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第三十話 「オルとエディムのゼノン語騒動!(後編)」

 ティレア様とバカティッシオの語学力を向上させる。お二人のレベルを考えるに、日常会話レベルまで到達するにはかなりの努力が必要だ。


 私に教えられるだろうか?


 うぅ、難易度Aクラスの任務を引き受けたに等しいよぉ。


 ううん、弱気はだめだ。これは主君からのご命令である。ノーとはいえない。何がなんでもこの任務成功させる。


 とりあえず、発音は後回しにしよう。


 二人の発音は共通語よりすぎて、一朝一夕では払拭できない。


 まずは文法からだ。文法の基礎を固めれば、おのずとネィティブな会話も意識できるはず。


 ティレア様もバカティッシオも文法がめちゃくちゃだ。


 これを直さないと先に進めない。


 私が五歳の時に読んだゼノン語講座を思い出せ。


 あの内容をわかりやすく、シンプルに教えるのだ。


「それでは恐れ入りますが、メモのご用意を」

「メモ?」

「はい、これからゼノン語の基礎をお教えします。重要な箇所は、書いて覚えてください」

「おぉ、学校の授業を思い出すよ。うんうん、よろしくね、エディム先生」


 ティレア様は、やる気に満ちたご反応だ。文句ばかりのバカティッシオも黒板やノートを用意して、一応協力している体を見せている。


 これならいけるかも……。


 それから、五歳児でもわかる内容でゼノン語の文法、基礎を教えた。進行形、受動態、完了形、過去形、過去分詞はお二人には難しいと思うので後回し。


 ティレア様とバカティッシオは静かに聴いてくれている。


「……で三単現のSをつけます。さらにここは第二文型ですので、主語と動詞に補語を加えます」


 ひととおり説明した。


 黒板いっぱいに構文を書き出し、時には例文や重要語句をメモに書いて教材とした。


 ぶっ続けで三時間ぐらいかな。


 学園なら、この辺で休憩をとる。人の集中は、それほど長く続かないからだ。


 お二人の体力なら平気だろう。このまま一週間、一ヶ月続けても問題ない。


 まだまだ覚えて欲しいことは山ほどある。今、教えていることは最低限知ってて欲しい基礎中の基礎だ。


 このまま、ある程度きりがよいところまで授業をしたい。そうすればゼノン語で最低限の会話ができるはずだ。


 ただ、このまま進めてもよいのか不安が残る。


 静かに聴いてくれたのは良かったが、本当にご理解してくださったのか?


「ここまででご質問はないでしょうか?」


 反応がない。


 ティレア様は、即興で作った教材をじっと見つめながら、くるくるペンを回している。


 すごい。


 超高速のペン回しだ。


 吸血鬼の発達した動体視力でも追えない。


 ペン回しという些細な事象ですら、ティレア様のお力の凄さを実感する。


 これだけのお力を持っているお方がなぜゼノン語を習得する必要があるのだろうか?


 わからない。ティレア様のお考えは理解できない。


 ま、まぁ、ティレア様のお考えが理解できないのは、いつものことだ。それを気にしていたらきりがない。


 それより今はゼノン語だ。


 私が理解できないのはいい。ティレア様が私の授業をご理解できたかが重要だ。


「あの~それでティレア様?」

「……」


 反応がない。


 ならば……。


「ティレア様!」

「ほひゃあ! あ、ごめん、ごめん。ちょっとトリップしてた」


 少し大きめにお声をかけたので、ティレア様がお気づきになった。よほど集中されていたようである。


 ちなみにバカティッシオは、こちらの質問に気づいているのかわからない。教材を見ながらうなっている。


 このバカ、ちゃんとついて来ているのか?


「それでティレア様、オルティッシオ様、ここまでご理解できたでしょうか?」

「そうね~わからないことがわかったかな」

「そうだな。貴様が無能教師ということがわかったぞ。もう少しわかりやすく教えんか!」


 そ、そうですか。


 本当に最低限の知識なんですが……。


 う~ん、き、厳しい。厳しすぎるよぉ。


 あとバカティッシオは殺す!


 とりあえずバカは無視するとして……どこがわからないのかお聞きしよう。


「あの~どの辺がわかりずらかったのでしょうか?」

「えっとね、エスブイオオとかエスブイオシーとか何って感じ? こんなの習ったかなぁ~英語ではなかったよ。うん、そうだ。ゼノン語独自の理論だよね」


 エ、エイゴ?

 ゼノン語の授業ですよね?


 相変わらずティレア様はよくわからない。


「オルティッシオ様は、どうですか?」

「私も同じだ。わけがわからん。主語だの補語だの。特に修飾語がどこにかかるかなど、どうでもよかろうが!」


 バカティッシオが逆切れして答える。


 本当にこいつは……。


 だからテメーはバカなんだ。ゼノン語の文法はな、SV理論さえ抑えておけば、最低限どうにかなるんだ。文句を言う暇があったら構文の一つでも覚えろ。


 はぁ、はぁ、はぁ、眩暈がしてきた。


 この三時間が無駄だったようだ。二人ともゼノン語の基礎をまるで理解していない。これ以上、先に進んでもチンプンカンプンだろう。


 どうしようか?


 これ以上、授業のレベルを下げる?


 む、無理。それは絶対に無理だ。


 これ以上レベルを下げたら、ティレア様をバカにしたような幼児レベルの授業になってしまう。今の授業でさえ、知る人が知れば、バカにしてんのかと激怒してもおかしくないレベルなのに。


 うぅ、こんな授業をしていたのがカミーラ様にばれようものなら「お姉様に対する不敬!」と処断されるのは間違いない。


 冷や汗ものの授業だったのだ。


 ……しかたがない。


 発音も文法も後回しにしよう。


 お二人にはまだ文法構文は早すぎたようだ。


 なんか後回しにする項目が多すぎる気もするが、二人の課題はまだまだ山ほどある。


 語彙の不足も問題だ。単語を覚えていないと、話にならない。


 では、方針を語彙力の強化に変更しよう。


「わかりました。ではティレア様、オルティッシオ様にはゼノン語の単語を覚えてもらいます。今から問題を作りますので、空欄を埋めてください」

「うぅ、単語テストだね。なんか学校の嫌な思い出がフラッシュバックしてきた。エディム、テストよりゲーム感覚で覚えたいな」

「ティレア様の仰るとおりです。エディム、貴様の授業は退屈だ。まさに貴様の能力そのもの。少しは頭をつかえ!」


 くっ、殺す!


 ふぅ、頭を使ってお前を殺したくなる。


 ってだからだめなんだ。バカティッシオのいう事を気にしてたら、こちらの負けだ。


 冷静に分析する。


 ティレア様やバカティッシオの場合、テスト形式でやっても能率が上がらない気がする。もっとゲーム形式で……ティレア様が集中できるように。


 ……

 …………

 ………………


 そうだ!


「では、ティレア様、オルティッシオ様、お二人でゼノン語を出し合うというのはいかがでしょうか? 審判は私がやります。答えにつまったり、間違えば負けというゲームです」

「おぉ、確かに面白いね。やろう、やろう。オル、負けないよ」

「はっ。それではティレア様、胸をお借りします」


 本当に昔、子供の頃に遊んだゲームだ。魔法学園への試験勉強の息抜きでよくやった。


 思い出せてよかったよ。


 どうやらティレア様に気に入ってもらえたようである。


「それじゃあ私からやるね。りんごは、アッポォ!」

「ティレア様、正解です。ではオルティッシオ様」

「力はパワーですな」

「正解です。ではティレア様」

「じゃあ、バナナは、バナァ~ナァ!」

「正解です。ではオルティッシオ様」

「うむ、では――」


 二人の勝負は続いていく。


 魔法学生同士で行えば、一日では勝負が終わらない。魔法学生ならば、ゼノン語は何十万語以上把握している。


 体力の続く限り勝負できるだろう。


 ティレア様とバカティッシオの場合は、数十分程度で決着がつくかな。お二人の語彙力はせいぜい千五百語程度だ。


 言い合いをしていれば、そのうち……。


「え、えっと、えっと……あ~りんごもみかんももう言ったよなぁ~」


 六百七十回目……ティレア様のターンだ。


 この辺が勝負時と考えていた。


 ティレア様が苦心されておられる。


 食べ物関係で攻めていたティレア様も語彙が底を突いたようだ。


 ティレア様、頑張ってください。バカティッシオも限界です。さきほどのバカティッシオの回答もぎりぎりでした。


 次に回せば、バカティッシオは回答できません。あなた様の勝利ですよ。


「え、え~と、え~と、あ、そうだ! 一方通行でアクセレ●ター!」


 あぁ、ティレア様……。


 残念です。それは間違いです。ティレア様、ここにきてもったいない。


 どうしようか?


 ティレア様が敗北するのは、たかがゲームでもまずい。正解って嘘をつくか。いや、でも間違いを正解って報告するほうが不敬かもしれない。


「すみません、ティレア様。それは間違いです」

「えええ、うそぉお! 間違いじゃないでしょ」

「いえ、本当に申し訳ございません。不正解です」

「ううん、そんなことない。これは絶対にあっている。ふふ、弘法も筆の誤りってやつ? 秀才のエディムでも間違うことがあるんだね」


 いつもは素直に誤りをお認めになられるのに。


 ティレア様はいつになく強気だ。


「いえ、本当に違います」

「まじでアクセレレ●ターじゃない?」

「はい」

「じゃあアクセレロリ●タ?」

「ティレア様、【accelerator】は加速者という意味です。一方通行であれば【one way traffic】ですよ」

「えっ!? なんか正解を聞いても全然ピンとこないんだけど……。一方通行って感じがしない」

「はぁ、そう仰られても……それが正解としか……」

「エディム、貴様はティレア様のお言葉を疑う気か! ティレア様がアクセロリタと言えばアクセロリタだ!」


 くっ、バカティッシオめ!


 だが、奴のいう事にも一理ある。


 天下に覇を唱える絶大な主君のお言葉だ。どちらが正しいかは明白である。そう、間違っているのは今までの常識であり世界だ。


 ティレア様が正しい。


 今をもって一方通行はアクセレロリ●タとなったのだ。


「た、大変失礼致しました! そうですね、オルティッシオ様の仰るとおり、ティレア様が絶対の掟です。これからは一方通行をアクセレロリ●タと命名しましょう。全ての書物に注釈を入れ、歯向かう者には坑儒を実行します」

「エディム」

「は、はい」

「ふざけないでね」

「いえ、ふざけてなど……そ、そうですよ、よく考えたらそうでした。ティレア様が前例に合わせるなどありえません。もういっそゼノン語自体、発音、文法、すべてティレア様のお好きにお決めになればいいんです。ご安心ください。反対する者は全員処刑しましょう。簡単です。邪神軍のお力を見せたら簡単にかたがつきますよ」

「エディム」

「は、はい」

「おバカな私達に何時間もつきあってくれてありがとね。教えるのがめんどいなら、そう言ってくれればいいよ。そんな婉曲に言わなくてもわかったから」


 ティレア様は立ち上がると、スタスタと居室の外に歩いて行かれた。


「えっ? えっ? え~と?」

「エディム、言語道断だ。ティレア様に対する不遜、あとで腹を切っておけ。無論、ゼノン語の授業を終えてからだ」


 どうやらバカティッシオはこのまま居座る気満々らしい。


 ティレア様がいらっしゃらないのに、だれがお前に教えるか!


 とにかくティレア様に勘違いをされた。このバカはさておき、ティレア様の後を追わねばならない。

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