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煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
13/33

銭右衛門登場

 初めて見た(すぐる)さん。威厳があったね。彫りの深い顔立ち。時代がかったモノクルがオシャレ。立派な口ひげ。俺には高級としか表現できないスーツをお召しになって、背筋がピンと伸びていた。なんだか、明治~昭和期の将校か貴族さまかと思わされた。なんとか卿、て雰囲気さ。今年51歳になるとのことだったが、とてもそんなに見えない。若々しかった。

 ちょっとクラッとしたことを白状する。このお方のお体を、揉んで針を打ってみたいものだなぁ、なんてな。

 その場に立花憲太郎(たちばなけんたろう)警視もおられて、実をいえば、この方が自分らを見つけて、連れて来たご当人だった。

 あともう一人。三島家執事の白川蔵之介(しらかわくらのすけ)さん。この三方がその場にいらした。

 さて、銭右衛門。

 すべて援助するからこっち来い、という。

 戸惑う俺らに、卿は、改めて、前述の血筋の話をしたんだ。三島家も細ってる、血がほしいのだ、と。

 お袋は、断ったね。一吉は、俺からみたら五代前の尊属。五代も離れてたら、法律的には意味なしだ。

 いや、中吉くんは、生物学的には間違いなく佐恵からの直系であるからなんたら……と銭右衛門。

 それでもお袋は断った。なぜって、三島だから。三島家ったら、あの、国民的英雄企業の、あの、大三島だったから。神である。つまり、庶民にとっては、触らぬ神に祟りなしってのが、家族を守る処世術だったのさ。

 俺も同意見だった。なにより、血のことしか持ち出さんのが気に入らんかった。俺は八代目煙丸だぞ。これから一家しょって立つ、つもりの、俺の存在は無視なんかい、語る価値なしなのかい――


 つまりそれが向こうの作戦だったんだな。ふふん。


 一瞬、銭右衛門と警視どのが笑みを浮かべたような気がしたのさ、そのとき。

 改めて、卿は、直に俺に交渉してきたのさ。

「わが先祖は、一吉どのと、深い信頼関係にあった」と。

 その瞬間、俺は心臓が打たれたかのようだった。ある予感に、ごくん、と喉さえ鳴った。

 ビンゴだった。信じられんお言葉が、耳の中に入って来たんだ。

「当家は、その三代目煙丸直筆の、ナンバーリスト完全版を、保有している」

「――」もうなんといったら表現したらいいのかわからない。卿の背景に、ゴゴゴゴゴッて、マンガの音が聞こえたくらいだよ。

 ぐらぐらした! ノックアウト寸前さ。

 銭右衛門が話をたたみかけてくる。

「その資料は、私のただ一人の後継に管理を託している。入りなさい――」

「――」

 カチャリ、と白川執事が扉を開く。そして、俺は見たのさ。

 白手袋をはめ、凜々しい制服ブレザー姿のその胸に、その古色蒼然たる紙の冊子を大切に抱きかかえ、歩いて来やるその人をさ。

 恥ずかしながら、もう俺の目はまん丸。一瞬で悟ったね。

 この者こそ、三島代々血族の最高傑作――!

 そう思った瞬間だよ。そいつは、俺に、一瞬の、冷ややかな、唇の笑みを見せたのさ。

 そしてお袋に向かって麗しく一礼の挨拶だ。お袋、ポーッと、しやがった。銭右衛門が紹介する。

「名は(あきら)。中吉くんと同い年だ。さっきも言ったが、かの資料の全権は、この者にゆだねている。もし、書かれてある内容について何か知りたいことがあるのなら――」

 銭右衛門、面白そうにニヤリとした。ああ、大商人め、ずるいぞ、ずるいぞずるいぞ――!

「――この者から、見事聞き出してごらんなさい」


 こうして平家は、急遽東京に、引っ越すことになったのである。

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