
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一時限目・数学

 上履きに替え、1-Aクラスに向かう。授業中だからと配慮して後部ドアからひっそり入ると、とたん、拍手に迎えられた。おやおや……。

 幸いというか、一時限目は数学。先生はこのクラスの学級担任だったので、連中、フリーダムなものだ。ていうか、その担任、巻き髪の山崎久美(やまさき くみ)からしてにこにこ顔で拍手してるんだからどうもない。このまま紹介してしまうが山崎久美、今年十九歳のお姉さん先生である。人口減による人手不足、という面もあるがそれは本人に失礼だろう。実力だ。でないとこのMZ(ガッコ)に採られていない。飛び級で大卒まで駆け抜けていった天才女子だった。アメリカから熱烈な勧誘攻勢をかけられたそうだが、本人が少々ビビリ質だっもので、けっきょくここに落ち着いたという初々しい美人さんである。もう一つ耳寄りの情報をくれてやろう。巨乳である。ふふん、いいだろう。

 俺と瑛の席は最後列。窓際が俺、右隣が瑛だ。念のためいうが、窓ガラスは防弾仕様である。

 机上のスペースに人差し指を押し付けて起動。タブレットが解除される。さあ授業をどうぞ、と態勢を整えたんだがそうはいかなかった。

 クラス委員の成田陽菜(なりた ひな)が事情を聞いてくるのだ。この三つ編み少女、まじめで気弱で委員を押しつけられたクチの女の子なんだが、そんな彼女が率先して、「ちゅうきち君、ちゅうきち君」と、ほほを上気させて俺に訊いてくるのだ。ほか、ようするに全員が話をせがむので仕方ない、JLFを返り討ちした一幕を話すはめになったのだった。

 自分としては簡潔にお話できたつもりだったが、皆からノーグッドを突きつけられた。そもそもなんで三島様とご一緒だったの、と質問が浴びせられた。ここからが泥沼だった。なんとか一つ答えると、それに対して十の事細かな質問が返される。飽和攻撃だ。俺はもう、警察の取り調べとはこんな感じなのだろうかと慄然とする思いだった。一切がっさい白状させられた。

 瑛と、前から一緒に登校しようと約束してたんだ、といったらワアアアアアという歓声があがった。なんで?

 曲がり角ごとに両肩をつかんで方向転換させた、といったらキャアアアア! だよ。なんでさ?

 バスで並んで座っただけでウニャアアアアじたばたじたばた!

 終点で目を開いたらずっと見られていた、ドッヒャアアアアアどんどんどんどん!

 コンコースでおナベさん像を二人で鑑賞した、で、ほわわわわわんんんん!

 駅構内を、不案内の瑛の手を引いて歩いた、で、もう殺してェーだって。殺されかかるのはこれからですが。

 ギリでアダルト車に乗り込んでしまった。同じ列車だったのにィイイイもだえもだえ!

 そこにいたJLF男! ヒッ、息をのむ音!

 JLF男がガード蹴散らし襲いかかってくる! ヒャヤヤヤヤヤ!

 ショックガンが効かねぇ! おおっフおおっフ!

 逆に撃たれる! ギャアアアアア!

 瑛のAEBF発動! 窮地脱する! オオオオオオオ!

 男同士、タイマンで勝負だ! 瑛を背中に庇い、挑みかかる俺! (チュ)(キチ)ッ! 中ー吉ッ!

 敵は強敵、追い詰められる俺! 絶望! 俺が倒れたら瑛はどうなる! ふんばる! だが、無慈悲きわまる攻撃、いいように翻弄される! ニヤリ! トドメの剛拳が、うなり上げて飛んでくる! もうだめだと繰り出した右(こぶし)が、まさかのカウンター! 男の鼻のツボにクリーンヒット! ドウッと倒れる男、信じられぬ光景! おおっ! おおっ! 勝利の女神が最後にほほ笑んだのは、この俺サマの方だったのだ。感涙と万雷の拍手ふたたび──

 まあちょっと脚色したけどさ。おかげで教室はヤンヤと盛り上がってしまった。アハハ、どうしよう。

 ところでさっきから女子の反応ばかりだが、それも当然。男子がいないからだ。

 この高校は一学年はAからEまでの5クラスある。一クラス約40人なのだが、内、男子は平均4から5人である。ホントに男子の数が少ないことが実感できるんだが、さらにだ。ここ1-Aクラスは、さらに特別なのだ。

 瑛のヤツが、お気に入り(?)である俺以外の男子を認めなかったから。おかげでこの教室に限っては男女比がすごいことになっている。

 瑛はこの環境を、四月の初っぱなから準備していた。クラスの女子連中、さぞかし困惑したろうよ。サクラが咲いて新入学。初の高校生活にうきうきと登校してみたら、この教室だけ女子だらけ。なぜ“一般男子”がいないのだろう、と瑛を盗み見て、皆が身の不安、疑心暗鬼に襲われた。そんな中にだ。派手やかに、俺が一人、満を持して登場したってわけだよ。みんなこれをどう解釈したんだろうね。そして真逆の立場の俺。こんな中に絡め落とされた俺の心境ってやつを、ちょっと想像して頂きたいものである。

 うん。まぁ、そんなこんなで、一時限目は終わった。

 二限目は国語でこれは強化科目だったからさすがにバタバタした雰囲気は息を潜めた。担当も強面の四十男、殺人チョークの達人、塩田勇(しおだ いさむ)だったので、おちゃらけようとする勇者はでなかった。

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