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第三十一話 「駅前留学、トゥゲザーしようぜ!(後編)」

 エディムのゼノン語講座を受講して数時間が経過した。


 エディムが一生懸命教えてくれている。


 英語の文法やら構文やら黒板いっぱいに書いてくれたり、時に例題を作ったりしてくれた。会話も一本調子でなく、飽きさせない工夫もしてくれる。

 

 すごく懇切丁寧だ。


 頭が下がる。本当にエディムはいい子だね。


 ただ……。


 本当に、本当に申し訳ないです。もう全然、ついてけてない。

 

 始めは、なんか学校で習った構文で「懐かしい。そうそう、その辺習った、習ったよ」って聞いていた。


 SVO理論だっけ?


 その辺りから俺の記憶は怪しくなっていった。


 動詞って、過去形なら【ed】つけてりゃいいんじゃないの?


 さらには等位接続詞だの、従位接続詞だの……。


 そんなのやったけ?


 高度すぎる。


 二十一世紀の進んだ学問を学んだ俺がわからない。

 

 いや、正確に言うと、遊んでばかりでしっかり学んではなかった。けどさ~それでも、少しは勉強したよ。

 

 やっぱり、英語とゼノン語って同じようで違いがあるのかもしれない。


 とにかく疲れたよ。


 精神的疲労がやばい。こんだけ頭を使ったのはいつぶりかな。


 今は、例題を解答中……。

 

 エディムが作ったゼノン語の問題用紙とにらめっこしている。

 

 空欄を埋めよ、って奴だ。


 I bought a book, ( ) is written in Zenon.


 ・


 ・


 ・


 さっぱりわからない。


 そう言えば、オルはついていけてるのかな?


 オルのことだ。全部、空欄とかありえる。


 ちょっと様子を見てみてみよう。

 

 別にこれはテストじゃないから、カンニングにならない。オルがどれくらいできているか気になる。


「オル」


 オルの集中を邪魔しないように小声で声をかけた。


「ティレア様、どうされました?」


「いやさ~ここまで理解できてる? 関係代名詞って知ってた?」

「そうですな。記憶があいまいで、もやもやとしております。ただ、だいたいこういうのは【that】か【which】を入れていれば合っていたと思います」


 そう言ったオルの答案は、言葉通りかっこに【that】の羅列が綴られていた。


 おいおいおい、なんだそれは!

 解答欄は全て三作戦か!

 そんな下手な受験生みたいない方法が通用すると思ってんのか!


 やっぱりオルはオルだね。


 それからなんとか空欄を埋めて、エディム先生より模範解答を聴く。



 ……


 …………


 ………………



 な、なんだと!?


 衝撃が走った。


 意外にもオルの解答がけっこう当たっていたのだ。

 

 【that】作戦は案外有効?


 ただエディムから「次からはthat以外を用いて書いてください。というか全部that書きって舐めてませんか?」と注意されてたけど。


 へ、へぇ~や、やるじゃん。

 

 四十点ぐらいとれているんじゃないか?


 ん!? ち、ちょっと待て。


 四、五点とはいえオルに点数で負けているだと!


「オ、オル、あなた意外にやるわね」

「いえいえ、そこはたまたま覚えていただけです。それでも半分以上できませんでした。お恥ずかしい限りです。さすがに千年以上前の記憶ですので、ほとんど忘れていますね」


 くっ、中二病め。何が千年以上前だ!


 本当に要所要所で中二言語をぶっこんでくる。


 お前は、せいぜい数年ぶりぐらいの授業だろうが!


 俺は前世以来、本当に数十年ぶりなんだぞ。俺のほうが絶対に忘れている。


 うん、そうだよ。


 俺のほうがハンデが大きい。多少、オルに遅れをとっても不思議ではない。




 授業はさらに続く。




 エディムに授業の理解度を質問され、正直に答えた。


 エディムはひきつった笑顔を浮かべてた。


 本当にバカでごめんね。


 エディムは俺達の話を聞き、今度はゲーム感覚の授業を提案してきた。


 うん、これならできる。


 単語勝負でオルにリベンジだ。



 ……



 結論から言うと俺の負けだった。


 一方通行は【one way traffic】らしい。

 

 にわかには信じられなかった。

 

 ただ、秀才のエディムが自信を持って言うのだ。合っているのだろう。


 初めて知った。


 どうやら長い間、俺は勘違いをしていたようだ。

 

 前世、道に迷って袋小路に入る度に「おいおい、アクセレレ●ターにはまっちまったぜ。レベルファイブのこの俺としたことが」とか、よくかっこつけてたけど……。


 実に痛い子だった。

 また一つ黒歴史が増えてしまったよ。


 ま、まぁ、でも今は正解を知ったのだ。この調子で貪欲に知識を吸収しよう。

 

 そう決意を新たにしていると、エディムが授業の放棄を提案してきた。


 ゼノン語は俺の好きに決めればいいと。

 文法から単語も含め全て俺の思うがままに決めるべきだと。

 正しく書かれたゼノン語の書物は焼き、ゼノン語を話す学者は全て埋めてしまえばいいと。


 俺は始皇帝か!


 と突っ込みたいが、エディムの気持ちはわかる。


 授業が大変だったんだね。面倒くさくなっちゃったんだ。

 

 何せ俺とオルが生徒だ。ティムやドリュアス君みたいに物分りはよくない。


 そういえば、オルがけっこうエディムに暴言を吐いていた気がする。それなのにオルを注意しなかった。

 

 授業についていくのに必死で余裕がなかったとはいえ、これは不誠実だったね。


 エディムが怒るのも無理がない。


「めんどくさい」とか「いい加減にしろ」とか言わないで、中二病チックに授業をやめたいと意思表示しているのも実にエディムらしい。


 しょうがない。

 

 エディムに気持ちはわかったと伝え、居室を後にする。


 ふ~やっぱり俺に勉強は合わない。


 好きでもないことをやるのは大いに精神力を使うよ。


 原点に戻ろう。

 

 俺は料理人だ。お店を繁盛させたいなら、料理を研究すればいい。


 今回の件は、ゼノン人のお客さんに配慮するためだった……。


 今更ながらに気づいたよ。俺勉強する必要なくね。


 変態(ニールゼン)に負けて、オルに負けまいと頑張って勉強しようと思った。


 でもね、最初の主旨からいくと目標は達成している。


 通訳は、変態(ニールゼン)に任せたらいい。変態(ニールゼン)の語学力は十分に接客できるレベルだ。仮に変態(ニールゼン)が不在時にゼノン人のお客さんが来店したとしても、軍団員の誰かを引っ張ってくればいいだけだし。いつも誰か地下帝国をうろついているもんね。


 やばい。急速にやる気がなくなってきたぞ。


 俺は料理に専念する。それでいいじゃないか!


 俺が方針を転換していると、エディムが息をきらせて後をおってきた。


「テ、ティレア様」

「エディム」

「も、申し訳ございません。もう一度私にチャンスを。今度こそ、次こそティレア様にゼノン語を完璧にお教えいたします」


 エディムが悲壮な覚悟でそう言ってくる。


 こ、これは本当に申し訳ないことをした。


「エディム、ごめんね。私やっぱりゼノン語の習得はやめる」

「そ、そんな。私が無能なのは自覚しています。ですが、頑張ります。悪いところは全て直します。どうかどうか私にお慈悲を」

「いや、本当にごめんね。エディムが悪いんじゃないよ。今更ながらにね、ゼノン語習う意味あるのって気づいたのよ」

「そ、そうですか。確かにそうですよね。ティレア様がゼノン語を習得する意義がよくわかりませんでした」

「そうでしょ。いや、ぶっちゃけゼノン語が必要な場面に迫られても、ニールが、いや軍団員の誰かがいればいいわけでしょ」

「おっしゃるとおりです」

「本当に時間を取らせてごめんね。今度埋め合わせをするから」

「いえ、少しでもティレア様のお役にたてたのなら本望です。では、ゼノン語の授業は終了ということでよろしいでしょうか?」

「いや、それは待って。オルは頑張っているみたいじゃない。オルだけでも教えてやってよ」

「ぐはっ! あ、あ、そ、それは……」

「だめ? やっぱり忙しい?」

「はい、いや、その、忙しいのは忙しいのですが……」

「そっか。エディムには無理言えないよね。じゃあティムに頼んでみようかな」

「私がやります!」


 おぉ、なんかすごい勢いでエディムがのってきた。


「いいの?」

「はい、あのバカのためにカミーラ様のお時間を取らせるなんてありえません。到底許せることではありません」

「そ、そう。じゃあお願いね」


 エディムにオルの後事を託す。


 犬猿の仲の二人だけど、これを機会に仲良くなって欲しい。

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