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異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第2章 旅路編
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第21話 旅立ち

 《大樹の梢亭》の前に人だかりが出来ていた。

 俺達を見送るべく集まった人々だ。助けた子供とその両親である。

 

「ブラスさん、手紙待ってますから!」

「…………お、おぅ」


 泣きながら縋りつくフォーロにブラスは苦い顔になっていた。ブラスが目をさ迷わせている隙にフォーロとフォーロ母が目配せを交わす。あ~、ブラス君。そこ見逃してるようだからダメなんだ。泣き腫らした目だというのにフォーロの眼差しは獲物を狙うモノだ。

 ……涙は女の武器ってよく言ったモンだわ。

 フォーロの策士ぶりは母親から譲り受けたもののようだ。

 ブラスは最初、フォーロを突き放すつもりだった。

 しかし、昨晩訪ねて来たフォーロ母の願いにより出来なくなった。


「子供が大人に憧れるのは一過性のもの。旅立つのなら夢を壊さずにいて欲しい」


 そう語ったフォーロ母だが、俺にだけ聞こえるよう、最後に付け足していた。

 これは一般論ですけどね、と。


 俺はブラスがロリコンになろうが構わない。フォーロはまだ幼いし、今すぐという事でもないのである。猶予は数年ある。その頃には俺もリスティも独り立ちしている。

 俺とブラスは血縁では無いのだ。俺の父親に縛られる必要はない。

 感謝をしているからこそ思うのだ。妙な義侠心で自縄自縛になって欲しくない。

 気が早いかも知れないが、祝辞だって用意している。


「息子と同年代の子に手を出すとか、お前人としてどうなの?」


 ブラスは涙を流してくれるハズだ。

 冗談は兎も角として、ブラスを幸せにしてくれるなら、相手は誰でも構わない。

 フォーロだって。


 フォーロ母の発言は俺を中立と見て、取り込みにかかったものだった。

 さぞかし父親は尻に敷かれてるんだろうな、と思っていたらその証拠を見てしまった。

 ウチの娘はやらないからな!

 と、ブラスを敵視していたフォーロ父がご満悦だったのである。


「一言いっただけです。娘は父親に憧れるものだと」

 

 ……もう、なんて言ったらいいか。俺も策を巡らす方だろう。だが、こういう……掌で転がすようなのは……上には上がいる。でも、目指したくない上もあると思いました。まる。

 

「リスティ、元気で」

「ネーアも」

「怪我しないで」

「あのねぇ、あたし冒険者」

「分かってる。出来る限り」

「はいはい。ネーア、母さんみたい」


 リスティが分かった分かったと、手をひらひらさせていた。

 それを横目で見ていたニメアは、むむむと、眉間に皺を寄せると、


「クロスは怪我していい!」

「…………いちいちネーアに張り合うな」

「死んだら生き返してやる!」

「……はっ? トリニメント教国行く気か?」

「ふふ、クロスは知らなかったか。ここにも神殿があるんだ!」

「へ~。ま、家族に迷惑かけない程度に頑張れ。俺のせいで家族離散とかへこむから」

 

 それは他愛のない雑談だったのだ。

 《ミリオーネ》に出てくる使徒の髪も紫色だったよな、と。

 そしたらニメアが神官になると張り切りだした。

 ニメアの髪も紫色なのだ。

 歌は事実を元にしたフィクションである。使徒の髪が本当に紫なのか怪しいものだ。

 とはいえ、真実であればニメアはかなり優位な位置にいる。トリニメント教国まで行くというのなら止めるが、ホールヴェッダに神殿があるのであれば、可能性を試してみるのもいいだろう。神殿が秘匿している回復魔法を習得できれば潰しがきくハズだ。ただ、それは漏れなくトリニメント教――通称鳳皇教に入信する事を意味する。

 回復魔法って便利そうだよなあ。

 と、思いつつも食指が動かないのはこのためだ。

 嘘でも俺は神を信じてるとは言えん。

 

 偽耳への挨拶は昨日済ませた。

 チネルの案内人を輸送隊に含ませる件は了承を貰った。代わりに一筆書いたので貸し借りは無しだ。もし偽耳がクドルムと会うことがあれば面白いことになるかも知れない。クドルムに託した宅配システム――アレが動き出すとしたらホールヴェッダの冒険者が配達人になるからだ。ユーフの冒険者? はは、アウディベアにやられる連中だぜ。遠方への配達になったら死ぬって。

 エーヴァルトは……なぜかいた。

 ギルドに寄りつかないといっていたので安心していたのに。


「冒険者やってりゃまた会うこともあんだろ。そん時ゃ敵か味方か分からねぇがな!」


 ……ははあ。イイ笑顔で言ってくれちゃって。出来れば敵で出会いたいんですね。

 だから、お前と会いたくなかったんだよ!


「……おう。それじゃあ、行くか」


 ブラスが号令を発した。

 一体何があったというのか。げっそりとするブラスとは対照的にフォーロがツヤツヤしていた。こりゃ今日一日はニー……じゃねぇ、ロリコンか。使い物にならないだろうな。まあ、悲しい別れになるよりはマシだと思うが。

 

 手を振り、踵を返す。

 大勢の声が一緒くたに聞こえて来る。

 一際大きいのはニメアとフォーロだ。


「クロス、ニメアを忘れるな!」

「ブラスさん、浮気しないでくださいね!」


 ブラスを一瞥すると、力なく首を振られた。

 ……聞くな、ってコトか。いいぜ、そういうことなら聞かねぇ。そっちの方が互いの精神衛生上良さそうだもんな。フォーロ母の入れ知恵があったんだろうし。ロクでもねぇ約束させられたんだろう。ブラスにとっては口約束もバカにならない。

 ……フォーロの熱が下がらなきゃ……同年代の母親が誕生するんですね。

 

「ブラス。ルフレヒトはここより大きいってホント?」

「うん? そーだな。リスティが見たら驚くんじゃねぇか」

「楽しみね」


 本当に楽しそうなリスティに、俺は思わず苦笑してしまう。気持ちの切り替えが早い。


「まあなあ。俺が知ってんのもかなり昔の事だしよ。アイツ、更にデカくさせてそーだ」

「へぇ。アイツ、ねぇ。親しげないい方だな、ブラス。誰なんだ?」

「……言っとくが。女じゃねーから」

「……誰に向けた言い訳だよ。早くもフォーロの尻敷かれてんのか」


 と、俺が言うと、リスティが「あっ」と声を上げた。


「フォーロ、冒険者ギルドの職員になるって。ネーアが言ってた」

「あ~。髪赤いしな。加護持ってそう」

「それもあると思うけどね。アンタ、理由を聞いたら驚くわよ」

「おお、勿体ぶってくれるな。理由は? なんだって?」

「冒険から帰って来た旦那をまず迎えるのは自分でありたいって」

「はっ、はははは! すげぇ理由! 愛されてるな、ブラス!」

「……………………言うな」


 渋い顔をするブラスに、リスティが眉根を寄せる。


「ブラスはフォーロがイヤなの?」

「……あのよお、リスティ。フォーロはまだ子供だぜ」

「はあ? 何が問題なの? それいったらクロスだって。クロス、あたしに付き合ってくれって言った」

「ばっ! ばばば、バカ! リスティ!」


 ブラスがニヤリと笑う。


「ほう、それは聞き捨てならねぇな。いつの話だ? クロス、おめぇ俺にいったよな。リスティに惚れて――」

「あ~~~~~~! あ~~~~~~! き・こ・え・ま・せ~~~~~~~ん!」


 そんな他愛のない話をしながら俺達は市門をくぐった。

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