表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
238/256

閑話 「ティレアの悩み事 現代編」

ティレアの悩み事が現代編だったらというIFの回です。本編とは関係ありません。

 俺の名はティレア。金髪碧眼の美少女。十七歳。特技は料理。家が料理店をしているせいか、小さい頃からお手伝いをしてきた。父が腕利きのシェフであり、その父の指導を受けてきたのだ。既に料理人としてプロ級の腕前だと自負している。高校を卒業したら、本格的に料理の勉強をしようと思っている。


 そんな俺には、三つ年下の妹がいる。名はティム。銀髪紅眼の美少女だ。俺は、この三つ下の妹を溺愛している。両親がお店で働いている間、ティムが小さい頃から面倒を見てきた。


 優しい両親に可愛い妹。料理人として大成するという輝かしい夢もある。順風満帆な人生と思っていたが、最近悩みがある。


 それは、俺の可愛い妹ティムのことだ。最近、俺への態度が冷たい。まぁ、それぐらいだったらよくある反抗期という奴だ。悲しくはあるが、誰もが通る道である。黙って妹の成長を見守ろうと思った。だが、「我」とか「愚かなる人間」とか口出すようになった。


 これは、巷で噂される中二病ってやつだね。


 まさか自分の妹が、ネットで話題のこの病気にかかるとは思わなかった。だが、まぁかなり、いや、ぎりぎりだが、それだけであったら青少年・少女の反抗期の範囲と言ってもいいかもしれない。


 しかし、物事には限度というものがある。


 最近のティムは試験勉強はしない、お店の手伝いはしない、夜遊びはする。そして、とうとう学校をさぼるようになった。


 ティムの担任の先生から電話があったときは、目の玉が飛び出るほどびっくりした。幸い両親でなく俺が電話に出たからよかった。いつも仕事を頑張っている両親には心配をかけたくはない。ここは、姉である俺の務めだ。


 ということで、まずはティムを呼び出して説教をした。姉として生活態度の悪さをこんこんと諭したのである。


 ……いきなりぶん殴られてしまった。


 人間のくせに無礼と言われた。


 家庭内暴力。いきなり手を挙げるとは……ティムの非行化はかなり進んでいたようである。


 しばらく放心状態だった。殴られて倒れたまま動けなかった。あんなに仲の良かった姉妹なのに、いったいなんでこんなことになってしまったのか。


 泣けてくる。ショックで頭が働かない。


 でも、いつまでも嘆いてばかりではいられない。不良になったらなったで原因を探る。そして、更正導いてやるのが家族の務めである。


 原因……やはり、悪い友達にひっかかったと考えるのが適当か。


 朱に交われば赤くなる。俺は、ティムの不良仲間を調べるべく、ティムの後をつけていった。


 ティムは、人知れず廃墟になったビルに入り、仲間と思わしき人達と談笑していた。その仲間は、顔にタトゥーが入った者、ジャラジャラ身体に鎖を巻いた者、極めつけは全身甲冑を着込んだ馬鹿もいた。


 もちろん普通の格好をした人もいるが、大抵はおかしな格好をしている。


 一体なんのコスプレだ? 俺もアニメは詳しいほうだと思ったが、まだまだライトなオタクだったようだ。これはディープすぎる。一人もキャラシラネェ。


 しかも、武道館や東京スモールサイトとかで開催するならまだしも、ここ、怪しげな雑居ビルだよ。


 きっと警察には無届でやっているんだろう。危ない奴らだ。もしやイベントではなく何かの宗教団体の活動か?


 メンバーもはては初老の域に達した奴らから見るからに未成年な少年少女まで様々だ。全身甲冑を着込んだ男が首謀者らしい。皆がヒドラー様と讃えている。


 そして、ヒドラーとその仲間とおぼしき奴らが、何やら怪しげな呪文を唱えると、壁が爆発したり人が飛んだりした。


 な、な、な、なんだと――って驚くと思ったら大間違いだ。きっと、爆発は工事現場とかで使う爆薬を使ったのだろう。空中浮遊はピアノ線か何かかな。もろにつっているようには見えなかったが、最近の手品はだいたい似たようなもんだ。タネはわかんないが、腐るほどテレビでやってたよ。上にピアノ線はありませんよ~ってもう古いネタだね。それに最新の手品だと東京タワーを消すとかやっていた。俺みたいな目の肥えた観客だとこいつらの手品はしょぼすぎてひくね。


 だが、この集団はもろに騙されているようだ。輝いた目でヒドラー一派を見ている。本当に魔法を使っていると思っているようだ。


 確かに手が込みすぎている。爆薬まで使うって、どんだけよ。このヒドラーって男とその一派は、マジシャンで決定だね。テレビでよく見るような手品をばんばん披露してメンバーの心を掴んでいるようだ。


 しかも「魔王様万歳」「魔王軍復活」とか叫んでいるんだよ。あほすぎるだろ。


 はぁ~なんだよ、これ……。


 こいつらが、いかさまでメンバーを集めたり、最終的には金を巻き上げる詐欺を働くんだろうけど、俺には知ったことではない。いい歳した大人のくせに騙されるほうが悪い。こんなあからさまな詐欺にひっかかるなんて少しは社会勉強しろと。ただ、ティムみたいな未成年にまでその毒牙をかけるのは黙ってられない。子供を騙すのは卑劣極まりないのだ。


 俺は素早くスマホを取り出し、この茶番を撮影する。


 未成年者略取。煽動、詐欺の罪。それに爆薬を使うのって確か国に許可をもらわないといけないはずだ。こいつら絶対許可取ってない。不法爆薬使用罪も追加だ。


 この証拠をもって警察にいけば、この怪しげな集団は解散。ティム達も正気にもどるだろう。


 いや、待てよ。ティムは未成年だし、騙された被害者だから罪に問われることはない。だが、警察沙汰になったら、ティムの内申書はズタボロになっちゃうかも。推薦だって取り消されるかもしれない。下手な行動は、ティムの将来にかかわってくる。


 どうしよう?


 俺は打開策がみつからなかったので、頼れる先輩方に相談することにした。


 アルクダス高校三年、生徒会長のレミリアさん、美しく生徒からの信頼の厚い人。ひそかに俺が思いを寄せている人である。同じく三年副会長のビセフさん。少しお調子者だが、頼れる男気あふれる面もある。二年、会計のプラトリーヌ。生粋のお嬢様でツンツンしているが、実は優しいという典型的なツンデレお嬢様だ。


 三人とも頼れる人達だ。


 俺は三人にこの学校の近くで犯罪行為が行われていると報告した。典型的なオカルト詐欺集団がいると。しかも、被害者には未成年がいる、ことは慎重に運ばなければならないと説明したのである。


「そうですの。他に情報は?」

「そうだな。首謀者の年齢、特徴をもっと知りたい」

 

 会計のプラトリーヌ、通称お嬢が質問をしてくる。さらに会長のレミリアさんが詳細な質問を欲してきた。


「はい、名前はもろ偽名を使ってたのでわかりません。とにかく全身甲冑を着込んだ頭のおかしな奴です。年齢は推定十代から二十代、もしくは三十代~四十代、または五十代以上の人物です」

「それ推定になってませんわよね?」


 お嬢から鋭い突っ込みが入る。いや、そうは言ってもそいつ全身甲冑着込んでんだよ。年齢なんてわかんねぇえよ。


「とにかく百聞は一見にしかずです。これを見てください」


 俺は、撮影したスマホを三人に見せる。もちろん、ティムが夜遊びしているところを証拠にしたくないので、ティムは映していない。


 レミリアさん達は、食い入るように俺が取った動画を見ている。動画では、魔王様万歳と言って炎を出したり、水を出したりしている。水芸ってやつだ。詐欺集団のくせに芸が細かい。さらには、爆薬を使った壁爆破までカメラに収めている。こいつら詐欺集団のまとめ役はヒドラー総督、さらに六魔将という幹部がいて魔王様復活を目指すんだって。


 パチモンくさくてたまらない。よくこのスローガンでメンバー集まったね。


 三人も呆れているだろう。俺は動画視聴中の三人を見る。


「本物だ」

「本物ですね」

「いや、にせものだろうが!!」


 思わずツッコミを入れる。


 あんたら何言うてんねん!


 学年一の秀才のくせに、こんなあからさまな手品でだまされちゃったの? こいつら本当に魔族と思ったわけ?


 お嬢やビセフさんは「やはり魔族が復活したか」とか「こちらの戦力は……」とかヒソヒソ話をしている。


 なになに、こいつらも中二病だったの?


 だめだ、こいつらも同じ穴の狢とわかったいま相談できない。むしろ、ミイラ取りがミイラになる可能性は十分にある。


「はぁ~もう警察に通報するしかないか」

「それはやめたほうがいい」


 俺の独り言にビセフさんが真剣な顔で忠告してくる。


「確かに見たところメンバーには学生っぽい人達がいます。警察沙汰にすると彼らの進路が台無しになっちゃうのはわかります。でも……」

「そういう問題じゃない。命が危ない。警察では手に負えないから」

「はぁ? それってこいつらがテロリストとでも言うんですか?」


 確かに爆薬とか使ってた犯罪者達だ。もしかしたらこいつら危険な国際テロリスト集団なの?


「テロリストよりも危険だ」

「いやいや、それじゃあ自衛隊でも鎮圧無理じゃないですか!」

「そうだよ。こいつらは相当危険だ」

「じゃあ、なおさら警察に通報しないと!」

「ティレアちゃん、いいからこいつらには近づくんじゃない。こいつら相手では軍隊でも無理だ。後は俺達に任せて」

「はい? 軍隊より危険な奴らにビセフさん達がどうするんです?」

「……ティレアちゃんには何がなんだかわからないと思う。だけど、ここは俺達を信じて欲しい」


 そう言ってビセフさんは俺の両肩に手をかけてじっと見つめてくる。


 あぁ、全然わかんねぇよ。なんだ、その今からアル●ゲドンで隕石に立ち向かって行くみたいな顔は! 自分が今からヒーローしてきますって態度である。


 というか、俺の肩に触りたくてこんな小芝居してんじゃねぇか?


 もう、こいつらはあてにできん。ちょっと大人びて頼りになると思ってたけど、こんな子供染みた行動をするなんて。レミリアさんは可愛いからいいけどね。


 とにかく一人で解決するしかない。


 翌日……。


 俺は例の雑居ビルに向かう。あれからティムは帰ってこなかった。朝帰りに続き無断外泊である。家族に心配をかけて連絡さえしてこない。もうここまで不良化が進んだのなら俺も腹をくくった。警察沙汰になってもいい。進路は二の次だ。まずは、ティムの性根を叩きなおしてやる。


 俺は意を決し、中に入る。


 周囲を観察する。あれからメンバーはさらに増えたみたいだ。ティムはヒドラーとか言った詐欺師集団の隣で幹部扱いになっている。自分を六魔将カミーラと豪語し、あれこれ命令していた。


 火を出したり、しまいには空中浮遊までやっていた。


 あぁ、ティムがひ・こ・う少女になってしまった。


 ティムがこの手品をやっているということは、騙す側に回ったということである。詐欺師ヒドラーに賛同して、手品の種明かしをしてもらい詐欺の片棒を担いでいるのだ。恐らく、ティムのことだから遊び半分で加担しているのだろう。いくら成績や進路のことでストレスが溜まっているからって許されることではない。


 ごめんね、半分はお姉ちゃんのせいだね。


 俺は最近料理の勉強ばかりでティムと話をしてこなかった。それで、寂しくなり受験のストレスも加わってこんな悪い遊びを覚えたのだ。


 ティムは、大勢の大人に傅かれて「大儀!」とか言っている。自分を上位魔族と唄って楽しんでいるのだろう。


 うぅ、もう見てられない。


「あなた達、神妙にしなさい!」


 そう言って俺は、魔族(笑)達の集団にさっさうと現れる。


「何だ、貴様は!」

「結界を張ってあったはずだ。どこから?」


 突然現れた俺にざわめく群集。「結界」とか「人間風情が!」とか、とび交う中二言語が痛々しい。


「シャーラップ! あなた達の悪事なんてまるっとお見通しよ!」

「悪事だと?」


 詐欺師ヒドラーが威厳のある声で尋ねる。鉄仮面の隙間から醸し出す眼光が凄まじい。迫力あるね。だが、びびるもんか!


 ポケットの中にはスマホがあり、短縮ボタン一発で警察を呼ぶ算段はできている。いざとなれば、全員お縄にしてやる。


「そうよ。詐欺師さん。魔族とか魔王復活とか出鱈目言って未成年をかどわかしているでしょ。立派な犯罪よ!」

「くっく、何を言うかと思えば……愚かな人間よ。この力が贋物だとでも?」


 そう言うと、ヒドラーの手から光の玉が出たかと思えば、それが壁に当たり粉々になった。周囲の面々、特に若者達が尊敬の眼差しでヒドラーを見ている。


「ふ~まったくあなた達、とりっくってドラマ見たことないかな~。こんなの茶番よ、茶番。どうせ爆薬を使ったトリックなんでしょ。手から出すネタがわかんないのは、さすがプロのマジシャンね。まぁ、私はもっとすごい手品をテレビで見たことあるけど」


 俺はドヤといった顔で解説する。すると、一瞬呆けた顔をしたヒドラーが失望に満ちた表情になる。


「ふ~結界を破壊してきたから警戒をしたが、とんだ馬鹿者だったようだな」

「馬鹿はあなたでしょ。何が魔族だ。いい大人がみっともない」

「無礼者が! ヒドラー総督にたかが人間の分際で不遜にもほどがある」


 俺とヒドラーの会話を聞いてその幹部達が激高している。青筋を立ててつばを飛ばして、その魔族っぽいメイクも合わさって凄まじい形相だ。


 確かに魔族みたいでちょっと怖い。だが、昨今のハロウィンやコスプレならこれぐらいのクォリティは当たり前である。俺は、その他周辺にいる群集に向き直る。その中でも未成年とおぼしき人達に目を向ける。


「ねぇ、君達早く家に帰りなさい。こんなのにつきあってたら本当に馬鹿になるよ。だいたいなんでこんなの信じたの? 終末説で脅してきたとか? それとも、あなたも選ばれた魔族とか言ってきた? 全部うそよ、うそ」


 俺がこんこんと諭していると、ヒドラーの幹部が「片付けろ!」とドスの効いた声を発してくる。それと同時に一人の男が俺に襲いかかってきた。


 なるほど、予想通りの行動だ。ネタをばらされそうになったから、実力行使の口封じである。


「甘い!」

「ぐはっ!」


 俺は、襲い掛かってきた男の鳩尾に正拳突きを食らわす。倒れる男。驚愕する周囲の面々達。そう、俺は料理の修業のために筋トレを欠かさずこなしている。それに、空手部の友達に空手を習ったこともある。女と見て油断しただろうが、残念だったな。俺は下手な男よりも強い自信はある。


 でも、まぁ一対一ならまだしも集団で襲ってきたら警察に通報しよう。さすがに多対一で勝てると思うほど自信過剰ではない。


 とりあえずこの状況は使える。いきなり襲ってきたときはびびったが、皆の洗脳を解くチャンスだ。


「さて、わかったでしょ。この男魔族のくせにてんで弱かった。あなた達だまされていたの。こいつはただの人間よ」


 俺はここぞとばかりに説得する。だが、反応は薄い。驚愕しているのは確かだが、騙されたのがわかって驚いているわけではなさそうだ。むしろ俺の強さを見て驚いている?


「……貴様何者だ? 末端とはいえあやつはれっきとした魔族。それを一撃で倒すとは。しかも、我は貴様に人間なら即死レベルの攻撃をしたはずだが……」


 魔族カミーラでなく妹ティムの登場である。色々言う事はいっぱいあるが、とりあえず連れ出す。無断外泊して父さんや母さんが心配しているのだ。


「ほら、ティム帰るよ」


 俺はティムの手を掴んで帰ろうとするが、ティムは動かない。仕方が無い。半ば強引に連れて帰る。俺は、ティムをお姫様抱っこして移動しょうとする。


「なっ!? は、離せ、何をする? む、う、動けん!?」

「さぁ、帰るわよ。帰ったらみっちりお説教――あいたぁ!?」


 俺がティムを連れて帰ろうとしたら、誰かが石を投げたらしい。頭にがぁんと衝撃が伝わる。


「ば、ばかな! 俺の魔巻惨殺極大魔弾を受けて無傷だとぉ!?」


 一人の男が手の平を俺に向けて驚いていた。どうやらこいつが俺に石を投げたらしい。幸い小さな石だったらしく、無傷だ。だが、女性に石を投げるとはこいつの人間性を疑う。


 俺がきっとそいつを睨むと、びくっと震える男。その様子をみていたメンバー達が、コクリと頷き、


「ええい、こうなれば全員で攻撃だぁあ!」


 そう言ってなんかわからんが、俺に向けて何かをバチバチぶつけてきた。BB弾みたいなものかな? ほとんど痛みはなく、輪ゴムのバッチンのようだ。殺傷能力は皆無の子供のおもちゃだね。だから皆、遠慮なしてぶつけてくる。


 むむ、さすがにこの程度で警察に通報まではしないが、いたずらにしてはひどい。さっきから絶え間なく連射してくるから目を開けられないのだ。


 なんかムカムカしてきた。子供ならともかくいい大人までもが、人にエアーガンを発射してくるのだ。俺はともかく、ティムの顔にあたったらどうするんだ!


 もう怒った。怒ったぞぉお!


「うぉおおお、あんたらいい加減にしろやぁああ!!」


 俺は怒りに任せて魔族(笑)の集団に突っ込む。


 ……

 …………

 ………………


 累々と横たわる死体……ではなく、倒れている魔族(笑)の集団。


 ちょっときれちゃった。メンバーは百人近くいたはず。全員が倒れ伏している。きしくも百人組み手をやってしまったね。ティムはその様子に恐怖で怯えている。


 そうだね、ごめんね。温厚でできた姉の顔しか見せていなかったから。俺の暴力シーンは堪えたにちがいない。


 そうなのだ。俺は空手部の主将に勧誘されるぐらい強い。主将に言わせれば空手の都大会で優勝できるほどの器だと。うん、開花したようだ。


 さて……俺は倒れているヒドラーの顔をむんずと掴み、無理やり叩き起こす。


「何か言う事は?」


 俺は首謀者であるヒドラーに反省の言葉を促す。


「こ、この力、あ、あなた様は……」

「うん?」

「魔王様であられましたか?」

「死ねぇ!」


 俺は、とどめの一撃を入れると、ティムを連れてその場を後にする。




 あれから数日後……。


 俺に変化が起きた。どうやら俺は魔王だったらしい。詳しい事情は割愛するが、古の時代に七つの大陸を制した最強最悪、伝説に残る魔王……最後は神々と戦い敗れた。魔王軍の軍団員はその際に魂を封じられたが、何千年と経過し現代で復活したと。俺も数日遅れではあるが、記憶が復活した。


 ただし……今の俺はあのときの魔王(おれ)と違う。


 確かに記憶は戻った。だが、正確にはDVDで映画を見ているような感覚であった。どこか他人事である。まぁ、俺の場合は封印された時、神々から魂をむちゃくちゃにされたからな。神々にとって魔王おれ)はよほど脅威だったのだろう、これ以上ないってぐらい粉々にされた。だから再編された魂はまったくの別物。あの時の魔王(おれ)にあった覇気や野望なんてすっからかんである。むしろ魔王時代の記憶があったことが奇跡のようだ。俺の魂ってすさまじく上質だったんだね。


 ということで……元魔王である俺は魔王軍を全員召集した。ほっておくと、この魔王軍軍団員(バカ)共は何をするかわかんないからね。釘を刺しておくのである。


「皆、久しいな」

「「ははっ! 魔王様の復活、喜ばしい限りであります」」


 総督ヒドラーを始め幹部である六魔将とその部下達が全員頭を垂れている。


「さてさて君達を呼んだのは他でもない」

「ははっ。わかっております。世界制覇の号令ですよね?」

「おぉ。魔王様復活、この目出度き年に天下を制しましょう!」


 そらきた。やはりな。この戦闘バカ共の思考は丸わかりである。


 はっきり言おう。俺には世界征服といった野望は欠片もない。神々にさんざん魂を改築されたからね。もう人畜無害そのもの、別人なんだ。今の俺はそう……昔名うての悪だった男が、刑務所で特別指導を受け、更正した堅気のようなものだ。俺は平和に生きたい。


 こいつらが世間にはた迷惑な行動するまえに止める!


 俺の眼前では、「戦争じゃ!」「皆殺しじゃ!」と興奮する軍団員達で埋め尽くされている。穏健派は独りもいないね。


 俺は指でコンコンとテーブルを叩く。


 俺の合図を聞いて、静まる軍団員達。魔王軍時代に議論で白熱する部下達に静まれの意味でよく使っていた。軍団員達も昔の記憶をばっちり覚えていた。軍団員達が一斉にこちらを向き、俺の発する言葉を待つ。


「あ~君達、さっきから天下、天下言ってるけど、具体的にどうするの?」


 俺が軍団員達に質問をする。すると、六魔将キラーが手を挙げてきた。


「はい、キラー君」

 

 俺はキラーを指さして発言を許可する。


「はっ。それでは具申致します。まずは、各機関の掌握が不可欠化と。国会議事堂、警察庁、自衛隊基地、軍事施設を中心に強襲し制圧しましょう」

「キラー将軍に一理あります。あとは各国に割り当てる方面部隊を決める必要があります。米国、ロシア、EUに展開するべきかと」

「では、我の部隊は米国を殲滅しましょう」

「あ、カミーラ隊だけずるいぞ。米国は我らガルム隊の獲物だ!」

「いやいや、米国は、六魔将最強の腕力を持つポー部隊が適任ですぞ」


 キラーの発言を皮切りに次々と意見を述べてくる軍団員達。皆、勇ましいことばかり抜かす。やれ米国と戦いたいだの、やれ太平洋艦隊を殲滅してやるだの、威勢がよい。


「ふ~君達。白熱するのはいい。けど、ストップ! あなた達ねぇ、この世界舐めているでしょ」

「い、いえ、そんなことは……」

「いいや舐めている! ここはね、中世みたいな剣や弓の世界じゃないんだよ。拳銃やマシンガンといったハイテク技術が蔓延しているんだから」

「我ら魔族に拳銃の弾など効きませぬ!」


 俺の発言に中級魔人であるオウホンが胸を張って答える。


「そうね、確かにそう。魔族にとって鉄砲は豆鉄砲のようなもの。だけどね、ピストルが効かなくてもバズーカ―や戦車で撃たれたら死ぬでしょ」


 俺はオウホンを諭す。オウホンは図星を突かれて口をつぐむ。他の軍団員達も同じ気持ちなのだろう。苦い顔をしている。


「魔王様、バズーカ―だろうと戦車だろうと粉砕してみせまする!」


 六魔将ガルムが吠える。確かに上級魔族でもトップに位置する六魔将レベルであれば、戦車だろうとバズーカ―だろうと効かない。


「そうね、あなたレベルなら大抵の兵器は無効化できる。だけどね、ミサイルならどうよ? トマホーク撃たれたら死ぬでしょ」


 俺の辛辣な言葉に口をつぐむガルム。他の六魔将も同じ気持ちなのだろう。苦い顔をしている。お前ら本当に同じ思考の武闘派ばかりだね。


「魔王様、ミサイルだろうとトマホークだろうと、不肖ヒドラーが跳ね返して御覧にいれまする」


 最前列にいるヒドラーが覇気を溢れさせ応える。


「そうね、あなたは魔族の中でも特別。上級魔族の範疇におさまらない器を持っている。最強魔族そのもの。ミサイルを受け止めてそのまま撃った相手国まで投げ返すぐらいしてみせるでしょうね。だけど、核ミサイルならどうよ? 核撃たれたら、いくら頑丈なあなたでも死ぬでしょ」

「そ、それは……」

「ねぇ、科学舐めんなってことよ」

「あ、あの魔王様でも核の前では膝を屈するのですか……?」

「そうね、私なら核の二、三発もらっても大丈夫かな」

「おぉ、それなら!」

「早合点しないで。さすがの私も数発ならともかく何百発も撃たれたらやばい。当たり所が悪ければ死ぬね」

「そ、そうなのですか?」

「うん、私でも死ぬ。そして、その何百発も核を保有しているのがアメリカなの。私を殺しうる兵器を持っているのがアメリカ。現状わかったかな?」

「それなら核を撃たれる前に基地の掌握を――」

「あのね、そんな後手後手でどうするの? それに核を持っているのはアメリカだけじゃない。ロシアだって中国だって持ってる。そんな状況で核に耐えうるのは私だけなのよ。あなた達、いつまで私におんぶにだっこされてんのよ」


 うなだれる軍団員達。このまま畳み掛ける。


「まったく昔からそうだからねぇ。神々との戦いの時もそう。神兵部隊が十五師団攻めてきたよね? あなた達はどれだけ対応した?」

「た、たしか三個師団ほどでした……」

「そう、たった三個師団。私は残りの十二師団を相手しながら天使長六人の首を取った。しかも東西南北から大天使長四人の最強攻撃を受けながらよ。わかる? この大変さが? 最後は天使神が現れて捕縛されてしまった……」

「ま、まことに不甲斐なく……申し訳ありません」

「私も昔のことをクドクド言いたくはない。でもね。タイマンだったら天使神だろうと勝ってた。あのとき、あなた達が大天使長の一人、いや、そこまで言わなくてもあと二師団ほど多く引き受けてくれていたら私は捕縛されなかった」

「「お、お詫びのしようもございません!!」」


 ヒドラー以下、咽び泣く軍団員達。声を上げて泣いている者もいる。自分の力不足で主を討たれたと思っているのだろう。皆、自決して腹をかっさばかんぐらいの勢いである。


 ち、ちょっと薬が効きすぎたかな? 可哀そうになってきた。だが、ここは鬼になる。とどめの一撃だ。


「そう、あなた達は弱い。弱すぎる。それなのにアメリカと戦争する? 馬鹿言ってんじゃないの!」

「では、我らはどうすればよろしいのですか?」


 ティムが心痛な面持ちで聞いてくる。


「そうね、とりあえずティム、あなたは日本一の中学生になりなさい。アメリカはそれからでも遅くはないわ」

「日本一の中学生ですか?」

「そう、あなたは学生、まずはきっちり勉強すること」

「は、はぁ……」

「では我らはどうすれば?」

「オウホン、あなたは建築技師だったね?」

「はい、魔族覚醒前はそうでした」

「なら、あなたはまずは日本一の建築士になりなさい」

「……あ、あの日本一の建築士になることが魔王軍の覇権と何か関係するのでしょうか? 恐れながら、世界制覇とは無縁な活動かと」


 オウホンだけでなく皆、頭にハテナが浮かんでいる。


 そうね、そうでしょう。俺も何言ってんだかわからない。


 でも、こうやって煙に巻いておけば世界制覇といった馬鹿な行為はしないだろう。日本一のなんちゃらを目指していれば、破壊活動なんてしない。他の活動に目を向けさせておく。そのためには、多少強引にでも話を持っていこう。


「あのね~そうやって疑問を持っている自体がだめなのよ。魔王(わたし)の意見に楯突くなんてありえない。鉄の掟もあったもんじゃないわ」

「い、いえ、決してそのような……」

「そう言ってんのよ! 魔王の言葉を疑う。こんな部下達で天下統一なんてできる? もうがっかり。テンションダダ下がりよ」

「も、申し訳ございません。決して魔王様の不興を買うつもりはありませんでした。魔王様のお言葉を最優先する。魔王軍にとって最大の約でございました」

「そう、じゃあ頑張って日本一の建築士になりなさい。アメリカはそれからでも遅くはないわ」

「ははっ。魔王様のため、必ずやオウホンファミリーを作ってご覧にいれます」


 そうそう、そうやって仕事頑張って傾かないマンションでも作ってなさい。


 それから俺は、次々と軍団員達にこれからの方針を告げる。元大工、元板前、元漁師……様々な職種に対して道を極めるように促していく。


「魔王様」

「なに?」

「我らはサラリーマンだったのですが、日本一のサラリーマンとはどういったものなのでしょうか?」


 かなり困った質問をしてくる元リーマンの部下達。そんなの俺が知るわけない。大企業の社長? 経団連の会長か? 基準がわからん。だが、ここで話を途切れさせるわけにはいかない。


「そうね、日本一のサラリーマン……参考になる書物を後で送ってあげる」

「ははっ。ありがたき幸せ」


 よし、漫画サラリーマン金次朗、いや、だめだ。あの暴力肯定漫画だとこいつらはその通りにやりかねない。ここは、課長補佐しまごーさくを渡そう。


「頑張って日本一のサラリーマンになってね」

「御意。邁進致します」


 そうそう、オフィスラブでもしながら平和的に出世してくれ。


 そして……。


 最後の一人まで方針を下した。当分は天下統一はできないだろう。それぞれの道で日本一なんてそう簡単に取れるものじゃない。


「じゃあ、解散! おのおの頑張って仕事に励むように」

「「御意!」」


 よし、なんとか一段落したかな。あとは、ちょいちょい顔を出してコントロールしていけば――


「神妙にしろ! 魔族共ぉお!!」


 突然の大声に固まる。


 レ、レミリアさんの声だ。愛しの人の声を間違うはずがない。


 さらに雑居ビルを囲むように集まる聖のオーラに気づく。このオーラはビセフさんやお嬢達だ。


 わ、忘れていた。


 生徒会の皆のことはどうしようか?


 どうやら俺の悩み事は、これからも続きそうだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ