第13話 炎毛の王2
漆黒に沈む森をひた走る。
灯りの類は持っていない。前世であれば一歩進むだけでも恐怖を覚えただろう。暗殺者スタイルを鍛えていたら、目を凝らすと夜目が利くようになっていたのだ。
多分、目のチャクラ的なものが開くのだ――って、前にも言ったか。
素のステータスが上がっている訳ではない。となると、氣闘術の応用だと思うのだが……魔法使いにも出来る事らしい。謎だ。
「…………はあ、はあっ」
休憩がてらマップを開く。
マーカーがオーバーフローしないギリギリまで拡大する。
検証を経て一度に表示できるマーカーは五十前後と判明していた。人や魔物の密集地では取捨選択出来ないと実用に耐えない。一応、OFF/ON出来る項目は有るが……設定できるのは人だけなので、人探しをしている現状意味が無い。
もう何度も繰り返した行為である。
マップには大量の赤が散りばめられていた。余談だが人と魔物ではマーカーの形状が違うので盗賊との判別はつく。動物は表示されない。魔物と動物の違いは魔素の有無らしい。
「……もっと奥か。どこまで行ってんだよ」
森は荒れていた。
アウディベアが縄張りを無視して動き回ったおかげで、冒険者を見れば逃げ出すような魔物でさえ殺気立っていた。継戦能力に難がある俺にとっては地獄そのものだ。
今のところ《隠形》を看破する魔物に出会ってはいないが……
正直ぞっとしない。
《隠形》がいつ切れるか分らないのだ。
最長記録はウルフエッジを尾行した時のものだが……参考記録程度に思っておくのがいいだろう。緊張感が段違いだ。緊張は疲労を加速させる。
王か。
恐ろしい存在だ。
たった一体の魔物が生態系を荒らしているのだから。
まだ見ぬ貴族を――いや、騎士か? を怨みたい。
冒険者と騎士の確執か。いがみ合うのは結構だが、関係ない場所でやって欲しい。民を守るのが騎士の仕事ではないのか。町一個消えているのである。
発見した時点で倒してくれれば何の問題もなかったのだ。
簡易キャンプに討伐隊の騎士が一人来た。彼が洗いざらい教えてくれたのだ。
都合の悪い事情を包み隠さず教えてくれた騎士には好感が持てた。下っ端だから斥候なんてやってるんだろうし。彼が悪いわけじゃない。しかし、冒険者連中はそうは思わなかったようで、あたかも彼が全ての元凶のような態度で追い払ってしまった。
まあ、本隊の到着が明後日とか言われたら。
八つ当たりもしたくなるだろう。
元凶が冒険者と騎士の確執にあるとして。
状況を悪化させたのは冒険者ギルドの仕組みだ。
冒険者ギルドの半端な情報伝達システムが、この状況を招いたのは疑いようがない。
王がいるのに北の森に行くなんてリスティはバカなのと思ったが、冒険者ギルドは王が討伐されているものと考えていたらしい。王の討伐クエストの受注履歴が確認出来たのだそうだ。考えて見ればリスティはともかくステンがいるのだ。
冒険者ギルドのベータべース(神様)は便利だ。これを利用すれば全国紙だって夢ではない。そうすればこんな事態も防げた。
しかし、受付嬢に聞いたところ、データベースは決められた用途以外には使ってはいけないのだという。まず冒険者ギルドで働くに当たり、注意されることがそれらしい。
かつて俺と似た事を考えた先駆者がいた。
クエストの体裁をとった伝言システムの開発。
画期的な試みである。
しかし先駆者への功は加護の喪失という形で報われた。
神様は融通が利かない。
また暫く行ったところでマップを開く。
「…………おっ」
いた。
ついに見つけた。
人である。
ん?
一、二……足りない……一、二……だよな。重なってないし。
やはり一人足りない。
違うパーティーか?
しかし。受付嬢の話では北の森に行ったと思しきパーティーはウルフエッジだけだといっていた。ああ、いや、冒険者とも限らないのか。チネルの町民だ。散り散りになって逃げたといっていた。まだ、森を逃げ回っている人がいても不思議ではない。
――無視するか?
刹那、そんなコトを思った。
俺はジェイドのような勇者ではない。
救える人数に限りがあるのだから。
「…………ふぅぅぅ」
邪念を吐き出す。
ムリだな。
見捨てられない。
チラっとよぎっただけで激しい自己嫌悪に陥った。
悩むハメになるくらいなら見つけたくなかった――なんて思う自分をまた嫌悪するワケだが……仕方がない。それが俺だ。俺は聖人君子ではないのだから。
タイムロスになるが助けよう――
「――――――――っ」
月光。揺れる髪。胸に当てた手。響き渡る歌声。夜空を眺めていた。他愛の無い会話。挑みかかる瞳。好奇心。母親への情。歌。笑うその顔。
立て続けに情景が蘇って来た。
情景が浮かぶ度に助けようと言う意思が砕けて行く。
……それでも。助けないと。
ここで人助けを行えばリスティを助けられる可能性が減る。
だが、二人を見捨てたらリスティは俺を責めるだろう。確信がある。良くも悪くも真っ直ぐな少女なのだ。きっと彼女は英雄と言われる類の人物だ。
俺とは違う。
違うから眩い。
正反対なのだ。
俺と彼女は。
理屈を優先させる俺と、
感情の赴くままの彼女と。
……少し、憧れる。
そうと決まれば。
二人に対し魔物が五体群がっている。位置は先程と変わらず。ということは冒険者か。交戦しているのだろう。都合がいい。奇襲が出来そうだ。
冒険者には悪いが囮をもう少し続けてもらおう。
「なっ」
迂回して戦場に近づいた時だった。アウディベア五体と交戦している冒険者が目に入った。まるで想定していなかった人物の姿に、思わず声を漏らしてしまった。
戦士と魔法使い。
魔法使いを庇いながら戦士が剣で牽制している。目を瞠る強さはないが、戦い方が巧みだ。アウディベアを木立に誘導し、複数を相手にするのを避けていた。
どうしても捌ききれないときは詠唱破棄の火矢が援護に入る。とはいえ、当たっても掠り傷。やはり牽制でしかない。火力のある魔法は詠唱が必要なのだろう。その時間を戦士が稼げないでいるのだ。
もっとも彼らがまだ生き残れているのは、決定力のなさのおかげだろうが。
アウディベアは勝利を焦っていないのだ。冒険者が力尽きるのを待っている。本来のアウディベアはもっと好戦的なハズだが、あたかも冒険者のような連携をなしていた。
これも王の影響という事だろう。
姿は見えずともアウディベアは王の影響下にあるのだ。
まるで軍隊だ。
王が発見されたのは森の北端。そしてここは南端に近い。
森を縦断したのだ。
森に住むアウディベア全てが王に臣従していると見ていいだろう。
数も多いワケだ。
絶望的な戦いだろうが、冒険者はよく踏ん張っていた。
戦士だけなら逃げ切れる可能性がある。だが、氣闘術の使えない魔法使いはそうは行かない。遠からず追いつかれ、無防備な背中に爪が振るわれる事だろう。
よくパーティーは家族以上の繋がりがあるという。
幾度も死線を越えているうちに絆が育まれるらしい。
この光景を見ればなるほど、と思う。
利に聡い冒険者が共に死ぬ事を選択しているのだから。
俺が参戦すれば戦局はひっくり返るだろう。
だが、俺は動けずにいた。
頭が真っ白だった。
戦士と魔法使いは――
「トルウェンっ、さがれっ!」
「わっ、分かった」
ステンとトルウェンだったのだ。
胸中を巡っていたのは、「なんでお前らがここにいる?」――そんな思いだった。
いや、いていいのである。ウルフエッジを捜しに来たのだから。
ウルフエッジ。結成は三年前。当初は二人のパーティーだった。一年後、荷物持ちとして参加した新人が頭角を現し、瞬く間にパーティーはCランクへと駆け上がった。新人のパーティーだと自他共に認めるまでに然程時間はかからなかった。メンバーはステン、トルウェン。そしてその躍進の原動力となった新人――リスティだ。
そのリスティがいない。
いない。
「トルウェン、合図で援護してくれっ!」
――おい、リスティはどうした?
「はっ、離れてくれよっ、ステンっ」
――まさか見捨てたんじゃねぇだろうな?
カッ、と頭の芯が熱を持つ。
肉を裂く音がした。たちまち血臭が漂う。木に当たって何かが転がってきた。アウディベアの頭部だった。ころころと頭部は転がり、胴体へと戻ってきた。パーツは揃った。だが、事切れたアウディベアが再び立ち上がることはなかった。
なんだよ。
ステンか?
トルウェンじゃ首は落とせねぇからな。
どうっ、と重たい音が響いた。二体目である。流石に頭は飛ばせなかったようだが、かろうじて頭部が繋がっているだけだった。噴出した血が隣にいた仲間の身体を赤く染めていく。目に入ったらしく、苦悶の声を上げていた。そこへ一閃。苦悶の声はそのまま断末魔の声へと早変わりした。
隙を見逃さずに畳み掛ける。
戦いの定石だが実践するのは難しい。
ステンは牙を隠し持っていたらしい。
「――クロス!」
剣が更なる犠牲者を欲して走る。
腕に防がれた。
なんだ。褒めた傍からこれか、ステン。
流石に同じ手は何度も通用しない。
魔物だって学習する。大した知能があるとは思えないが、本能がそれを補って余りある。複数の魔物を相手にする時は慣れさせないことが重要なのだ。
「クロスッ!」
ステンが叫んでいた。
アウディベアの股の隙間から、膝をつくステンが見えた。
……ステン。お前な。
牙はどこへ行った? 折れたのか? いつの間に?
お前ずっと戦っていたよな。
ホラ、立てよ。
「クロォォォスッッ!!!」
……おかしい、よな。
なんで、そこにいるんだ、ステン?
ステンはフリーだった。脅威とみなされていないのだ。
じゃあ、戦ってるのは誰だ?
足が止まった。
え?
俺の。
は?
「ぐがッ!」
殴られた。ガード越しに吹き飛ばされる。背中から木に衝突。肺に残っていた僅かな酸素を吐き出す。ずるり、と根本に身体が崩れた。
痛い。
泣きたくなるぐらい痛い。
「クロォォォーーーーーーーーースッッ!!!」
叫ぶなよ。
分かってる。
痛みで我に返ったよ。
戦っていたのは俺だった。
くそっ。
こんな事に気付けないほど、頭に血が昇っていたのか。
ステンとトルウェンがリスティを見捨てた?
んな、バカなコトがあるかよ。
ウルフエッジはいいパーティーだった。もし全滅するのだとしたら、最後に残っているのはリスティだ。絶対だ。そういうパーティーだった。
一瞬でも疑った俺はどうかしていた。
「……ま、じぃ……な……かはっ」
地面に血が降った。
俺が吐いた。
全身が気だるい。
呼吸が荒く、氣も維持出来ない。
眩暈がした。
血を吐いたからか?
いや、酸欠……だな。
限界を超えたツケが回ってきていた。
アウディベアの頭が飛んだ?
ハッ、凄いな。
これがステンの仕業なら手放しで褒める。
でも、俺の仕業となると評価は一転する。
――氣を無駄遣いしすぎ。
だから、ガス欠になる。
「……ふぅ……かっ……はっ」
アウディベアが二体殺到してくる。
おいおい、大人気……だな。
キミら、メス? オスなら出直して……きな。
……まず……い。
……意識が……考え……まとまら、ない。
…………何か、言って……誰か……ごちゃごちゃ……ステン、じゃねぇ……
トルウェン、か……?
……ん?
ごちゃごちゃ?
……ああ、そうか。
俺は時間を稼げたってワケだ。
途端に、
「やれッ! トルウェン!」
聴覚が復活した。
「――に燃ゆ腕をここに顕せ! 火炎槍!」
炎の槍がアウディベアの横っ面に突き刺さる。槍は膨れ上がり爆発。
ボンッ!
アウディベアは上半身を失っていた。血を吹上げる身体は隣の同族を巻き込み、もんどりうって転がった。
「……うご……けっ!」
腕を突っ張って、上半身を起こす。
目と鼻の先に剣が落ちていた。だが、その距離が今は遠い。
まずい。
力が入らないだけではない。
思考が霞みがかっている。
このチャンスを生かさなければ待っているのは死だ。
分かっていても、夢の中にいるような、ふわふわした気持ちが――
「ガ、ガァァァ!」
同族の身体を押しのけ、アウディベアが屹立する。
間欠泉のように吹きあがる血で、体毛が真っ赤に染まっていた。
その姿はあたかも耳にした王の姿のようで――
「――――ッ!」
立ち上がる。
――全部、テメェの、
剣を取る。握れる。
――テメェのせいかッ!
的外れな怒り。分かっている。
でも、それで十分。
駆け出す足がもつれる。しかし、一歩進むごとに足取りは確かなものへ。
普段は当たり前のようにやっている事が出来ない? ならば、意識するしかない。指先から。足先まで。地面を蹴る。それだけでの動作でも、全身を意思で動かすのだ。
「グオオオオオオオォっ」
アウディベアは驚いているらしい。俺が息を吹き返してきたのだから。
足を止めて迎撃の構えだ。最も警戒すべき相手として、俺を認識しているらしい。
このまま睨みあってたら、トルウェンが――ああ、ダメだ。ぶっ倒れてやがる。魔力切れか。肝心な時に役にたたねぇな。
「ステンっ!」
「オウよっ!」
俺の号令でステンがナイフを投擲。
「グゥゥゥっ、ウオオオゥっ……っ!」
お見事。目に命中。
足を止めたのは失敗だったみたいだな。
では、この隙に――
「げっ」
隙がない。
や、隙だらけなんだが。
急所だけは庇ってやがる。
躊躇いは一瞬。
膝、腕を踏み台に巨体を駆け上がる。魔物に肩車されている格好になる。剣を急所の喉に押し当てる。硬い。流石に一気には切り裂けない。
「ガァァァ!」
アウディベアが俺を振り落とそうと暴れる。
「我慢比べだっ」
俺は片手で柄を、片手で刃を掴み、首に押し当てる。身体を逸らし全体重を刃に乗せた。つまり、俺の身体は剣で支えられているワケで、激しい痛みと共に掌から血が流れる。刃を伝う赤い液体は、果たして俺のものか、アウディベアのものか。
「あっ、ああああああああぁァァ!」
なけなしの氣を振り絞る。ここで決めないと後がない。
やがてアウディベアが抵抗を止めた。
助けを求めるように、腕が宙を彷徨い――後ろに倒れた。
「やった!」
トルウェンは無邪気に喜び、
「…………ふぅぅぅぅぅぅ」
ステンは深く息を吐き、
「バカがッ」
俺は二人を罵倒した。
巨体に押しつぶされたらたまらない。既にアウディベアから下りていた。
剣の柄を両手で握る。力を入れるためだ。しかし、失敗した。ぬるぬるした感触が伝わってくる。血だ。逆に力が入らなくなってしまったかも知れない。
「ガァガガオオオァ!」
カッ、とアウディベアが目を開ける。
「悪いな。死んだフリは人間の専売特許なんでね」
実際は気道が潰されオチていただけなのだろうが。
「そのまま死んどけ」
剣は深々と喉を抉る。勢いよく吹き出る血。それに弾かれ、俺は倒れ込む。
「……くそっ。しくじった」
血は魔物を呼び寄せる。これでは《隠形》もどこまで効果を発揮するか分からない。だが、元々怪我してるんだし、今更か。
寝転んでいると二人が近付いてきた。全身傷だらけで歩くのも辛そうだ。
「……助かった。礼を言うぜ」
「…………」
礼を言ったのはステンだけで、トルウェンは仏頂面で佇んでいた。
「……リスティはどうした」
「俺達を逃がすために残った」
……そうか。そうだよな。リスティはそういうヤツだ。
「オイ、なんてツラしてやがる。勝手にウチのリーダー殺してくれんなよ。殺されたってそうそう死にゃぁしねぇよ、アイツは。確認だ。王は討伐されてないのか?」
「ああ。実にくだらねぇ理由で……理由は町に戻ったら聞け」
「手短に行くぜ。リスティは王とタイマン張ってる」
「…………はい?」
……はい?
「俺も目を疑った。なんでかは知らん。聞くな。ただ事実だ。分かるな。一対一ならリスティは王にだって遅れはとらねェ」
淡い希望である。しかし、希望は希望だ。
俺は思わず身体を起こしていた。もう身体は動かないと思っていたのに。
気持ちが分かったのか、ステンが笑っていた。
「クロス、ポット持ってるか」
「……やらねーぞ」
そうだ。ポットを飲まないと。ステン達の事も考えて、多めに持って来たのだが……ああ。割れてる。一本は残っているが……コレ、意味無いヤツだ。
……最悪だ。
そんな俺を尻目に、ステンはポットを取り出すと、口に付けた。
見る見るステンの傷口が塞がって――いかないな。出血が止まっただけだ。
「トルウェン。一口だけ飲め」
「…………」
トルウェンは無言でポットを受け取り、一口飲む。
ステンはひったくるようにしてポットを奪うと、俺の目の前に突き出して来た。
「俺達の最後のポットだ。飲んでくれ」
「……悪いな」
……一瞬、空気読めよな、とか思っちゃって。
命の恩人を差し置いて回復するんだぜ? 確かにやらない……つまり、持っていると言ったが、俺のポットが割れているのは見れば分かるのだ。
ポットを飲むと傷が見る見る塞がって行く。前世の記憶を持つ俺からすると冗談みたいな光景だ。回復薬を飲む度に不気味に思ったが、今は「ウチのメイドさんの作る薬は効くなあ」ってな具合である。
「これも受け取れ」
ステンから色々押し付けられる。
丸い飴玉のようなものは、今食べるように言われた。口に含むと甘かった。
「疲労が回復する」
回復薬は失われた体力までは回復しない。HPが完全回復したからと言って、即座に前線に復帰とは行かないのだ。では、体力を回復させる薬があるのかと言うと、ない。あくまで体力の回復を促すこうした飴玉で自然回復を加速させるだけだ。
飴玉を舐めていたら気付いた。
ステンは飴玉を食べていない。
問い掛ける視線でステンも俺の言いたい事に気付いたのだろう。
ステンは渋い顔になり、
「……お前に頼める義理じゃねえのは分かってる。だが――」
語り出したステンを押しのけ、トルウェンが俺の前に立った。深々と頭を下げた。
トルウェンの手が震えていた。ナナと一緒だな、とぼんやり思った。
「……リスティを助けてください。お願いします」
トルウェンとは色々あった。魔法屋でガンつけられ。倉庫では魔法をお見舞いされ。粘着して見れば哀れさしか覚えず。良好な関係を築けていたとは言い難い。
敵視されていたのはリスティが俺に惹かれたからだろう。色恋ではない。ユーフでお山の大将を気取っていたリスティを俺はあしらった。そんな俺も外の世界へ行けば、大勢の中に埋没するだろう。リスティは俺を通して外の世界に惹かれたのだ。
リスティが外に行くとなると、ウルフエッジは恐らく解散する。だからこそ、先手を打ってステンは俺をパーティーに勧誘した。ユーフなら三人パーティーが主流だとステンは言った。四人パーティーを作ろうとしたのは外へ行くためだったのだ。
全ての中心にリスティという少女がいた。
だと言うのに、トルウェンは俺にリスティを助けてくれと言う。
自分が行っても足手まといになると分かっているのだ。
ここには同じ焦燥感を抱く三人がいる。
ステンは自分の身を顧みず、最後のポットを俺に託した。
トルウェンは感情を押し殺し、俺に頭を下げた。
なのにどうして俺だけが癇癪を起こせるだろうか。
俺はガシガシと頭をかいた。
頭が冷えた。
俺も腹を割って話すべき――
「顔を上げろ」
――だと思ったが止めた。
トルウェンの顔を見たら気が変わったのだ。
俺はにやにやとした笑みを浮かべながら、
「なあ、ステン。トルウェンが寝言いってんぜ」
「眠たい目なのは認める。だがクロス、俺達は冗談を言ってる――」
本気で怒り出しそうなステンとトルウェンを手で制す。
「眠たいんならユーフ戻って寝てな。んで、グッスリ寝て起きたその暁には――」
俺は立ち上がると身体を点検する。よし、万全には程遠いが――イケる。
「俺が悪夢を終わらせてる」




