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第九話 「あわわわ、私にスパイは無理だって」

 思わず噴出したメイブルティーをハンカチでふく。


 やばい、びっくりしてついむせちゃったよ。


 辺り一面にメイブルティーが飛び散ってしまい、周囲の顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまった。特に、対面の席に座っていたライデンさんには飛沫(しぶき)がもろにかかってしまいギロリと睨まれちゃった。


 ひぃ、すみません。美少女の飛沫(しぶき)なんで許してください。むしろご褒美と思って欲しい。


「ティレア、いきなりどうしたんだ?」


 俺の突然の奇行にレミリアさんが心配げに尋ねてきた。


「す、すみません。乗っ取りって聞いてついびっくりしちゃいました」

「まったく、これだから庶民は……」


 周囲からやれやれといった感情を向けられる。


「あ、はは……つい気管に入っちゃって」

「まぁ、ティレアが驚くのも無理は無い」

「あ、あの気のせいってことないですか? 魔族襲撃とかあってその人達、ぴりぴりしているだけとか」

「いや、わかる人にはわかる。一見、同じようだが、あれは別人だった」


 まぁ、そうだよね。今やその人達、国ラブな思考していたのに「はぁ、はぁ、エディムたん、最高♪」って行動しているんだから。そりゃ知っている人から見たら別人だよ。だが、ここで引くわけには行かない。エディム、俺、そしてティムの生活がかかっているのだ。


「そ、そうなのかな。周囲の人達が魔族になっている? う、嘘だぁ! 私は全然、わかんないな」

「それはティレア、お前が市井の人間だからだ。そこまではまだ魔族の侵略がすすんでいないのだろう」

「レミリア様のおっしゃるとおりです。あれだけ熱心に魔族の残党狩りを指揮していた隊長がいきなり掃討中止したんだ。それに反対する者も容赦なく処罰しているし、あまりにもおかしすぎる!」

「あぁ、ギルド(うち)もいきなり魔族討伐関連の依頼が軒並み消えていった。魔族討伐は今、最も必要とされる依頼なのにだ。上の判断は異常だ、おかしすぎる!」


 周囲からの猛烈な意見にたじたじになってしまう。確かに上層部は魔族捜索を止めているんだろうな。ただ眷属(かれら)はエディムのためにそうしているだけなのだ。別に国を乗っ取ろうとか、この世を魔族の支配に変えてやるとか、そんな事は全然思っていない。ただただエディムが普通に暮らせるようにしているだけなんだから。


 でも、真実は言えない。言ったらこの人達、きっとエディムを殺そうとするから。となると、上層部が魔族捜索を止めた理由をでっちあげないといけないな。


「あ、あの素人意見で恐縮なんですが……」

「ん? ティレア、意見があるなら遠慮はいらぬ。言ってみろ」

「は、はい。その上の人達が魔族討伐をやめたのはこれ以上、被害を出さないようにするためではないでしょうか? 王都での魔族の異常な強さは目を見張るものでしたから」

「な、貴様、我ら国軍を愚弄する気かぁ! 我が隊は魔族に屈するほど弱くない」

「そうだ。元の隊長はそのような臆病者ではなかった! 明らかにあれは別人だ」

「で、ですが、先の魔族襲撃であなた達はその場にいなかったからそう言えるんです。現場にいれば魔族襲撃で態度が変わってもおかしくはありません」

「き、貴様! たかが情報屋の分際で我らを侮辱する気か!」


 うぁ、や、やばい。ちょっと煽りすぎたか?


 俺の意見に顔を真っ赤にして怒っている軍人さん達。襲撃時にいなかった彼らにこの意見は通じないようだ。よし、レミリアさんに話を振ってみよう。


「そ、その、レミリアさんはどうなんですか?」

「いや、ティレアの言い分にも一理ある。確かに魔族の強さは我らのはるか上であった。ギルド長も王家もそのような弱腰な判断をする可能性はある」

「そ、そんなレミリア様……」


 レミリアさんの意外な意見に一同が唖然とする。


「だが、治安部隊に吸血鬼が紛れ込んでいたのは事実。そして、これは軍人としての勘だが、上層部は国のために動いていない。別な何かのために動いている」


 さすがレミリアさん、正解です。彼らはエディム(あるじ)のために行動しています。


「レミリア様、こうなれば一刻の猶予もございません。至急、奴らを操っている黒幕を探し出し殺しましょう!」

「その通りです。元のあるべき姿に戻さないとこの国は滅びてしまいます」

「皆の意見はわかった。では疑わしき人物を監視し、奴らが黒幕と接触するのを待つ。そして、そこを一網打尽と行こう」


 ま、まずいぞ。もう俺の力ではこの流れを止められそうにない。周囲も「そうだ、そうだ」とレミリアさんの意見を支持している。このままでは吸血鬼撃滅作戦が大々的にすすみそうだ。


 ここが正念場よ、ティレア! なんとかこの人達を説得しなければ!


 俺は、すぅっと深呼吸をする。


 そして……。


「そ、その決定異議有りィ――!」


 俺の突然の叫び声に皆が注目する。


「ティレア、どうした?」

「わ、私、こんなことに時間をかけるべきでないと思います!」

「何を言うか! 素人が口をはさむでない」

「そうだ。ただの情報屋が出過ぎたことを抜かすな!」


 予想通り。皆からブーイングの嵐。だが、レミリアさんはそんな批判を片手で制し、じっと俺をみつめ問いかけてくる。


「ティレア、なにゆえ反対なのだ?」

「そ、それは、やっぱり魔族が乗っ取りをしているなんて信じられないからです。レミリアさんも勘だと言っているし、そんなあやふやな理由で時間をかけるなら、治安維持とかインフラの整備とか先にやるべきことがあると思います」

「貴様、まだレミリア様や我らの言が信じられないと申すか!」

「そうだ。各機関が魔族に乗っ取られているかもしれん国の大事に、治安維持もインフラもあるか!」

「で、でも、今、すごく治安が悪いんですよ。押し込み強盗とか頻繁に起きちゃってて……みんな日々の暮らしに不安がっているんです」

「そのような些事は自分達で解決すべきだ。我らは国の大事に働かねばならぬ」

「まさに。そんなに不安ならギルドに護衛でも依頼したらどうだね?」

「そ、そんな……ギルドに護衛を依頼するのにどれだけお金がかかると思っているんですか! すぐに破産しますよ。それに依頼できる人達はまだましです。依頼できない人達はいつ自分達が襲われるかと震える夜を過ごしているんです!」

「大事の前の小事である。国が滅ぶ瀬戸際の話だぞ。国が滅んだら本末転倒だ」

「な、何を言っているの! 国より先に民が滅んだらどうするんですか!」

「貴様、国家を愚弄する気か!」


 いかん。つい国粋主義者共のムカツクセリフにヒートアップしてしまった。国粋主義者共が今にも掴みかかる勢いで俺に迫ってくる。


 レミリアさん助けて――ってレミリアさんもなんかつかつかと近づいてきたよ。


「レミリア様。この小娘、国家に対し不遜な態度が目立ちます。どうしますか?」

「レミリア様。軽く礼儀を教えておいたほうが良いかもしれません」


 なんてこと、国粋主義者共がレミリアさんを煽ってくる。


 レミリアさん、親友に暴力なんて振るわないよね? 信頼しているよ。


 俺は信頼というか縋るようにレミリアさんを見る。レミリアさんはなぜか握りこぶしを作っていた。


 あ、あれれ? ちょっとこれピンチ? そうだよ、レミリアさんって国家に忠誠を尽くす人だった。


 あぁ、やばい!? レミリアさんがその拳を俺に……。


「貴様らぁ! 恥ずかしくないのか!」

「ぐはっ!」


 だが、予想に反しレミリアさんは俺ではなく国粋主義者共にその拳を振るった。そして、俺の眼前に来ると、そのまま頭を下げた。


「すまない。治安を預かる長として心から謝罪する」

「レミリア様、おやめください。庶民に頭を下げるなど――」

「黙れ! お前達は恥ずかしくないのか! 国を守る。けっこう、私も同じ想いだ。だが、その過程で民が嘆いているのだぞ。民の切実なる思い、それを上に立つものが踏みにじり本当に国を立て直せると思っているのか!」


 レミリアさんの威厳のある言葉にはっとする国粋主義者共。他のメンバーも厳粛に受け止めている。レミリアさんの言葉が身に染みたのか、国粋主義者共は俺に謝罪してきた。


 あぁ、なんという覇気、気高く美しい!


 カリスマだね。みなレミリアさんについていこうって気になっちゃう。もう惚れ直しましたレミリアさん、かっこよすぎですよ。


 そして、議論が終わった。


 結論として、俺の意見もかなり反映させてくれた。まずは治安維持を最優先にしてくれたのだ。


 やったね。ついでとして疑わしき者には監視体制を敷く。まぁ、この辺が落としどころだろう。吸血鬼共の親玉捜索もエディガーという名を捜索することになったし真相(エディム)にはたどりつけまい。


 ふふ、これは会議の時ピスタッチオと同様に俺の店にエディガーという名の不審な客が来たという虚偽(うそ)を報告したのだ。


 ふぅ、議論の間は胃が痛くて死にそうだったけど、なんとかなったかな。俺が一息ついていると、レミリアさんが近づいてきた。


「やはりティレアを連れてきて良かった。市井の意見が聞けて参考になったぞ」

「いえいえ、そんな私なんて大したことしてないですよ」

「そんなことはない。メンバーが武人ばかりだったので意見が画一化しそうだった。だが、お前のおかげでいい話し合いができた。それに貴重な情報提供もしてくれたではないか! ティレア、お前には感謝しているのだ」

「き、恐縮です……」


 すいません。偽情報ですのであまり感謝しないでください。うぅ、心苦しい。未来の恋人に嘘をつきまくりだからな。


「これからも大いに期待しているからな」

「は、はい、また何か情報があればお知らせします」

「うむ。次の会合は来月だ。頼んだぞ」

「は、はい? あ、あの会議はこれで終わったんじゃ……」

「何をいうか。王都復興のため、信頼できるメンバーで話し合う会議はやまほどある。お前は今日からアルクダス王国魔族撲滅忠信会の諜報員だ」


 にこやかにそう宣言するレミリアさん。


 な、なにそのCIA局員みたいなの?


 それにレミリアさん、いきなり獅子身中の虫を入れちゃダメでしょ。俺はエディムのために魔族側で動くんだよ。


 あぁ、なんかまた胃が痛くなってきた。どうやら俺の悩み事は尽きそうにない。

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