第三話 「天才料理人シロ ジャシン軍との邂逅」
息を切らして駆けつけてみると、門の内側に広がる広場に人だかりができていた。
村の集会や処刑に使われる、百人以上が収まる石畳の空間だ。見知らぬ集団を囲んでいる。空気が張り詰めていた。
ガトーの遺体が運ばれていく。
村の戦士が死んだのだ。報復のために動く、少なくとも凄まじい怒声を予想していたのに……。
皆、動かない。
武器を持ったまま、固唾を飲んで見守っているだけだ。
変だ。
戦闘民族、狼フェンリル族らしからぬ行動である。何が起こっているのか?
後方に待機するつもりだったが、好奇心が勝った。人ごみの後ろから、背伸びをしながら前方を覗き込む。よく見えない。おそるおそる人の隙間を縫って近づいた。
そこには……。
人族の集団がいた。広場の中央に、十人ほどが固まっている。
ん!?
注目すべきは中央にいる男だ。
背は一メートル八十センチくらい。痩せ型――いや、服で隠れているだけだ。チラリと覗くシャツの中は、鋼の肉体を思わせる。獣人に勝るとも劣らない筋肉。何より気迫というか、強者のオーラを漂わせていた。
あ、ジールが足蹴にされている。
地面に転がされ、その男に顔面を踏みつけられていた。あのプライドの高いジールが、されるがままだ。
この男は何者なのか?
ごくりと唾を飲み込む。
ベジタ村襲撃という久方ぶりの大事件。なすがまま事態を見守っていると、
「よく聞け。我が名はオルティッシオ。ティレア様一の家臣にして、邪神軍の大幹部である。今日は、貴様ら有象無象の愚物共に栄誉を与えに来てやったぞ」
オルティッシオと名乗る男が、高らかに宣言した。
ジャシン軍?
聞いたことがない。人族の新たな国軍かな?
それに栄誉を与える? 村を襲撃しておいて、それはないだろう。
村人たちも困惑している。
「貴様ら何を呆けておる。さっさと跪け。邪神軍に忠誠を誓うのだ」
オルティッシオが大声で怒鳴った。
ガトーやジールを倒したオルティッシオたちは強いと思う。ただ、敵の数は、オルティッシオも含めて十人弱だ。
それだけの小勢で、いきなりの降伏勧告!?
いくら族長たち主力が留守とはいえ、この村には力自慢の男たちが数百人もいるのだ。それが十人にも満たない数で攻め込んできて、返り討ちにあわないと思っているのか。
「い、いきなり何を言ってやがる!」
「そ、そうだ。そうだ」
あまりの物言いに村の皆が口々に叫ぶ。
ただ、どこか及び腰なのは、ガトーやジールを倒したこの男を恐れているのだろう。僕は、その現場を見ていなかったので何とも言えない。
もしかしたらオルティッシオは、ベジタ村の長ギガント様に匹敵する強さなのかもしれない。
「ピーチクパーチクうるさいゴミ屑共め。偉大な帝王ティレア様の奴隷として仕えさせてやると言っているのだ。涙を流して感謝するがよい」
オルティッシオのあまりな物言いに村人たちが唖然としていた、まさにその時だった。
遠くから地響きのような足音が聞こえてきた。
ドン、ドン、ドン――。
大地そのものが震動するような重厚な響き。その足音だけで、近づいてくる者が並外れた巨体の持ち主であることが分かる。
村人たちの表情が一変した。絶望に沈んでいた顔に、僅かながら希望の光が宿る。
「あの足音は……」
「まさか、ギガント様が?」
「でも、宴会の最中だったはず……」
ひそひそと囁き合う声が聞こえる中、僕の心臓は激しく鼓動を始めた。
ギガント様が来る。ベジタ村最強の戦士が、ついに現れるのだ。
「まったく情けない奴らだぜ」
その声が響いた瞬間、広場の空気が変わった。
低く、太く、まるで大地から響いてくるような野太い声。その声だけで、聞く者の魂を震わせる威圧感がある。
ギガント様だ。
身長は優に二メートルを超えている。僕など、彼の胸の辺りにようやく届く程度だろう。その巨体は、まさに「ギガント(巨人)」の名に恥じない威容を誇っていた。
「ああ、たかが人族、ろくに相手できないのか」
ギガント様の隣から、別の声が響いた。振り返ると、そこにはギガント様の取り巻きである精鋭たちの姿があった。
「こちとら宴会の最中だってのによ。俺たちの手を煩わせるな」
今度はストロング様の声だった。確かに、よく見ると彼らの頬は酒で僅かに赤らんでいる。きっと楽しい宴会を中断させられて、機嫌を悪くしているのだろう。
「番兵たちは皆、降格とお仕置きだな」
最後に口を開いたのは、ヤム様だった。今回の事態を招いた番兵たちへの厳しい処罰が予告されていた。確かに、たった十人足らずの敵にここまで翻弄されるとは、番兵としては失格だろう。
ギガント様一行の登場により、広場の雰囲気は一変した。
絶望的だった空気が、希望に満ちたものへと変わる。村人たちの顔にも、安堵の表情が浮かんでいた。
「ギガント様がいれば大丈夫だ」
「あの人族ども、今度こそ痛い目に合わせてやる」
「ギガント様の実力を見せてやれ」
あちこちから、そんな声が聞こえてくる。
ギガント様達の強さは伝説級だ。これまでベジタ村を襲った数々の敵を、全て返り討ちにしてきた。魔獣の群れも、他部族の精鋭たちも、ギガント様達の前では皆、子供同然だった。
オルティッシオがいくら強くても、ギガント様達には敵わないだろう。そう確信していた。
「おら、チビどけ!」
突然、頭に衝撃が走った。
「痛っ!」
振り返ると、ヤム様が不機嫌そうな顔で僕を見下ろしていた。僕は茫然としている間に、彼らの進行ルートを塞いでしまっていたのだ。
いけない。慌てて道を開ける。
いつもの僕らしからぬ不注意だ。オルティッシオの登場に動揺し、さらにギガント様たちの到着に興奮して、周りが見えなくなっていた。
僕は生きなければいけない。
改めてそう心に誓い、彼らの機嫌を損ねないよう即座に広場の端へ移動する。木樽が積まれた物陰に身を潜めた。ここなら全体が見渡せるし、いざという時は逃げられる。今は大人しくしていよう。
ギガント様たちは堂々とした足取りでオルティッシオの前まで進み出た。
「返事はどうした? 貴様らのようなゴミ屑には、もったいない待遇だろうが!」
オルティッシオが周りを見渡し、なおも挑発を繰り返す。
「……舐めた人族だ」
「ああ、ガトーやジールを倒したからなんだと言うんだ。俺たちの方が強い」
「まったくだぜ。少しばかり腕に自信があるからと調子に乗るんじゃない」
オルティッシオの傲慢な態度に、ギガント様を始め精鋭たちの顔が怒りの形相に変化していく。
そして、その精鋭たちの中でもひと際気の短い男、ストロング様がオルティッシオに掴みかかった。
「死ね、人族!」
「なんだ。抵抗するのか? 貴様のような屑でも、家畜の一匹として飼ってやるといっているのに」
オルティッシオはやれやれといった表情で、襲いかかったストロング様の手を掴む。
いわゆる組んだ状態だ。
「ぐへへっへっ。ばかめ、非力な人族など握りつぶしてやるぜ」
ストロング様がにやけた笑みでオルティッシオの手を握りつぶそうとする。
ストロング様は村一番の怪力の持ち主だ。性格も残忍である。命乞いをする敵に容赦なく暴力を振るう。
ああ、可哀想に。
村を襲った襲撃者だが、嗜虐主義のストロング様の暴力を受けるオルティッシオに同情してしまう。
凄惨な光景を想像し、思わず目を瞑った。
ぐしゃり!
眼を瞑るや、骨と肉が砕けた不愉快な音が聞こえた。
「いぎゃああああああ!」
さらに数拍遅れて悲鳴が辺りに響き渡る。
ああ、やっぱり。オルティッシオの無残な姿を想像し、そっと目を開けると、
「えっ!?」
そこにはぴんと立っているオルティッシオがいた。
汗一つかいていない。余裕の表情である。
それとは真逆に、ストロング様は大粒の涙と涎をまき散らして地面をのたうち回っている。
よく見ると、ストロング様の手はぐしゃぐしゃに潰されていた。
「痛え、痛ええええよおおお!」
「うるさい。喚くな」
オルティッシオが不機嫌な顔でストロング様に怒鳴る。
「あぐう。痛え。た、助け――」
「うるさいと言ってるだろうが!」
オルティッシオは、容赦なくのたうち回るストロング様を踏み潰した。
内臓が潰れた音が響き、ストロング様はすさまじい絶叫を上げる。そして、そのまま身体を痙攣させ息絶えてしまった。
ストロング様を虫けらのように殺され、ギガント様たちは怒りを露にする。
一対一で人族に殺された。その事実が戦闘民族である狼フェンリル族の誇りを著しく傷つけたようだ。
敵意満面。特に、ベジタ村の長ギガント様の怒りは凄まじい。ぷるぷると拳を震わせ、歯を剥き出しにしている。
そして、ギガント様は武器を振り上げると、
「死ねええええ!」
咆哮とともにオルティッシオに襲い掛かった。
ギガント様は、手に持ったマサカリを縦横無尽に振るう。一振り、二振り……。マサカリが振られる度に空気が大きく振動する。
ああ、いつ見ても凄まじい。
なんという迫力だ。僕なんかでは、あの大きなマサカリを持ち上げることすらできないだろう。
ギガント様のマサカリの餌食になった敵は、ゆうに百を越える。
ギガント様の本気モード。どんな難敵でも打ち破ってきた。
村人の誰もが、オルティッシオの死体ができ上がることを疑っていなかっただろう。
だが……。
眼を疑った。
「死ね」
オルティッシオが一言呟き、拳を無造作に振るう。
すると、ギガント様が紙屑のように吹っ飛んだ。広場の端まで、二十メートル以上。石積みの塀に激突し、轟音とともに塀が崩れ落ちる。
瞬殺!?
ギガント様は口から大量の血を吐き、絶命している。相当の衝撃が加わったのだろう、胸には大きな拳痕が残っていた。
天下無双と言われたギガント様の死。
場は静まり返っている。そして、しばらく過ぎた頃、事態が飲み込めた幾人かがざわざわとざわつき始めた。
「ば、ばかな。ギガント様があんな簡単に……」
「う、嘘だよな? たかが人族如きにギガント様が殺されるわけがない」
「どうした? まだ反抗するか? 刃向わなければ、家畜として飼ってやる。何度も言わせるな」
オルティッシオの人を人と思わない恫喝。
通常であれば激高して飛び掛かる戦士がいてもおかしくはない。だが、ベジタ村の長ギガント様を赤子の手をひねるように殺され、皆、戦意を挫かれていた。
それは、絶対の自信を持っている取り巻きの精鋭たちも一緒である。
このまま降伏。少なくとも不利な条件を飲んで和睦という空気が流れた。
ただ、オルティッシオの挑発は止まらない。
「脆弱な輩」「ごみ屑」といった狼フェンリル族への侮辱を執拗に続ける。
これには、プライドの高い取り巻きの精鋭たちも我慢ができなかったようだ。
恐怖よりも侮辱に対する怒りが勝った。額に汗をかきながらも敵意をオルティッシオにぶつける。
「……て、てめえ。言わせておけば」
「ほお~まだやる気か? 面白い。少しは楽しめるか」
「「黄金世代を舐めんじゃねえ!!」」
ベジタ村始まって以来の大器と言われた青年たち。十年に一人と言われた逸材が、全員揃っている。
そんな黄金世代の面々。腕自慢の男たちが一斉に襲い掛かったのだ。
彼らの手にかかれば、並大抵の敵なら粉々に粉砕していただろう。
ただ、敵は並大抵の敵ではない。化け物の中の化け物である。
刈り取られていくのは黄金世代の首のみ。
血飛沫が舞い、断末魔が重なり、次々と仲間が倒れていく。僕は木樽の陰で身を縮め、震えながらその光景を見つめることしかできなかった。
【幹部戦士】、【強戦士】の二、三十人が討ち取られただろうか。残る黄金世代はただ一人、ヤム様のみとなった。
ヤム様が今、絶体絶命の状況に追い込まれている。
「く、くそ、化物め」
ヤム様の声には、これまで聞いたことのない恐怖が滲んでいた。普段の彼なら、どんな強敵を前にしても不敵な笑みを浮かべているはずなのに。
彼の足が小刻みに震えているのが、遠目からでもはっきりと見て取れた。
オルティッシオは悠然と歩を進める。まるで獲物を追い詰める狩人のように、確実に、しかし急ぐことなく。
その歩調は一定で、足音すら立てない。まるで地面に触れることなく滑るように移動しているかのようだった。
「どうした? 臆病風に吹かれたか。前に出らんと勝てるものも勝てんぞ」
オルティッシオの挑発的な言葉。だが、その声に込められているのは嘲笑ではなく、むしろ退屈そうな響きだった。
まるで子供の相手をする大人のような、圧倒的な余裕。
ヤム様はじりじりと後退していく。オルティッシオが一歩進むたびに、ヤム様は二歩下がる。
やがて、ヤム様の背中が門の壁に触れた。もう後がない。
「な、舐めやがって。喰らえ。狼牙夫婦拳!」
その瞬間、ヤム様の表情が一変した。恐怖が消え、戦士としての誇りと闘志が蘇る。これが彼の真骨頂だった。追い詰められた時にこそ、真の力を発揮する。
ヤム様は壁を蹴った。
その勢いは凄まじく、石造りの壁に深い亀裂を走らせるほどだった。彼の身体が弾丸のようにオルティッシオに向かって射出される。
手には愛用の双剣「牙王」と「牙后」が握られていた。
「狼牙夫婦拳・疾風連斬!」
ヤム様の得意技が炸裂した。
右手の「牙王」が縦に、左手の「牙后」が横に、そして再び右が斜めに。一瞬のうちに繰り出される連続攻撃。その剣速は音速に迫るとも言われていた。
シュシュシュシュ!
空気を切り裂く音が連続して響く。剣の軌跡が残像となって宙に踊り、まるで銀色の蜘蛛の巣のような光景を作り出していた。
だが、オルティッシオは動かなかった。
いや、正確には最小限の動きで全てを回避していた。
首を僅かに傾け、上半身を軽く捻り、時には髪の毛一本分だけ身体をずらして。その動きはまるで計算されたかのように無駄がなく、美しいとすら言える優雅さがあった。
「な、なんだと……?」
ヤム様の目が見開かれる。彼の必殺技が、まるで触れることすらできない。剣先がオルティッシオの肌を掠めることすら許されていなかった。
「ぬるい、ぬるい」
オルティッシオの声には、心底からの失望が滲んでいた。まるで期待していた料理が予想以上に味気なかったときのような、そんな落胆。
ヤム様の攻撃はさらに激しくなった。「狼牙夫婦拳・乱舞」「狼牙夫婦拳・双竜」「狼牙夫婦拳・終焉」。彼の持てる全ての技を惜しげもなく繰り出していく。
剣戟の音が広場に響き渡る。火花が散り、金属音が耳を劈く。
しかし、その全てがオルティッシオには届かない。
彼はまるで剣舞でも鑑賞しているかのような表情で、ヤム様の必死の攻撃を見つめていた。
「はあ、はあ、はあ。な、なぜ当たらない?」
ついにヤム様の息が上がった。額からは大粒の汗が滴り落ち、握った剣の柄が汗で滑りそうになっている。彼の体力は既に限界に近づいていた。
これまでの戦闘で、ヤム様がこれほど疲労を見せたことはなかった。どんな長期戦になろうとも、彼は最後まで余裕を保っていたはずなのに。
オルティッシオは、そんなヤム様をギロリと睨んだ。その眼光は氷のように冷たく、まるで獲物を見定める肉食獣のようだった。
「未熟者が。全身全てがお留守だわああ!」
その瞬間、オルティッシオが動いた。
それまでの受け身の姿勢から一転、攻撃に転じる。その動きは稲妻のように素早く、ヤム様の目では追いきれなかった。
オルティッシオの右足が鞭のように唸りを上げ、ヤム様の胴体に向かって放たれる。
ヤム様は咄嗟に双剣を胸の前で交差させ、防御の姿勢を取った。
「牙王」と「牙后」の刀身がオルティッシオの蹴りを受け止める。金属同士がぶつかったような甲高い音が響いた。
だが、その防御は無意味だった。
オルティッシオの蹴りの威力は想像を絶するものだった。ヤム様の防御を粉々に砕き、双剣もろとも彼の身体を吹き飛ばしたのだ。
愛用の「牙王」と「牙后」が、まるで木の枝のように真っ二つに折れて宙に舞った。
「ぐはっ!」
ヤム様の口から血飛沫が舞い上がる。彼の身体は弓なりに反り返り、そのまま地面に激突した。
ドスンという重い音とともに、砂埃を上げて転がっていく。
そして数秒後、ヤム様の身体がぐらりと揺れ、そのまま地面に崩れ落ちた。ぴくぴくと痙攣が走った後、完全に動かなくなった。
「まったく何が黄金世代だ。蓋を開けてみれば期待外れにもほどがある」
オルティッシオの冷酷な言葉が、広場の静寂を破った。その声には、虫けらを踏み潰したような無関心さがあった。
村人たちの顔が屈辱に歪む。黄金世代の誇りが、地に落とされた瞬間だった。
「くっ」という呻き声があちこちから聞こえてくる。悔しさなのか、恐怖なのか、それとも絶望なのか。おそらくその全てが混じった、言葉にならない感情の表れだった。
「どうした? もう終わりか。黄金世代とやらは打ち止めか? 次は、シルバー世代でも出すがよい」
オルティッシオの嘲笑が広場に響き渡る。村人たちは恐怖と屈辱で身動きが取れずにいた。
ギガント様も黄金世代も全滅し、もはや抵抗する術を失っていた。
その時だった。
「オルティッシオ様、それでは老人の集まりになってしまいますよ」
突然、鈴を転がすような美しい声が聞こえた。
声の主を探して視線を向けると、広場の隅で静観していた人族の集団から、一人の少女がゆっくりと歩み出てきた。
人族の女の子?
茶色の髪は肩の辺りで綺麗に揃えられ、陽光を受けて絹糸のように輝いている。その髪型は人族の高貴な女性が好む洗練されたショートカットで、村の獣人女性たちが結う素朴な髪型とは明らかに格が違った。
肌は陶器のように白く滑らかで、まるで一度も太陽の下で労働したことがないかのようだ。
華奢でとても強そうには見えない。少なくとも腕力で戦うタイプではないだろう。
「エディムよ。こやつら、まるで歯ごたえがない」
「……そうですね」
彼女の返答は短く、感情を排した事務的なものだった。まるで上司の愚痴を聞き流す秘書のような、そんな距離感がある。
「これでは、準備体操にもならんわ」
オルティッシオがさらに不満を口にすると、エディムは再び同じように答えた。
「……そうですね」
今度はより明確に、彼女の無関心さが表れていた。
オルティッシオとの会話から、この少女はエディムと言うらしい。
仲が悪いのだろうか?
よく観察してみると、エディムの態度には単なる無関心以上のものがあることに気づいた。彼女の目には、軽蔑のような色が浮かんでいる。まるでオルティッシオの行動を愚かしいものとして見下しているような、そんな冷たさがあった。
ただ、あの恐ろしいほどの強さを持つオルティッシオに嫌味を言えるのだ。
エディムは、邪神軍の中でもそこそこの地位にいるのだろう。
よく見ると、エディムはすごく上品な服を着ている。人族たちがよく噂をしている爵位持ちのお貴族様なのかもしれない。




