登校と警告
パトカーで送ってくれる、と申し出られたが、まぁアレだし、遠慮した。
それに、どうせ間に合わない。だったら、最後まで俺の登校を、こいつに味わわせてやりたかった。
駅前の緩い坂道を二人きりで、並んでのんびり歩く。時折の、若葉を揺らす風が気持ちよくて、そんな十分間だった。そんなはずないんだが坂がいつもより急だったのだろうか。妙に動悸しながらキャンパス正門前に到着したのだった。
ああ、終わってしまった。
ふう……。
そして見やる。
門柱に厳めしく、『私立 MZ学園高等学校』の彫金がある。
そのとおりである。
この名の通り、ここは――三島一族のための、当主が当主足るべく、その帝王学を学ぶための学校だった。
MZ学園グループは幼稚園から大学までの一貫教育機関であり、ここはつまり、その高校アセンブリ、てとこだ。
連絡が回ってたのだろう、すぐに守衛がこちらに気づいて、門扉を開放する。その後、最敬礼した。遅刻した身でバツが悪いったらない、ほんと。ふふん、けっして、自分がエライんじゃないんだぞ、勘違いすんなよ。そう戒めて通り抜けた。
腕時計を見た。
普段なら、家を出てから一時間で着く。
今日は、けっきょく一時間四十分かかってしまった。こんな言葉があるのかわからんが、“ぎりぎり遅刻”である。
まあ、事情があったし。
なんつったって、こいつのガッコだし。
なんとかなるのでしょう。ふふん、だ。
「何とも君は、毎日刺激的な登校生活を送っていたのだな」
「家が遠くで正解だったろ」すかさず切り返してやった。
引っ越しでは、もっと近くに住め、と散々誘われたものだから。
学校から一時間。このていどの距離感でいいのさ。
「……」
ここに転入してから、もう一ヶ月たつ。密度の濃い一ヶ月だった。
転入スタートは四月の四週目だった。新一年生というタイミングであったこともあり、ぎりぎりセーフ。もとからの教室の連中とほぼ同スタートを切れたと思う。この点はラッキーだった。
みんなとなじむのは、あっという間だった。まあ、皆、三島に忠誠を誓う関連企業の子弟らだ。瑛には絶対的に頭あがらんという共通点、連帯意識があったからかもしれんがな。
「……」
ふふん!
あらかじめ警告しておこう。
ここの中では、瑛こそ最高権力者である!
絶対唯一の存在だ。
校長以下の教師陣も同様。逆らえるものはただの一人も存在しない。
ここでどんなことが、どんな理不尽、どんな妙ちくりんなことが起こっても、瑛の意向が絶対的正義であり、法律であり、唯一の真実なのである。
以上のこと、頭の中に刻みつけてもらいたい。
理解の一助のために、簡単な例を挙げる。
瑛に、服を脱げ、といわれたら。
貴方は、この場で、いますぐ、遅滞なくだ。すっぱりさわやかに、オールまっパッパにならなくてはいけない。
瑛に服を脱げといわれたら、貴方はこの場で、即座に、マッパにならなくてはいけない。大事なことなので二度いった。
できないのなら、“馘首”である。“馘首”を、もっと別な言葉に置き換えてくれても、それがより“悲惨な言葉”なのだったら、全然オーケーだ。
警告は以上だ。ご理解頂けたものと期待する――
瑛が面白そうにこちらを見あげた。
「おい、なかよし。今すぐこの場で服を脱」俺はグーを殴り落としてやったのだった。