詩『津軽じょんがら』
『津軽じょんがら』13/05/08
雪
左の手をさしのべる
にわかに消えて、はいつくばる
うす明かりの空から
なにも言わずに身をなげる
降りる先はしらない
気まぐれな風に流されて
山をおおった仲間たちは
いつかひとつになって里にとどく
野を駆けるイヌが小屋にかえるところ
風は白さを増して小路に降りかかり
家の扉は頑なに閉ざされる
音を立てながら降りしきる雪を掻き分け
辿り着いたイヌは小屋の前で身震いをする
三味線弾きは肩をすぼめ
積もりゆく地を踏みしめ
戸口で棹の雪をはらう
撥をとる右手の皺が深い
おもむろに振り上げたとき
辺りの風が止まり
降り下ろす緊張に風が堰をきる
両の手は三味線を包むようにはう
押し寄せる強風は体をよけ
確固とした後姿を横目に見ながら
白い山野を荒れ狂い
白い太陽を隠し
白い息を吐く
しばらくののち、
引戸がガタガタと開く
「ままろ、持ってがなが」
三味線弾きは見えない目をひらき
ボロから手を伸ばして包をさぐる
深々と頭を下げたあと
湯気にけむる戸口をあとにする
風雪が辺りを押し流し
霞んでなにも見えなくなった
−−−−−−
ままろ、持ってがなが(津軽弁)
=ご飯をほら、持って行きなさい