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煙丸 中吉の一日  作者: やおたかき
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煙丸

 煙丸(けむりまる)――

 わが(たいら)家が掲げる“屋号”である。興した時期も、由来も不明だ。いや冗談でなく。すべては、第三次世界大戦が、一族三代の男の命とともに、奪い去ってしまった。

 平家の家業は、鍼灸師(しんきゅうし)である。

 とはいうものの、灸の方は、めっきりやる機会がなくなり、現在、メインは鍼だ。鍼とは針で、一般には“針師(はりし)”で通ずる。

 ほか、マッサージ、接骨もやる。この家業の当主が名乗り引き継ぎ後継に託した号が――

 煙丸、なのだ。

 これはお袋の考えだが、お袋は“灸”に注目した。

 患者さんの背中を広い野原に見立て、そこに灸の、焚き火の煙が立ち上る……。ゆえに、煙丸なのではなかろうか、と。

 なんとも詩的な風景をイメージさせる。女性的な、もっともらしい話だが、この説に俺は疑問を抱いてる。

 その説明では、ただそのように例えられる、としかいってないからだ。

 家業に対する誇りも、技術への敬意もない。それが理由でその名にしたのなら、ご先祖様は、少し浅慮すぎじゃないか、と思うんだがどうだろう。

 じゃあ、自分(オレ)の考えはどうなんだ、と問われたら。

 俺は、平家“秘伝”にこそ、そのヒントがあるのではないかと考えるのだ。

 すなわち、“毛抜き”の術だ。

 そのとおり。通学列車内でご披露したあの技こそが、それだったのだ。

 その原理はこう説明される。


 毛を抜く衝撃を(もっ)て、針同様の力を奮う。


 効き目は、時にして、針ではいかぬ病に効く。

 その経絡(けいらく)は針とは異なる。患体の年齢性別によっても異なり、さらには毛の抜き方にも法がある。ただ引けばよいというものではない。

 その技を特別なものとして、他家にはない秘伝として発展させてきたのが、わが平家だった。そこには、術に対する強烈な自負、自信と誇りが介在する。

 そんな自慢の術を、どうにかして暗示させた名が、煙丸なのではなかろうか。

 煙丸の『け』と、毛抜きの『け』と、音が揃ってる点にも注目したい。何かを示唆しているのではなかろうか。どうだろう。

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