プロローグ
「ティレア、焼飯三つお願いね」
「は~い」
俺は注文を受けると厨房へ行き、綺麗に手入れされた愛用の包丁を取り出す。鋳造で作られたものだが、自慢の愛刀である。それを使って、ネギ、レタス、ニンジンに似た物をみじん切りにしていく。
次に鍋に油を引き、ご飯と卵にさきほど刻んだ具材を入れ火を通す。火は強火、そして焦げないように素早く鍋をふるうのがコツである。味付けにうちの秘伝のスパイスを少々入れると、異世界風焼飯の完成だ。
おいしそうな匂いが漂ってくる。出来立て熱々のまま、お客さんに届けにいく。
「お待たせしました」
「お! いい匂いで食欲がそそられるよ」
お客さんは皿を受け取ると、熱々の焼飯を口の中に放り込む。
「あ、あ、熱、うん、うまい、うまい」
がつがつと音を立てうまそうに平らげていき、あっという間に皿に入っていたものが消えていった。
「ごちそうさん。今日もうまかったよ、ティレアちゃん」
「いつもありがとうございます」
丁寧にお辞儀し、綺麗に空になった皿を片づける。
ふぅ今日も働いたなぁ。
一生懸命作った自分の料理をお客さんが美味しそうに平らげていく姿を見ると嬉しくてたまらない。料理人冥利に尽きるというものだ。
今、俺は充実した毎日を送っていると言っていい。まったく前世の自分がいかにだめだったか痛感してしまう。
俺は前世の記憶を持っている。俗に言う転生者だ。前世の名前は塩田鉄矢、ごくごく普通の家庭で生まれ育った日本男児であった。だが、不幸な人生、三十三年間無職童貞のまま失意のうちにこの世を去ったのである。働きもせず、いわゆるニートだった俺はさんざん親に迷惑をかけて生きてきたのである。
しかも中二病だったから始末が悪い。自分は特別な人間である、人とは違う能力を持っていて何かしらの使命を帯びているといつも思っていた。だから、受験のために勉強したり糧を得るためだけに働いたりするなんて考えられなかった。俺はあくせく頑張っている人達を冷めた目で見ていたのである。
案の定、学校ではいじめを受け辞めたし、職に就くこともできなかった。最後は親にも見捨てられ、半ば自暴自棄になってトラックに突っ込み死んだのである。
その時も自分は特別な人間だから死ぬことはないなんて半分思っていたから救いようがない。病院に運ばれ生死を彷徨う思いをしてやっと目が覚めたのである。
俺は特別じゃなかった。特別な人間だと思い込むことで、苦しいことから逃げていただけだと気付いたのである。やり直したいと思った。
今度こそ、悔いの無い人生を歩みたい。
強い後悔の念を最後に意識を失ったのだ……
そして、目が覚めると赤ん坊になっていた。
え、何? どういう事?
とは思わなかった。
中二病ゆえにありとあらゆる漫画や小説を読みふけっていた俺は、状況をすぐに理解できたのである。自分は前世の記憶を持って転生したのだと。
なんという中二的展開!
しかも、剣と魔法の世界というおまけ付きである。だが、俺は転生したからといって自分が特別な者だとはもう思わなかった。これが小説だとやれチートだハーレムだと世界を蹂躙するのだろうが、現実はそう甘くはない。前世では、その思い上がりで痛い思いをしたのである。
せっかく神様が二度目のチャンスをくれたのだ。
今度こそ真面目に生きようと思う。