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異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第2章 旅路編
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第5話 脱出行1

 俺の前に五人の少年少女がいた。

 見た目は俺と同じぐらいの年齢である。

 借りて来た猫のように大人しい。


 ふむ、俺のお陰だな。ガキにはガツンとやってやるのが手っ取り早い。わざわざ(・・・・)身を持ってリスティの恐ろしさを教えてやった甲斐があるというものだ。

 うん?

 事実が改竄されてる?

 ははは、なにを仰る。

 人は自分の都合のいいようにしか事実を認識できない生き物だ。

 ああ、他の人からは違う見え方があるかも知れないな。

 でも、これが俺にとっての真実なのだ。


 腕は治った。

 ポットを少々と加護で元通り。

 ブラスに加護がバレてしまったが……呆れ顔をされただけだった。今更何が出てきても驚かねぇよ、そんな気持ちが表情から察せられた。中級自然治癒力向上は最近ゲットしたんだけどな。マップとかと一緒くたに隠されていたと思われたらしい。

 

「つまり、俺達を盗賊だと思ってたのか」

「盗賊……ではないが、怪しいと思った」


 答えたのは少女である。

 紫色の髪をした勝ち気そうな少女である。

 俺に「平気?」と聞いてくれた少女とはまた別である。「平気?」の少女は内気らしく、後ろに隠れてしまっていた。

 

「怪しいねぇ。ちなみにどこらへんが?」

「お前、ニメアと同い年だろ。そのお前が一番偉そう。ほら、怪しい!」


 鬼の首をとったように少女――ニメアが叫ぶ。

 一人称が自分の名前とか。

 バカっぽいよな。

 まあ、助かるんだが。

 五人もいるから名前覚えられなくて。


「貴族の子息とその護衛かも」

「フッ。お前が貴族? アウディベアを可愛いと言うのか? それと同じだぞ」

「…………毒舌だなあ、おい」


 本当に貴族なんだけどなあ。

 とはいえ、俺も鏡で自分を見ても貴族だとは思うまい。

 生まれではなく育ちなんだろうな。

 豚公爵は貴族は血だと思っていたようだが。


 先程まではリスティが事情を聞いていた。

 その時はニメアも大人しかった。

 しかし、俺に代わった途端コレだ。

 リスティが降板した理由は……言うまでも無いな。

 

 五人はチネルの町民だった。

 見ての通りリーダーはニメア。

 五人で遊んでいたらアウディベアの襲撃があった。ニメアの素早い判断もあって無事にチネルから脱出。森の中をさ迷い、三日前にチネルに戻ってきた。しかし、そこでスケルトンの襲撃を受ける。命からがら逃げ出して屋敷に辿り着いた――ということらしい。

 以来、屋敷から出ていない。

 当然食事も満足に取れずかなり衰弱していた。

 さて。

 前々から思っていた事だが、ファウンノッドの人々は偉く頑健だ。

 前世と比べると雲泥の差である。

 腹が減っていたのは確かだろう。だが、食事を与えたらすぐさま元気になるってなに。ニメアを見ろ。ウザいぐらい元気だ。何か妙なモノ入ってたのかな、と思った程だ。


「しかし、よく無事だったな」

「だろう」


 ニメアが胸を逸らす。年相応の幼い仕草。


「スケルトン怖さに引きこもってた癖によく言う。ま、安心しな。スケルトンは俺達が片付けておいた。かなりの数だったからな。墓地は真っ白だ」


 リスティが「俺達って」とボソっと言っていた。


「? 何を言っている。一体だったぞ」

「………………は?」

 

 スケルトンが一体?

 なら、なんで俺達の時だけ?


 旅と魔物は切っても切れない関係だ。

 事ある毎にブラスから魔物について教授されている。

 しかしながら、アンデッドの知識は薄い。

 出会うことが無かったからだ。

 出会うこともないハズだった。


 アンデッドが生まれるのは戦場跡か迷宮と相場が決まっているからだ。

 なんでも前者は怨嗟が。

 後者は魔素が関係しているとか。

 

 かつて戦争を繰り返し滅んだ国がある。

 勝者となった国も荒廃が激しく、領土を広げることが出来なかった。

 浄化もされず放置された土地は次々とアンデッドを吐き出した。生前の軍規が生きているのか。アンデッド同士争う事も無く一つの国の態を成していたと言う。

 死都アイエンフェーンだったか。

 

 しかし、チネルのケースでは怨嗟はまず残らない。魔物によって殺された場合、残るのは無念だから。

 魔素溜まりも無かったと思う。

 アンデッドが出ても、一体か二体か。

 そう判断したから騎士団も引き上げたのだろうし。

 

 チラッと青髪のスカした顔が思い浮かぶ。

 …………まさかな。

 あ。待て、待て待て。

 なんでもかんでも疑うのはよくないね、うん。

 だって、もしクソ神の仕業じゃなかったとしたら最悪だ。だってさ、アイツ言いそうじゃん。「へぇ。キミはそう思うんだ。期待に応えるとするよ」とか。

 

 いずれにせよ、


「イヤな予感しかしないな」


 零れた愚痴。

 反応があった。

 リスティである。


「アンタも?」


 ……も?


「………………オォゥ。フラグ立ったわ」


 両手で顔を覆う。

 はは、泣きたい。

 決死の思いで王を討伐したと思ったらこれかよ。

 この加護を得た者は数奇な運命を辿る、だったか。

 はあ。勘弁してくれ。

 とはいえ、落ち込んでる場合ではない。

 襲撃がある。その前提で動くべきだ。


「ブラス。寝室のベッドの下。酒が隠してある。以前と同じなら。とって来てくれ――」

「おおっ。見てくるわっ。あれ、美味かったんだよな!」


 嬉々として二階へ駆けるブラス。

 ……あ~~。違うんだけどな。

 こう思ったんだ。

 浄化に使えないかな、なんて。

 ……もう、言えないが。

 

 他に打てる手は無いか考えていると、


「ちょっと」


 と、リスティに腕を掴まれ、屋敷の外へ連れ出される。


「どうした」

「怯えさせてどうするの」

「……怯え? ああ、子供達か。怯えてたか?」

「アンタね、真顔が怖いのよ」

「…………」


 情けない顔になっていたのだろう。

 リスティはふふっ、と笑うと、


「その顔ならいいんじゃない? ナメてもらえるわ」

「……おい、なんで安心通り越してナメられるまで行った」

「アンタ、極端なのよ。なんだっけ……前言ってた……つんでぇれ?」

「それ違うから。分かるんだが」

 

 おどけてるか真面目かどっちかだもんな、俺は。

 前世でもお前のニュートラルはどこだよって言われたっけ。


 しかし、言われて見れば配慮に欠けていた。子供は大人の顔色を窺うものである。険しい顔をしていたら、不安がられるのは当然と言えた。

 リスティから指摘されたのは地味にショックだが。

 考えてみれば愚連隊のリーダーだったのだ。子供相手には面倒見がいいのだろう。


「そんなことはいいのよ。ほら、いつもみたいに悪知恵働かせなさいよ」


 悪知恵とか人聞きの悪い。

 ただ、楽して勝ちたいだけ。


「……怖い顔になってしまいますけど?」

「は? なれば。あたしはアンタの真面目な顔いいと思うし……って、なによ。ニヤニヤしちゃって。あたしと一緒にいるんなら! ナメられるなっていってんの!」

「分かるか、リスティ。これが正しいツンデレだ」

「ハァ!? 分かんないわよ!」

 

 憤慨するリスティだったが、ふと、呆けた顔になった。


「さっきから何してるの」

「え?」

「腕」

「あ」


 言われて気付く。

 知らず腕を撫でていたらしい。掴まれていた部分である。女の子に触れられたから――ではないんだろうな。だって、骨見えてなくて安心した俺がいたから。

 同時に思い付いたのだろう。リスティが挑むように言った。


「あ、あたしは謝らないから!」

「いや、あれは俺の悪ふざけが過ぎた。リスティの成長は目覚ましい。もし本当に幽霊がいたとしても、リスティなら剣で斬り伏せられるような気がしてたんだな」

「そっ、そうよ、アンタが悪い……?」


 リスティが首を傾げる。あ、その仕草可愛いな……って!

 マズいな。からかっていた事がバレたら本格的に殺される。

 よし。この話題流そ。

 

「リスティは町に偵察に行ってくれ」

「アンタは?」

「俺はここに……いや、俺も行ったほうがいいか」

「え~。残ってたら? 邪魔だもん」


 リスティは俺が氣闘術を失ったままだと思っている。

 氣闘術と《身体強化》が同一のものだと認識していないのだ。《身体強化》をしても俺がホイホイ投げられる為だ。氣闘術があった時は避けていたんだし、同じって言うけどまたウソついてるんでしょってな具合である。氣闘術と呼ぶにはまだ拙いのは確かだが、それ以上にリスティが強くなってるダケなんだが……


「……いいか、偵察だけだ。交戦は避けてくれ」

「倒せるなら倒したほうが早くない?」


 ……それも一理あるんだよな。

 少し考えてから答えを出す。


「偵察だけ。交戦は禁止。クエストを受けてるでも無し。危険を冒す必要はない」

「そっ。じゃあ、行って来るわ」

 

 言うなりリスティが駆け出す。

 相変わらず思い切りがいい。

 なんとも言えない気持ちでリスティを見送る。

 

「……何かあったのか」


 振り返るとニメアがいた。

 思いの外、物思いにふけっていたらしい。出て来た事に気付かなかった。

 

 さて、どう説明したものか、と考えあぐねていると、


「ニメアに嘘はつくな」


 と、睨まれた。

 肩を竦めていう。

 

「嘘をつこうとは思ってなかった。ただ、どう説明したものかってね。根拠は今のところリスティのカンだけ。俺は信じるに足るが、普通はそうは思わないから」

「カン?」

「アンデッドが現れる。たぶん、大量に」

「……っ」


 ニメアが絶句する。

 いうべきか悩んだのである。

 しかし隠しだてしてアンデッドに遭遇した時、パニックになられる方が怖かった。

 

「詳細はリスティが戻ってから……いや、一度信じると決めたんだ。ニメア。荷物はあるか。あるなら、仲間にいってまとめておけ。リスティが戻り次第チネルを出る」

「……今からか? 夜の森は危険だぞ」

「チネルに残るよりはマシだ」

「……お前達、強いのか?」

「そこは信じてくれとしか……ああ、いや、分かり易い実績があったな。チネルをこんなにした王を討伐したのは俺達三人だ」

「ニメアは言ったぞ! 嘘をつくなって! チネルは大勢いてもダメだったんだ! お前達三人でどうにかできるはずがない!」


 ニメアが地団太を踏む。

 癇癪を起こすニメアにイラッと来る。

 だから、つい言い方がキツくなった。


「いいか、俺は準備しろって言ったんだ。分かるか。お前らを連れて行ってやるっていってるんだよ。お前達五人で生きていけるのか? 選択肢はないんだよ。お前がリーダーなんだろ。感情的になるな。分かったなら、ほれ、準備しに行け」

「――――ッ!」


 ニメアがドン! と地面を踏みしめる。

 そのままくるりと屋敷へ駆けて行った。


「…………はあ。大人げなかったな」


 八つ当たりだ。

 リスティは俺の指示に従ってくれた。もし敵を殲滅しろと指示していたら、どうなっていただろうか。愚直に指示を守って戦い続けるリスティの姿が目に浮かぶ。

 人を率いると言うことは、他人の命に責任を持つと言う事だ。

 感情的に反駁するニメアに、自分を重ねて苛立ったのである。

 ニメアはまだ十歳とかだろう。

 理性的な判断を求めるほうが間違っている。

 分かっているんだけどな。

 感情とはままならない。

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