表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
187/256

第十八話 「ミレスとティレアの会合(前編)」

 午前の授業が終わり、ミレスは学園の中庭へと足を向ける。


 日課となったティムちゃんとの昼食だ。


 陽光が降り注ぐ中庭の一角――特別に設えられたコテージに、上質なソファーが並んでいる。最上級生の中でも限られた者だけが使える、学園随一の特等席。


 かつては想像すらできなかった。


 ここは学園の女王、エリザベスの聖域。下級生が立ち入れば、待っているのは容赦ない制裁だった。それが今では、ティムちゃん専用の特別席になっている。


 次々と現れる刺客を一蹴し、あのエリザベスさえ黙らせた少女。そんなティムちゃんに、誰が逆らえようか。


 かつては、ティムちゃんに明確な抵抗こそ示さないものの、距離を置いて警戒する上級生もいた。今ではそれすら過去のものだ。アナスィー先輩が、ティムちゃんに害意を向ける者たちに対し、狂気じみた行動で徹底的な牽制を行っているからである。


 あの暴風雨のようなエリザベスでさえ、ティムちゃんの前では沈黙を保っている。その結果、学園におけるティムちゃんの影響力は日ごとに増大していった。


 女王の失墜により、現在の学園の勢力図は六つの派閥に分類される。


 エリザベスに与する者。

 アナスィー先輩に同調し、ティムちゃんを支持する者。

 両者を天秤にかけ、静観を決め込む者——あるいは漁夫の利を狙う野心家たち。

 ただひたすら両者の脅威に怯え、恭順の意を示す者。

 両者の横暴に憤り、生徒会のムヴォーデリ会長の台頭に期待を寄せる者。


 学園は今、戦国時代の様相を呈している。野心を隠そうともしない高位貴族たちが、虎視眈々と学園の支配権を狙っているのだ。己の権威を少しでも高めようと、エリザベスやティムちゃんに擦り寄ってくる貴族は後を絶たない。


 この学園戦国時代において、対応を誤れば一気に敵対勢力へと天秤が傾く。今まで中立を保っていた勢力が牙を剥くだろう。ティムちゃんはすでにエリザベスと敵対している。これからの行動は、慎重の上にも慎重を期すべきだ。


 こんな混沌とした状況でもティムちゃんは変わらない。


 悠然とソファーに座り、弁当箱をテーブルに置く。その所作には一片の迷いもない。


 でも――

 これ、まずいよね。


 毎日毎日、下級生が特等席を独占するなんて。上級生達は表立って文句を言わないけれど、内心の不満はくすぶり続けているはず。これ以上反感を買えば、いつか爆発するだろう。


「カミーラ様」

「なんだ?」

「私達、毎日この場所を独占しているよね?」

「それがどうした?」

「あのね、さすがに毎日はまずいと思うの。週に一、二回は上級生に譲ってもいいと思うんだけど……」

「なぜ我が愚物に遠慮して席を譲らねばならん」


 ティムちゃんは首をかしげ、心外とばかりに不満を漏らす。


「で、でも、一応決まりというか、下級生は上級生を立てるのが学園の伝統でもあるし……」

「決まり? 伝統? くだらん! ミレス、あまり我を失望させるな」

「うぅ。で、でもね、このままだとカミーラ様のためによくないよ。ここは少しくらいは我慢を――いたぁ!」


 額に鋭い衝撃が走った。ティムちゃんのでこピンだ。


 視界が一瞬、白く染まる。


 痛い――いや、痛いなんてものじゃない。頭蓋骨に直接響くような、容赦ない一撃。軽く弾いただけのはずなのに、まるで鉄槌で殴られたみたい。


 ティムちゃんの指は、どんな貴族よりも綺麗で上品だ。白磁のように滑らかで、芸術品のような繊細さを持っている。なのに、その指から放たれる力は、剛力自慢の大男すら凌駕する。


「いたた……」


 額を押さえてうずくまる私の顎を、ティムちゃんの手がむんずと掴んだ。有無を言わさぬ力で、顔を強引に持ち上げられる。


「ミレス、我は誰だ?」


 至近距離で、ティムちゃんの赤い瞳が私をじっと見据えている。


「え、え~とカミーラ様?」

「そう、我はカミーラだ。魔法にかけては右に出る者はいない。最強の魔道士だ。我に命令できるのはお姉様ただお一人。文句がある奴は全て叩き伏せる」

「カ、カミーラ様、そんな態度だと上級生全員を敵にまわしちゃうよ」

「それは重畳。十把一絡げであるが、多少は楽しめるか。では、なおさら煽って(おもちゃ)を増やさねばな」


 あぁ、傲岸不遜……。


 わかっていたのにまたやってしまった。ティムちゃんが上級生に気を遣うわけがない。敵対する者は容赦なく倒すを信条としているもんね。


「カミーラ様、味方を増やす意味でも――」

「ミレス、これから勿体なくもお姉様お手製のお弁当を食するのだ。あまりくだらんことばかり抜かすな」

「ご、ごめんね」


 うん、あまり生々しい話をするのも無粋だ。せっかくの楽しい昼食である。学生らしい会話を心がけよう。


「カミーラ様、そういえばもうそろそろ期末試験だよ。準備はしてる?」

「準備? くだらん。あのような些事になぜ我が時間をさかねばならん」


 試験が些細って……。


 毎年、学園生徒の数パーセントが留年や退学の憂き目に遭う。ここにいる者は皆、故郷では神童と呼ばれた秀才ばかり。そんな彼らが必死に凌ぎを削る、それが王都魔法学園の試験なのだ。


 まぁ、ティムちゃんには関係ないんだろうけど。


 筆記も実技も常に首席。大貴族エリザベスに睨まれても動じず、王都が誇る難関試験も「些事」の一言で容赦なく切り捨てる。


 本当に、人間離れしてる。ティムちゃんが何かに動揺する――そんな場面、想像すらできない。


 そう思いながらティムちゃんを見ていると、


「では、いただくとしよう」


 ティムちゃんが満足げに頷き、弁当箱に手を伸ばす。

 いつものように、優雅に蓋を開けた。


 その瞬間――

 時間が止まった。


「……」


 ティムちゃんの動きが、ぴたりと止まる。

 手は弁当箱の蓋を持ったまま。顔は中を覗き込んだまま。石像のように、微動だにしない。


「カミーラ様?」


 返事がない。


「ティムちゃん?」


 それでも反応がない。


 ティムちゃんの口がぽかんと開いている。目が見開かれている。まるで、この世の終わりでも見たかのように。


 え? 何? 何が起きたの?

 うそ――ティムちゃんが、唖然としてる?


 あの、常に余裕綽々で、どんな状況でも動じないティムちゃんが!


「カミーラ様? どうしたの?」


 恐る恐る尋ねると、ティムちゃんはゆっくりと――本当に、信じられないほどゆっくりと――弁当箱をテーブルに置いた。


 危険な魔法薬でも扱うような、慎重な動き。そして震える手で、弁当箱を私の方へ向ける。


「ミレス……これを……見よ……」


 掠れた声だった。


 ティムちゃんの声が――震えている!


 慌てて弁当箱を覗き込んだ。


「あ……」


 空っぽだった。


 いつもなら色とりどりの料理が、芸術品のように美しく盛り付けられている。それが――何もない。


 真っ白な、虚無だけが広がっている。


「か、空っぽ……」

「そうだ……空っぽだ……」


 ティムちゃんが、魂の抜けた声で繰り返す。


 そして――


「な、なんてことだ……」


 その顔から、みるみる血の気が引いていく。


「わ、我は……とうとう……お姉様から……見捨てられたのかぁあああああ!!」


 悲痛な――あまりにも悲痛な――絶叫が、中庭に響き渡った。


 周囲の学生たちが一斉に振り向く。だがティムちゃんは、そんなこと気にも留めない。いや、気づいてすらいないだろう。


 硬直していたティムちゃんは意識を取り戻すと、見ていられないほど狼狽え始めたのだ。


「お姉様が、お姉様が我を……」


 ティムちゃんの目に、涙!?


 札付きの不良共に囲まれても平然としていたティムちゃんが、涙目になっている。しかも、額にだらだら汗が流れているのだ。まるでものすごいプレッシャーに晒されているかのように。


「カミーラ様、落ち着いて。きっと何か手違いがあったんだよ」

「き、貴様に何がわかる!」

「ひぃい!」


 ティムちゃんの鬼気迫る態度に思わず椅子から転げ落ちてしまった。


 お尻を打って痛いけど、それどころじゃない。


 ティムちゃんの目が、本気だ。本気で、怖がっている。


「この空っぽの弁当箱……これは……お姉様からの……」


 ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。


「お姉様は……我に餓死しろとのお達しなのだ……!」

「えぇえ!? そ、そうなの!」

「そうに決まっておろう!」


 ティムちゃんが立ち上がった。

 そして、空を見上げる。


「お姉様は……いつまでも空を切れない我に、あきれられたのだ……」


 い、いや、空を切るって……わけがわからないよ。


「……そ、それとも……一度お姉様に反旗を翻したから? いや……ふがいない部下を持った監督責任の問題か……? それとも……」


 ティムちゃんは肩を落とし、どんどん落ち込んでいく。


「先日の任務の報告が不十分だったか? もしや、屋敷の掃除が行き届いていなかったとか……? あぁ、昨日お姉様の髪を梳かすときに、三本抜けてしまった! あれが原因かもしれん!?」


 なんて絶望に瀕した顔なのだろう。


 あれほど自信に溢れたティムちゃんが、今は小鳥のように弱々しい。いや、小鳥どころか、ひよこみたいに頼りなく見える。


「お姉様……お姉様……」


 ティムちゃんが、まるで呪文のように繰り返している。


 なんとか元気づけてあげなきゃ!


「あ、あの、とりあえず私のお弁当をわけてあげるから。ほら、今日はエビフライもあるし――」

「うぬぅ!」


 ティムちゃんが私の手を払いのけた。


「貴様は我にお姉様のお言いつけを破らせる気か!」

「え、で、でも……」

「お姉様が我に弁当を与えなかったのだ。それは、我が食事をする資格がないということ! ならば我は、このまま餓死する!」


 そう言って瞠目するティムちゃん。


 本気でこのまま何も食べない気なの?


 ティムちゃんの顔色を窺う。


 ティムちゃんは私の弁当から目を逸らすと、箸にすら触れず、目を瞑り居住まいを正した。

 背筋をぴんと伸ばし、両手を膝の上に置き、まるで座禅でも組むかのような姿勢。


 そのままテコでも動かない気らしい。

 食事を一切口にせず、そのまま即身仏となるような覚悟が伝わってくる。


 ほ、本気っぽい!

 本気で餓死するつもりだ!


「カミーラ様、それはさすがにまずいよ。何も食べないなんて死んじゃうよ!」

「構わん。我はお姉様のお心に従うのみ」

「で、でも――」

「ミレス、これ以上言うな。我の決意は固い」


 ティムちゃんの声には、揺るぎない決意が込められていた。


 どうしよう?

 本当に、どうしよう?

 お姉さんに連絡しようか?


 いや、でも連絡手段が――私が悲嘆にくれていると、


「カミ~ラ様ぁ!」


 その声に、心臓が跳ね上がった。


 聞き覚えのある声。

 何度も何度も、夢の中で呼びかけた声。

 どこにいるの、何をしているの、と問いかけ続けた声。


 まさか――

 振り向くと、エディムがそこにいた。


「エディム......」


 息が、止まる。

 胸の奥から熱いものが込み上げてくる。視界がにじむ。

 涙なのか、それとも――


 どれだけ心配したと思ってるの?

 どれだけ会いたかったか。


 学園に来なくなって、手紙を送っても返事がなくて。もしかしたら何か大変なことに巻き込まれているんじゃないか。毎晩そう思って、眠れなかった。


 音信不通だった親友が、今、目の前にいる。


「エディム!」


 立ち上がった。駆け寄ろうとした。


 でも――足が、止まる。


 エディムは私を見ていなかった。

 その眼差しはまっすぐティムちゃんへ向けられている。両手で包みを丁寧に持ち、恭しく差し出している。


 私という存在が、最初から視界に入っていないかのように。


 いや、違う。


 エディムの目には私が映っている。映っているはずだ。でも――その瞳は私を「認識」していない。


 路傍の石ころを見るような。あるいは空気の一部を見るような。そんな、無関心な眼差し。


 心臓が、不快な音を立てて鳴った。


「ティレア様が今朝間違えて空の弁当箱をお渡しになったそうです。私はティレア様の命を受け、お弁当を届けに参りました」


 エディムの声には、今まで聞いたことのない畏敬が滲んでいた。


 澄んだ、けれど遠い声。


 私が知っているエディムの声じゃない。私が知っているエディムは、もっと温かくて、もっと近くて、冗談を言っては笑い合える、そんな親友だった。


 今、目の前にいるエディムは――誰?


「エ、エディム……これは我の? お姉様が?」


 項垂れていたティムちゃんが、縋るように顔を上げる。


「はい。カミーラ様」


 エディムは深々と頭を下げた。まるで王族に仕えるメイドのように、完璧な所作で。


「ティレア様は『うっかり空の弁当箱を持たせてしまった。ティムが心配しているだろうから、すぐに届けてあげて』とおっしゃっておりました」

「そ、そうか。そうよの。うん、お姉様が我をお見捨てになるわけがない。偉大でどこまでもお優しいお方なのだ」


 お姉さんからの弁当を受け取り、ティムちゃんは見る見る元気を取り戻した。


 うんうん良かった、良かったね。本当に良かった――じゃ、ない。じゃないよ。どういうことよ!


「エディム!」


 声を張り上げた。もう、耐えられなかった。


 エディムがゆっくりと、ほんの少しだけこちらを向く。


「ミレス? あんた、こんなところで何をしている?」

「それはこっちのセリフよ! エディム、今までいったいどこで何をしてたのよ!」


 叫び声に近い声で詰問した。


 声が震えている。怒っているのか、悲しいのか、自分でもわからない。


 興奮する私と対照的に、エディムは冷静そのものだった。眉一つ動かさず、表情一つ変えず。ただ静かに、私を見下ろしている。


 こっちはこんなに心配してたのに。

 こっちはこんなに会いたかったのに。

 エディムは、何も感じていないみたいだ。


「カミーラ様、こいつは?」

「ミレスは我の新しいおもちゃだ」

「……そうですか」


 エディムは静かに頷いた。


 そして――


 その瞬間、エディムの態度が変わった。


 虫を見るような無関心な眼差しから、一転して――私という存在を「初めて認識した」ような表情になる。


 いや、正確には違う。「認識する価値がある」と判断された。そんな変化のように思える。


 エディムが私の眼を、しっかりと見据えてきた。

 

 初めて。

 本当の意味で、私を「見てくれた」。


「ミレス、あんたは幸運だ。しっかりその栄誉をかみ締めておけ」

「はぁ? エディム何を言って――」

「あんたは昔から要領がよかった。本当に運がいい。見事といってもよいな。今度その処世術を私に教えて欲しいぐらいだ」


 処世術――?

 要領がいい――?

 それって、私がティムちゃんに取り入ったとでも?

 計算ずくでこうなったとでも?


「エディム、ちょっと待って。私は別に――」

「それでは任務に戻ります」


 私の言葉を遮るように、エディムはティムちゃんへ向き直る。


「うむ」


 ティムちゃんが頷く。


「あ、ち、ちょっと待った!」


 エディムの背中に手を伸ばす。服の裾を掴もうとする。

 でも――手は、空を切った。


「ミレス、エディムの邪魔をするでない」


 ティムちゃんの声が冷たく響く。


 その間にエディムは歩き出していた。

 振り返りもせず、迷いもせず、まっすぐに。


 さっきのエディムの物言いに腹がたったけど、やっぱり心配でたまらない。


 エディムは、独りで何を抱えているの?


 親友なのに何もしてやれない。支えになってあげられないのだ。


 エディムが何も言ってくれないのは寂しい。


 ただ、あの感じだと、ティムちゃんにはエディムが心を開いているみたいだ。

 ティムちゃんはエディムの現状を把握しているようだし、ティムちゃんに実情を聞いてみよう。


「エディムっていったい何をしているの?」

「貴様は知らなくてもよい」

「でも、心配だよ。何か厄介ごとに巻き込まれているのかも」

「違う。あやつは忙しいだけだ。ほおっておけ。妙な詮索はするな」

「ほおっておけないよ。私は親友だもの。ねぇ、カミーラ様、何か知っているなら教えて? エディムが今何をしているのか、どうしてあんなに変わってしまったのか――」

「ミレス」


 ティムちゃんの声が、低く響いた。

 空気が、一瞬で凍りつく。


「二度は言わん。詮索するでない」


 その声には、明確な警告が込められていた。

 これ以上踏み込むな、と。


「は、はい……」


 私は小さく頷くしかなかった。


 すごい迫力……。


 こうなったときのティムちゃんには逆らえないよ。でも、諦めきれなくて、最後に一つだけ聞きたい。


「それじゃあ、一つだけ」

「なんだ?」

「エディムは大丈夫なの? 元気に戻ってこれる?」

「問題ない。そのうち学園にも顔を出す」


 そう……それならいいか。


 ティムちゃんが太鼓判を押したのだ。他の誰でもないティムちゃんの言葉だから信用できる。


 エディムは大丈夫だ。

 そう自分に言い聞かせる。


 でも、胸の奥のもやもやは消えなかった。


 それにしても、エディムとティムちゃんっていつ知り合ったんだろう? それも、ただの知り合いじゃないよね。かなり親密になっている。主にエディムがだけど。


「カミーラ様ってエディムといつ知り合ったの?」

「我が王都に来たときだ」

「そうなんだ」

「うむ。あやつも我の所有物だ」


 ティムちゃんお決まりの台詞。


 エディムも言われたんだろうけど、よく切れなかったな。まぁ、私と同じでティムちゃんの凄オーラのせいで何も言えなかったのかもしれない。


「カミーラ様、他にもカミーラ様の友達――じゃなくて人形はいるの?」

「あとはジェシカだ」

「ジェシカを知っているの!」

「あぁ、あやつも我の所有物だからな」


 エディムがティムちゃんを知っているのだ。ジェシカがティムちゃんを知っててもおかしくはない。学園にあまりこない二人の方がティムちゃんを知っている。


 仲良し三人組だと思ってたのに……。


 なんか疎外感。

 私だけが、何も知らない。

 私だけが、置いていかれている。


「他に人形はいないの?」

「今のところ、お前達だけだ」

「えへへ、そうなんだ」


 そうだよね。ティムちゃんのマイウェイさにそうそう人はついていけっこない。

 ひどい言われようだけど、ティムちゃんの特別になれたのは嬉しい。


 でも、その「特別」って、エディムが言っていた「要領がいい」ってことなのかな――

 そんな考えが頭をよぎって、慌てて首を振った。


 違う。そんなことない。

 私はただ、ティムちゃんと友達になりたかっただけ。


「まぁ、我のものはお姉様のものだ。正確に言えば、お前達はお姉様のものだがな」

「あはは……そ、そうなんだ」

「そう、この世の全てのものはお姉様のもの」

「はは、カミーラ様のお姉様ってすごいんだね」

「当たり前だ。そんな常識……ミレス、人形としての自覚が足らんぞ!」


 今更ながら、ティムちゃんのお姉さんに対する心酔ぶりには驚かされる。


 よほど慕っているのだろう。


 改めて考えてみる。

 ティムちゃんも十分謎だけれど、そのお姉さんはもっと謎だ。以前、ティムちゃんのお姉さんから手紙をもらったことがある。内容は親しみやすく、とても温かい人だという印象を受けた。


 でも――ティムちゃんから聞くお姉さんの話は、まるで別人のようだ。


「そんなにすごいお姉様なら、お怒りを買ったらすごいことになるんだろうね」

「そうだな。普段はお優しいお姉様だ。だが、ひとたびお怒りになれば、大地が割れる」

「だ、大地が!?」

「そうだ。文字通り大地が真っ二つに割れる。我らはお姉様に生かされているのだ」


 ……さすがに盛り過ぎだよね。でも、ティムちゃんが言うと妙に真実味がある。


 傲岸不遜なティムちゃんがここまでいうお姉さん。

 興味はあるけど、会ったら絶対に緊張しすぎておかしくなりそう。粗相をしちゃって、どんな目に遭うかわかんないもん。


 会うのは怖い。遠慮したい。


 それがティムちゃんのお姉さんに対する偽らざる気持ちだった。今後もその方針を続けようと思っていたのに。


 それから数日後……。


 私は、ティムちゃんのお姉さんから食事のご招待を受けたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ