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焦点

執筆者、雪村夏生。

最近眠すぎて、私の頭が冴えません。


 夕日が教室に差し込んでいる。



 昔々、本当に昔。よく覚えていないのだけれど、どこか西洋での話だった気がするのだけれどね。


 にやりと口元だけで笑って見せる姿は背後から日が差しているせいもあるのだろうが、中学生とは思えないほどに大人びていて、どこか狂気をはらんでいる。



 一つの死体を隠すために、たくさんの人を殺したのだそうだ。たくさんの死体で一つの死体を隠すために。


 彼は腕に金魚鉢を抱いていた。相対して立っているのは、西園優希。毛先は肩につかず、クラスの中でも小柄な方。大きくぱっちりとしている黒い瞳の上で、眉はハの字をかたどっている。



 ところで、いきなり呼び出して悪いとは思ったけれど、これ以上ひどいことになるのは厄介だったから。クラス中うるさくて、まともに本も読んでいられない。


 二人のクラスでは、壁に美術の時間に描いた思い出の風景の絵を飾っている。ところが、南洋子の絵が忽然と消えた。誰かが取っていったに違いない、とクラスメイトの間で犯人探しが行われている。



 ところでこの金魚、南洋子の金魚かな。


 金魚鉢が彼の顔の高さにまで持ち上げられる。



 和金。金魚の一品種。もっとも典型的なのは、フナ尾、フナ型の和金。よくお祭りの屋台で金魚すくいがあるだろう? あれで泳いでいる赤いやつらだ。しかしこの金魚、ちょっとそれらとは違うんだ。三つ尾なんだね。


 彼は金魚鉢をまた腕に抱いた。



 ここでおかしいと思うわけだ。もちろん思ったのは、生きもの係兼金魚を持ってきた南洋子だ。これは私の大事に育ててきた金魚じゃない。別のものにすり替わっている。だがそれよりも先に、自分の絵がなくなっているという事実に彼女はぶちあたった。それは他の児童が先に気がついたわけだが。しかもその絵とやらが、中学生水彩画コンクールにうちの学校から学年代表として出そうという話になっていたやつだったから、もう大変。金魚が入れ替わったことよりも、こちらの方が断然まずい出来事だった。

 ところで、一週間彼女が自分の金魚の世話をできないということになってしまった。風邪を引いたんだね。誰かに頼まなくてはならない。そこで君の力を借りた。違う?


 優希はぎこちなくうなずいた。



 まあ、違うと言われても違うことはないから、正直に言うことは正しい。南洋子からすでに聞いていたからね。君は彼女の代わりに金魚の世話をした。しかし事細かに世話の仕方を伝授されたわけではない。しかもこの暑さだからね。


 すでに夏も真っ盛りで、平気で三十度越えを記録するような季節になっていた。金魚鉢が右手のロッカーに置かれる。その真横に彼が両手をついた。。



 とりあえず、絵を見つけてしまおうか。


 両手に力を込めてロッカーの上に乗った。上から二列目の左から六番目と唱えて該当する絵の前で止まる。その絵の右下についたタグには、西園優希と書かれていた。断りもなく触れて、壁からがびょうを取る。



 ちょっと待ってよ。


 彼は取り合わなかった。壁からはがした。すると彼女の絵の裏にもう一枚重なっていた。彼は裏についていた絵を離してロッカーの上に置いた。優希の絵を元のように貼りつける。飛び降りて、ロッカーに置いた絵を優希に見せた。



 さあ、見てごらん。これは南洋子の絵だ。君は金魚を殺してしまったことを隠すために、違う金魚を入れた。しかしそれでは南洋子の目はごまかせないことを知っていた。だから金魚から意識が離れるような出来事を起こさなければならなかった。絵を隠してしまう行為がそれだったんだね。なかなかのやり口だったよ。


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