表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
12/33

平家の歴史(2)

 さて。

 三代目煙丸、一吉。

 ()()()()()だよ。もう名前からして、俺はシンパシーを感じるね。それはいいとして。

 三島の血が流れ始めたこの爺ちゃんこそ、平家毛抜き術の真の開祖だと俺は評価してる。この爺ちゃんが、基本技108()を完成させてくれたのだ。大変な仕事だったと思うし、伝承者として心から称えたい。

「……」

 このあとも、各爺様がたが、それぞれ技を少しずつ追加してくれていったのだが、それもこれも。

 ふふん。

 第三次世界大戦があらかた虚空へと奪い去ってしまった。

 存命だった四、五、六代がいっぺんに命を失った。

「……」

 頑張ったのが、六代平吉の妻たる婆ちゃんだ。戦争時、七代親父はまだ乳飲み子。六代は死に、ふつうなら失伝が当たり前の状況だったのに、そこに婆ちゃんがいたのが奇跡的なまでの、天の配剤だった。婆ちゃんは、破れかけた代々技術覚え書きと、一部の画像メモリー、そして自身が身につけていた技20毛ほどを、親父に伝承してくれたんだ。俺はもう、婆ちゃん思うと涙が出る。

 親父、七代目煙丸、和吉は、息子の俺がいうのもなんだが、頑張った。奮闘の生涯だった。

 部分的記録と、実技20毛から、曲がりなりにも108毛、すべてよみがえらせたのだ。

 ただし、半数以上は、初期の技ナンバーと整合性がとれなかった。データ不足に尽きる話だ。

 例えば、一桁ナンバー。すなわち、一吉時代の基本技、(フタツ)ノ毛から、(ココノツ)ノ毛が、()()()()()()()()()()()()()()()()

 ひょっとして、現在の“十七(ヒトナナツ)()”。銘、“月舟(つきふね)”が、実は“九ノ毛”なのかもしれないのだ。まあ、いまの十七ノ毛は、正解だったようだが。

 どうでもいいことかもしれない。新しい親父のナンバーで、家業を再開すればいい話なのかもしれない。

 だけど、そこはホラ、当事者としては、気になるコトだろう。異なっていることを全く知らないまま毎日を過ごすのと、異なっていることを知りながら異なったまま過ごすのとじゃ、同じ異なったまま過ごしてるんだけど、伝承者の魂的に全然大違いだよ。なにより先祖の誇り。伝承者としては正しく、ご先祖様のその思いっちゅうか、意義というか、つまりは、その時代に確かに生きていたんだという証しを、数に狂いがない、ということで立てたいんだ。ああ、つまりだな――今と昔とで、数と銘が合致してるっていうことで、繋がりたいんだ。俺はそう思ってんのさ!

 親父は俺に後を託し、去年。

 婆ちゃんとともに、あの世へいってしまった。

 去年たら俺はまだ中学三年生。伝統技をさらに磨き上げるとともに、番号を整えることこそが、一生の仕事だと捉えていた。だけど――

 大黒柱を失い、この世の中、お袋とこれからどう生活していきゃあいいのか、という現実。

 窮地に陥ったところに救いの手をさしのべてくれたのが、遠いご先祖様の縁。

 現、三島家当主、(すぐる)。二十代目銭右衛門さまなのであったのだよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ