第四十九話 「エリザベスの最終計略」
積もりに積もった恨みが今日こそ晴らせる。
エリザベスが意気揚々と進軍した先には……。
これでもかというぐらいにでかい櫓がそびえ立っていた。
「あ、あれはなんですの!」
そばにいた家人に怒鳴る。
「わ、わかりません。このような建造物があるとの報告はありませんでした」
「現にあるじゃないですの!」
「た、大変申し訳ございません。私も何が何やら、放っていた密偵の報告では異常なしとしか……」
家人もにわかの事態に驚いているようだ。
しどろもどろに現状を報告する。
しくじりましたね。
見るからに堅固な櫓だ。
壁は高く流麗である。高さ十メートル以上はある防壁、三層構造で兵を配置し、ご丁寧に空堀まであった。
一流のワタクシの目で見ても及第点、いや、それ以上のできだ。
これは下手な小城よりやっかいかもしれません。
ぎりりと歯軋りする。
諜報を部下に任せきりにしたのは間違いだった。襲撃前に、一度は自分の目で確認すべきでしたわね。
以前、西通りに来訪したことがある。それで十分と思った。
その時の感想は、攻めやすく、守りがたし。もともと西通りは、王都内の商業施設が並ぶ地域である。重要な軍需施設があるわけでもない。比較的進入しやすい造りになっていた。
これならどんなに防備を固めても、予想の範囲内におさまる。
念のため密偵を放っておけば、敵の変化にも対応できると確信していた。
それが蓋を開けてみれば、計算を上回る防衛施設が目の前にそびえ立っていたのだ。
くっ、ムカムカしますわね。
我がエリザベス家の諜報部隊の目をかいくぐって櫓を造った?
いいえ、それは不可能ですわ。
これほどの巨大な防塁施設です。いくら隠蔽しようと痕跡を残さないわけがない。
それを見逃すほど愚かではないでしょ。
というか、よほどのバカでない限り、子供でもわかりますわよね?
考えられる可能性は一つ。
裏切りましたわね。
銀髪の小娘に寝返って虚偽の報告をしていた。
「へっへっ、お姫やられたな。獅子身中の虫ってところか」
バッチョも同じ予想を立てたらしい。
まぁ、それ以外ないですからね。
「少々、銀髪の小娘に負けが続きました。向こうが勝ち馬と思われてもしかたがありません」
「そうか。で、どうするんだ?」
「決まってます。裏切り者には死を、いや地獄の責め苦を味わってもらいますわ」
ただでさえ、全財産を奪われ怒りが最高潮に達している。そんなところで腹心の裏切りである。今、ワタクシの顔は夜叉となっているだろう。
「姫は短絡的だな。一応、洗脳や恫喝で無理やりという線も考えられるぞ」
「どちらにしろワタクシの期待に応えられなかったことにはかわりがありません」
「くっく、そうだな。姫ならそう考える」
「バッチョ」
「わかってる」
バッチョは部下に伝達する。
ワタクシの意をわかっての行動だ。
この辺は阿吽の呼吸と言いますか、バッチョとのやりとりは短い言葉で十分だ。
それからしばらくして、西通りを監視していた密偵達が、ワタクシの前に引きずり出された。
バッチョの部下達が、逃げようとした密偵達を捕まえて連れてきたのである。
密偵達は、縄で縛られ身動きが取れない。
皆、一様に怯えた顔をしている。
ふふ、そんな怯えた顔をしなくても大丈夫ですわ。
銀髪金髪の小娘達に比べたら、あなた達の罪は軽い、軽い。普通の拷問死で済ませてあげます。
感謝しなさい。今までの功績に免じましたの。裏切者には、破格の条件でしょ。
ワタクシは笑みを浮かべて、密偵達の前に進み出た。
「皆さん、ワタクシとは長い付き合いです。これから何をされるかわかってますわよね?」
「ま、待ってください。あんな櫓知らない。俺達も知りませんでした」
「エ、エリザベス様、本当です。二日前に見たときは何もなかったんです」
皆、壊れた楽器のように「知らない」「見たことがない」と繰り返す。
言い訳にしてはあまりにお粗末だ。こんな愚図を今まで重宝していた自分に腸が煮えくり返ってくる。
情報は値千金の価値がある。だから、使い捨てにせず、密偵達には特別に便宜を図ってましたのに。
信頼していた分、その恨みは大きいですわね。
まぁ、それでも銀髪金髪の小娘達への恨みに比べれば、子供が作った砂山程度ですが……。
「言い訳は済みましたか?」
「言い訳ではありません。信じてください!」
「ふふ、あなた達、そんな幼稚な言い訳でよろしいんですか? ワタクシの苛烈さは知っているでしょ。ほら、せいっぱい言い訳してみなさい。このままですと、すごく、すご~く大変な地獄を味わいますわよ」
ワタクシの恫喝を受けて、密偵達がガクガクと震える。
今まで、ワタクシがしてきた所業を思い出しているのだろう。
「ま、待ってください。本当なんです。どうか今までの我らの功績に免じて、ご再考ください。天に誓って、我らはエリザベス様を裏切っておりません。真実を述べてます」
「……では、あなた達の言葉を借りるなら、二日前には何もなかった広場に、一日で突然巨大な建造物が建てられたとでも言いますの?」
「は、はい」
子供でももっとマシな嘘をつく。
密偵部隊の長ポル・ナーレの顔を無造作に持ち上げる。
「もっとマシな言い訳はできないんですの?」
持ってた剣先をポルの首につきつけた。
「エ、エリザベス様、お疑いはごもっともでございます。ですが、どうか聞いてください」
「最後のチャンスですわよ」
「は、はっ。誇張や虚飾は一切ありません。ありのまま起ったことを報告します。我らが二日前に確認した際は、広場に建造物はありませんでした。信じがたいですが、今朝方、突如として櫓が出現したのです。何を言っているかわからないと思いますが、本当なんです。もちろん我らは、幻影魔法をかけられておりません」
「……どうやらきつい拷問がお望みのようね」
「ど、どうかご勘弁を。奴らは、一昼夜で櫓を造成した。それが事実です。わ、私は奴らが恐ろしい。理を超える所業を成し遂げておいて平然としている。密偵生活二十年これほど凍りついた相手はいません」
「それで終りですか?」
「は、はい、私はもう戦いたくありません。ようやく気づいたのです。この世には手を出してはいけない恐ろしい存在がいるんだと」
「ポル、残念ね。ワタクシ、あなたをすごく買ってたのよ」
「エリザベス様、襲撃前に忠告しておきます。奴らは東方王国から落ち延びてきた集団ではございません。奴らが東方王侯騎士団? そんなチャチなものじゃない! 悪鬼、悪魔、いや、もっと恐ろしいものの片鱗を感じ――」
ドサッ!
密偵ポルの口上が止まり、その首が地面に落ちた。
バッチョが途中でポルの首を斬ったのである。さらに返す刀で次々と密偵達の首を刎ねていく。
「バ、バッチョ何を勝手な……」
「わかるだろ? こいつらの言は、まともじゃない。幻影魔法をかけられたのさ」
「……ですが、それはそれで罰を受けさせませんと腹の虫が治まりません」
「裏切者なら見せしめが必要だ。拷問する理由になる。だが、こいつらは敵との勝負に負けただけだ。相手が一枚上だったのさ。処刑にして終りだ。時間がもったいない、あきらめろ」
「で、ですが……」
「姫も悪いぞ。幻影魔法にかかった部下の異常に気づかなかったんだからな」
「くっ。わかりました。確かに内輪もめしている場合じゃないですわね。櫓ができているなら仕方がありません。それならそれで攻略するだけです」
「攻略ねぇ~」
バッチョがしたり顔で、ワタクシを値踏みするように見てくる。
「バッチョ、まさかちょっと防塁施設ができてたからって、怖気づきましたの?」
「姫もわかってるだろ? あの櫓、間に合わせじゃないぞ。要所要所、鋼鉄でコーディングしてある。国城じゃないんだ。こういった拠点は、普通ある程度手を抜いた箇所が見受けられる。だが、あれには一切ない。完璧な設計だ。一流の練成士が何十人もかけて作った代物だろう。なめてかかると痛い目に遭うぞ」
「くっ。なら尻尾を丸めて逃げ出しますの!」
「まぁ、そう焦んな。とりあえず様子見で一当てしてみようじゃないか。敵兵の質を確かめる。話はそれからだ」
そう言うや、バッチョは先遣部隊を突撃させた。
様子見とはいえ、バッチョ特戦隊の突撃である。幾千もの部族を滅ぼしてきた実績は伊達ではない。
咆哮一つで、歴戦の戦士を硬直させられる。殺気を向けただけで、熟練の弓兵でさえ手元を狂わせられるだろう。
こいつらはどうか?
櫓に篭った部隊を見る。
今のところ、動じずに弓を構えているようだが……。
「放て!」
金髪娘の号令のもと弓矢が一斉射撃された。
矢は一直線に放たれている。
そこに怯えによるぶれは一切ない。多少、まごついて的を外している感もあるが、バッチョ特戦隊相手に上出来だろう。
射撃に詳しいわけでもないが、それでも奴らが一流の域に達しているのが見て取れる。
ふん、なかなかやりますわね。
まぁ、それでもただの一流だ。超一流のバッチョ特戦隊の攻撃にかなうものではない。
「バッチョ、どう見ます?」
「う~ん、ちょいと厳しいかな」
バッチョの言葉に耳を疑う。
ただの一流如きに手こずる特戦隊ではないはず。
「あなたらしくありませんわね。確かに英雄ガデリオ以外にも、それなりに優秀な兵が残ってました。予想外でしたわ。でも、オルティッシオ以外はただ一流なだけの弓兵でしょ」
奴らの戦力で、英雄級の力を持つのはガデリオ、ミュッヘン、オルティッシオだけだ。それ以外は、ただ優秀なだけの兵のはず。
バッチョ達の敵ではない。
「いや、荒い射撃をしていた奴らだが、掃射する度に洗練さが増していく。精度もどんどん上がって、今や王国弓兵精鋭部隊以上のできばえだ。少々下駄を履かせれば、英雄級と言ってもいいんじゃないか」
「ほ、本当ですの?」
「あぁ。ただ、なんで荒い射撃をしていたんだ? 最初は緊張してたか、いや、そんなタマじゃないよな。練習して上手くなった? いや、たかが数度射撃しただけで、どんな超人だ。やはり油断を誘う罠が一番現実的か」
「そんな稚拙な罠を?」
「う~ん、金髪娘の思いつきとか? 初心者に見せかけて誘い出す。やつらあれで強固な忠誠心を持ってるんだろ? 稚拙な作戦でも、主君の言葉だから従ってたとかな」
「ありえますわね」
「とにかく本性を出した奴らはてごわいぜ。弓のポテンシャル限界まで引き絞って撃ってやがるからな」
バッチョがここまで言う弓兵部隊。
櫓の各階層から雨のように矢を降らせてくる。
特に、オルティッシオ率いる部隊の矢が激しい。
間断なく降り注がれる矢の雨……。
なんという、なんというしつこい攻撃なんですの!
さらに……。
奴らは、大型弩砲まで用意していたのだ。全長五メートル以上の巨大な矢が、こちらに向けて発射されようとしている。
あれが放たれれば、一発で少なくとも数百の犠牲が出るだろう。
大型弩砲……。
作成するには、相応の資金力と技術力を要する。
本来、国が所有すべき攻城兵器なのだ。設計書を書けるだけで、垂涎の人材である。さらに資金集めから秘匿するための諜報部隊も考えると……。
銀髪の小娘、いったいどれほどの持駒を持ってますの?
落ち延びてきたくせに!
豊富な人材を揃えている銀髪小娘の生意気さに、改めて嫉妬を感じる。
「カエー、奴らどう見る?」
バッチョは弓のカエーに率直な意見を聞く。
「バッチョの姉御、奴らやりますぜ」
「だな」
「まず、大型弩砲については置いときます。国保有の大型兵器を、落ち延びた集団が作ったのです。あれは、作った技術者を褒めるべきでしょうな。次に弓兵についてですが、部下達に勝るとも劣らない。技術はまだ荒いが、それを補ってあまりうる膂力があります。ぜひ俺の弓部隊に引き抜きたいぐらいですぜ」
「そ、そこまでの人材ですの?」
弓術に関しては人一倍厳しい意見を持つカエーの賛辞に、思わず口を挟む。
「えぇ、俺は嘘はいいません。見てください。こんな距離まで矢が届いてます。弓具の限界の距離ですぜ。大弓をぶれずに引くだけでも常人にはとても無理です。それをまっすぐに、しかも地面に深々と刺せる奴は、そうそういませんよ。これができるのは、部隊では俺と幹部級が数人ってところでしょうか」
カエーの言を聞いて、あらためて敵弓部隊を見る。
五千の大軍、しかもバッチョ特戦隊に包囲されているというのに、微動だにせず弓を構えている。焦りも怯えも一切ない。
誰もが戦場の空気を肌で感じる戦士を彷彿させた。
一人ひとりが英雄級、こうまで思ったのはバッチョ特戦隊を見て以来である。
そんな鉄壁の軍隊の中で一人、金髪の小娘だけがあたふたして目につくが……。
例外はいますが、奴らどうやらワタクシの想定以上の逸材ですわね。
「姫もわかっただろ。無理押しすると、少なからず部隊に被害が出る」
「……そうでしょうね」
「こちらに死者がでなかったのも、様子見の突撃をしていたのに加えて、金髪娘の素人な号令に救われた形だ。もっと懐に誘われて掃射されてたら、笑えない被害が出てたぜ」
「で、ですが、そんな強敵を倒してきたからこそ、あなた達は伝説の部隊となったのです。一流の施設と兵がいたぐらいで逃げたら、その名が泣きますわよ」
「姫、挑発はよせ。姫の言うとおり攻略は可能だ。アタイの経験から言えば、この程度の脅威、レベルで言う中の上ぐらいだな。兵と城の質は高いが、いかんせん数が少なすぎる。こちらは十倍以上の数がいるんだ。犠牲覚悟で攻め込めば、落ちる」
「なら!」
「だがよ。何度も言うが、アタイ達は戦場から帰ったばかり。攻城戦は想定していない。何より前金無しの仕事だぞ。割にあわん」
バッチョの言葉に反論できない。
さすがにタダで城攻めさせるのは、虫がよすぎますわね。
「……では、裏手から攻めるのはどうです? 見たところ主力はこちらに集まっているようですわ」
「おすすめしないな」
「なぜですの!」
「こちらに正規兵と堅固な防塁施設を置き、裏手には民兵だけ。あまりにあからさますぎる。罠だ」
「罠かもしれませんが、櫓を力攻めするよりはマシでしょ。それに、裏手から逃げられて応援を呼ばれても困りますわよ」
「それは問題ない。裏手にはヒューマ隊を待機させてある」
口笛のヒューマ……。
口笛を吹きながら敵兵を殺すことから名づけられた。人を殺すことに生きがいを感じる殺人狂である。そんないかれた男が、裏手の監視だけで満足するかしら。
「バッチョ、ヒューマで大丈夫ですの?」
「姫の懸念は最もだ。戦闘意欲旺盛な奴のこと。西通り出入り口の封鎖だけでは飽き足らず、部隊を率いて攻め込んでるかもしれん」
「では、ヒューマ隊への増援を――」
その時、すさまじい爆音が遠方から響き渡ってきた。
キィーンと耳鳴りがして、思わず耳を塞ぐ。
な、なにが起こりましたの?
轟音が発生した方向を見ると、巨大なキノコ雲が発生していた。
ま、まさか……。
裏手に設置した罠が作動?
ヒューマ隊が攻め込みましたの?
発生場所は、西通りの広場辺りだ。
正確な場所はわからないが、とりあえず裏手方向なのは間違いない。
「バッチョ、これは……」
「あぁ、姫の考えているとおりだぜ。きっと裏手側のトラップだろう。ヒューマの野郎、待機命令を無視しやがった。相変わらす短慮な男だぜ」
「どうしますの? ヒューマに便乗してワタクシ達も?」
「いや、裏手の罠があれだけとはかぎらない。大軍で向かえば向かうほど、犠牲者が多くなる」
バッチョの回答では、裏手側への増援はしないようだ。
よほど兵の損失を恐れているらしい。
表通りには、堅固な櫓と一流の兵達。
裏手には、大罠の脅威。
表と裏どちらを攻撃しても、兵の損失が出る。
そうなれば、バッチョは出撃を出し渋る。
どう攻略するか、ワタクシが苦虫を噛んだ顔をしていると、
「姫、そう落ち込むな。あるだろ、ここで切らない手はないぜ」
バッチョがそう提案をしてきた。
以前、話したあの作戦を示唆しているのだろう。それしかないですわね。
「仕方がありません。切り札として、後々残しておきたかったんですが、そうも言ってられませんわね」
「あぁ、ここで使わないでどこで使うんだ?」
「わかってます。バッチョ、行きますわよ」
「おおよ」
バッチョと櫓の前に立つ。
それから金髪娘、オルティッシオと舌戦を始めた。
計画を実行するため、時間稼ぎが理由の舌戦である。
ただ、多少言い負かしてストレスを解消しようとしましたが、その欲求はもろくも崩された。
奴らのあまりにも傲慢な発言に、ワタクシの堪忍袋の緒が先に切れたのである。
特に、オルティッシオの物言いには眩暈がするほどの怒りを覚え、平常心を失うほどであった。
一歩間違えれば、玉砕覚悟で、オルティッシオの首めがけて突撃してましたわね。
危ない。なんとかクールダウンして計画を実行した。
魔法具による拡声で、西通りに潜んでいる草に命令を与える。
【我が軍門に下れ!】
これは草による一斉蜂起を意味している。
ワタクシは、襲撃をするにあたり二重の計画を考えた。
一つは、西通りの住人達に不和を起こさせて内部瓦解を起こさせること。
これは、どうやら失敗のようですわね。
住民達の反応は、変化無し。
逃げ出す住民も、反乱を起こす住民もいなかった。恐らく放った斥候部隊は、騒ぎを起こす前に捕まって殺されたんでしょうね。
これは、想定範囲内。
奴らにだって諜報部隊はいるでしょう。襲撃直前で騒いでいた見知らぬ輩に気をつけるのは当然である。
表の作戦は、成功すればもうけもの。失敗しても裏の作戦の隠れ蓑になる。真の作戦は、草による一斉蜂起だ。
これは、さすがにわからないでしょう。
東方王国から落ち延びて一年かそこらで、地元に根付けるわけがない。つまり、見知らぬ輩は調査できても、元から潜んでいる草はわかりっこない。
エリザベス家が代々王都に根付かせていた策がようやく実る。
本来は王権を奪取するための、革命に使用するべき秘策であった。
銀髪金髪の小娘、あなた達のせいでエリザベス家の悲願はかなり先延ばしになってしまいました。
許しませんわよ。生き地獄を味あわせてやりますわ。
そして……。
西通りで零時の鐘が鳴った。
さぁ、我が草達よ、蜂起しろ。混沌を見せなさい!
……
…………
………………
混沌を期待していたのに……。
いくら待っても変わらない風景。何も変化は起きなかった。
な、なぜ?
ありえませんわ。
身元を調査しても、ワタクシの手の者とは気づくはずがない。
草は何代も、その土地に溶け込んでますのよ。
さらに、念を入れてワタクシとの繋がりを見せないように、極力連絡を取りませんでした。
最低限の手紙のやりとり。
王家の極秘ルートを使い、しかも、最新の高度な暗号を織り込ませてました。
わかるはずがありませんわ。
「姫、どうやらまた敵が上手だったようだな」
「どうやって? 奴らはここにきて一年足らずですのよ。わかりっこありませんわ!」
「現実に何も起こっていない。草が裏切っていないと過程するなら、露見して全滅してるんだろう」
「そ、そんなバカな……」
ワタクシの奥の手が破られるなんて……。
東方王国の諜報部隊は、かなりのやり手だ。
この様子では、英雄ガデリオ、冒険者ミュッヘン、近衛隊長オルティッシオをはめた計略も、敵の諜報部隊によって破られた可能性がある。
「姫、次はアタイに任せておけ」
「何か策がありますの?」
「あぁ、まだ手はあるぜ」
「それはなんですの?」
「姫、こういうのはシンプルでいいんだ」
バッチョはそう言うと単騎で前に駆け出す。
そして、櫓数メートルの位置ぎりぎりまで近づく。
「きけぇえ! 我は、バッチョ・ザ・バトウ。王都の守護神にして霊長類最強の戦士だ。我こそはと思う者、遠慮はいらん。かかってこい!」
敵の眼前まで来たバッチョは、挑発のため大声を張り上げたのだ。
ビリビリと空気が振動する。
「どうした? 我もと思う猛者はいないか? 誰か来いよ? 情けない。一騎打ちもできないとは、そこの腰抜け金髪娘にお似合いの軍隊だな」
バッチョが敵を煽る。
櫓から出したいからって、こんな単純な手に引っかかりますの?
あまりに古典的すぎる。
奴らだって戦書ぐらい読んでいるでしょ。あからさまな挑発に乗るのは、匹夫の勇がすることですわ。
バッチョの策に疑念があったが、奴らは思いのほか単純で短気らしい。
見て取れるほど、顔を真っ赤にして怒りに震えている。今にも櫓を飛び出してきそうだ。
これはいける!?
敵兵全員が、顔を真っ赤にしてぎりりと歯軋りしている。そして、その中でももっとも怒りを覚えているもの。
それは、銀髪を靡かせた少女だ。
いつも人を小馬鹿にした表情しか見せていない彼女が、眉を寄せて唇を噛み、憤怒の表情を見せている。
銀髪の小娘、あなたとは色々因縁がありましたから、わかります。
あなたは傲慢にして唯我独尊の性格。いくら櫓に篭るのが利点とわかってても、止められるものじゃない。
あなたの矜持が敵の挑発を許せませんわよね?
特に、大好きなお姉さんへの侮辱ですもの。
バッチョもターゲットを銀髪の小娘に絞ったようだ。
挑発の内容を銀髪の小娘へ移行する。
彼女は、亀のように引っ込んでいる金髪の小娘と違う。
挑発に激しく反応するタイプだ。
「ほら、銀髪の小娘よ。どうした? 我が姪を倒したんだろ? 腕に自信があるなら、かかってこい。大将同士決着をつけようぜ」
バッチョ、大将はこのワタクシでしょうが!
言葉尻を責めるつもりはありませんが、不愉快ですわね。
バッチョは、チラリとこちらを見てきた。
くっ、わざと言いましたわね。
からかわれるのは不愉快だ。
だが、我慢しましょう。この策いけますわ。
バッチョの挑発に、銀髪の小娘の顔は見る見る険しい顔に変化している。
これは感情が先走って、櫓を飛び出してきますわ。
銀髪の小娘さえ討ち取ってしまえば、この戦勝利は確定です。
神輿の金髪の小娘では、混乱した軍を掌握できはしまい。
「ほらどうした? 世界最強のアタイが、胸を貸してやるって言ってんだ。早く来い。それともお前も金髪の小娘と同じ腰抜けか?」
いける。
銀髪の小娘の顔からは、もはやバッチョへの敵愾心しか見受けられない。櫓の利点を考えていない。理性が吹き飛んでいる。
案の定、銀髪の小娘は櫓の縁に足をかける。
そして……。
■ ◇ ■ ◇
エリザベス諜報部隊……。
ミレスは、目を細めて観察する。
こんな屑達が何を企もうとも、ティレアさんを始め邪神軍の軍団員達が危害に遭うとは思っていない。こいつらが全知全能を駆使しても、彼ら魔人を脅かすほどの脅威を振りまけるわけがない。
ただし、こいつらの暗躍で、西通りの住人達、ティレアさんに関わりがある人達に危険が及ぶ可能性がある。
仮にこいつらが井戸に毒を入れたら、邪神軍の皆は無事でも西通りの住人達が死ぬ。
拷問は、苦手だけどね。
しかたがない。必要だから、やるのだ。
それから、諜報部隊の一人を闇縄で吊るす。
軽く痛めつけて悪夢を見せてやったらすぐに吐いた。
西通りの住人達の中に【草】と呼ばれる実行部隊がいるらしい。
エリザベスと隊長他数人しか知らない極秘部隊だそうだ。
まずい。
裏手に配備されている住人達の中に裏切り者が混じっているかも。
「ドリュアスさん聞きましたか?」
「あぁ」
「裏手側で防戦している住人達の中に、エリザベスのスパイが混じっているようです。意図的に残って内部瓦解を計画しています。殲滅に行きましょう」
「問題ない」
「なぜですか?」
「草なら、とっくに始末してある」
ドリュアスさんは、あっけらかんと答えた。
事情を聞くと、王都に届く全ての郵便物は一旦、邪神軍参謀室を経由して送り出されるらしい。
参謀隊は、毎日その郵便物に目を通し、不審な点がないかチェックしているとか。
あ、検閲もしてるんですね。
まぁ、いいですけど……ティレアさんは知らないんだろうな。
ある日、不審な手紙を出していた住人の一人を捕まえて拷問。
後は芋づる式に草を捕らえておいたと。手紙は暗号化されていたので、判明するのに少しばかり時間がかかったそうだ。
「……そうですか」
ドリュアスさんの説明を聞いて、目的は達した。
聞きたいことは聞けた。もはやこいつらに用はない。
「あ、あの、た、助けて」
エリザベス諜報部隊の一人が懇願する。
「エバラの村、知ってるな?」
噂で聞いたエリザベス諜報部隊によって虐殺された村の名を聞く。
諜報部隊の男は、答えない。
「もう一度聞く。エバラの村、知ってるな?」
「い、いや、知らな――うぎゃあああ!」
男の舌がねじれていく。
「ほら、早く真実を言いなさい。舌がねじ切れるわよ」
「あぁああ、いぎゃあ、ひゆう、ひゅう。い、し、知ってる。知ってひゃすから」
回答すると、男の舌が元に戻った。
「先に伝えてなかったね。あんた達全員に魔法をかけた。嘘をつけば、舌がねじれる呪いだ。真実を言わないと、舌がねじ切れるから。わかったな」
諜報員達は、こくこくっと頷く。
その表情は、恐怖に怯えている。
「では、次の質問だ。エバラの村では、井戸に毒が投げ込まれ、女子供を含めて全員が殺されていた。お前達、関与したか?」
「……」
男達は沈黙する。
「よし、沈黙もルールに加えよう。問いに答えなくても、舌がねじれる」
「「関与した。したから!」」
私の発言を聞いて、男達は必死な様子で答える。
「そうか。さらに質問だ。エバラの村だけでない、他にも公表されていない多くの村が同じ憂いにあっていると聞く。事実か?」
「……ああ、だが、エリザベス様の命令で仕方がな――いでぇえええ!!」
男の舌がねじれて行く。
「正直に答えろと言ったはずだ。うん、これで次の質問が決まった。今まで行った虐殺、お前達は楽しんだか?」
諜報員達は、答えない。
私の質問から、どういった答えが正しいか、わかったのだろう。
だが、嘘は言えないのだ。沈黙するしかない。
無言でいる諜報員達の舌がねじれていく。
「ああ、うごぁああああ、いでぇええええ!」
言わないか。こいつらもわかっている。
この質問の答え次第で、自分達の命が終わると。
「お前達、無駄な足掻きだ。もういい。舌では不十分だったな。追加で首もねじっていく」
闇の杖を行使し、条件を追加した。
諜報員達の舌だけでなく、その首もねじれていく。
「あ、あぐぅあああ、い、い、いてぇえええ! わ、わかった。言う、言う。ああ、楽しんだ。楽しんだよ!」
さすがに首がねじれるのは、我慢できなかったようだ。
次々と本音を言う諜報員達。
息も絶え絶えで、こちらに哀願の態度を見せてくるが……。
そんな哀願を見せてきた人達を、こいつらはどれだけ残酷に殺してきたか!
「では、最後の質問だ。お前達のせいで、村人が、小さな子供まで死んだ。特に、井戸に毒を入れたせいで、どれだけ苦しんで死んだか。少しでも悪いと思わなかったのか?」
「はぁ、はぁ、わ、わるかったと思って――いぎゃああ!!」
諜報員達は、舌と首が曲がって苦しみに歪む。
七転八倒して、地面をのたうちまわっている。
「そう、嘘なの。悪いとも思っていないんだ。救えないわね」
「別にいいだろうが! そうだよ、お、俺達は悪くない。はぁ、はぁ、奴らは貧民共だ。この国に貢献できない屑共が何人死のうが、関係ないだろうがぁああ!」
諜報員達は吠える。
正直に答えたので、男たちの舌と首は元に戻った。
「はぁ、はぁ、はぁ、い、いてぇ、正直に答えた。だから、た、助けて」
「そうね、あなた達は正直に答えた。ご褒美よ」
闇の杖を諜報員達に向け、闇魔法を放つ。
「闇魔法『因果応報』!」
殺された死者の怨念が男達にとりつく。
「うぐぁあああ! いてぇ! いてぇええええよ! あがぁああああ!」
「痛覚を二倍にしておいたわ。回復魔法もかけたから、死ぬまでかなり時間がかかる。たっぷりと苦痛に喘ぐがいい」
諜報員全員に同じ魔法をかけて、その場をあとにする。
「結局、こいつらは殺すのか」
ドリュアスさんがそう声をかけてきた。
「はい」
「色々考えた。ティレア様に無礼を働いたこいつらに、極刑は当然だ。今でもこいつらが憎くてしょうがない。だが、お前の理論で考えれば、ティレア様は極刑を望まない」
おっ、ドリュアスさん、少しはティレアさんを理解してきたんじゃないですか!
「そうですね。私もそう思います。ティレア様は無暗に人を殺すことを嫌います。ですから、一応蜘蛛の糸は垂らしてあげました」
「それで奴らに何度も質問していたのか」
「えぇ、でもだめ。奴らは救いようのない屑でした」
「……ミレス、お前も感情を優先させていないか? ティレア様は極刑を望まれておられないのだぞ」
ドリュアスさん、鋭い。
ですが、これはまた別な問題である。
「これはいいんです。この件を聞けば、ティレア様が悲しまれる。そういう場合は、忠実な家臣が処理してしまえばいいんです」
「勝手な判断ではないのか?」
「いえ、これが最も正しい判断です。こういう胸糞悪い件は、ティレア様が知らないで済めば、それでいいんです」
「……私と見解が違うな。私も自分の感情を優先させずに、ティレア様にとってどれが正しいか判断してみた。その場合、こいつらは汚れ仕事で使える。ティレア様の覇業のために、使い捨てのコマにすればいい」
そう来たか……。
本当は、生きて償わせるのが正しいのかも……いや、違う。
こいつらは、村の子供達を殺している。
ティレアさん的には、生きてちゃ生けない人種だ。
「ドリュアスさん、それは違います。間違ってますよ。ティレア様は、こいつらの死を望んでいます」
「やはりティレア様は、極刑を望んでいるのだな。ミレス、矛盾しているぞ」
「い、いや、それは……」
「ティレア様は、覇業のために人材を大切にされておられる。あんな小虫共でも使いつぶせば、少しは役に立つ。そう思ったが、やはり違う。あんな小虫共に無礼を働かせたままでは、ティレア様の沽券にかかわるのだ」
この辺のニューアンスをドリュアスさんに伝えるのが一番難しい。
そのためにも、まず一つ一つティレアさんに対する誤解を解いていくしかないだろう。
「ドリュアスさん、その件はおいおい説明します。ティレア様にとって何が大切か、私なりに解釈した意見を述べてもよろしいですか?」
「ふむ、言ってみろ」
「まずティレア様は、世界征服を望まれておりません」
「何を言うか! あれほどのお力を持った偉大なお方が世界に君臨せずして、誰が君臨するというのだ!」
ドリュアスさんが、目を吊り上げて抗議する。
落ち着いていてた闘気が殺気に変わっていく。
「いや、誤解しないでください。仰るとおりですよ。世界の王にティレア様以外にふさわしいお方はいない」
「当たり前だ」
「ですが、ドリュアスさん、ティレア様ご自身がそれを望まれておりません。料理店を経営しておられるのも、皆と慎ましく暮らして生きたいからですよ」
「何をいうか! そんなことはない。確かに、ティレア様はご趣味の料理を楽しまれておられる。だが、それは趣味と実益を兼ねておられるだけだ。本来の目的は、あえて周囲に警戒されないように料理店を営んでおられるのだぞ」
そうなのだ。ドリュアスさんの見解は他の軍団員達と同じだ。
私がティムちゃんから植えつけられた知識では、そういう話になっている。
私が感じたことは違う。
ティムちゃん達が魔族で、私が人間だからかもしれない。
でも、真実は違う。
ティレアさんは、天下をとるためにあえて弱者のふりをされているわけではない。日々の営みの中で、自然に生活をされておられるのだ。
……むしろティレアさんは、ご自身の力をご存知ないのではなかろうか?
「ドリュアス様、唐突ですが、わが神について、邪神とはいかなるお方なのでしょうか?」
「ミ、ミレス、いまさらそれを聞くのか? 私がお前の忠誠のあり方にほんの少しだが、感銘を受け感動したというのに。そのお前がいまさら――」
「答えて下さい。重要なことです」
真剣な思いが伝わったのか、ドリュアスさんは知っている限りのティレアさんについての情報を話してくれた。
やはり。
今までのティレアさんの言動、事件、私の考察も加味して確信したものがある。
「ドリュアスさん、改めて質問があります」
「なんだ?」
「ティレア様は、あれほどのお力があって、何ゆえそれを隠そうとされるのですか?」
「勝利のために、あえて敵の油断をさそうためだ」
「いや、おかしいです。あれほどのお力がおありなのですよ。油断を誘う必要はないかと思います」
「それはティレア様の前世に影響しておられる。慎重に慎重を重ねてだな」
「違うと思います。そう思いませんか?」
ドリュアスさんに切り込む。
もともと切れ者として名高いドリュアスさんがわからないはずがない。
この矛盾に気づいてくれるはず。
私がいくつか話した仮説を聞いて、ドリュアスさんは黙り込む。
幾ばくか、顎に手をあてて考え込んでていたドリュアスさんがおもむろに顔を上げた。
「なるほど。流石だ、ミレス。お前の言うとおりかもしれん。いや、その通りだ。油断を誘うにしてはティレア様の行動は、あまりに消極的すぎる。よく考えればわかることだ。これは……」
「これは?」
「うむ。ティレア様が本気を出せば、世界征服などあっという間だ。ゲームを楽しんでおられるのやもしれんな」
違うよ。
人死をゲームだなんて、ティレアさんの性格ではない。世界征服をそんなおもちゃのように扱わない。
ティレアさんが力を隠す理由。
敵の油断を誘うわけでも、ゲームとして楽しむためでもない。
ドリュアスさんならわかってくれると思ったのに……。
「あの、ティレア様がお力を隠す真意をお聞きになったことはありますか?」
「いや、だが、聞くまでもなかろう」
なんだろう、何かがおかしい。
「ティレア様が、西通りの住人達の行動に涙を流されておりました。それをどう感じますか?」
「お優しいティレア様のことだ。害虫とはいえ、その忠誠に感動されたのだろう」
やっぱりおかしい。根本的なことを聞こう。
「ティレア様は、ご自身のお力をご存知ないのではないでしょうか?」
「ばかなことを!」
「本当ですか? しっかり考えてください」
「考えるまでもない。そんなことが、いや、待て。前に私も同じ推論を……」
ドリュアスさんも、思い当たる節があるらしい。
そうだ、おかしいのだ。誰もそのことに疑問をはさまない。
ティムちゃんもニールゼンさん、オルティッシオさん、何よりティレアさん本人が……。
「ドリュアスさん?」
ドリュアスさんの様子がおかしい。
口が半開きのまま固まっている。
「あ、あの?」
「どうした?」
「いやだから先ほどのお話ですよ。心当たりがあるって」
「何の話をしている?」
……怪我の後遺症かな?
あとでティムちゃんに診てもらおう。
それから同じ質問をして、また同じところで止まり、同じ答えが返ってきた。
ベルナンデスさんに聞いても同様の答えが返ってくる。
「ミレス、質問とは何を言っている?」
何度も質問しているこの現状を誰もおかしいと思っていない。
イレギュラーをイレギュラーと認識していないのだ。
闇の杖を握り締め、立ち上がる。
神経を集中させ、周囲を確認した。
間違いない。
これは誰かの攻撃を受けている!?
ドリュアスさん達は気づいていない。
何かの精神魔法、干渉系か洗脳系?
だが、上級魔人のドリュアスさんに攻撃を成功させ、あまつさえ微塵も気づかせないなんてあり得るのだろうか?
わからない。
魔力の残照も軌跡も残っていない。
「闇の杖」
『OK、マスター。周囲数キロに結界を展開しました。異常ありません』
「ミレス、いきなりどうした?」
「ドリュアスさん、信じられないでしょうが、何者かに攻撃を受けております」
「なんだと?」
ドリュアスさんが調査魔法を発動させた。
ベルナンデスさんが、警戒の陣を作った。
邪神軍最強の諜報部隊である。この警戒網にひっかからないはずがない。
「ミレス、調査魔法を広域に展開した。敵の攻撃など受けていない。異常なしだ。気の迷いだぞ」
「そ、そうですか」
ドリュアスさんの高調査魔法でもわからない。
ならば、私の闇魔法で痕跡を探せるわけがない。
ならば、最終手段だ。
やるしかない。
闇の杖を大車輪のごとく回す。
「闇の杖よ。天下に散らばるすべての謎を解き明かしたまえ。検索エンジン、ググル召喚!」
「ミレス、敵の攻撃は受けていない。邪神技まで使ってどうしたというのだ!」
ドリュアスさんの問いに呪文発動で返す。
「邪神探査魔法ググレカス」
探査魔法ググレカスが光のオーラとなり、ドリュアスさんとベルナンデスさん達第四師団全員を覆う。
邪神技を使った超深度調査魔法だ。
この魔法で調べられなければ、もう調べる方法はない。
そして……光が治まり見えたもの。
な、なによ、これ!?
い、いったいなにが起きているというの?
手足が震えて止まらない。
戦慄するのに十分な光景を目の当たりにしたのだ。




