夏の殺せ
夏の朝が永遠に続いてしまったら、いいね。そしたら模試の結果は帰ってこない。
たくさんの女子高生が救われて、18歳のままでいられるようになる。
「好き」が反響する森の針葉樹を切り倒して、風通しの良いゴルフ場をつくることができる。
彼女たちはもう間違えることなく寄り道をすることなく、恋にうつつを抜かしていられる。
例えばの話。
たくさんの殺せが、教室の床にこびりついているから、私達は上履きを履く。
ナイフもペンもなくたって、人は簡単に操れます。愛を見せてあげればいい。
きみの夏休みが続く限り、幸せにしてあげる。そういう殺しが流行っているんだ。
友達たちが、おおきなリュックサックを背負って、登校してくる。
中につまっている安全ピンがジャラジャラと揺れて、日焼け止めクリームのにおいがして、レースのカーテンを透かす日射がももいろの肌を、あれ、あの子は違うなって。
君の立てるビニール袋のがしゃって音が嫌いで、スリッパのぺたぺたの音が嫌いで、ふと髪を撫でる癖が嫌いで、笑うと目が細まるところが嫌いで、読んでいる詩集が同じだから嫌いで、いつも私のうしろについているところが嫌いで、だから殺せが湧いたんだ。
夏の朝は永遠ではないけれど、私達には一瞬だけ永遠だった。
君が殺したという男の子の話も、私が殺すであろう君の話も、朝のテレビで流されるようなものなんじゃないってことはわかりきっている。
もっと鋭敏な殺せが、森から聞こえてくる。
それは例えばの話だった。もう忘れてしまった。
濡れた髪の毛ももう乾いてしまった。
寄り道をして帰ることになる。




