表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第2章 旅路編
31/54

第2話 二つ名

 荷馬車の御者台に乗り空を眺めていると眠気を催して来る。

 なぜ馬車に乗っているかと言うと、護衛クエスト的なものを受けたからだ。

 的なってなんだって?

 冒険者ギルドを通して受けたクエストではないのだ。

 

 てけてけ歩いていたら顔見知りの馬車がやって来たので――


「お久しぶりです、お兄さん。またユーフにいらっしゃっていたんですね。次はどちらへ? あっ、偶然ですね。俺達も同じ方向なんですよ。旅は道連れと言いますし、良かったら乗せて貰えますか。分かってます。ただで、とは申しません。見たところ護衛を雇ってませんよね。この辺りも物騒になってきました。俺達が護衛をしましょう。こう見えても俺達は……え、あ。ユーフで? 噂を聞いた。黒髪黒目の口汚いガキがいる……は、はぁ。ぐ、偶然ですねえ。特徴が一緒……えっ。父親は常に酒を手にした酔っ払い……はは、そんないつも酒を飲んでるわけじゃ……って、おい、ブラス! 飲むなっつってんだろ! 夜までおあずけ! おあずけも出来ないようじゃ、いい番犬にはなれねぇぞ! リスティもなんで止めな……えっ。俺の喋り方が気持ち悪い? 話しかけないで? ……乗っていいですか。すいません。俺の味方はお兄さんしかいないみたいです。あ、分かってます。ブラスのイビキだけは俺が止めますんで。大船に乗った気持ちでいてください」


 ――という俺の巧みな交渉術で持って護衛を受けたのだ。

 異論は認めない。


 馬車の主はクドルムと言う。

 ブラスのイビキで寝不足になり、一杯奢った青年商人である。

 ポットの噂を聞き付けて、仕入れに来たと言う。

 

「店番誰でした?」

「店長さんにしてもらったよ。加護を見せて貰わないといけないからね」

「全員加護持ちですけどね」

「そうなんだ。そんなこと一言も。ユーフでは有名なの?」

「ん、なにがですか」

「マリア薬剤店。事情に詳しいみたいだったから」

「元店員なんですよ、俺は。ああ、そうだ。店が繁盛してるのはお兄さんのおかげなんでした。ありがとうございます。まず、お礼を言わなきゃいけなかったですね」

「えっ。え、ぼくなにもしてないよ」


 目を丸くするクドルムに軽く事情を説明する。

 いかにクドルムの知恵が役に立ったかを熱弁すると、釈然としない様子ながら「役に立ったならよかったよ」と言ってくれた。イビキ事件の時も思ったがいい人だな。


「少年は凄いなあ。ぼくが君くらいの時は、師匠の言う言葉は呪文だと思っていたよ」

「専門用語とか呪文に聞こえますよね」


 変数にポインタでビットを立てる――みたいな。

 ざっくり言えば1を記憶しろと言っているのだ。

 それだけなのに専門用語を使えばこの通り。

 

 長閑な旅である。


「なっ、なあ、クロス」

「クズは黙って歩け」


 ブラスだけ馬車に追従して歩かせている。俺の目を盗んで酒を飲もうとした罰である。

 リスティは荷台で丸くなっている。黙っていると美少女なんだけどな。

 野営に備えて睡眠を取っているのか、単に眠いだけなのか判断に迷う。

 後者か。野営の差配してたのステンだろうし。


「頼むよお。なっ。兄さん、兄さんからも言ってやってくれよ」


 ちっ。ブラスめ。矛先変えやがった。クドルムはいい人だからな。泣き落としには弱いだろう。

 俺も馬車の主の決定に逆らうのは難しい。

 要らん頭使いやがってと内心で罵倒していると、思わぬ展開になった。


「申し訳ありませんがぼくも人の子。今夜の苦労を思うと甘い顔は出来ません」

「苦労? 何の?」

「止めとけ、ブラス。ユーフの宿屋で寝不足になってたから、この人。お前のイビキで」

「……歩くわあ、俺」

「最初からそう言っとけ、クズ」


 ちょっとクズクズ言い過ぎかな、と思ったけど、クズだしいいよね。

 ユーフの冒険者にとってブラスは英雄だ。感謝の言葉と大量の酒を手に入れた。

 そこで終わらせておけば綺麗な思い出のままだったのに、タダ酒に味を占めたブラスは連日酒場にたかりに行くと言う……ね。「おう、今日も行って来るわ」じゃねぇよ。で、泥酔したブラスを回収に行くのは俺の仕事って言うさ。

 尊敬の眼差しが軽蔑に変わって行くのを見るのは辛かった。特に若手の冒険者ね。あまりにも被害を受けている冒険者には、ブラスには内緒で金を渡しておいた。

 

「全員加護持ちならこれからマリア薬剤店は更に繁盛するね」


 古巣の様子を聞いていると、クドルムがそう言った。

 

「しますかねえ」


 俺は首を傾げる。


「え、しないの?」

「いや、俺に聞かれても」

「だって少年が大きくしたんだよね」

「確かに叩き台は俺が出しました。後は店長に託したんで、なんとも」

「勿体ないな。少年の着想は凄く奇抜だ。考えて見たら?」

「……すいません、もう一度いってもらえます?」

「……えっと……考えてみたら?」

「惜しい。その前」

「…………着想が……いい?」

「もう一声」

「…………えっ。一声……ええ? …………着想が……素晴らしい?」

「ありがとう」


 目を白黒させるクドルムと握手を交わす。

 目頭を押さえて空を見上げる。熱いものが目に……来る事は無かったけど。でも、嬉しかった。はあ、普通に褒められるのってすげぇ久しぶりな気がするわ。

 ふむ。

 考えてみようか。

 もっと褒められたいし。

 言われて見れば俺のアイデアはマリア薬剤店の立て直しが主眼だったし。加護持ちの店員が大勢増えたのだから、打てる手の幅も広がったと考えていい。

 あれ? やれちゃう? ドラッグストアー。


「お兄さん、相談に乗ってもらえますか」

「勿論。暇だしね」


 ……この人本当に商人なのかな。げへへ、コンサルタント料金貰うけどな、とか思わないのかね。知的財産という概念がないこの世界ではこんなものなのだろうか。

 気になったので相談を始める前に、クドルムの話を聞いてみると、


「あ、少年もそう思った? 師匠には甘いって言われる」


 利益を追求できないので、自転車操業なのだと言う。

 なるほど、護衛がいない理由が分かった。駆け出しの商人には珍しい話ではないと言うが、俺からすると命綱無しの綱渡りを見ている気分だ。

 

「じゃあ、お兄さん。ポット作れる加護持ちが大勢いる。これの利点は何だと思います?」

「沢山作れる事だね」

「でも、売れなきゃどうしようもないですよね」

「品質は保証されているんだ。売れないなんて事は無いと思う」

「ユーフですよ? 冒険者の数も知れてるし、商人の販路としても外れてる」

「大きな商隊はユーフは寄らないね。おかげで駆け出しのぼくが食い込める」

「お兄さんの事情は置いといて」

「…………」


 酷いよ、といった目で見て来たが無視。

 クドルムは拗ねたように手綱をちょんちょん遊んでいた。


「他の町に店舗を出したら?」

「お兄さんもそう思いますか」


 生産量が上がっても流通経路がなければ在庫が積み上がるだけ。

 では、他の町に店舗を構えれば解決するかと言うと――


「輸送費用がかさむね。高いんだよ、護衛は。品質が良くても高すぎたら売れないし」


 そうなのだ。

 高いんだよ、とのところに実感がこもっていた。雇おうとした事はあるらしい。


「それが嫌なら店舗毎に加護持ちを置いて、回復薬……ポットを売れば輸送費用はかからない」


 ふむ。独立採算制か。俺も考えていた。

 というか、俺の心を読んでいるんじゃないか、ってタイミングで口を開く。

 気質は兎も角、商人の資質はあるらしい。

 

「店舗毎にやるなると品質がまちまちになるのが怖いんですよね。あ、今いる店員は信用できると思います。でも、規模が大きくなればいずれは。一旦信頼を失うと取り戻すのが大変ですからね」

「迷宮都市に店を移すのがいいのかな。冒険者も凄いいるし。商人だって沢山いるよ」

「あくまでユーフでやって行くつもりみたいですよ」

「それは……非効率的だね。あ、ごめんね」

「いえ、俺もそう思いますから。俺たちみたいな人種からすれば、場所に拘る価値観が理解出来ないですからね」

「羨ましくもあるけどね」

「あ、そういう感想はいいんで」

「…………」


 しまった。ついつい弄ってしまった。

 ああ、まただよ。手綱ちょんちょんしてる。

 止めてあげて。馬が、ん? ってなってる。


 生活がユーフに根付いているナナはともかく、旧チネル組は他の町へ行く事に抵抗は無いだろう。ユーフを本店として他の町で本格的に売るのもいいかも知れない。


 ただ……やはりネックは品質の保証だ。生産する場所が増えるほどに、ブラスみたいなダメ人間が混ざるのだから。管理しきれるのは片手の指程度だろうな。

 数か所で生産し、それを全国に。これを前世でいうなら……工場か。工場で品質を管理した上で生産し、配送業者が全国へと出荷する。おお、当てはまった。よし、前世の知識チートが始まる――って、だから、その配送業者ってトコがネックなんだよ。

 トラックでぶ~~~んってワケにはいかないのだ。


 ん?

 何かが……引っ掛かった。

 輸送は費用がかかる。

 それは当然だ。

 でも、業者が費用を負担?

 前世では……


 あっ。

 思い出した。

 

 着想を検討する。

 あれがこーで、こーがあれで……

 冒険者ギルドを利用すればやれなくもない……のか?

 ただ、確認しておかないといけない。

 データベースを流用しようとするとキレるからな、神様。


「一つ、思い付いた事があります。こういう仕組みってあります?」


 クドルムがふんふんと話を聞く。

 やはり商人なのだろう。楽しそうに相槌を打つ。

 話を聞き終えると口を開いた。


「少年が言った仕組みはある。よく聞くのは製造系のギルドだね。鉱山近くの町でクエストを発行して貰うんだ。どこそこの町に鉄を届けて欲しいって言う感じで」

「クエストを発行するのが個人でも問題はない?」

「ないね」


 お墨付きが貰えた。


 俺が考えたのは宅配便だ。

 送料は消費者負担の宅配便である。

 輸送費用がかかる?

 だったら、消費者に負担してもらえばいいのだ。

 成算はある。

 冒険者にとって効果の保証された回復薬は、喉から手が出るほどに欲しい代物だからだ。インベントリがあれ低級ポーションを連打するのもアリだったかも知れないが、かさばる回復薬は持っていく本数を抑えるのが普通なのだ。品質が高いものを持っていきたい。道具に拘る一流の冒険者は稼ぎもいいので、必要な出費を抑えようとはしない。

 多少コストがかかっても、ポットをお取り寄せする。

 イケる。

 

 仕組みは単純だ。

 マリア薬剤店がある町にクエストを発行して貰うだけ。

 ポット何本をどこそこに届けろ、というクエストだ。

 発注状況を冒険者ギルドのデータベースで管理できると言う一石二鳥ぶり。

 

 突き詰めて考えれば穴はあるだろう。

 だが、叩き台としては十分だ。

 後はナナに任せればいい。

 最後の選別という事で。

 元々俺がくちばしを挟まないようにしてたのも、ナナに店長としての自覚を持ってもらいたかったからだ。これからは相談に乗る事も出来ないので、俺に依存していては店はやっていけない。だってのに意見を出さない俺を後輩連中はからかってくれてさあ。

 ま、ナナは分かってくれていたようだからいいが。

 

「お兄さん。どこか落ち着いた場所で手紙を書くので、マリア薬剤店に届けて貰えます?」

「いいけど。いつ行くか分からないよ。クエストを発行したら?」

「一筆書くつもりなので。お兄さんに便宜を図ってくれって」

「…………ほ、本当に?」

「お礼代わりです」


 好意には好意で報いる。

 これが俺の流儀だ。

 大抵は悪意が来るので悪意で返す事が多いが……なんでかな?


「おう、クロス。客だ」


 ブラスの鋭い声。

 マップを開く。


「盗賊。三人だな」

「便利な加護だよなあ。なんて加護なんだ?」

「秘密だ」

「まー、いいけどよ。加護の登録しねぇのもそれが?」

「当たらずとも遠からず。だから、あんま人前で言うなよ」

「お、おう。すまん。そうだな」


 加護は秘密に出来ない。登録が義務だからだ。

 金を積めば口を割る冒険者ギルドの職員もいるだろうし。

 だからといって公にしていいというワケでも無い。

 ブラスだって分かっているハズだ。

 タイミングが悪かったんだろうな。マップの事を打ち明けたのは昨日である。その効果をさっそく見せられて、つい口が滑ってしまったのだろう。


 焦るそぶりを見せない俺達を見て、クドルムが泡を食っていた。


「とっ、盗賊ですよ。なんでそんなに落ち着いていられるんですかっ」

「え、だって同数だし」

「リスティどうする。寝かしとくか」


 訓練をつけるようになってから、リスティを指す時嬢ちゃんが取れた。

 認めたと言うことなのだろう。


「だ、だだだから、なんでっ!」

「お兄さん、落ち着いてください。いいですか、そこのブラス。イビキのうるさいブラスです。ユーフの町では番犬として全裸で寝転がっていたブラスです。正直、人として褒められる点はない……少ないですが、戦力としては申し分ありません」

「…………起こして来るわ。ダメだ。戦えねえ」

「あっ、あんなこと言ってますよっ!」

「ドウドウドウ。落ち着いて。リスティ。Cランクの冒険者です。接近戦ではブラスも舌を巻く天才です。最近、リスティとブラスの訓練を直視出来ません。もう嫉妬しか覚えないから……ではなくて、たぶん、西日的なものが俺の目にビーってビビーって差し込んで……っと、失礼。リスティの事を語ろうとしたら、彼女の口癖がうつってしまったようです」

「…………ク~ロ~ス~。アンタ、一人で片付けなさいよ」

「みっ、みんな、戦えないって!」

「……最後に俺。仲間からの裏切りにもめげず、不屈の闘志で持って盗賊を撃退する事を硬く誓う俺です。何を隠そう俺は魔法使いなのです。最近魔法使いになったので、使える魔法こそ少ないですが、盗賊如きに遅れを取る事はありません」

「…………」

「…………」


 あー。冷たい視線を感じるなー。

 なんだよ、少し調子に乗っただけだろ。

 いいさ、いいさ、俺一人で片付けてやる。


 ――フォルカ詐称で。


 マトモになんて戦いませんよ。

 怖いから。

 王と戦った時の俺はどうかしていた。

 本来はね、平和を尊ぶ少年なんだよ、俺は。

 戦わないで済むなら、その道を選ぶよ。

 キリッ。

 

「そこの盗賊! 出て来い! いるのは分かってる!」


 俺が声を張ると、木陰から盗賊が出て来た。

 二人。


「こすいなっ! もう一人出て来い!」


 な、なんで分かったんだ、という顔で盗賊が三人並ぶ。典型的な盗賊ルックだ。ペア……トリプルルックだ。顔も似てるのでこれがゲームなら、盗賊A、B、Cだな。


「お前ら。分かってるのか? 誰を襲おうとしたのか」

 

 くくく、さあ、怯えよ、我が名はフォルカ――


「あっ! あいつはっ!」


 盗賊Aが声を上げた。

 おい、名乗りを妨げんなよ。


 くっ、くくく、我が名――

 

「なっ、なんだとっ!」


 盗賊Bが……あれ、Cか? どっちでもいいや。やはりビックリしていた。

 ったく。もうなんだよ。フォルカモードまでテンション上げるの大変なんだぜ。ふわぁぁ~~はっはっは~って高笑い上げられるぐらいじゃないと。一々水差されてたら、いつまで経っても名乗りがあげられないでしょう?

 

「見ろっ、月光の歌姫だっ!」


 …………ああ、はいはい。

 理解が追いついた。

 リスティにビビってたのね。


 ――月光の歌姫。


 リスティの二つ名だ。

 月光は髪の色から。

 歌姫は歌でアウディベアを集めたというエピソードから。


 アウディベアの王を討伐した(事になっている)ブラスとリスティ。

 そしてなぜか俺の三名には二つ名が付けられた。

 冒険者連中が祝勝会で斧だ尻尾だいっていたアレだ。リスティの二つ名が聞こえがいいのも当然だな。だって、本人がその場にいたんだから。

 

 で。

 リスティにビビったってコトは次は――


「あいつはっ、呑竜(どんりゅう)だ!」

 

 ブラスの二つ名だ。

 呑は酒を飲む事から。

 竜は戦いぶりから。


 リスティとブラスがふふん、ってなっていた。

 二人は俺に意地悪な視線を送っていた。

 くそっ、意趣返しのつもりか。

 根に持つたぁ、陰険なヤツらだ。

 ……分かってるんだろうな、この後のオチが。


「そしてあのガキはっ、ぺるぺるだ!」


 ぺるぺる?

 可愛い響きだね。

 ははっ。

 

 ……遺憾ながら俺の二つ名だ。

 ぺるぺる。

 なにそれ、って思うだろう。

 俺は思った。

 だって、イミ分かんないし。

 この二つ名で意味を理解出来る人がいたらおかしい。

 さては、バカにしてるんだな。

 そう思った。

 話を聞いたら違った。

 意外と大真面目に付けられていた。

 逆にショックだった。

 前にも少し言ったが。

 俺はマリア薬剤店の店員として、冒険者連中と接点があった。主だった連中は一回は店に来てるからな。お客様ですから。当然、丁寧に接客しますよね。内心では「けっ、テメェもナナ目当てなんだろうがよっ」とか思っていても表には出しません。

 そんな俺が戦場で豹変したのが印象に残っていたようで。

 あれ誰?

 誰あれ?

 ってなったらしい。

 そうしたらリスティが言ったのだそうだ。


「ぺる……ぺるぺるよっ!」


 とね。

 ペルソナな。

 

 みんな、なるほどーってなったのだと。

 そっかあ、ぺるぺるだったんだー。

 ぺるぺるじゃあ、仕方がないねー。

 バカなの? 冒険者って。

 

 ……俺はさあ、特徴あると思うんだ。

 黒髪黒目。

 神様に見捨てられた色。

 ちょっと中二心くすぐられるフレーズじゃん?

 なんでここのところを生かしてくれないワケ?

 

 ぺるぺるって。

 凄い弱そうだし。

 幸いユーフでしか流行っていないので、広まる事は無いだろうという事だ。

 リスティのは広まると思う。冒険者として活動してるからな。

 ブラス? 酒飲むのは確かだし。


「おい、アイツ呑竜(笑)だ」


 とか、言われるのはあるかも知れん。

 酒場で。


「……もういいよ、お前ら。帰れ。畑でも耕して暮らせ」

「くっ!」


 俺の温情が理解出来なかった……というか、恐怖に駆られてだろう。盗賊Aがナイフを放って来た。二つ名持ちには敵わないと踏んで、クドルム目掛けて。

 ふっ。バカだな。

 俺がいるって。


「《身体強化》」


 アニマグラムが発動する。

 すばやくナイフをキャッチ。

 ナイフは盗賊Aのケツに返しておいた。

 

「わあ~~ぺるぺるだ~~」

「ぺるぺるだ~~」

「ぺるぺる~~」


 盗賊は去って行った。

 追い掛けられなかった。

 ……くそっ、アイツら……的確に俺の心にダメージを与えて行きやがった。

 下手したら一日落ち込んでるぞ、チクショウ。

 でも大丈夫。

 褒められたら復活出来る。

 クドルムがいてくれて助かった。


「見てくれましたか、お兄さん。俺の魔法を」

「……魔法? 何かした?」

「…………」


 あ、あれ。そうか、《身体強化》って傍から見たら氣闘術だものな。《墜火葬》はピーキー過ぎて実証するのには向かない。てか、あれも氣闘術でブン殴ってるように見えるだけか。おや? おやおや? 俺って魔法でござい、ってのなにも持ってない?

 お兄さんが俺をジッと見ていた。

 ま、まずい。

 何か言わないと――


「……俺は魔法を使わない魔法使いなんです」

「…………それって魔法使いって呼ばないと思う」

「………………ですね」


 うん、流れで分かってさ。

 俺、オチ担当だってね。


***


 その夜。

 イビキが鳴り響いた。俺は止めなかった。

 リスティとクドルムは何度も止めようとしたらしいが無駄だった。殴ったぐらいで止まるくらいなら俺がとっくにやってる。厄介なのは一度イビキを止めても、こっちが寝入った頃合いにイビキが復活すると言う事だ。

 翌日。

 目の下にクマを作ったリスティとクドルムがいた。

 俺は耐性が出来ているので快眠でした。

 リスティとクドルムから文句を言われ、小さくなるブラスを見て俺は溜飲を下げた。


 むなしい勝利だった。

 俺は何と戦っていたんだろう。

 朝日に向かって問い掛けた。

 答えは無かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ