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異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第2章 旅路編
43/54

第14話 魔封冠

 FランクがSランクを倒す。

 前代未聞の珍事である。

 いや、ランク云々よりも俺が子供って事のほうがオオゴトか。観客は俺がFランクだとは知らない。いずれにせよ新聞の見出しを飾るに相応しいセンセーショナルな事件だ。

 これはマズい。

 目立つのは好きだが、悪目立ちは困るのだ。

 ムシャクシャしてやった。

 今は反省している。

 事態を収拾してくれたのは偽耳である。

 彼はサブギルドマスターだった。

 

「悪ふざけもいい加減にしてください」


 その一言でなんだあ、といった空気に変わった。

 ギルドマスター吐血してたんだけど。

 破天荒な人物のようだし、悪ふざけだと思われたらしい。

 かくして偽耳の機転により、珍事は闇に葬り去られた。

 俺の名前が新聞の一面を飾る事が無くなったワケだ。

 記者が俺にインタビューをしてくれるならまだいい。誤魔化せるから。だが、保護者風のブラスにも話が行くと思う。そうしたらアイツ、アレいっちゃいそうだ。


 ――ギルドマスターを倒す冒険者現る。その名は《ぺるぺる》!


 とかなったら、もう僕お外歩けない。

 ひとしきり懊悩してから、あれ、そもそも新聞なくね? と思ったのは秘密だ。


***


 案内されたギルドマスターの部屋は整理整頓されていた。

 意外だなと眺めていると、「居つかないのでは汚しようがありませんよ」と偽耳が苦い顔で教えてくれた。ギルドマスターは象徴であり、実務には関与しないという。承認が必要な書類だけまとめ置かれているらしい。


 ギルドマスターは長椅子に寝かされている。

 赤ポットを飲ませていたので、いずれ意識を取り戻すだろう。

 赤ポットは偽耳が持っていた。

 ホールヴェッダで赤ポットを見かけるとは思っていなかったので驚いた。

 広まるように働きかけて来たのだ。不思議ではないのかも知れない。

 商人が訪れる事もあったのだ。

 ただ、ようやく実感が湧いた、と言う感じか。

 商人から三万エルで購入したと言う。最初は値段を言うのを渋っていた偽耳だが、俺達がマリア薬剤店の関係者だと知ると一転、卸値に食いついて来た。

 次回、商人との交渉に使うつもりなんだろうな。

 一万エルだと答えておいた。ただし、店員も増えたし、値上げすると言っていたと言い添えて。

 ユーフからホールヴェッダに運ぶだけで、価格が三倍になるというのは凄まじい。

 赤ポットを沢山持って来ていればまとまった金が作れた。惜しい事をした――と思ったが、取らぬぽんぽこのなんとやら、だ。赤ポットを一度手放せば再び手に入れられる保証はない。出来る限り予備を持っておきたいと思ったハズ。だが、赤ポットはかさばる。うんうん悩むハメにならなかっただけ精神衛生上よろしい……と言う事にして、ビジネスチャンスを逃した事を正当化してみた。

 とはいえ、価格の高騰は一過性のものだろう。

 適正価格が周知されるまでの。

 偽耳はユーフ、ホールヴェッダ間の輸送隊を編成しそうな勢いだ。

 マリア薬剤店を誘致する事は可能か。既に取引をしている商人はいるのか。商売をする上で気をつけた方がいい事は。

 矢継ぎ早に質問が飛んできた。

 新しく入った店員は誘致可能かも知れない。店名に騙されるな。全員がマリアだ。必ず店長を呼び出せ……と答えていると、ギルドマスターが目を覚ました。


「ふわあ……よく寝たぜ。お、坊主。いるじゃねーか」

「待ってください、ギルドマスター、話をする前に。承認をお願いします」


 偽耳が書類の束を叩く。

 ギルドマスターが露骨に嫌そうな顔をする。


「後でいいだろ、後で」

「そういわれ続けて溜まったのがこの書類です。いるときにやっていただかないと」

「ギルドマスターなんざ、オレはやりたくなかった。親父の尻拭いは息子がしろ」

「……してるじゃないですか。ああ、これ、エーヴァルトをギルドマスターに推薦したのはウチの父親なんです。クロス君、すいません、こういうときでもないとすぐ逃げ出すので。エーヴァルト、もう俺が目を通してるから。判を押すだけでいい。やってくれよ」


 ギルドマスター――エーヴァルトは舌打ちし、机に移動する。


「判」

「はい。ここに押して」

「めくれ」

「はいはい」


 やけに手際よく偽耳が書類をめくるのが哀愁を誘う。

 そうか……いつもなのか。

 時間が無為に過ぎているワケだが。

 生暖かい目で見守ってやろう。

 

「ところで何で今日に限っていたんですか」

「あ~、昨日強い気配を感じたからよ。何か起きンじゃねーかって張ってた」

「リスティさんもクロス君も強かったですね。お二人が無名だとは信じられません」


 エーヴァルトは肩を竦め、ブラスに笑い掛ける。


「聞いたか? これがギルドの実情だ」

「実情っつわれてもなあ。彼はマジメにやってると思うが」

「オレらの若い頃は冒険者叩きのめす職員も珍しくなかっただろーが」

「いたが。一部だろう。それだってよ」

「ケッ、なんだ、てめーもマジメかよ」


 口はな。実態は……言わずもがな。


 エーヴァルトは書類に判を押しながらブラスを煽る。力が有り余ってるんだろうな。戦意を隠そうともしない。対してブラスは正論で返していた。訓練なんて口だけ。いざ始まったら殺し合いになるんだし、ってな具合である。それがどうしたとエーヴァルトが一蹴した時点で、Sランクの決闘という好カードは流れる事が決定した。


「分かった! てめー騎士上がりだな! 道理でハナシが噛み合わん」

「……十年前だったら……いや、なんでもねぇ」

 

 ブラスも血が騒ぐのだろう。一抹の未練が見て取れた。

 十年前というと……俺を拾ったあたりか。

 ああ、確かに騎士だな。

 

「まあ、いい。坊主、さっきは見事だった。約束だ。手紙を握り潰すのはナシにしてやる」

「…………は? アレ、マジだったのか」


 困惑しているとフォローが入った。

 勿論、苦労人の偽耳からだ。

 

「クロス君。真に受けないでください。エーヴァルトはその場の思い付きでテキトウな事言いますから」

「あの時は本気だった!」


 クズい事で胸張るなよ。


「私の説教を受けてもその本気を保てますか?」

「うるせーなー。ガタガタぬかすならお前やれ、ギルドマスター」

「無理ですよ。ホールヴェッダの冒険者はエーヴァルトに憧れてるんですから」


 うわー。

 コレに憧れるとか、見る目ないやつ多いな。

 踏み台として捉えてたネフェクのほうが好感持てるとかどういう事だ。

 でも、分かった。

 なぜギルドマスターに会うだけで騒ぎになったのか。

 俺は冒険者ギルドを一つの会社として捉え、仕事の打ち合わせに来た感覚だった。だが、ホールヴェッダの冒険者からすると、ギルドマスターは社長である前に地元の英雄なのだ。

 得たいの知れないファンがやって来た、みたいに見えたのかもな。


「あ~~~。分かった、分かった。お前の言うことはイチイチ長くてたまらん。それより、坊主。さっきのアレはなんだ」

「露骨に話逸らしたなあ、オイ」

「うるせー。それで? なんだ?」

「切り札だ。教えるかよ」

「タダでとは言わん。坊主もクエスト受けられるようにしてやろう」

「お? おおぅ。案外マトモな取引でびびった……クエストはリスティがいりゃ受けられるが……いつまで経っても俺のランクが上がらない。つってもなあ、それだけか」


 ランクが上がるメリットはなにか。

 受けられるクエストが増えることだろう。

 でもな、リスティは既にCランク。

 それ以上のクエストは危なそうだし。

 ソロなんてもってのほか。

 うん、メリットない。

 あー、強いて言えば? 格好つくぐらいか。リスティは気にしないだろうが。相棒がFランクじゃあなあ。


「クロス君。騙されたらいけません。クロス君を冒険者として認める。これは決定事項です。エーヴァルトもそのつもりで試したんでしょう」

「ケッ。バラすなよ。つまらねー」


 ふて腐れたエーヴァルトに代わり、偽耳が語ったところによると。

 俺が冒険者として活動出来るよう便宜を図って欲しいとユーフの冒険者ギルドから要望があったらしい。実力者を遊ばせておくのは勿体無い。ホールヴェッダのギルドマスターが認めたとなれば、どこの冒険者ギルドにいっても通用するだろうから、と。

 偽耳に渡した手紙に書いてあったそうな。

 話を聞いて頭を抱えたくなった。

 どうも俺が王を討伐したってのはバレバレだったみたいなんだよな。ブラスはきょとんとしていたので、バレてなかったと思っていたらしい。すまん、ブラス。真っ先にお前を疑った。でも、お前が上手くやってたらバレなかったとは思うけどな!

 手紙を読んだ偽耳は悩んだ。耳がへにょん、となるまで悩んだ。

 俺の実力は未知数だからな。軽々しく認可を与えられない。

 そこへあの騒動が起きた。

 騒ぎを聞きつけうきうきとエーヴァルトがやって来た。

 エーヴァルトは手紙を一読すると言った。

 

 ――実力がわからねー? 戦ってみりゃ分かんだろ。

 

 どうやらエーヴァルトの挑発にはそういった背景があったらしい。

 いい判断だっただろうと、ドヤ顔するエーヴァルトに偽耳は頷いていた。

 ……そう、かあ?

 偽耳はエーヴァルトに甘いんだか、辛いんだか良く分からん。

 口実はなんでもよくて、戦いたかったダケだろ。

 

「ふむ。ま、冒険者として認可してくれるんなら、タネ明かしをしてやってもいい」

「おい、ハインツ。一筆書いてやれ。坊主の気が変わる前に」


 ハインツ。偽耳の名前だろう。だが、俺は敢えて偽耳と呼ぶ。

 いやさ、思いのほか耳が感情を示すんだが。へにゃっ、てなるのは可愛い。でも、コレ、男なんだよな。やっぱ、偽耳じゃん。そんな思いがあるからだ。


「《魔封冠》は氣闘術の応用だ」


 偽耳が一筆認める傍らで、俺はネタばらしをする。


「氣は肉体を強化する。何を当たり前の事を、と思うかも知れない。だが、当たり前。ここが大事だ。先入観が可能性を狭めてる。氣で強化出来るのが自分だけと誰が決めた?」

「ほう」


 エーヴァルトの目が細まる。


「自分が強化できるなら、他人も出来るかも知れない。俺の氣を送りこんでアンタを強化しようとした」

「強化? 氣を纏えなくなったが」

「未完成なんだよ、この技は。他人を強化すべく編み出したんだが。氣ってのは人それぞれ波長が違うんだろう。氣が混じり合うと一時的に氣が練れなくなる」

 

 氣闘術って要はバフだろ。

 他人にはかけられないの?

 そんなMMO的な発想から編み出したアニマグラムである。

 結果は発言の通り。バフだったはずなのに、なぜかデバフになっていた。リスティとブラスに試したところ異物が入りこむような感覚があるらしい。氣が練れなくなる時間は、対象の魔力総量による。リスティは十秒、ブラスは一秒程度だった。手が触れている間は発動し続ける事が可能。ただし、発動させてから触れるのは不可能。対象に触れて初めて発動させる事が出来る。

 

「話を聞いていると、氣闘術というより氣装術(きそうじゅつ)の応用に近いのかも知れませんね」


 偽耳が手を止め、指摘する。


「氣装術?」

「知りませんか。氣を装備に纏わせる」

「ああ」


 《王貫爪》のアレですね。氣装術なんて立派な名前が付いているとは。中二ネームを命名しなくてよかった。赤っ恥をかくところだった。ブラスの知識は穴だらけなんだよな。

 しかし、偽耳はいいところで氣装術を出してくれた。

 彼が言わなかったら俺が言おうと思っていた。


「ハインツ」

「はい?」

「こい」

「は、いいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃィィ!」


 電撃を浴びたかのように、偽耳が床で悶絶していた。

 すまん。偽耳。

 俺が先に忠告しておくべきだった。


「ギルドマスター。氣装術を人に使うと痛みが走ります」

「そうみてーだな」

「危険ですので人に使ってはいけません」

「これ、使えるんじゃねーか」

「氣を纏えば無効化出来ます。魔法使いには効くかも知れませんが意味がありません。触れられる距離にいるんなら殴ったほうが早いからな」

「フン。一通り試してるってか」

「そりゃあな」


 俺に戦いの才能は無い。

 だが、絶対に勝てないと思う相手は少ない。

 ブラスとエーヴァルトぐらいだ。

 リスティにだって五分の戦いが出来る自信がある。ひたすら逃げ回って遠距離から攻撃すれば、リスティの長所を消す事が出来るし。訓練にならないからやった事はないけどな。

 俺の強さを支えるのは手札の多さだ。

 手札を増やすべく、努力を続けている。

 どれも切り札になりえないのは悲しいが。


 そう。大見えを切ったが《魔封冠》は切り札では無い。

 《魔封冠》を使うには対象の肌に触れ、魔法名を唱える必要がある。実力が伯仲した相手に《魔封冠》をかけてる余裕はない。つまり、《魔封冠》が使えるのは実力が下の相手だけ。ならば、わざわざ《魔封冠》を使うまでも無く完封できる。

 とはいえ、無詠唱で出来るなら優秀な戦士殺しになる。

 危険な技術であることには違いない。

 そこで氣装術でミスリードを誘った。

 氣闘術は内側から強化する。氣装術は外側から強化する。似て非なるものなのだ。《魔封冠》は氣闘術の応用。氣装術を修練しても決して到達できない。

 コードが読める俺だから分かる事だ。

 理論が分かっていたとしても、リング無しに実現は無理だろうけどな。


 ああ、余談だが……というか補足か。

 アニマグラムの発動は複数のプロセスからなる。

 理論上では三つ。だが、現状は二つで運用している。三つのプロセスのウチ一つは拡張要素なのですっ飛ばしても問題ない。実現出来なかったらダサいので詳細は秘密。

 まずイメージを固め、

 次に魔法名を唱え、

 アニマグラムが発動する。

 さて、このイメージ。これが地味に大事なのだ。

 イメージと魔法名に齟齬があるとアニマグラムは発動しない。

 つまり、何が言いたいかって言うと。

 《魔封冠》は魔法名込みで完成しているってコト。最速で発動させるべく魔法名を削り、《魔》にしたところ発動しなかった。《寿限無寿限無五劫の擦り切れ》でもダメだったので長さは関係ない。あくまでイメージと合致している事が大事なのだ。


「話は変わるが……ってか、戻ったのかね。俺達はギルドマスターに手紙を届けに来たんだし。もうバレてるから言うが。アウディベアの王を倒したのは俺だ。わざわざ報告書を求めたのに内容はデタラメ。で、当人がいるワケだが。何か聞きたい事ないのか」

「聞いても答えねーつもりだろ」

「まあ、そうなんだけどな。一応聞いておかないとさ。後で呼び出されるのも面倒だ」

「いいんじゃねー? お前らの実力分かったしよ」


 エーヴァルトが投げやりにいい、偽耳が首肯した。


「ホールヴェッダの冒険者にとってアウディベアの王は格好の獲物でしたから。誰かが抜け駆けしたと思い込んでいて、ユーフの冒険者が倒したと説明しても納得してくれないんです。彼らはユーフの冒険者を下に見ていますから」


 ふむ。

 ジフとの決闘で実力を認められただろうからな。

 だが、一点分からない。


「あの程度の実力で王を倒そうとしてたのか」


 誰に向かって言った発言では無い。

 つい、口に出てしまっただけ。

 だが、サブギルドマスターとしては、看過出来なかったのだろう。

 偽耳が早口でまくし立てて来た。


「リスティさんには敵いませんでしたがジフも実力者です。策略を好むため実力が正当に評価されていませんが、ネフェクも魔法使いとしての腕は確かです。《紫電の槍》には他にも実力者が所属しています。王のランクはBです。倒すだけの実力はあるかと」

「…………なるほど」

「クロス君、本当に納得していますか?」

「してます、してます」


 偽耳が疑いの目で見て来る。

 ……本当に納得してるんだけどな。


「ハインツさんよお。クロスは本当に納得してるぜ」

「そうね。勘違いしてた事に気付いたんだけど、恥ずかしいから言いだせないだけ」


 ブラスとリスティが呆れ顔だ。

 ……お、おやぁ、なんか見透かされてる?

 

「クロスはパーティー組んだことねぇからな」

「どうせ黙ってればバレないとか思ったんでしょ。アンタ、サイテーよ、サイテー」

 

 ……ぐっ。完璧に見透かされてる。

 なんなんだよ! こんな時だけ察しがいいとか!

 そりゃあさ、俺も多少は思った。ホールヴェッダの冒険者はこんなモンか、って言っておきながら、フォローをしないのはマズいんじゃないかなあ、と。

 でも、いいじゃん。

 ジフなんてもっと驕ってたよ。

 ネフェクなんてもっと陰険だったよ。

 なんで俺だけ責められなきゃいけないの?

 

「……どういう事ですか、クロス君」

「…………言わなきゃダメですか? ああ、ダメですね。分かったから。リスティ、その目止めて。ホント、へこむから。ブラス、今晩酒は無しだ」

「……お、おい。なんで……俺だけ……」

「オチ担当の自覚を持て」

「…………持てねーよ」


 こう言うのを癒し系っていうのかね。

 しょ気たブラスを見てると癒されるわ。


「俺は今までまともなパーティーを組んだ事がないんですよ」

「お二人は?」

「リスティは最近まで敵対……まあ、話がややこしくなるんで割愛しますけど。見ての通り、俺達三人は戦士です。それぞれ実力者ですし、全員が好き勝手戦うので連携もありません。これってまともなパーティーとは言えませんよね」

「…………ええ」

「ですから、パーティーで討伐するって言う意識が無くて。ジフが、或いはネフェクが。単独で王を討伐できるか。そう考えた時、実力が足りないと思ったんです」

「……そういう事でしたか」


 偽耳は納得し――驚愕した。

 ああ、気付いちゃったか。

 

「アウディベアの王を……単独で討伐した、と!?」

「……まあ。そういう事になりますか」

「し、信じられません! す、凄い事ですよ、クロス君。ランクは?」

「Fですが」

「ああ! そうでした! やはり、クロス君にも冒険者として活動して貰うのがいいようですね。最強のFランクかも知れません。すぐにランクも上がるでしょうが」

「……ええ」

「どうしたんですか? Bランクを。それも王をソロで討伐なんて生半可な実力で出来る事じゃありません。相性もあるとは思いますが、Aランクだって出来るかどうか。それを成し遂げたんです。もっと胸を張ってもいいんですよ」

「……あー、まー、そうかも……知れませんが……運がよかったというか……」


 ありがとう。嬉しいよ、偽耳。

 でも、やめて。

 いや、とめて。

 エーヴァルトを。

 うずうずしてるから。

 俺が調子に乗った途端、よし実力を見てやろう! とかいって、第二ラウンドを始めるつもりだろ。絶対そうだよ。目がキラキラしてるもん。もー、俺を褒めてくれる人は希少なんだぜ。くそっ。折角、調子に乗れるチャンスなのに。


「……と、ところで、騎士団がチネルの町民を保護してるって聞いたんですが」

「どうなんだ、ハインツ」


 エーヴァルトには聞いてない。つか、投げるなら口閉じとけ。

 

「ええ。保護しているようです。彼らの失態ですからね」


 ……失態、ね。

 他人事のように言ってくれるが。

 騎士団の要求を突っぱねなかった冒険者ギルドも同罪だと思う。

 顔に出ていたのか。

 偽耳が苦笑いをしていた。

 そうだよな。

 好きで要求を飲んだわけではあるまい。


「チネルの町民を保護したんですが」

「……そうか。ユーフからいらしたんですものね」

「はい。それで報告を」


 チネルでスケルトンの群れと戦った事を報告する。

 最初はそういう事もあるという態度だった偽耳も、数百のスケルトンがいたと言うと険しい顔になった。ここまでのやりとりで信を得られたのか、俺の発言を疑う様子は無かった。むしろ、騎士団の浄化を疑っていた。俺のせいで騎士団と冒険者ギルドの仲が悪化してはたまらない。ディジトゥスが悪さをしたのではないかと補足する。


「坊主の言ってる事は本当かも知れん」


 ディジトゥスを手に取り、エーヴァルトが言う。

 

「見せてもらっていいですか」


 偽耳のセリフにエーヴァルトがにやにやする。


「坊主、ハインツに刺されてーか?」

「はあ!? んなわきゃねーだろ。アンタだから渡したんだ」

「だとよ、ハインツ。この武器、呪われてるぜ。俺も見た事ねーぐらい強力に。くっくっく、いいぜ、お前ら。退屈しねえ」

「呪われてるとか、分かるのか」

「手にとりゃ分かる」

「ふぅん。ブラスは分からなかったけどな」

「そりゃ、てめー、お堅い騎士様だからだろ。キレイ事が大好きだからよ、連中は。力にキレイも汚いもねーだろ。要は意思がある魔法武器だ。冒険者は使えりゃなんでも使う。言う事聞かなかったら折りゃいい」

「折るなよ」

「アヤだ。言葉の。腕のいい武器屋にもってけ」

「どうにかなるのか」

「本職に聞け」


 それもそうか。

 ディジトゥスを手元に引き寄せる。エーヴァルトは掌を切り不満そうだったが、退屈しないでいいだろ、と言ったら呵々大笑していた。

 なんか、扱い方が分かってきた。

 

「クロス君。チネルの町民を避難所へ連れて行くつもりですか」

「ええ。今日にでも」

「少し時間を貰えますか。チネルの町民だと騙る人が増えていますから。騎士団は神経質になっています。いきなり訊ねて行くと不愉快な思いをする事になるでしょう。お互いにね。私のほうから騎士団に話を通しておきます」

「ありがとうございます。本当になんていったら」

「エーヴァルトが迷惑かけたお詫びです」


 ふと、思ったが。

 俺、ギルドマスターにはタメ口で、サブギルドマスターに敬語だ。

 尊敬できる人には自然と敬語になるんだろう。

 なら、偽耳を止めろって?

 それだけは譲れん。

 

 リスティの冒険者カードの更新……はまた後日だな。

 このタイミングで切り出すと俺のまで一緒に更新しようって話になるし。

 リスティとブラスが完全に飽きている。

 宿泊している宿を告げ、部屋を後にする。

 話を通せたら教えに来てくれるらしい。活動許可証も一緒に届けてくれるとの事。

 偽耳様様だ。

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