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異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第2章 旅路編
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第7話 脱出行3

 旅に出てから自問している事がある。

 

 ――氣闘術を失って俺は弱くなったのか?

 ――《身体強化》を得て俺は強くなったのか?


 俺も男だしな。そりゃあ、気にかかる。

 リスティにポンポン投げられた事で、問い掛けが加速した面も否定できないが――それはこの際置いておくとして。自分の強さを把握しておくのは大事な事だ。

 

 問いへの答えは、

 YESでもあり、

 NOでもあった。


 明確な答えは出せなかった。

 向き不向きがあるんだよな。

 氣闘術をアニマグラムで再現したモノが《身体強化》だ。一見比較するのは容易に思える。でも、ここに落とし穴があるんだよな。ルーツが一緒だからってサルを親戚だと思えるか? それと一緒で《身体強化》も別モノと言える進化を遂げていた。

 どのような進化だったのか。

 それを理解して貰う為にはアニマグラムについて語る必要がある。

 

 アニマグラムを組む時、思い浮かぶ物がある。

 ジグソーパズルだ。

 このジグソーパズルには筋肉ムキムキの男が描かれている。イメージはブラスだな。や、言いたい事は分かる。あんだけ食っちゃ寝してて、筋肉ムキムキのハズないって言いたいんだろ。というか、俺は思った。だが、見事な腹筋してるんだよな。一度上がったレベルは落ちないようなモノかね。この世界、妙にゲームチックなところもあるから。

 

 で、このジグソーパズルをどうするか。

 ぶちまけるのだ。

 決してブラス憎さで言ってるワケではない。

 ピースにバラす必要があるのだ。

 てか、もうブラス忘れてもらっていいし。

 バラけたピース一つ一つが意味を持っている。肉体強化のピースだったり、気配探知のピースだったりって具合に。ただ、意味の無いピースも多い。まー、大半はそんなピースなんだが。ベースとなった俺の氣闘術にムダが多かったってコトなんだろう。氣闘術を修めたとはいっても、ブラスと比べたらまだまだだったし。

 だから次は使えるピースをより分ける。

 そして集めたピースを使って新しいパズルを――アニマグラムを組む。

 分かるとは思うが、パズルとは魔法の事だ。

 習得した魔法が多いほど、使えるピースも増えるのである。

 と、大分簡略化したが、これがアニマグラムである。

 

 さて。

 アニマグラムで《身体強化》を組み直したらどうなるか。話がややこしくなるので前提として同じピースを使うとしてだ。果たして同じものが出来上がるのだろうか?

 答えは――違うものが出来上がる。

 ピースが同じなので性能は変わらない。だが、違うものと言っていいと思う。

 ムダがないからだ。

 消費魔力はパズルの面積に比例する。本来は長年の修練で削ぎ落とされるムダが、ピースとなった時点で省く事が出来るのだ。コンパクトなパズルを組むことが出来る。

 効率で言えば数倍から数十倍違う。

 これを進化と呼ばずして何と呼ぶ?

 

 以上の事を踏まえ、再び考えて見よう。

 氣闘術のメリットは自在にオンオフが出来る事と、出力の調整が容易な事だ。デメリットは燃費の悪さ。反対に《身体強化》は燃費がいい。しかし、一々魔法名を唱えなければ、発動も出力の調整も出来ない。丁度氣闘術のメリットとデメリットを入れ替えた形と言えるか。

 そう、一長一短なのだ。

 氣闘術は技巧のある相手と戦うのに向く。臨機応変に出力を調整出来るからだ。《身体強化》だと一歩避けるだけでいいのに、数歩分飛んでしまう事があるのだ。致命的なミスでは無いが悪手には違いない。リスティ相手に惨敗を喫している一因がコレだな。

 では、《身体強化》の有用な場面は何かと言えば――


 ――殲滅戦だ。


***


 小学生の頃、合唱があった。

 コンクールでは無い。学校の行事だった。上手い下手は二の次で、生徒が合唱する事に意義があった。お世辞にも上手いと言えない合唱を、父兄は万雷の拍手で称えた。

 誇らしげに一礼する指揮者を見ながら臍を噛んだものである。

 なぜ指揮者に立候補しなかったのかと。

 

 そして今。

 俺の手にはタクトがあった。

 タクトを振る――歌声が生まれる。歌声が途切れないよう、絡まらないよう、繊細にタクトを振る。勇ましいところは大きく、物悲しいところは小さく。

 アニマグラムとはまた違った万能感が身体を震わす。

 俺が操るのは歌声だけ。

 しかし、その歌声が聴衆を魅了するのだ。

 この場の全てを俺が支配していると言っていい。

 一際大きくタクトを振る。

 さあ歌声よ、遠くへ響け。

 拍手はない。称賛も無い。だが、それでいい。

 聴衆が聴き惚れている証拠なのだから――

 

「…………ねぇ。アンタ、さっきからなにやってんの?」


 ……歌声が止まった。

 リスティが半眼で俺を見ていた。

 これまでリスティは一人で歌って来たのだ。指揮者の概念を知らないのかも知れない。


「指揮者だ」

「……指揮者? よく分かんないけど。あのさ、止めてくれない?」

「なんでだ」

「目ざわり」


 ……傷ついてない。

 無知から出た言葉で傷付く程俺はヤワじゃない。


「……やれやれ。分かってないみたいだな。指揮の大事さを。歌ってるのはリスティだ。俺は遊んでいるように見えるのかもな。指揮者ってのはこうタクトを振る事で――」


 実際にタクトを振って見せる。


「――リズムを取ってるんだ」

「アンタ、それ、リズム狂ってるから」

「…………」


 タクトを――いや、もう指揮者は廃業だ、うん。タクト改めディジトゥスを投擲する。屋根に上って来たスケルトンに直撃。乾いた音を立ててスケルトンが落ちて行った。


 ――悪かったな! 四拍子の指揮しか知らねぇんだよ!


 そんな想いを込めて、スケルトンを攻撃し続ける。

 俺が真面目に戦うのを見て、リスティは歌うのを再開した。

 

 冒険者ギルドの屋根の上である。

 ここを選んだのは防衛のし易さからだ。

 チネルでは一番高い建物だ。

 登ってこようと思ったら隣の道具屋からしかない。

 一方だけ警戒していればいいから、先程のように遊んでいる余裕もあった。いやさ、最初は真面目にやってたんだよ。でも、思った以上に退屈だったから、つい。

 登ってきたスケルトンを落とす簡単なお仕事です。

 脳ミソ空っぽだからなのかね。何度失敗しても学習しないのだ。

 懸念されていたエグゾスケルトンは空気だった。冒険者ギルドをぐるぐる回っているだけ。騎馬を捨てる英断に出る個体は今のところいなかった。

 ……騎馬がなかったらただのスケルトンになる……のか?

 ……ははは。まさかな。


「お。また来たか」


 矢継ぎ早にディジトゥスを投擲する。これが普通のナイフなら手持ちが尽きて詰む事だろう。だが、ディジトゥスは呼べば戻って来る。防衛戦には打ってつけだった。

 ディジトゥスを引き戻したところで手を止める。

 スケルトンは打ち止めだった。

 また、暫く安泰だろう。

 落としたスケルトンだが、下のを巻き込んでいくらしく、戻って来るのに時間がかかるのだ。組体操で一番上の人間がコケたら一番下までペシャンコになるみたいなものかね。

 油断するつもりはない。

 でもな。

 思っちゃう。

 スケルトンって……ザコじゃね? ってさ。

 

 このままなら作戦達成も難しくない。

 リスティが魔力切れまで歌ったとしても、ナナから貰った青ポットがある。時間さえ稼げればこっちのものだ。まともに交戦するつもりはない。逃げに徹して撒く。エグゾスケルトンは見失ったリスティを捜し出す事が出来なかった。索敵能力は低い。

 盤石だな。

 ……こう言う時に限ってなんかありそうだが。

 

 と、陽が陰った。


「《身体強化・弱》」


 顔を上げると太陽を背に飛来する影――エグゾスケルトンが目に入った。着地地点は俺の真上だった。バックステップでかわす。着地した骨馬の蹄が屋根瓦をまき散らす。

 エグゾスケルトンと切り結ぶ。

 ふむ。腕は下の中ってトコか。

 ユーフの冒険者でも倒せそうだな。

 でも、たまに打ち込みは苛烈だし。

 なんだか、チグハグな戦い方だな。

 どこからか拾って来たのか。ボロボロの剣を使っていた。骸骨の騎士にはピッタリではあるが。武器が合わされ、甲高い音が鳴るたびに、剣の限界が近付いて行く。

 斬鉄とかやってみたくはあるが――時間をかけたら後続が来るだろう。

 片付けるか。

 倒す手段は何通りか浮かんだ。

 その中から一番消耗の少ないのを選ぶ。

 ここら辺かな。

 位置を調整する。

 鍔迫り合いになった。

 相手は馬上である。こちらの《身体強化》は弱。ジリジリと剣が下がる。

 後十秒もあれば俺の頭は割られていただろう。だが、カツンと乾いた音がすると、エグゾスケルトンが動きを止めた。核のある胸からディジトゥスが生えていた。

 よし、上手くいったか。

 更なる獲物(俺)を求める前にディジトゥスを回収。

 ホント、敵よりも厄介な武器ってどういう事かね。

 しかし、有用性は今見せた通り。

 エグゾスケルトンの飛来を目にした瞬間、ディジトゥスを一本屋根に放っていたのだ。

 後は位置を調整してやれば、死角から飛来するナイフの出来あがりだ。


「ま、殺されてやるワケにはいかないんでね。今度こそゆっくり眠ってくれ。ああ、お前さ。衛兵だったんじゃねぇのか。下馬したほうが強かったと思うぜ」

 

 再び永遠の眠りに落ちる刹那。

 エグゾスケルトンは生前の面影を――ああ、うん、分からねぇや。髑髏だもん。ただ、満足して逝ったような気がした。俺がそう思いたいだけなのかも知れないが。

 しかし、エグゾスケルトンがどうやって登って来たのか。

 調査が必要だな。

 と、その前にリスティに一声かける。

 

「問題ない。続けてくれ」


 すると、リスティがきょとんとしていた。

 え、何かあったの? ってカンジで。

 一瞬、見てなかったのか? と思った。リスティに限ってそれは無いと思い直す。


 ……なあ。たまにさ、信頼が重いんだ、リスティ。一応、ランクCの魔物なんだぜ?

 エグゾスケルトンを倒す手段の一つで、リスティに助力を求めると言うのがあった。

 やらなくてよかった。

 助けてくれるとは思う。

 でもさ。

 こんなのも処理出来ないの? みたいな目で見られたらね。


 屋根の縁に立ち。見下ろし、


「…………げぇ」


 スケルトンが山になっていた。文字通りである。積み重なった白骨を想像して貰いたい。想像出来たならもう一声。その白骨がわさわさと動いているんだな、コレが。

 キモいって。

 この形になったのは偶然だろう。

 俺が俺がと登って行こうとして重なった結果だな。

 エグゾスケルトンはこの山を登ってやってきたのか。


 ディジトゥスを構えると、

 

「《身体強化・強》」


 一投で山が揺れた。二投で山が崩れた。

 投げ込む度に爆発が起きる。

 おお、気持ちいいな。

 的当てをやっている気分だ。

 貫通するまで行かないのは残念だが。

 程ほどにして《身体強化》を切る。


 《身体強化・強》の消費魔力は凄まじい。一分半ぐらいで魔力切れが起こる。もっと出力を上げる事も出来た。しかし、俺の魔力を考えればこの程度が妥当だった。

 基準はアウディベアを素手で殴り殺せる威力だ。

 無双を一分半。そう考えると十分な時間である。以前は力任せの戦法では倒せて三体程度だった事を思えば飛躍的な進歩と言える。

 それでも継戦能力は以前と大差ないのだが。

 氣闘術のほうが長時間戦えていた気もする。

 分かんないけどね。

 思い出を美化してるだけかもしれないし。


 ふぅむ。改めて見ると凄い数だな。

 スケルトンはざっと数百はいる。

 エグゾスケルトンは……四? 五? あ~、チョロチョロするから数えられん。誰かパドックに収めてくれ。

 数えつつも投擲を忘れない。

 ブラス曰く、スケルトンは面で狙え、との事だった。

 核を砕ける確率が上がるし、砕けなくても戦闘不能時間が伸ばせる。

 その点、俺がやっているのは点での攻撃だ。

 効果は薄い。

 倒せればラッキー。

 その程度の感覚だな。

 たまに魔素が漂って来てるし、倒せてはいるのだろう。


「――――ッ」


 上体を逸らす。

 何かが通り過ぎた。

 飛んできた方を見ると、弓を構えたエグゾスケルトン。


「チッ。焦らせやがって! 《身体強化・中》!」

 

 ディジトゥスを三本御見舞した。

 二本まで避けられた。三本目が髑髏を直撃した。白い粉が宙に漂うが――何事も無かったかのように応射してきた。顔がなくても位置が把握出来るのか。狙いも正確だった。

 軽く避けたが。

 というか。

 避け過ぎたが。

 ピョ~~ンってなった。

 くそっ! 俺がビビったみたいじゃねぇか!

 《身体強化》を使いこなせてないだけなんだからねっ!

 ……それはそれで……情けない、か……


 リスティの所へ戻る。

 縁にいると射られる。遠距離の撃ち合いは不利だ。距離があると核が狙えない。

 まあ、白い山も崩れたし、暫く時間が稼げるだろう。


 マップを開く。

 ブラス達がどこまで逃げたか把握するためだ。

 アンデッドはマップには映らない為、オーバーフローが起こらないハズだ。かなり拡大してもブラス達の位置が把握出来る…………予定だったんだけどなあ。

 マーカーがあった。

 俺とリスティは言わずもがな。

 もう一つマーカーがあった。

 でもな。

 まだマップ拡大してないから。


「…………おいおい、嘘だと言ってくれ。近付いて来てやがる!」


 そう、スケルトンがひしめくこの場所に。

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