出会い
一話目、小動物視点と言うか。小動物こそ主人公、半端な終わり方して辛い...
辺り一面の雪野原、初めて見た!はしゃぐ僕に小母さんが「あんまり騒ぐと身体に障るから、少し落ち着きなさい」と窘めた。けれど、これが落ち着いて等居られるものか!生まれて十数年、我慢させられて来たんだ。少しばかり羽目を外したって、倒れたりしないんだから!
雪に足を取られてもたついている小母さんを尻目に、僕は喜び勇んで雪を踏み締め進んだ。
ザク、ザクと沈み込む長靴が面白くて足跡を沢山残した。丸く囲んでみたりウサギみたいに跳ね回ってみたり?大きな絵が完成した♪結構良い出来だと思う。ほくそ笑みつつ眺めていたら小母さんが遣って来た。「R=ディントン、好い加減もう充分遊んだでしょう。お勉強の時間です」ビシッと効果音が付きそうな素振りで家の方を指す。不貞腐れながら「はぁい」と俯くと踏み荒らされた絵が目に映った。
悲しくなって「もう!如何して、真っ直ぐ進んだの!折角の絵が台無しじゃないか…」わっと駆け出した。遠く後ろの方から「坊ちゃん!戻って御出で...私が悪かったから!ほら、こっちの方はまだ誰も―」と喚いていたが聞こえない事にして、走り続けた。最後「森には絶対に近付いちゃいけませんよー!!」と聞こえた気がしたが、振り向くと誰も居なかった。(大方、誰か人を呼びに言ったのだろう...)
途端、急に心細くなって歩みが止まりそうになった。しかし、こうなってしまっては意地でも帰りたくない。段々、凍える足を必死に持ち上げて進んだ。特に目的も無く雪景色を進むのは、気分と健康に良くないと思う。僕は今、そのことを実感していた…。腕を擦りながら、前方を確認すると意外にも森の間近まで迫っていた。
銀の世界に立つ木々は恐ろしいほど冷え冷えして見えた。
竦んでしまった足は、もう一歩も動けなさそうだ。「どうしよう、」(誰も居ない此処で朽ちるのかなと)訳も判らず生じた不安は、膨れるだけで治まる事を知らない様だ。涙が両方から溢れてくるが、悴んだ腕は動かず拭う事も出来ない。
ふと厚い雲の合い間から日が差した。そして反射した光が煌く瞬間を(僕は奇妙な思いで)目を凝らしながら出見詰めたんだ。けど、この距離じゃ見えない…。底を尽き掛けてた気力を総動員して、森の手前、光ったと思しき場所までゆっくり近付いていった。白一色だと思っていた世界に赤い花が散っていた。傍で白い小動物が目を閉じている。死んでいるのかな?恐る恐る触れると微かに温かい。鼻先が、震えた気がした。慌てて抱えると想定より重みがあった。温もりを感じながら家の方を見る。遠い...
それでも進まなければいけない気がした。まだ、生きているらしいこの動物を素直に助けたいと当時は思ったんだ。やっと半分も行かない地点に辿り着いた時、分厚い雲が割れて久々に顔を覗かせた太陽が燦燦と輝きを放った。大自然が僕を、いやこの小さな命の行く末を見守っているようなそんな気がしたんだ。
珍しく晴れ渡ったその日、我が家に新しい一員が増えた。
兄弟は良い顔しなかったけど、父さんに許可は貰ったから大丈夫。小母さんは複雑そうな表情を浮かべ、母さんは笑顔で「可愛いわね♪」と肯定してくれた。姉には変わり者と呼ばれ、兄三人に至っては非常食扱いされて腹を立てる僕に、歳の近いラーシァは「家は其処まで貧窮していないから、安心なさい」と言われるまで僕は兄達から、小動物を守っていたんだ。
あ、そうだ…。この小動物は兎と言って逃げ足がとても速いらしいんだ。昔、乱獲されたり狩猟を嗜んでいる人達に標的にされて、ここら一帯では数を減らしているんだって。今では稀少な動物とされ捕まえるのを禁じているけど、密猟者って中々後を絶たないんだよね…。悩ましい事だって大人が嘆いてた。獣医と領主(僕の父親)が思慮深げな話をしていても、僕の興味は何時だって小動物に向かってる。
飽きるまでは観察を続ける心算だ。母さんには最後まで「あなたが、面倒を見るのよ」って約束させられたけど、僕は出来れば自然に還して遣りたいんだ。たぶん、この足の怪我じゃ無理だろうなって予想は付くよ。けど、僕だったら保護して貰ったって親元に帰りたいと願う筈だから...
最近、小母さんが手厳しい。四男なんて「大して健康じゃなくても平気じゃないか!」って、発言したからなんだけど。家族全員に叱られた。僕が体調不良なのに、外に行きたいって駄々を捏ねたから。母さんは優しくやんわりと否定し、父さんは厳しく兄達は口を揃えて。中でも一番響いたのはラーシァの御説教、普段静かな分、怒るとめちゃくちゃ怖い...二度とあんな事は言いません。深く反省しております。
ラッドに慰めて貰おうと思ったら…。(ラッドって小動物の名前ね、無いと不便だって皆が言うから...)奴まで僕を否定するんだ。(単に機嫌が悪いだけだったみたいだけど、)抱えようとしたら逃亡した。隅っこの方に行くものだから、捕まえられなかったけど、さ。解るだろ?ムシャクシャしてる時誰も慰めてくれない状況、嫌に為っちゃうよ。僕も隅の方で蹲って臍を曲げていた。
掛け布団に潜っていた僕はいつの間にか、寝てしまったらしいけれど。後でラーシァが呼びに来たんだって。(僕自身、自分の誕生日を忘れていたんだ)揺すっても起きないから諦めて撤退したその判断が恨めしい。僕は悪夢を見て魘されていたのに、確り掴んでいた掛け布団の所為で魘されているのは伝わらなかったらしい。自業自得だね...
夢を見た。小動物になる夢を、雪原で倒れ伏すその時まで僕は必死に生きていた。轟く銃声、犬の唸り声、足に負った怪我は深く骨身を穿った。痛い、怖い。嫌だ、死にたくない僕は、僕はまだ…。目の前が真っ暗になって意識がブラックアウトするまで、僕は。僕は小動物に為っていた。
その後、少年は小動物の寿命が尽きるまで共に暮らし。小動物が亡くなった後は故郷の森に埋葬してやりましたとさ…。
悪夢と言うか、夢と言う形でラッドの一生、少年と出会うまでを追体験して少し成長したのかも知れない少年。しかし、少年の名前、最後まで決まりませんでした(笑)?