第三回目《願いと【真実】。そして消えるという選択》
さてさて物語も中盤です。
どうぞ、最後まで、見守ってください。
「おめでとうございます。あなたは見事、【願いボーナス】の被験者第一号に選ばれました!」
時が止まった空間でクラッカーを鳴らす自称【神の使いの神】。怪しすぎる上に信用出来ない。とりあえず【使い神】と呼ぶ事にする。
「で、【使い神】……」
愛想が無さそうに言うと驚いた様に動揺する【使い神】。
「つ、【使い神】ですか?」
「【神の使いの神】って長いから略して【使い神】。分かりやすいだろ。で、その【願いボーナス】って何?」
俺がそう聞くと【使い神】は目を見開き、ふざけたように返す。
「おやおや。これは驚いた。あなたは自分の置かれた状況を理解していないのに、こんな怪しい奴の話を聞くんですか?」
俺はそれを聞いた時、違和感を覚え、すぐにその正体に気づく。そしてニヤリと笑って言う。
「今、お前、俺はお前を怪しいなんて言ってないのに、何故、俺がお前を怪しいと思った事に気づいた? 自分の恰好が怪しいからか? 違うな。お前はそんな事、微塵も思っていないし、興味もない神様みたいに絶対的存在なら、自分が人間の目なんて気にする必要なんて無いだろうしな。なのに、あんたはそれに気づいた。あんた、俺の心読んだだろ」
それを聞くと【使い神】は、また驚いた様な顔をする。しかしすぐ呆れ顔になる。
「あなたのその観察眼には少し脅威を覚えますが、あなた、さては人の話聞きませんね」
「悪いな。俺は違和感や気になった事があると、すぐに解を出したくなる人間なんだ」
俺がそういうと【使い神】は、何か物知り顔になっては、また呆れ、更に勝手に納得する。
「なるほど。【神力】を持った人間が変わっていることは知っていましたが、【堕天】寸前まで行くと、こうも厄介で、残念な人間になっているとは……。私はあなたの事を余り知りませんが、大体の事情は理解しました。では、問いを変えましょう……」
【使い神】は人差し指を立てて俺の首筋に向けて言った。
「あなたは、神に向けて何を願いましたか?」
俺はそれを聞き、少し青ざめる。なぜなら【使い神】の微笑みに、得体のしれない何かを感じたからだ。
「それを言えば願いを叶えてくれるのか?」
俺は毅然とした態度で聞く。
「ええ。まあ。叶える方法や、代償はこちらで指定させて貰いますがね」
【使い神】は、にこやかに笑みを浮かべて言う。
「その前に、教えて欲しい事が二つある」
「なんでしょう?」
俺は一番、気にしなければならない事を【使い神】に聞いた。
「何故、俺の願いを叶える事にした? 後、【願いボーナス】とかいうのも教えてくれ」
「一つ目はともかく、二つ目はあなたが、話題をそらしたのが悪いと思いますが、いいでしょう。それくらいの事は、あなたに知る権利がありますし、知っていて貰わないと困ります」
【使い神】は、ヤレヤレといった態度を取りながらも、話を始めた。
「まずは【願いボーナス】からお教えしましょう。【願いボーナス】とは、【神力】という神の力を宿した人間の心が、負の感情によって【堕天】寸前まで追い込まれた時に、その人間の願いを叶える事で、【堕天】しないようにする、実験的なケア措置です。あなたはその被験者第一号といった所ですね」
「【神力】……神の力を宿した人間って俺が?」
俺は馬鹿げた話だと思いながらも、両手を見て驚く。
「ええ。そうです。あなたには特に強い力が宿っていますから、優先順位が跳ね上がったんでしょう。とはいえ、いくら強い力を持っているところで、人間の状態では何の力も使えませんがね」
「へぇぇぇぇ。とりあえず俺の事は分かった。それから俺が【堕天】とかになるとヤバいのに、俺の心が負の感情に支配されそうになって【堕天】しそうでヤバくなったから、そのケアとしてその【願いボーナス】の実験台第一号に俺が選ばれたんだろう?」
俺は自分の置かれている状況がよく理解できた。そしてとりあえず確信をつく事にした。
「なんで、願いをワザワザ言わせて叶えるのか。教えてくれ」
俺がそう言うと【使い神】は笑った。
「流石です。もうその解に行き着くとは。私の見せ場が無くなりましたが、まあいいでしょう」
何故、俺があんな質問をしたか? 理由は簡単だ。まず一つ、ケアだけなら、願いを叶えるだけで良い。心を読める神様が心を読まず、願いを聞くか? 正解はそう言わせる事に意味があるのだ。言わせる事で、それは契約や仕事というか、少なくともただの善意のケアではなくなる。つまり、俺達、【神力】を持つ者たちに何かをさせたいのだ。
「そうですね。それにはまず、あなた方、【神力】を持つ者が死後どうなるかを、知らなければなりません。まず、普通の人が死んだ場合。人は閻魔王に天国か、地獄に行くかを、野郎の独断と偏見で、決めます」
「その閻魔様はそれでいいのか?」
「気にしないで進めましょう。まず天国に行く人達は、転生の順番が早くなり、地獄に行った人は、試練を全て耐え抜いた、人が天国に移送され、最終番として転生の機会を与えるのです。ですが、ここに例外の死者がいます。それは、【神力】を持つ人間です。【神力】を持つ人間は神の力を宿して生まれます。そのため死後は神になるか、人として、また転生するかを選ぶ事になるのです」
「なるほどね。結構面白いシステムだ」
「ですが、時に天国の神という座から脱走して、人として生まれ変わった者達もいるのです」
「はあ? なんでそんな馬鹿なことを……おい。まさか」
「そのまさかです。あなたは逃げ出した神の一人なんですよ。あなたは【神統記】の時を司る神。【クロノス】なんです! とはいえ、あなたが記憶を引き継いでいないおかげで、こう大口を叩ける訳ですが」
「……俺が元神様?」
「元神とは良い表現ですね。はい。役職を全て放棄して現世にこられたんですから。しかし今のあなたには何の力もありません。ですから、願いがあるならどうぞ。ですが代償とそれなりの罰は受けて貰いますがね」
【使い神】がそう最後まで言うと、急に声のトーンが下がるが、俺は今、自分の事で頭が一杯なので、気にする暇も無い。俺は何なんだ。何やってんだよ。本当の俺は、幾らなんでも自由すぎるだろ! でもこいつに願えば、全部解決する。俺の罪もユキの命も……。
「はぁぁぁあああ。でもこんな事まで暴かれたら流石に乗りませんよね。すいません。お邪魔しました」
しかし【使い神】は、勝手に影に帰ろうとする。
「待て。こら」
俺は【使い神】の肩を掴む。
「なんでしょう。見せ場も、何も、全部持って行かれた私に、何かご用でしょうか?」
「ああ。そうだ。ご用だ。その話、乗ってやるよ」
俺がそう言うと【使い神】は驚きを通り越して、逆上した。
「何言ってるんですか!? あなた馬鹿ですか? せっかく私の求めている物、全てを看破したのに、負けを認める馬鹿がいますか? これからあなたを待つのは、死より辛い拷問ですよ。それにあなたは、仮にも私の上司だった神ですよ。そんなスタンスでどうします?」
「ああ。【使い神】。あんた俺の部下だったんだ。へぇぇぇ。まあいいよ。構わない。それに俺がやった事が、元々許されない事だったんだ。謹んで罰を受けるよ」
俺の揺るぎ無い瞳を見て【使い神】はため息交じりに言った。
「後戻りはできませんよ」
「構わない」
「なら願いをどうぞ」
「俺の意識を七月一七日に、過去に飛ばして、この俺の前で死んでる月宮由紀を助ける権利をくれ。つまり俺が求めるのはタイムリープと過去改変の権利だ」
■□■
こうして俺は過去に飛ばされた後に、無事、ユキを交通事故から救い、願いを叶える代償である神力の一時封印と、永遠に終わらず、何も変わらない高校生活を送るという罰を、受ける事になった。
そして俺という存在の記憶は、罰を受けるために、世界から抹消された。




