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異世界のデウス・エクス・マキナ  作者: 光喜
第1章 流浪編
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第2話 冒険者ギルド

 ファウンノッドの神には三つの階級がある。

 主神、上級神、下級神である。

 厳密には同じ階級でも上下関係があるらしいのだが、人の世界には正確なところが伝わってこない。連中は口々に俺はどこそこの神よりも偉いとのたまうからだ。

 中には謙虚な神もいる。きっと女神だと思う。

 が、折角の情報も人の手によって歪められる。

 神と対話出来るのが使徒だけだからだ。

 史上、複数の神の使徒となった人はいない。

 なので、身内贔屓が発揮され、「ウチの神様が一番可愛いもんね!」となるのだ。

 俺? 勿論、ウチの神様が一番だと思ってるさ。クズランキングがあればね。


 とはいえ、普通に生きている分には三つの分類で問題ない。

 階級が上になるほど神としての位は高いのだが、信仰の観点ではおおむね逆転現象が見られる。位が高い神になるほど易々と人に加護を与えないからだ。

 役所の奥で書類を決済しているオヤジより、親身になってくれる窓口のお姉さんに親近感を持つようなものだろう。

 なんか例えが安いなあ、と思うかもしれないが――これが案外正しい。

 神の仕事は役所のようなものなのだから。

 上級神が業務を管理し、下級神が実務を担当するのだ。インフラの大部分を神が管理(よくいえば司る)してるんだから、文明が中世レベルで止まっているのも納得だね。


 では、主神は? というと、人をぶっ殺して勝手に転生させたり、赤子を両親の元から引き剥がしたり――そんな感じで運命を改竄しまくって、慌てふためく道化師を見てゲラゲラ笑うのがお仕事である。

 あれ、そんなクズに聞き覚えがあるって?

 奇遇だな、俺もだ。


 そう、主神はテラなのだ。


 世界を作ったとされること以外で知られているのは、目の覚めるような青髪をしているということだけ。実態は謎に包まれている。それがまた神秘的みたいなニュアンスで語られた。多分、異世界でネトゲにハマってるだけだと思うんだけどなー。


 ブラスから神々の話を聞いた四歳の夏。

 俺はこの世界がちょっと嫌いになった。


***


 ユーフについた。

 ぽつりぽつり民家が見えるようになってきたな、と思っていたらいつの間にか町に入っていた。市壁で囲まれていないので、身分の確認も税も無かった。

 それでも人の往来を見ていると、町についたのだと感慨が湧く。


「これからどうすんだ?」

「俺は冒険者ギルドで換金してくれる。ブラスは宿取っといてくれ」

「いいのか?」

「身体が資本だしな。臨時収入もあるし」


 臨時収入とは魔物である。道中で襲われたのだ。ブラスが返り討ちにした。

 ニートのブラスだが、撃退は出来るのだ。そりゃあ、死にたくは無いしな。

 魔物の素材は高く売れる。ブラスの手に掛かれば、大抵の魔物は恐るるに足らず。これを定期的に出来れば、普通の暮らしも夢ではない。しかし、街道沿いは魔物も少なく、滅多に襲われる事も無いので――夢だった。くっ、儚いから夢っていうんだね。


「なっ、なあ……モノは相談……なんだがよ。先に一杯……」

「…………ハァ。一番安いヤツな。カード出して」

 

 取り出したるは冒険者カード。

 このカードは身分証明書だけでなく財布にもなっている。

 非接触式ICカード――駅の改札でピッってするヤツみたいなものだ。カードは魔素(エル)を溜めこむ性質をもっていて、その魔素が貨幣の代わりに使われている。いや、逆か? 魔素を溜めこむ性質を持ったカードを冒険者カードに使っている? ま、どっちでもいいか。

 魔素は魔物を倒す事でも蓄積される。

 先日、魔物を倒した事でブラスの冒険者カードは多少潤っているはずなのだが……小遣いをせびれるチャンスは見逃さないのだから最早呆れるしかない。

 あれかね。

 こういうところで俺が甘いから、コイツいつまで経っても働かないのか?

 でも、労働に報いないのは違うしな。


 とか思いながら魔素の移譲を終えた。

 どうせ宿を取るからにはある程度の金額を渡しておく必要があったのだ。

 ああ、このやりとりからも分かるように、財布のひもを握っているのは俺である。


 財布として使う為、冒険者カードは誰でも持っている。冒険者ギルドが発行するカードという意味合いが強い。そういう意味じゃ、運転免許証といいながら、ペーパードライバーにとっては、使い勝手のいい身分証明書なのと似てる。

 蓄積できる魔素に上限はあるらしいが、万年金欠の俺にはどうでもいいことだ。

 

「俺が遅かったら冒険者ギルドで落ち合おう。たぶん、宿屋分かるとは思うけど」

「おう、分かったぜ」


 やけに返事がいい。こりゃもう、完全に酒の事で頭が一杯だな。

 手を突き出すような格好で、バイバイして二手に分かれる。

 ブラスとヴァンデルのこの格好を挨拶だと勘違いしたから今日の俺がある。だが、あれが本当に挨拶だったのだとしたら? 俺は勘違いしてなかったとしたら?

 これ流行らせたら、俺のミスなかったことになんねぇかなあ。

 なんて、少ししか思ってない。

 流行る兆しはない。

 くそっ。

 

 町の中心に向かって歩く。

 大体、冒険者ギルドは町の中心にあるのだ。赤い屋根の、見るからに近寄ったらいけない人が出入りする建物がソレだ。

 道中、道具屋と魔法屋を見つけた。

 後で暇を見つけて寄って見ようと思った。

 

***


 冒険者ギルド。

 腕自慢の荒くれ者が集まる場所である。雰囲気としては酒場に近く、実際併設されている場合もある。明日の命も知れぬ冒険者は、「宵越しの銭は持たないぜっ」を地で行く人々なので酒が飛ぶように売れるのだ。


 依頼をクエストと言う。

 クエスト――何とも嫌な響きである。

 だが、冒険者ギルドに含むところはないので何も言うまい。

 ユーフのクエストだからといって、ユーフでしか受注出来ないわけではない。

 大抵は近隣の冒険者ギルドにも掲示されている。

 ランクの高い冒険者は大きな町に集まるためだ。ユーフで高ランクのクエストが発行されたが、肝心の高ランク冒険者がいませんでしたでは話にならない。

 ダブルブッキングが無いのかと思ったら、クエストの受注状況は神様が管理しているのだそうな。神様マジ便利。


 冒険者ランクはSを頂点としてA~Fとなっている。冒険者と名乗っていいのはEランクからで、一人前の冒険者として認められるのはCランクから。Aランクともなれば一流で、二つ名持ちの冒険者が増える。Sランクは別格の一言。Sランクの冒険者はそれぞれが規格外過ぎて、ランクという枠組みに当てはまらないのだ。ある一定を超えたらSランクになれるが、Sランクでもピンからキリまでいるらしい。

 

 冒険者の為のギルドではある。だが、冒険者だけに開かれているわけではない。

 冒険者ギルドは複数の神の加護によって成り立っている。

 その加護の力を借りたい際に訪れるのだ。

 そう、人捜し、とか。


*** 


「…………」

 

 ……非常に居心地が悪い。

 屈強な男達が俺をジロジロと見て来るのだ。初めて冒険者を見た時の、近寄りがたい感じは未だにあった。俺も多少は冒険していると思うのだが……あ、やっぱムリ。

 怖いもん。

 見た目が全てじゃないって分かってるけど、怖いもん。

 もう、なんでこれ見よがしにキズが見える開襟シャツ着てんの?

 そそくさと視線から逃れるようにしてカウンターの列に並ぶ。

 夕方である。

 クエストの報告が立て込んでいて、暫く待たないと俺の番にならなかった。

 

「こんにちは。今日はどんな用事かしら?」


 受付嬢が微笑む。

 ああ、癒されるわー。

 

「はい。これの換金をお願いします」


 ズタ袋をカウンターに乗っける。

 

「……これって……エントウルフ?」


 ざわ、と場が騒ぐ。

 まあ、俺みたいな子供が魔物を狩ってきたら驚くだろうな。

 俺も慣れたもので一言加える。


「父さんに換金を頼まれたんです」


 俺に刺さっていた視線が「なんだガキの使いか」というように外れた。

 不死身のフォルカかと思ったのだろう。幼い容姿をした冒険者である。こうして間違えられる事があるので、俺は人よりもフォルカの事に詳しい。ランクはB。結構高い。なのに子供みたいということしか知られていない。実に不憫。


「お父さんが来ないとランクも上がらないけど?」

「あ。クエストをうけたわけじゃないので」

「あら、そうなの」


 受付嬢がこういうという事は、エントウルフの討伐クエストがあったのだろう。しかし、討伐対象を倒してから、クエストを受けてもクエスト達成とは看做されない。

 何故か?

 魔物の死体は金で買えるからだ。

 今こうして売ろうとしているように。


 この制度がかつて俺を絶望させた事がある。

 事前にクエストを受けておいて、道間違ったフリしてブラスを討伐対象の所へ誘導したことがある。くくく、馬車馬のように働くがいい、と巣に連れていったはいいが、何故か討伐対象はお留守。後日、宅配便でーす、品物をお届けに参りました。魔物様には大人気のエサでございます。などとやって見たが、やはり留守を使われた。

 流石に二回もやればエサにばれたらしく、二度とやらないようにと釘を刺された。

 違約金によってなけなしの金が持って行かれた。

 ちっ。

 踏んだり蹴ったりだった。


「それに父さんが換金すると、すぐ酒にしちゃうんです」

「……キミも大変ね」


 苦労している子供をアピール。

 受付嬢がエントウルフをカウンターの奥へ流す。そちらで査定をするというのだろう。

 

「あの。僕、人をさがしているんです。この町にいるかも知れないんですが、さがしてもらってもいいですか?」


 受付嬢は困ったように笑う。

 どう言えばいいのか、迷っているのだろう。

 査定など待ち時間になった場合、後続にカウンターを譲るのがマナーである。

 緊急性が低い要件は空いている時間にまた来いと言われる。

 職務怠慢ではない。大きな冒険者ギルドなら用途毎にカウンターが分かれているが、この規模の冒険者ギルドだと一つのカウンターで全部の業務を行っているのだから。クエストによっては達成の期日が切られている場合もあり、後続にそんなクエストを持っている人物がいたらイライラしてくるだろう。

 と、ここまで承知の上で、言い淀んでいる受付嬢の人の良さに付け込ませてもらう。


「ごっ、ごめんなさい。ご迷惑でしたよね。待ち時間があるから、ついでと思っちゃって」

「……もう、仕方がないわね。でも、お父さんには内緒よ」

「大丈夫です。言っても飲んだくれてるので、翌日には忘れてます」

「困ったお父さんね。お金かかるけど平気?」

「はい。前も調べてもらった事あるので。僕のおこづいで足ります」

「じゃあ冒険者カード出して」


 冒険者カードの提出を求めるのは、誰が誰について照会しました、というログを残すためらしい。


 身分証を出すだけで個人情報が手に入るとは、随分と緩いセキュリティだと思う。

 とはいえ、街道を行くだけで死の危険性があるわけで、漏れたからなんだというのもあるだろう。平民は姓を持ってないからな。同じ名前なんて五万といる。どれが目的の人物か絞り込めないし。逆に貴族は一意に把握出来るだろうが、冒険者ギルドに頼るまでも無く居場所は明白だ。

 ……ああ、うん、知られたからなんだってカンジだな。


+――――――――――――――――――――――――――+

《名前》クロス

《ランク》F

《種族》人間

《所属》グアローク王国

+――――――――――――――――――――――――――+

 

 見慣れた項目は割愛するとして。

 リングに無いのはランクと所属か。


 ランク。

 言わずと知れた冒険者のランクである。

 ちなみにブラスはDランクだ。ブラスの実力からすればBでもおかしくないとは思うが、クエストを受注しておきながら、出勤できないのを繰り返せばこうなる。出勤できないことを見越して違約金無しのものを選んでいる辺り度し難い。


 所属。

 要するに住所である。定住するにはこの登録が必須。ここの情報を元に人を捜してくれる模様。本籍と一緒で適当な登録も出来るようで、参考程度に思っておくと傷が浅く済む。

 

「あら、加護がないわ」

「…………ごめんなさい」

「知ってはいるのね。加護の登録が義務だって事は」


 義務。加護の登録、更新は義務なのだ。

 加護の登録を一度でもやれば項目が記載される。つまり加護の項目が無いということは、加護の登録をサボっているということになる。誰だよ、こんな義務作ったの。


「…………僕、自分に加護がないって分かるのが怖くて」

「無いって決め付けたらダメ。私だって無いと思ってたけどあったわ。でも、困ったわね。リミエル様の加護は私は持っていないから。登録してあげられないわ」

「そ、そんなっ。お気持ちだけでありがたいです」


 ほんと、ありがたいです。

 でも、勘弁してください。

 何故、忙しい時間に人捜しを依頼したかといえば、加護の登録をサボっている事がバレても、「忙しいし、まいっか」で流してくれるだろうという計算だったのだ。

 何度か同じ手口で成功を収めて来たのだが、この忙しいさなかにクソガキに付き合ってくれる受付嬢に当たってしまったのは、幸運でもあり不幸でもあった。

 だってね。

 加護?

 あるよ。あるある。

 見たくもないのが。

 テで始まってラで終わるヤツの加護が。


 ……諦めるか。加護がバレるよりはマシだろう。

 ユーフに一人いることは分かっているんだ。住所までは不要だろう。住所といっても町によっては南のほう、北のほうとかアバウトなことも多いし。


「探してる人って言うのは?」


 どうしたものかと、受付嬢が俺の冒険者カードを弄りながらいう。


「リスティです」

「えっ。リスティちゃん?」


 受付嬢が驚いていたが、俺も驚いていた。

 まさか、調べるまでも無く知っているとは。


「知り合いなの? リスティちゃんと」

「あ、冒険者ギルドで教えてもらったので、この町にいるリスティが、僕の知り合いのリスティなのかは分かりませんけど」


 これがリスティ捜しで一番のネックになった。

 確かに冒険者ギルドでは世界中のリスティを捜してくれる。だが、年齢も性別も把握できないので、リスティという名前だけで訪ねていったら、そこで待っていたのは百歳のジジイだった――とかでもおかしくは無いのだ。出来れば珍しいリリトリアの名前で捜したい所だが、名前を変えている可能性が非常に高く、諦めた。改名は非常に簡単なのだ。


「小さい頃に少し遊んだ事があるだけで、向こうは僕の事を覚えているか分からないんですけど。リスティはたぶん、僕の二つ、三つ年上だったと思います」

「どこで知り合ったの?」

「レア――」


 と、言い掛けて、慌てて口を噤む。

 あ、あぶねぇ。


「ごめんなさい。いえません。すごく怪しいとは思いますけど……」


 素性を偽っているはずである。

 俺が言っていい事ではなかった。

 今まで訪ねたリスティは年齢で弾かれる事が多かったので、受付嬢の質問は想定問答集に載っていなかった。

 もしかすると、あれかもなあ。

 本当にリスティが見つかるとは思ってなかったのかも知れない。以前、冒険者ギルドで教えてもらった時も、兎に角沢山いると言われ、近場だけ教えてもらったのだった。

 近場だけでこれかよ、と軽く諦めかけた。

 リスティも改名している可能性だってあったし。


「もしかすると捜し人見つけちゃったかもしれないわね」

「……え?」

「リスティちゃんね。出身を聞くと怒るのよ」

「……お、おお」


 いかん。驚いて素が出た。


「本当ですか? どこに行けば会えますか?」

「ここかな」

「ここ?」

「冒険者ギルド」

「あっ、働いているんですか?」

「ふふっ。勘違いすると思った。違うわよ」

「……え」


 目を丸くした俺に受付嬢が満足そうに微笑む。

 あ、違うんだけど。確かにびっくりしたんだけど、でも、そうじゃなくて、ちょっとお姉さんに見惚れてただけ。でも「どやっ」ってしている笑顔を曇らせたくなくて、もう答えには辿り着いているのに、敢えて訪ねてしまう俺がいた。


「なら、どうして冒険者ギルドに?」


 受付嬢の笑みが深くなる。

 よし、いい仕事をした、俺。

 

「リスティちゃんが冒険者だからよ」

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