第1話 転生
ついつい勢いで始めてしまいました。
感想を頂けると執筆が加速するとは思います。逆に批判を受けると失墜すると思いますので遠慮願います。メンタルが紙装甲なので。
どん底からの成り上がり小説です。プロローグは鬱展開となりますが、第1章からは鬱展開はまずありません。戦闘とヒロインの登場。両方とも第1章の第4話 再会2からになります。第1章終了まで読んで頂けると、雰囲気が掴めるかと思います。
突然だが俺は異世界に転生したらしい。
らしい、と付くのは零歳児だからだ。理路整然と考えられないのだ。前世の記憶がある。赤ん坊になっている。そこから導き出される結論が異世界転生だった。
だが、この結論を出すのも簡単ではなかった。
食う、寝る、食う、寝る。
欲求に従う毎日だったのだ。そりゃあ、サルのように。
人間は考える葦だと言う。
考えるから人間なのだとすると、明らかに俺は動物であった。
動物から人間への進化が起こった切っ掛け。それは、ある時、「何やってんだ!」という、心の叫びを聞いたからだった。はて、食事をしているだけですが? その時はそれで終わった。しかし、二度、三度と食事をする度に、心の叫びは強くなっていった。おかしい、と思い始めた。それで原因を探っていくと、前世の記憶があることに気づいた。
前世の記憶を思い出し、俺は愕然とした。
顎がハズれんじゃねえかっつーくらい、ガクっとしたよ。
食事?
何をバカなこと言ってんだ?
授乳だろうが!
つい、数日前の俺を罵倒したい。
そりゃあ、心も叫ぶだろう。
おっぱいに吸い付いているのに、「みるくうまうま!」としか思わないんだから。
男としての敗北である。
息子が役に立つかの検証は何年か待たなければならないだろう。
……平気だよな?
……だ、大丈夫だよね?
てか、俺、男だよな? ……ああ、良かった、あるわ。ミニマムだが。大きくなれよ、と励ましておこう。おっと、意図せずダブル・ミーミングか。
さて、前世の記憶を取り戻した俺の、目下の目標が現状把握であった。
現状を把握しないことには適切な行動が取れない。
いや、嘘か。嘘だな。
……うん、嘘は良くない。
このまま食っちゃ寝してても、いずれ現状は把握出来るだろうし。本能に身を任せている時の俺は普通の赤子と変わらないのだ。もう少し大きくなるまで、至れり尽くせりの赤子ライフを楽しんでいても何ら問題ない。
正直に言おう。
この世界に並々ならぬ興味がある。
俺はこう言ったはず。
――異世界転生、と。
つまり。あるのだ。
この世界には。
――魔法が。
睡眠も十分に取った。部屋にいるのは俺だけ。試すなら今だった。
部屋に誰も居ないのは珍しかった。家族が心配性で俺の傍を離れたがらないのだ。おいおい、大げさな、と最初は思っていたが、よくよく考えると俺のせいかも知れなかった。
言葉はまだ分からないので推測だが、間違っていないと思う。
――ある時を境に泣かなくなった赤子。
そう、前世の記憶を取り戻した俺は、泣くことに躊躇いを覚えてしまったのだ。
泣く時はナースコールよろしく用事がある時だけである。
事情を知らない家族はどう思うだろうか?
何か病気にでもかかったのではないか、と思うのではないだろうか? 実際、医者らしきジジイが来たこともあった。薬も処方されなかったので、問題なしと診断されたのだろう。
最初から泣かなかったのであれば、ここまで警戒される事もなかったのだろうが。時間の経過が非常に曖昧なので多分としか言いようがないが、数カ月は普通の赤子として成長して来たハズなのだから。
ふと目を覚ますと、目を細める母親が傍にいる。
くすぐったくて起きてみれば、父親が頭を撫でている。
いつ目を覚ましても、家族が傍に居てくれる。
いい家に生まれて来た。
前世では両親を早くに亡くしていた事もあり、強くそう思ったのだった。
……と、思っていた時期が俺にもありました。
父よ、母よ。貴方たちの息子は不良になってしまいました。愛情故の行動だと承知していても――常に見張られているのはウザったいんです、ハイ。
もし喋れるならプライバシーって言葉を教えてやりたいぜ。
そんなわけでやってきた千載一遇のチャンスであった。
日本男児として生を受けて十七年。当然、魔法に憧れた事もある。魔法を使おうとして「おや、学芸会の練習かい?」とジイちゃんに言われたのもいい思い出だ。
真っ黒かった歴史は今日、正史となるのだ。
一人の魔法使いが今日、誕生する!
「ばぁぶっ!」
くくくくく!
この興奮が伝わるだろうか。
「あぶっ、ばぁぶ! ぶぶぅ!」
……伝わらないだろうな。
くそう、もどかしいぜ。
……ん?
あれぇ。隠れて魔法試す必要なくないか? 試す魔法は他人から見えるものではないのだ。傍から見れば、きゃっきゃしてるようにしか見えないだろうし。目に見えない妖精さんとこんにちわしていても、「きゃー、かわいいー」としかならないだろうし。
う~~ん。
分からなくなってきた。
ので、第一原則に従おう。
第一原則、前世の事は隠す。前世の事がバレたらどんな波紋を呼ぶか分からない以上、一切合財隠しておいた方がいいと、まず最初に決めたのだ。物事を自分で判断できる年齢になるまで、という注釈がつくが。
原則を決めておいて良かった。
スタート地点を決めておかないと、気付くと思考がループしていることがよくあるのだ。折角のチャンスを無駄にするところだった。
さて、気を取り直して。
「あぅぶっ、ばぅ!」
……締まらないなーっていうのは赤子でも分かるんだけどな。全然舌が回らねぇ。まあ、うっかり喋ってしまいかねないから、むしろそっちのほうがあり難いんだが。
……さて、気を取り直して。
指で円を描きながら、
(リング)
と念じる。
すると、
(おお! 出た!)
幾つものアイコンが円状に並んでいた。勿論、空中にだ。
感動を噛みしめることひとしきり。俺は大いなる過ちに、気付いてしまった。
(くそう! バカか、俺は! なに普通に使ってんだよ!)
栄えある大魔法使い(予定)の第一歩がこんな地味でどうする?
もっとこう、ポーズとか決めておくべきだった。
様式美って奴である。
恐る恐る使ってみて「おお、出たー」って。小物丸出しじゃねえか。
よし、自伝を書く機会があれば、話を盛っておくとしよう。
やり直そうかとも思ったが、リングへの興味が勝った。
リングは記憶の通りのデザインだった。
ただ一点、書かれている文字が読めない、ということを除けば。
アイコンは機能を象徴する絵と、機能名で成り立っている。例えばステータスであれば、身体を模した絵とステータスという文字でアイコンが出来あがっている。
そのステータスと書かれている部分が読めないのだ。
(げ、転生の影響で知識がリセットされたか?)
一瞬、肝が冷えるがすぐに否定する。日本語、アルファベット(英語と言わない辺りに知識の程度が知れるね)。書け、と言われれば、書ける。単純にリングに書かれた文字が異質なだけだ。印象としては英語に似ているかも知れない。
(とりあえず触って見るか)
文字は読めなくとも、アイコンの形状から意味は読み取れる。一つの項目を掘り下げて行き、最下層まで達したら、バックバックバック連打で戻り、次の項目を試す。
そして、
(お、おおおおおお!)
ついに理解出来る文字が表示された。
『日本語』
迷わず押した。
そりゃ、押すよ。外国で日本語の看板を見つけた時の安堵感ってこういう感じかね。
意味不明だった文字が、全て日本語に変換された。
やはり、言語設定だったか。つか、最初から日本語にしとけよ。普通、母国語がデフォルトになるもんだろう。あれか? もう、貴方の母国語は日本語ではないのです、とか言う暗喩のつもりか? いやまあ、母国語っていうなら、この読めない文字が、今世における俺の母国語になるんだろうが……これがゲームなら訴えられてるぜ、運営。
ゲームじゃないですけどね。
運営もいないですけどね。
神様ならいますが。クソッタレの。
晴れて文字が読めるようになったところで、改めて全ての項目をチェックする。
ちっ。ログアウトがねえ。
当然か。トリップじゃなくて転生だもんな。
もやっとした気持ちになる。
転生。つまり、俺は死んだのだ。
未練か。
これは、未練なのだろうか。
理不尽に奪われた命。強制的に与えられた生。
どちらも俺の意思は無視されている。
しかしまあ、幸か不幸か今の俺は赤子だ。悲しみすら長続きしない。
ええと。
なんだっけ?
リングか。
加護の項目を開く。
先程、ざっと見た時に気になる加護があったのだ。加護とはこの世界の神々が与えてくれる、ありがたい、ありがたい、恩恵のことだ。なぜ、二回言ったのか? それは大事な事だからではない。皮肉だ。
ありがたい。
ありがたい、ねぇ。
ハッ!
【テラの愛し子】
この加護を得た者は数奇な運命を辿る。揺蕩う運命はテラの意思に沿い改竄される。
はい?
加護の効果がイマイチ良く分からない。
あー、まあ、数奇な運命っていうなら、異世界転生がそうだろうが。こんな曖昧な加護は前世の記憶をひっくり返しても、類似したものすら見付からなかった。加護っていうのはパラメータに補正がかかったり、特別な魔法が使えるようになったり、効果がハッキリしているものだったはずだ。
取りあえず、分からないことは一先ず棚上げだ。
それより、備考的に添えられた説明が気にかかる。
――揺蕩う運命はテラの意思に沿い改竄される。
改竄って!
改変ではなく改竄となっているトコに明らかな悪意を感じる。
揺蕩うとか要らん修飾されてるから、文脈が読みづらくなっているが、要約すると「キミの運命は僕が好き勝手出来るからね、テヘ」ってことでいいんだろう。
ふざ、けるな――
恋人が出来そうになったら急な転校が持ち上がったり。
レアアイテムをドロップした時に限ってロールバックが起こったり。
楽しみにしていた旅行の日に航空会社がスト起こしたり。
そういうことが起こりるってことか!?
なんで俺ばっかりがこんな目に――と思ったが、そうでもないか?
だって、神様だもんな。
人格を認めるわけじゃないが。
人間の人生を弄ぶぐらい、神様なら朝飯前だろう。
俺に限った話じゃない。誰の人生だって神様ならふんふーん、と鼻歌交じりに弄れるだろう。
そう考えると。
……もしかして、この加護って誰でも持ってるのか?
うわ、そうっぽい。
……はあ。つかえねぇ。
大体、この内容は加護ではないだろう。呪いだ。
何が愛し子だ。お前の腐った愛なんぞ、いらねーって話だ。
テラめ!
野郎からの愛なんぞいるかっての。
あ、父親は別ですけどね。かなりの美形だった。ありがとう、遺伝子。
……どっと疲れが出て来た。
興奮していたから気付かなかったが、体力の限界だったのだろう。
リングが使えたと言うことで、本日の魔法実験は終了としよう。
あれが魔法か? と言われると、返答に困るが。
だって、どう見たってメニューのインターフェースだもんな。
実際、そうっちゃーそうなんだが――
だが、魔法なのだ。
何故って?
そういう設定だったのだから。
***
――テラ。
俺を転生させた張本人である。
久しぶりに思い出すと芋づる式にテラとの記憶が蘇って来る。
うとうとしながら回想する。
そう、それは俺の前世の記憶――