鏡の前で
鏡の前に立ち、ゆっくりと右腕を上げた。
すると、鏡の向こうの自分も同じ速度で右腕を上げる。
左腕を上げると、今度は左腕を上げる。
右目を閉じると、右目を閉じる。
左目を閉じると、左目を閉じるかどうかは真っ暗なので確認できなかった。
目を開くと鏡の向こうには、目を開き両腕を上げたクマが立っていた。
黒い毛におおわれていて、胸の部分だけ三日月型に白くなっている。
ツキノワグマだ。
両腕を下げて普通に立つと、鏡の向こうのクマも両腕を下げた。
しばらく見つめ合っていたが、クマが鏡の向こうで右腕を上げた。
それにならい、右腕を上げる。
すると、鏡の向こうのクマが話しかけてくる。
「いや、鏡ってそういうモノじゃないから」
ボクは渋々右腕を下げ左腕を上げた。
下げた右腕からは、すこしだけハチミツのにおいがした。