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異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第2章 旅路編
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第25話 泡沫の刹那

 それは泡沫の夢か。

 或いは――


***


 緑が濃い。

 世界中を飛び回っているがここまで濃密な緑は初めてだ。人の手が入っていない。神の作った原初の自然がここにはある。流石は自然との調和を謳うエルフの縄張りだ。

 エルフは自然を荒らす者に容赦しない。

 故にこの森は不帰の森と呼ばれる。

 薬草の群生地を見つけた時、俺も浅ましい人間の一人だと実感した。

 だって、金欲しいもん。

 ああ、誤解して欲しくないけどさ。俺は金に汚いワケじゃない。なんでかね。いつも素寒貧になるの。

 不作で税を払えない村に迷い込み。かくなる上は娘を売るしかない、と言い争ってる現場に出くわすとか。ふらりと足を運んだ酒場で。この魔道具が動けば村は救えるのに。大量の魔素があれば! と酔い潰れる人がいたり。

 そら、くれてやるさ。

 だから、金は幾らあっても足りない。

 俺の立場って……国王とかでもいいハズなのに。

 なんだって日々の食事代に頭を悩ませなきゃならん。

 加護を証明出来ないのがいけないんだよな。

 冒険者カードの加護が文字化けしていて読めないのだ。

 しかも、ご丁寧に使徒の加護だけ、な。

 悪意を感じるね。

 まあ、敬われたら逃げ出す自信あるし。

 今の暮らしが性に合ってるのは確かだが。

 ただ、金、金言ってる時には愚痴が頭を過る。

 え、小さい?

 ああ、そうとも、それが俺だ。

 あの神様もなんで俺なんかを使徒に選んだんだか。

 戦えないワケではないが、英雄には遠く及ばず。

 目の前の人は見捨てられないが、世界を変える意気込みもない。

 多少、口は回るが……それだけ。

 だが、そんな俺だから良いのだという。

 昨日も俺の夢に出てきて、


「やあ、息災かい?」


 にこやかにのたまった。

 うわ、最悪。宿屋のアンナと仲良くなる予定だったのに。夢で。ああ、もう止めて? お前の顔、美形過ぎんの。嫌でも頭に残るの。デートする夢見てもアンナの顔がお前になってたらイミないワケ。分かる?


「はは。キミも相変わらずだね。僕もキミの恋路を邪魔するつもりはないよ。でも、キミ、アンナに話しかけた事もないだろう」


 うるせぇ。童貞をナメんな。


「うん? 僕の可愛い道化師のためだ。運命を弄ってあげようか?」


 止めろ。殺すぞ。


「そう、そうだよね、キミはそういう人間だ。だからこそ、使徒の加護を与えた」


 そうかよ、クソ神(・・・)

 

「自分の仰神(はいしん)をここまで口汚く罵るのは、世界広しと言えどキミくらいのものだろうね」

 

 はあ? 敬って欲しいの? なら、まともな加護寄こせ。


「それはともかく。キミ、不帰の森に行かないかい?」


 おい、クソ神。流すなよ。お前、上級神に根回ししてるだろ。俺に加護を与えないよう。おかしいだろ。名付きの加護一個も無いとか。てめぇのせいで何度死線くぐったと思ってやがる。いいの? 死ぬよ、お前の使徒が。いいたがないが俺は凡人だよ。加護くれないとコロッといくよ。

 

「キミは死んでない。違うかい?」


 それは結果論だろ。


「キミ、悪い癖だよ。都合の悪い事は隠したがる。頭を使って生き延びた。そう自負があるくせに。僕が買っているのは正しくそこさ。生に意地汚い。キミの武器は目に見えるものではないよ」


 ……全部筒抜けってか。


「この領域ではね……ああ、キミ、いいね。もう出し抜く事を考えてる」


 …………


「何も考えないつもりかい? でも、無駄だよ。僕に隠し事は出来ない。些細な思考でも読み取って……はは。驚いたよ。明日の食事の事か。いいよいいよ、キミの器の小ささがよく分かる」


 ……神様と違って人は食事しないと生きていけないんです。ああ、もう、分かった。降参だ。不帰の森がどうしたって?


「エルフが神への反逆を企んでる」


 …………はい?


「僕を殺そうとしていると言ったのさ。聞こえなかったかい?」


 …………お前……なに、にこやかに言ってんの? や、いつも笑ってるようなツラだが……自分が殺されるかも知れないってのに。お前が殺されるとは思わないけどな……ああ、そういう? いつものか。本当に救えねぇな、クソ神。


「そう、退屈凌ぎさ」


 今度はエルフが遊び相手ってか。


「他人事みたいに言うね。キミが遊ぶんだ」


 俺が? なんで? 関係ないし。


「いいのかい? 僕が手を出しても」


 ………………分かった。俺が行く。

 

「キミも凝りないね。毎度同じやりとり。どうせ何一つ見捨てる事も出来やしないのに」


 ……………………俺が好きにやっていいんだな。


「道化師が道化師らしく振る舞ってくれればそれで」


 ……チッ。エルフを改心させてやる。


「好きにするといい。手に負えないようなら逃げ出しても。その場合は僕が後始末する」


 ……後始末って……玩具を片付けるみたいに言ってくれるけどよ。エルフを絶滅させるってことだろう。


「キミが遊んでくれないならいらないからね」


 ……流石は主神様だな。言う事がでけぇや。


「愉しみにしているよ。キミがエルフと関わり、どう変わるのか――」


 …………という、今思い出すだけでも腹立たしい経緯を経て、俺は不帰の森へやってきたのである。

 世の中の使徒に問い掛けたい。

 使徒ってなんなの?

 神様の遊び相手なの?


「ん? お迎えが来たか」


 近付いて来る気配があった。

 一つ……二つ…………三つ、ねぇ。

 逃げられそうにないな。

 いや、逃げたら本末転倒だけど。

 

「そこで止まれ、人間」


 三人はまとまって現れた。囲まれると思っていたが。

 余裕の表れか。エルフの庭だしな。だが、これなら……交渉が決裂しても、逃げ出せそうでホッとする。逃げる事に関しては自信がある。

 

 俺に声をかけたのは青年だった。

 エルフだ。

 間違いない。

 だって、美形だ。

 なんでか、エルフは皆美形だ。

 俺の敵だ。

 

「何故、この場所が分かった。答えろ、人間」

「神様のお告げで」

「死にたいか、人間」

「うんにゃ。大真面目なんだけどね」


 クソ神のお告げから目を覚ますと、決まって知らない知識が増えている。寝ている間に頭の中を弄ってくれてるってことなんだろうな。一度、知ってしまえば俺が見て見ぬふりを出来ないと分かっているのだ。死ね、クソ神。ああ、いっそエルフに協力しようかな。神殺しに。


「ん? その二人……」


 青年の背後に控える女性二人。薄茶の髪。愛らしい顔立ちなのに感情が見えない為人形のように見える。どっちの描写かって? 問題無し。二人は瓜二つなのだ。

 双子か。

 珍しい。

 だが、真に珍しいのは、彼女たちの耳だった。

 耳が長かったのだ。

 俺の知る限りそんな特徴を持つ種族は存在しない(・・・・・)

 なんだ? ……怯えてる? 俺じゃなく……あのエルフに? どういう関係だ?

 チッ。

 クソ神め。

 また情報出し渋りやがったな。

 

「動くな、人間」

「……あのなあ。いちいち人間ってつけなくても俺しかいねぇんだ。分かるっての。ほんっと典型的なエルフだな、おい。ここ、暗いからそこの陽だまり行くだけ。それがアンタの質問に対する答えになる」


 敵意はありませんよ、と両手を上げて陽だまりまで歩く。

 エルフは神に最も愛された種族だ。普通は知らない俺の素性も分かるハズ。

 

「――――ッ」


 青年が息を呑んだ。

 分かってくれたらしい。


「…………その真っ青な髪(・・・・・)。まさか……貴様は……」

 

 俺は仰々しく一礼する。

 ゆっくりと身体を起こし、微笑む。


「主神テラの使徒。クロスだ。族長に御目にかかりたい」


***


 これは泡沫の夢か。

 或いは過ぎ去りし刹那か、

 やがて訪れる破滅か――

第2章 旅路編 -了-


次章 家庭教師編


只今、OVL文庫応募用に別の連載をしています。

暫くはそちらをメインに更新しますので、よろしければご覧になってください。

【ワールドクラッキング】

http://ncode.syosetu.com/n2488bw/

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