第一回目《俺の失った【時間】》
さてでは、本編です。
ちょっとギャグパートなので、楽しんで頂けたなら幸いです。
一回目、七月十七日……
俺はチャイムがなった瞬間立ち上がり、前の席の女子生徒にこう宣言した。
「ユキ! 逝ってくる!」
「逝ってらっしゃい。デラックスサンドセット、忘れないで。屋上で、待ってる」
女子生徒は無表情だったが、目は輝いていた。あれは相当期待してらっしゃる! 俺はそれを聞くと教室の窓から飛び降りた。今日は俺にとって、購買戦争の日だった。
ちなみに教室は三階にあるが、いつもの事なので誰も気にしなかった。
■□■
俺と少女は屋上に待っていた少女に購買で手に入れた物を手渡す。
俺は数々の猛者を倒し、購買戦争に勝利した。
「やはり一日十個限定、デラックスサンドセット、最強」
そう目を輝かせながら歓喜に震えているのは、俺の幼馴染で無表情系美少女、月宮由紀だ。
外国人の母親を持つ彼女は、美しく長い銀髪を持ち、美しい顔立ちの美少女だ。その容姿から、この学校には、男女関係無く会員になれる、非公式のファンクラブがあるらしい。
俺は彼女の事をユキと呼んでいる。
「良かったな」
俺はそう言って、スペシャルカツサンドを食べる。
「さすがは私の拓斗。感謝する。ありがとう」
あまり感情がこもっているように聞こえないが、本人はこれでも大真面目なのでありがたく礼を受け入れる。しかし何か誤解しているようなので、訂正して置く。
「どういたしまして。まあ、俺はお前の物では無いけどな」
いつも表情を変えないユキが、珍しく渋い顔する。
「私は拓斗の物、拓斗は私の物。このどこに、不満ある?」
「馬鹿言え。不満だらけだ。俺はお前の家にいる使用人じゃないんだからな」
ユキとは長い付き合いだが、ユキの家は名門、月宮家のご令嬢だ。ユキは小さい頃から、人付き合いが苦手だ。今でこそ、ファンクラブまで出来るようになった。しかし表情が余り表に出ない人間なので、何を考えてるかは、分かる人間は数が少ないらしい。俺も全てが分かる訳では無いが、何を考えているかは大体分かった。そのため幼稚園からの付き合いで、ユキは俺を世話役か通訳として、自分の物にしたいらしい。まあ、何度も断っているが。
「ぶうぶう」
「なんだ、それは? ブーイングのつもりか?」
「そう」
「それはブーイングとは言わない。赤ん坊の鳴き真似だ」
「ぶうぶ」
「それは、赤ん坊言葉の車だ」
「ぶいぶい」
「お前はなにをブイブイ言わせる気だ? それか何に勝った?」
「ぶすぶす」
「誰を、何で刺す気だ?」
「ぷちぷち」
「それは梱包用のプラスチック製のクッションだ」
「ぶつぶつ」
「お前は落ち込んでいるのか?」
「ぐうぐう」
「もう、ぶの字も入ってねーし。後、食事中に寝るな」
俺はそう言って、うつ伏せたユキの頭を軽く叩く。
「今日も拓斗は絶好調、間違いなし、私が保証する」
「謎のやり取りで、俺の調子を計るな」
呆れて怒る気も失せる。
「それより、今週の日曜日、買い物、付き合って」
「別にいいけど」
それってデートなのではという高校男子として希望的な物を期待してしまう。
「新作のラノベが出る、それから、他シリーズで欲しい物もある。大人買い」
ユキのオタク道は今に始まった事では無い。花の女子高生がラノベ好きなど問題だろう。それにオタクにしたのは俺であるため責任を感じずにはいられない。
「ああ、荷物持ちな。いいぞ。どうせ。予定なんて無いしな」
牛乳を飲みながら了承する。
「じゃあ約束」
ユキは小指を突き出す。
「お、おう」
俺はユキと指切りをした。
「指きり……久しぶり」
「ああ。子供頃以来だな」
そう二人で感傷に浸っていると
「あははは。相変わらず、仲いいし、賑やかだね」
そう言って屋上にやってきたのは、同じクラスメイトでユキの親友、前野幸香。
本人曰く、高校デビューの時に染めた茶髪が気に入っているらしい。彼女は学校での評判は良く、人当たりの良い性格で、友達も多いらしい。ユキには幸香を見習って欲しいくらいだ。
「おう。幸香か」
「そう。みんなのアイドル。幸香さんです!」
「いや、幸香はアイドルって柄じゃないだろ」
呆れ顔でツッコミを入れるが、幸香を相手にしていると、無駄な気がしてくる。
「同感」
ユキも俺の意見に賛成する。
「な! 二人ともひどい! 私はこんなにかわいいのに!」
幸香は抗議の声を上げるが相手にならない。
「自分で言わなきゃ。素質あるかもな」
「かわいさと、アイドルかどうかは、比例しない」
ユキも幸香を一蹴する。
「そ、そんな。私はこんなに真剣なのに!」
涙目になりながら抗議してくるが、いつもの事なので、いつも通りの対応をする。
「「ダウト」」
「にゃぁぁぁぁぁぁっっっっ!!」
俺とユキがトドメを刺すと、幸香は、心が痛いと言いながら、力尽きる。
幸香が力尽きていると、ドアが開き、見知った一人の男子生徒が入ってくる。
「あれ? タク? ワシひょっとして来るタイミング間違えてもうたかな? しかしコウさん、力尽きとるやんけ。それなのに心なしか笑顔やし……何したん?」
そう言って入ってきたのは、俺の剣道友達で腐れ縁のエセ関西人、竹本辰一。クォータだからか、生れ付きの不良っぽい赤髪で、髪を黒いカチューシャとゴムで綺麗に結んでいる。顔はまあまあ、整っているほうで、目が悪いらしく、授業中は眼鏡をかけているらしい。
頭の悪そうな外見の癖に頭が良い。まあ、親との縁もあって、コイツともよくつるんでいる。
「ああ。いつもの幸香のおふざけに、付き合わずに、迷わずトドメを刺しただけだが」
それを聞くと辰一はため息をつく。
「あのな……」
辰一がなにか言おうとするとユキが割り込む。
「大丈夫。タツキ」
「なにが大丈夫やねん。それからワシの名前はタツキやのうて、辰一やっちゅうねん」
「確実にトドメをさしたから!」
「それニュアンス的にヤバいやろ!? あと、名前のくだりはスルーやねんな」
「竜巻。名前のくだりって何?」
「だからそれや! ワシの名前は竜巻やのうて、辰一や、ちゅうねん! 大体なんで竜巻やねん! ワシはトルネードか!」
「? 拓斗。辰郎が何を言ってるのか分からない」
「だ・か・ら」
「ああ。ユキもか、奇遇だな。俺も辰道が何を言ってるのか、さっぱり分からない」
「お前もか! 誰やねん! 辰郎と辰道って! 辰しか合って無いし!」
「「? 何の話 (だ)? 達也?」」
「そこだけでハモらせんでええねん! それに誰や達也って! 魔法使う劣等生の主人公か!?」
「「?」」
俺とユキが首を傾げると、辰一はため息をつく。
「分かった。もう聞かんよ」
「この二人のコンビやだよぉぉぉ」
辰一が呆れ顔でいると、幸香が少し復活し、辰一に泣きつく。
「おうおう。分かるわ。こいつら揃いも揃ってドSやからな。よう分かるよ」
「「?」」
まあ、少しはふざけたが、そこまで言われる気が無い気がする。どうやらユキも同意見らしく、二人で顔を見合わせ、首を傾げる。
「こいつら。ほんまにあかんわ。天然であれ、やってるんやったら。笑いの鬼も逃げ出すわ」
何だよ。笑いの鬼って。それこそ誰だよ。
そんな事を思いながら食事をしながら他愛の無い会話を続ける。これが、この日常のこの【時間】が、俺いや、時島拓斗にとって一番大切な【時間】だった。この時の俺は、信じられない絶望に、打ちひしがれる事を知る由もない。




