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異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第2章 旅路編
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第1話 旅景

 リスティと向かい合う。

 なんだかデジャヴを覚える光景だ。勿論、違いは沢山ある。降り注ぐのが陽光だったり、場所が北の森だったり、俺の腰が引けていたり?

 だが、一番の違いは――


「……痛っつぅ」


 結果かね。

 

「やっぱりアンタはあたしがいないとダメね」

 

 リスティが満面の笑みで、俺の顔を覗き込む(・・・・)

 

「……仰る通りで」

「ホラ、立って」

「…………」

 

 リスティは訓練をつけてくれているつもりなんだろう。

 でも、何の訓練にもなってない。

 

 俺はもう氣闘術が使えないのだから。


 納得づくで墜火葬をぶっ放したハズだった。しかし、実際に氣闘術を失って見ると、いかに頼っていたかが分かる。気持ちを理解したければネットを封印するといい。

 生きていけないワケではないけど物凄い不便だと思うから。

 

 一応、身体強化は出来る。

 魔法だしな。

 最初から身体強化をしておく。

 考えとしてはアリだ。


 ――魔力が持てば。

 

 身体強化を出力に分けて弱中強と作成した。弱中ではリスティをいなす事は出来ず、強では消費が激しくて自滅する。以前のような戦い方を実現するには、弱中強を使い分けなくてはならないのだが、悠長に切り替えている時間なんてない。


 やっぱ氣闘術は惜しいよな。

 ってことで、無詠唱で身体強化をする方法を探っている。

 世の魔法使いが聞けば、贅沢なっと憤慨するだろう。トルウェンからチラっと聞いたところによると、詠唱破棄ですらかなりの修練が必要になるらしい。

 むしろ俺は詠唱破棄でしか魔法を使えない。

 呪文?

 え? 要らないです。自分、中二病じゃないんで。


 ん~~。

 何らかの法則があると思うんだよな。

 新しく魔法を使うことで無詠唱が出来なくなる。ってコトは魔法を使うことで、何かが変化しているのだ。

 その何か。

 それさえ掴めれば無詠唱も再現出来るハズ。

 しかし、手がかりナシなので進展は無い。

 魔法剣士と一度話をする事が出来れば何かヒントも掴めるかも……いや、ムダか。天才と話したって得るものなんて何もない。あるとしたら苛立ちだけだな。

 リスティとブラスの会話を聞いているとそう思う。


「おう、そこはぐっ、だ」

「ぐぐっ、のほうが」

「それだとぐあっ、と来られたら」

「そっか」


 ……はあ?

 である。


 王との戦いでリスティは一つ壁を越えていたらしい。ブラスの指導の元、着実に実力を伸ばしていた。氣闘術が使えたとしても、今のリスティには勝てる気がしない。

 ブラスも嬉々としてリスティを鍛えている。

 

「クロスも最近は相手を嫌がっててなあ」


 息子がキャッチボールの相手してくれないんだ――みたいなノリで言っていた。

 なあ、知ってるか?

 お前にけられりゃ痣になるんだぜ。

 ブラスには加護を得たことを隠している。治るならいいだろ、とかいってスパルタが始まりそうな予感があるので。一応、今は氣闘術を失ったと言う事で、訓練の内容も簡単なものになっていた。本当はそれすらも勘弁してもらいたいのだが、リスティが熱心なので余波が俺に来るのだ。


 ……コイツらさあ、俺をなんだと思ってるの?

 もう戦士じゃないのー。

 俺は魔法使いなのー。

 まあ、いつかは魔法剣士になりたいけどな。


 あれ、何の話だっけ?

 ああ、リスティの訓練の話か。

 強化ナシでの立ち回りを鍛えるというのなら意味はあるのだ。

 ブラスはそうしてくれている。

 リスティは力でブン投げてくれるだけ。

 意味ねぇって。


「ホラ、早く」

「…………」


 立ち上がる

 投げられた。

 立ち――


「はっ」


 投げられた。

 あー、もう。起き上がりこぼしかよ。

 

「ホント、ダメダメね」


 リスティは噛み締めるように笑う。

 噛み締める? 何を?

 決まってる。

 喜びを、だ。

 

 コレ、リスティなりの意趣返しなんだろうな。立場が逆になったもんだから、鬱憤を晴らしてるんだろう。イルトレントみたいにならないだけマシか。今までリスティを小バカにしてきたもんな。リスティがバカだからいけないんだと思うけど。

 おやっ、そうすると……これは逆恨みといっていいのでは?

 唯々諾々と俺が従う義理は――

 

「早く、早く」

「…………」


 ……はいはい、立ちますとも。

 今の俺なら愚連隊だって倒せそうなぐらいやる気が無い。

 しかし、リスティは何も言わない。

 むしろ嬉しそうだし。

 そうか、そうか、そんなに俺が憎かったか。もー好きにしてくれ。

 

 五年後とは言われたけどさ。

 洞窟ではいい雰囲気になったと思う。

 リスティとの旅に期待をしてしまった俺は悪くない。

 なのに、コレだ。


「早くっ」

「…………限界」

「ウソつき」

「……じゃ、休憩」

「ふぅん。疲れた?」

「……見て、分かるだろ」

「はあ? 分かるワケないでしょ。アンタ、ウソばっかりつくし」


 本当の事を言っているのに信じて貰えない。こんなに悲しい事は無い。狼少年もこんな気持ちになったのかな。ま、余力あるんだけどさ。バカ正直に付き合ってられるかよ。

 

 寝転がっているとリスティが隣に座った。

 休憩を許してくれるらしい。

 会話は無かった。

 だが、居心地は悪くない。


「なあ、歌ってくれよ」

「また? アンタも好きね」

「いいものはいい。それを認められない程、狭量じゃないつもりでね」

「……きょっ、きょ……アンタ、また――」

「リスティの歌は素晴らしい。いつまでも聞いていたい。そういうことだっ!」

 

 なんとなく展開が読めたので、先手を打って煽てておく。

 

「そっ、そう」

 

 リスティも満更ではなさそうだ。

 チョロいな。

 ジッとリスティを見詰めていると――やがて肩を竦め歌い出した。


 森にリスティの歌声が響く。

 以前、思いっきり歌えないとイヤと言っていたリスティだが、コツを掴んだのか隣で聞いていても心地よい。やはり氣を使っていたのだろうか。歌っていても魔物を呼び寄せると言う事も無いし。ま、来たとしてもブラスが蹴散らすんだけどな。

 見ればブラスは目を閉じて歌声に聞き入っていた。

 そうだな。俺も倣うか。

 目を閉じる。

 いつ聞いても勇壮な歌だ。レパートリーは一つだけ。飽きる事は無いが……やっぱ勿体ないよな。綺麗な歌声を生かすような、そういう歌を覚えられないか……次の町に着いたら、探して見ようか……旅路は娯楽が少ないからな……ブラスも……イヤとは……

 うとうとしだす。

 英雄級迷宮を踏破した歌われる冒険者も睡魔までは倒せないようだった。

 歌声が子守唄へ変わるまで、然程時間はかからなかった。

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