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第二十六話 「現代知識って誤解されちゃうよね(後編)」

 ミレスちゃんに現代医学を教えないとね。


 俺は、人工呼吸の練習に欠かせないとある物を取りに物置に向かう。


 そう、それは……。


 ジャジャーン!!


 ふふ、なにをかくそう俺は、ドライヤーの他に人工呼吸練習用の人体模型(ゴーレム)を作らせていたのだ!


 わはは!


 この人体模型(ゴーレム)、そんじょそこらのチャチな代物じゃない。もちろん、ダッチな妻じゃないよ。女性型だが、北斗に出てくるユ●ア人形みたいにすごいリアルなのだ。魔法ってすごいよね。ロリ●ンタル社もびっくりだ。


 しかも、詳しい原理はさっぱりだが、きちんと呼吸もするんだよ。ティムが俺の心臓とか肺とかの説明を聞いて、人体模型(ゴーレム)に反映させたとか。


 魔法ってすごすぎ。


 もちろん資金はオルに出してもらった。設計は、第一線で働く優秀な魔法技師を呼んで知恵を貸してくれたんだと思う。いくら秀才のティムでもまだ学生だ。ティム達だけでは全てを作ることはまだできないだろうしね。


 物置にしまってあるユ●ア二式人形を取り出す。


 う~ん、久しぶりに見たが、やはりすごいなぁ。


 人間さながらの肌の質感。

 正確に鼓動する心臓。


 眠っている人間と言われてもおかしくないラブドールだ。


 改めて思う。


 これ、作るのにけっこうな額を使ったんじゃなかろうか?


 またしてもオル家に迷惑をかけてしまった。


 だが……いいのだ。人工呼吸の大切さを世に広めるためである。いわば人助けであり、意義のある行為なのだから。


 これで実演しよう。


 南極一号もとい人工呼吸用ユ●ア二式人体模型(ゴーレム)を持って、ミレスちゃんが待つ部屋へと戻る。


 部屋に入ると、


 あれれ?


 ミレスちゃんが固まってる。


 口をぱっかり空けてあんぐりしているのだ。


「ミレスちゃん、お待たせ――ってどうしたの? そんな鳩が魔法弾を食らったような顔をして」

「死体……ですか?」

「いやいやいや、そんなわけないでしょ。これは人形だよ」

「えっ!? それ人形なんですか!」


 ミレスちゃんが驚いている。


 わかる、わかるよ。ミレスちゃんが疑うのもわかる。


 それぐらいすごく精巧な人形だからね。ぱっと見、普通の人間にしか見えない。


「ティレアさん、触ってもいいですか?」

「いいよ」


 ミレスちゃんは人工呼吸用人体模型(ゴーレム)一号におそるおそる手を伸ばす。


 そして、ぺたぺたと触り始めた。


 顔や手足、関節の可動部も興味深げに見て触っている。


 ペタペタペタペタ、色んなところを触ったり動かしたり「これ、未知の魔法技術よね!」とか「魔法大国ゼノンの最新式かも!」とか興奮していた。


 この人体模型(ゴーレム)、ミレスちゃんの知的好奇心を大いに刺激したようだね。


 ミレスちゃんは、人体模型(ゴーレム)を触る、触る。


 しまいには人体模型(ゴーレム)の胸やあんなところまで触って――ってそこはやめたほうがいいよ。オルが夜な夜な使ってるかもしれないからね。カピカピになっているかも。


 俺の心配をよそにしばらく人体模型(ゴーレム)を弄んでいたミレスちゃんだが、ようやく満足したようだ。


 人体模型(ゴーレム)を離し、ふ~っと息をついた。


「すごいゴーレムですね。どらいやーもすごかったですけど、これには(かす)みます」


 ミレスちゃんの驚き疲れたような表情……。


 なにげなしに頼んだ人体模型(ゴーレム)だが、とことん高価な代物だったのはもはや間違いない。一体どれほどオル家の財産を消費したのだろう。


 冷静になると、これはけっこうシャレにならないかもしれない。オルにこれまでかかった費用を聞くのが怖い。


 ま、まぁ、でも、救命道具だ。世に必要なものだよ。損して得取れってやつだね。そのうち、学校や公共機関で正式に採用されれば、元は取れる。


 それに人助けにもなって一石二鳥だ。


 さてさて、色々考えさせられたが、本題を忘れちゃいけない。ミレスちゃんに意識革命してもらわないとね。


 人体模型(ゴーレム)を横たわらせると、水を人体模型(ゴーレム)の口に注ぎ込む。人体模型(ゴーレム)の胸が膨張していく。


 こうすると、溺者と同じ状態になって呼吸が浅くなるのだ。


 しばらく水を注いでいると、人体模型(ゴーレム)の呼吸が浅くなった。


 さぁ、マニュアルどおりやるぞ。


 人体模型(ゴーレム)の顔を上げて、気道を確保。

 次に、人体模型(ゴーレム)の口に息を吹き込み、人体模型(ゴーレム)の心臓を押す。


 一、二、一、二……。


 五分ほど、規則的に繰り返した。


 うん、イメージどおりにやれたかな。


 さぁ、ミレスちゃんの反応はいかに?


 ミレスちゃんを見る。


 怪訝な顔をしているね。


 ミレスちゃんは眉をひそめ、胡散臭そうに見ていた。


 まぁ、新技術ってのは、広まるのに時間がかかってしまうもの。長期的な視野でことにあたらないといけない。


「ミ、ミレスちゃん、一見人工呼吸は、意味のないように見えるよ。でもね、ちゃんと意味があるの。こうすることで溺れた人体模型(ゴーレム)の呼吸が正常に復帰するんだから」

「ティレアさん、そのすばらしいゴーレムですが、息止まってますよ」

「およ?」


 ミレスちゃんの指摘どおり、周期的に循環していた呼吸が止まっていた。


 しょせん人体模型(ゴーレム)人体模型(ゴーレム)ってこと?


 人間とは違うのか?


 人工呼吸したら息が止まるってありえないんだけど。


 あ! もしや壊れたのかも?


 俺は手順通りやった。しかも、この人体模型(ゴーレム)は【魔族百人が攻撃しても大丈夫】が売りのイナバ式設計で作られたらしい。


 ティムがそう太鼓判を押してた。


 魔族うんぬんは大げさとしても、かなり頑丈なはずだ。


 ちょっと力を入れ過ぎたかな?


 まぁ、精密機械はシビアに使わないと壊れやすいからね。この人体模型(ゴーレム)かなり精密に作ってあるとも聞いた。もう少し丁寧に扱ったほうがよかったかもしれん。


 あ~壊しちゃったなぁ。


 どうしよう? 保証書効くかな?


 人形の修理についてあれこれ悩んでいると、ミレスちゃんがはぁ~とため息をつくのが聞こえた。


 まずい。俺の様子を見て、ミレスちゃんがますます不審がっている。これでは人工呼吸の意義なんてまるで理解していないだろう。


 こうなれば、ピンチをチャンスに変えるしかない。もう一つの秘密兵器でミレスちゃんのハートをがっちり掴んでやる。


 今のゴーレムの状態は心肺停止の状態だ。呼吸が止まって息をしていないからね。こういう場合の対処もばっちり考えてある。


 そう、心臓が止まったときはこれだ。


「ミレスちゃん、安心して。こういうときに備えて、いいものがあるんだよ」

「はぁ……」


 あきれ顔のミレスちゃんをよそにAED(ティレア方式)を持ってくる。AEDとは、自動体外式除なんちゃらを差す。


 詳しい呼び名は知らないよ。


 簡単に言うと、心停止した患者を電気ショックを与えて蘇らせる機器のことである。強い電流を一瞬流して心臓にショックを与えることで、心臓の状態を正常に戻すのだ。


 これもティムやドリュアス君に相談して作らせた。資金はまたしてもオル基金から募った。AED(ティレア方式)では、電流を流すため、雷魔法を蓄えた魔石が混入してある。


 ボタンを押すと、魔石に負荷が働き雷魔法が発動するのだ。


 チャージ―ってやつだね。


「見ててね」


 AED(ティレア方式)の電極パットを持つ。


「チャージ!!」


 掛け声とともに 人体模型(ゴーレム)の胸、心臓部分に電極パットをあてた。


 ビリビリと空気中に帯電しているのがわかる。


 はじげてるね。


「な、何をやってんですか?」

「蘇生だよ」

「ほ、本気ですか?」

「うん、今の状態が心臓が止まっていると仮定して……」


 AED(ティレア方式)の電極パットをミレスちゃんに見せながら、その概要を説明した。


「……要するに、それ雷魔法を出す装置ですよね?」

「うん、そうだよ」

「それを……溺れた人に押しつけるんですか?」

「そうだね」


 ミレスちゃんがわなわなと震えている。


「ミレスちゃん、どうしたの?」

「どこの未開人ですかぁああ! ありえませんよぉお!」


 ミレスちゃんが大声を張り上げて反論した。


 み、未開って……ひどいなぁ。


 これ、二十一世紀の科学技術が生んだ技術の結晶だよ。今の時代より五百年は確実に進んでいる技術なのに。


「ミレスちゃん、この装置、一見乱暴に見える。だけど、これは科学的知識に基づいた治療なのよ」

「ありえませんって! 溺れてただでさえ弱っているところに電流を流すって鬼ですか! その人、ショック死しますよ」


 ミレスちゃん、手ごわい。一見辻褄合ってるから説得しづらいよ。


 だが、負けてたまるか!


 俺は、元日本人。日本の科学力は世界一だぁああ!


「ミレスちゃん、安心して。その電流が止まった心臓を動かしてくれるんだよ」

「ス、スパルタにもほどがあります。雷魔法は、闇魔法に次いで高い攻撃魔法なんですよ。それを人に当てるんですか?」

「も、もちろん電流の強さは調整してあるよ。死ぬほど強い電気は流さないから」

「調整している、だから大丈夫。そう言って何年か前にある教師が雷魔法を使って生徒をしごき殺した事件がありましたね」

「そ、そうなんだ」

「他にもありますよ。某国では斬首刑についで雷撃刑があるんです。さらに言えば、特殊部隊では、懲罰の一環で電流を流されるなんて聞いたことがありますね~」

「こ、怖いね」

「そうでしょ。だいたいティレアさん、雷魔法ってなんV(ボルト)あるか知ってます?」

「知らない。十万V(ボルト)ぐらい?」

「百万V(ボルト)から十億V(ボルト)まで千差万別です。そして、どんなに調整して弱くしても雷にあてられたら人間の身体は壊れます。決して雷魔法を救助に使うなんてしてはいけませんよ」

「う、うん。じゃあ水難救助はどうするの?」

「普通は、体力を回復させるためポーションを飲ませるか、回復魔法をかけます。あと、溺れて興奮状態に陥っているかもしれません。軽く睡眠魔法をかけて眠らせておくのも一つの手ですね」


 ミレスちゃん、中世の人なのに……。

 絶対王政の人なのに……。


 未来人の俺が説得されそうになっている。

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