第二話 「我が学園を支配する」
今日は魔法学園への編入初日。
憂鬱である。かなり憂鬱である。
だが、お姉様たってのご命令である。従わないという選択肢はない。
今朝も――。
「ティム、ハンカチ持った? 筆記用具は忘れてない?」
「お姉様、大丈夫です。昨日のうちに準備しております」
「さすがはティム、しっかりしているね」
「……あの、やはり行かなくてはなりませんか?」
「ティム……あなたが弱気になるのはわかる。学園生活できるか不安なんでしょ」
「はい。我は、とても我慢できません。はずみで生徒全員を皆殺しにしてしまうやも」
「ティム、いつもいつも『殺す』だの『根絶やしにする』だの言っているけど、学園では禁止だからね」
「なっ!? 殺してはいけないのですか!」
「当然でしょ。そんな言動をしていたら皆、引いちゃうよ。冗談が通じない相手だと喧嘩になっちゃう」
「望むところです。そんな輩は、我の魔弾で木っ端みじんにしてやります」
「ティ〜ム! いい加減にしなさい。全部を一度に直すのは無理だから、一つずつ行くね。まずは不殺の誓いよ」
「そ、それでは、我は人間如きに舐められても反撃できないのですか……」
「反撃はしてもいい。でも、ティムは必要以上に相手を刺激するでしょ。だから、基本専守防衛でいくのよ」
それから、お姉様に学園での心得を教えていただいた。確かに学園へ潜入し情報収集と邪神軍の地盤を築く上で、目立つのは得策ではない。
だが、これはあまりにも……。
ストレスで頭がどうにかなりそうだ。
頭を抱えて悩んでいると、
「ティム」
お姉様が我の頭を撫でてくる。
「あ、お姉様」
「ティム、辛いよね。行きたくないよね。十分にその気持ちはわかるよ。でもね、それは最初だけよ。ティムなら絶対に輝かしい学園生活を送ることができる」
「我にできるでしょうか?」
あまりに脆弱な輩と、くだらん授業。怒りが爆発するのが予測できる。学園を爆破しようとする自分を抑えられそうにない。
「よし、よし。私が勇気のおまじないをしてあげる」
お姉様はそう言って、我をぎゅっと抱きしめてくれる。
なんともったいなく、温かいお言葉なのだ。我は果報者である。ここまでお姉様から温情をいただけたのだ。どんなにくだらなくとも、それがお姉様のためならやれる。
やる気の出なかった身体にムチが入った。
「それでは、行ってまいります!」
学園の制服に身を包み、元気よく挨拶をして店の出口を出る。すると、近衛の部下達が全員敬礼してスタンバイしていた。
邪神軍の軍歌も流れている。ラッパの音やファンファーレ。ニールゼンをはじめ主だった幹部が、我を送りに来ている。お姉様も我のあとから出てきた。
「ティム、頑張ってね。負けるな、ティム。頑張れ、頑張れ、ファイトォオ!」
お姉様は我が見えなくなるまでずっと手を振り、お声をかけ続けてくれた。
うぅ、少し気恥ずかしい。だが、それ以上に涙が出てきた。お姉様にここまで応援されたのだ。我は何がなんでも学園を支配し、任務を果たしてみせる。
それから学園に到着し、職員室での手続きを終え、教室に入ることになった。
目立ってはいかんが、人間如きに舐められるのもしゃくである。かなり加減しているが、覇気を纏いながら入室した。
「我は、カミーラである」
反応がない。
威圧が高すぎたようだ。
少し覇気を落とす。
すると、一人の生徒が我の問いに聞き返してきた。我の挨拶を聞き逃すとは無礼な奴である。ただ、我の覇気に当てられていたのだ。呆けるのもしかたがない。
「ふむ、二度は言わんぞ。我は、カミーラである。ただの人間には興味がない。獣人、竜人、魔人を倒せると豪語する者、我の元に来い。選別をしてやろう」
学園支配する上で、手駒は必須である。贅沢は言えんが、口だけでも魔族を倒すと豪語する猛者を期待した。
……誰も我の問いに応えようとしない。
また我の覇気に当てられたかと思い、さらに覇気を落としてみる。やっと一人の小坊主が返事をしたが、それは期待した応えではなく、ただの弱音であった。
ふぅ、無駄であったか。まぁ、よい。学園支配など我一人いれば十分すぎる。よく考えれば、この小坊主の言い分は正しい。こんな脆弱な奴らが、魔族に一矢報いるほどの剛毅を持つとは思えん。
我の観賞用として、見目麗しいおもちゃがいればよいか。
それから戦士を諦め、鑑賞用の人形を希望する。自薦、他薦なく反応がない中、ジェジェという取るに足らん愚図が、愚かにも我の尊い名、ティムを呼びつけにしてきたのだ。
許せん! 人間如きが、お姉様だけの特権を踏みにじりおって!
すぐさま制裁した。
本当は殺したかったが、痛めつけるだけに留めておいた。お姉様のお言いつけなのでな。もちろん、クラスの人間共にもティムという名を犯さないように厳命しておいたのである。
その後、クラスの人間共に囲まれ、質問攻めにされた。脆弱な人間の癖に馴れ馴れしく、うっかり殺しそうになった。ここでもお姉様との誓いを思い出し、ひたすら我慢をした。
さらにお姉様のお教えの通り、かなりくだけた会話をしてやった。本来であればありえぬ行為だ。学園支配のため、忍従することにしたのである。大魔族である我が、脆弱な人間共と対等な会話をしてやったのだ。
ふふ、我もなかなかの役者である。
そのおかげか、我の周囲には人の列ができたのだ。まぁ、とは言っても有象無象ばかりで、我の手駒にふさわしい者がいなかった。主に観賞用として候補を集めようとしたが、なかなか水準に達する者がいない。
戦力はもちろん考えるまでもない。容姿も贔屓目で見ても並がいいところだ。これでは、鑑賞用の人形も無理かと諦めていた時、一人の少女が近づいてきた。
名はミレス、いままで見た有象無象共の中ではまだ整った容姿である。話を聞いていると、どうやら我の下僕になりたいようだ。
うむ、魔力はへっぽこそのものだが、容姿はまぁまぁだ。こやつを我の手駒第一号としよう。
そうして転校初日は、手駒一号を作り終了したのである。
学園生活三日目……。
我は、拷問に近い時間を過ごしている。辛い。これは辛すぎる。まだ数日というのに、精神がもたん。
授業はくだらない。周囲の輩は、弱兵そのもの。観賞用として一定のレベルを満たしている者は、ミレス以外いない。ミレス一人だけでは、いくらなんでも飽きる。
ジェジェとかいう愚図教師を痛めつけて、ある程度ガス抜きはしているが……限界だ。
あ〜イライラする。一人くらい壊してやるか?
我が退屈という名の拷問を受け、その鬱憤晴らしを考えていると、手駒一号のミレスが声をかけてきた。
話を聞くと、我の歓迎会を開くらしい。殊勝な心がけではある。ただ、メンバーはうちのクラスの人間共だ。退屈なのは目に見えている。
ただ、お姉様から歓迎会には絶対に参加するようにと言われていた。お姉様のご命令である。どんなにくだらんクソのような会でも参加せねばならん。
ミレスに参加の意志を伝えていると――
「新人が入ったクラスはここであってるか!」
なんとも頭の悪そうな人間達が現れたのだ。しかも、どうやら我にケンカを売っているらしい。
くっく、面白い!
我が魔力を千程度に抑えているせいか、相当舐めているようだ。退屈な授業に飽き飽きしていたところだ。不殺の誓いがあるから、殺しはできん。だが、おもちゃにして遊ぶぐらいはできよう。
放課後、頭の悪い人間共が指示した場所に行く。ミレスが青い顔をして心配してきたが、余計なお世話だ。あまりにしつこく止めてくるので、少し強めの覇気を当てたら腰を抜かしておった。
そうして校舎裏に着き、辺りを見渡す。
ここは……たしか旧校舎があったな。
数十年前に建て替えられたという古い校舎が、夕闇の中にそびえ立っている。窓ガラスの多くが割れ、外壁の蔦や剥げ落ちたペンキが、いかにも荒廃した様子を醸し出している。
人がめったに寄りつかない廃墟と化した場所に、頭の悪そうな人間共がちらほらいる。
旧校舎に足を踏み入れると、むわっと煙が充満していた。これは、マリフォナか? さらに酒の空き瓶がいくつも転がり、壁際には食べかけの弁当や本が散乱している。
天井からぶら下がった裸電球が薄暗く辺りを照らしているが、その明かりに照らされた教室の様子は散乱していた。机や椅子は適当に並べられ、その上には灰皿やトランプ、得体の知れない薬物らしきものまで置かれている。
「へっへ、よく来たな」
「本当に、その勇気だけは褒めてあげる」
下卑た笑い声をあげて、頭の悪い人間共が出てきた。
「で、我の歓迎会とは? 面白い余興を用意しておるのだろうな?」
「もちろんだ。あまりに面白くて、泣き叫ぶほどさ」
「けひひ、銀髪の小娘、悔やんでも遅いぜ」
「まぁ、待ちなさい。この銀髪の小娘は、右も左も分からない田舎者よ。まずは、学園のルールを叩き込んであげましょう。それで、心を入れ替えるのなら良し。それでもだめなら……ねぇ?」
テンテンと呼ばれた細目の女、ブータと呼ばれた豚男と、その取り巻きらしき男数人が、我を取り囲む。
「話は終わったのか?」
「えぇ、まずは土下座しなさい。それと、十万ゴールド毎月詫びの印として持ってくるのよ」
「土下座? 十万ゴールド?」
「言うことを聞いておいたほうがいいぞ。これから快適な学園生活を送りたかったらな」
「……」
「何よ、黙りこんじゃって。もしかして庶民の小娘にそんな大金は無理かしら? 足りないなら、身体を売ってでも稼ぎなさい。いいところ紹介してあげるわ」
「うっひょう! その時は俺が客第一号になってやるぞ」
はぁ〜あまりにくだらん会話だ。つい皆殺しにするところだった。
お姉様、やはり学園生活は辛いです。
こんな馬鹿共を殺してはいけないなんて……。
「ふぅ〜我も我慢強くなったものだ。馬鹿げた問いに答えてやる。答えはノーだ。馬鹿も休み休み言え。そして、死ね」
「くっく、嬉しい答えに感謝だ。これで容赦なくお前を好きにできるぜ」
「本当にバカな子ね。死んでも恨まないでよ」
「ふん、能書きにも飽き飽きしていたところだ。ほら、かかってこい」
手をちょいちょいと動かし、挑発をする。
「本当にバカな子……編入試験の時とは状況が違うのよ」
「編入試験?」
「忘れたの? あなた編入試験の日、お昼に食堂で三年生のテーブルに座ったでしょ。しかも特等席を!」
「そうだったか?」
「そうなのよ! そして、注意した三年生を蹴飛ばしたわね」
「そんなこともあったな。そう言えば、ぎゃあぎゃあとうるさく喚く豚共を蹴り飛ばしてやった」
「お、お前はバカか! そのうちの一人は、大貴族のエンケ様だぞ。お前のせいで複雑骨折して今も入院してんだ」
「なんだ。お前達も蹴り飛ばして欲しいのか?」
「くっ、舐めないでよね。あの時いたメンバーは戦闘班じゃないのよ。そして、私達がエンケ様の戦闘班」
「そうだ。やっちまえ!」
ブータと呼ばれた豚男が、我に向かって突進をしてきた。
さてさて、どうするか?
魔法で殺すのは、あまりに簡単だ。指先に少し魔力を込めて軽く弾くだけで、この豚男の頭部は木っ端みじんになるだろう。
だが、それでは我の修行にならん。遊びにもならん。
第一、お姉様との約束がある。「学園では殺してはいけない」――あの温かい声を思い出すと、自然と殺意が引いていく。お姉様のお言葉は絶対だ。たとえこんな豚共が相手でも、約束は約束である。
よし、できるかぎり魔力を抑えて腕力だけで戦うか。
そうだ! お姉様に教わった『じゅうどう』を実践するよい機会だ。
脳裏に、あの時の光景が浮かぶ。
お姉様が道場で我とニールゼンに『じゅうどう』を教えてくださった日のことだ。
「ティム、力任せではだめよ。相手の力を利用するの。相手が強く来れば来るほど、その力で相手を倒すことができる。それが『じゅうどう』の心髄なの」
お姉様の美しい手が、我の肩に置かれる。その優しい感触を思い出しながら、我は豚男の動きを観察した。
豚男は、愚かにも真正面から突っ込んでくる。足運びは雑で、重心が前に偏りすぎている。
これなら……。
我は、突進してくる豚男の勢いを利用して、後ろに投げ飛ばす。お姉様に教わった通り、相手の力に逆らわず、むしろそれを増幅させるように身体を動かした。
豚男の身体が宙を舞う。重力と慣性が彼を地面に叩きつけた。
「がはっ!」
豚男は、無様にすっころぶ。鼻血を出してうごめく姿は豚そのものである。
ふむ、あまりに弱くスローな動きだ。てんで修行にならない。
信じがたいほどの低レベルだ。魔法学園と名乗るからには、それなりに、人間種の中ではそこそこ遊べると期待していたのだが……。
邪神軍の新兵でさえ無双できる相手だ。訓練不足というより、根本的な素質の問題だろう。人間という種族の限界を見た気がした。
退屈しのぎにきたのだ。少しもおもちゃにできんのなら話にならん。
仕方がない。はっぱをかけてやるか。
「豚人間、本気を出せ。その分厚い脂肪はなんのためにあるのだ。真面目にやれ。そんなすっとろいタックルでは、欠伸しかでんぞ」
我の挑発に、豚男の顔が真っ赤になった。
「て、てめぇ! もうゆるさねぇ」
起き上がった豚男は、烈火のごとき表情で我を睨む。
少しは本気になったか?
「よし、全力だ。全力でこい!」
「望むところだぁ! 見よ、この筋肉ぅううう!」
豚男は、肉体強化魔法を全力でかけているのだろう。全体的な筋肉を一・五倍ぐらいに膨れ上がらせて突進してくる。
……魔力をかけてこの程度か。
肉体強化魔法の効率が悪すぎる。魔力の無駄遣いも甚だしい。あれだけの魔力を注ぎ込んで、身体能力の向上はわずか五割程度。邪神軍の兵士なら、同じ魔力で三倍は強化できるだろう。
まぁ、良い。ほんの少しではあるが、ましになった。
ここでお姉様からの直伝技を使う。「お姉様の前に山嵐なく、お姉様の後に山嵐なし」と言わしめるほどの大技である。『じゅうどう』教室では、我もニールゼンも、お姉様にこの技でとことんやられた。
我も会得してみせる。
突進してくる豚男の襟を掴み、背負いで投げる。ただし、相手の右脚を払うときに右足の裏で払うのがコツだ。
「やまあらしぃい!」
「ぶへぇえ!」
豚男は、地面に激突して気を失った。
「なっ!? ブータ君が、格闘術で負けただと……」
我が豚男を投げ飛ばしたのを見て、焦る人間共。
おいおい、こやつらもう戦意喪失か?
まだ小手調べの小手調べだぞ。あまりに脆弱すぎる。頼むから、我のやる気を削ぐ真似はやめてくれ。
人間共の戦闘に対する覚悟の低さには呆れる。仲間が一人倒れただけで、もう怯んでいる。邪神軍なら、仲間が倒れようとも最後まで戦い抜くものを。
「お前達、そう萎縮するでない。我は、ハンデとして魔力を一切使用しておらんのだぞ。肉体技術だけで勝負しておるのだ」
「て、てめ。何が魔力を使ってねぇだ。魔力使ってるじゃねえか!」
「そ、そうよ。千以上も上昇させておいて、何言ってんのよ!」
……そ、そこまで弱いのか。
魔力千など、我にとっては鼻息程度のものだ。意識せずとも常時放出している魔力の量に過ぎない。それを「魔力を使っている」と認識するとは……。
はぁ〜脆弱な人間にとっては魔力千も脅威なのか……。
お姉様がおっしゃっていた「人間の感覚に合わせなさい」という言葉の意味が、ようやく理解できた。我と人間では、基本的な能力に天と地ほどの差があるのだ。
「……これでよいか」
ゲンナリしながらも魔力をゼロ近くまで落とす。まるで呼吸を止めるような感覚だった。不快極まりない。
「へっ、どうやら魔力切れを起こしたらしいぜ」
「そ、そうね。ブータを倒すときに肉体強化魔法を使いすぎたのよ」
「お、お前も年貢の納め時だぜ」
こいつら、何を勘違いしている。
我の魔力移動が見えていなかったのか?
内包する魔力は見えなくとも、それくらいは、気づけ!
魔力切れと混同するとはあまりに愚かだ。これと比べれば、下級魔族の魔法覚えたての新生児ですらまだまともである。
あ、頭が痛くなってきた。
……もう終わらせよう。
それから我は『じゅうどう』を使用して、残りの有象無象共も地面に転がした。
「うぅ、い、いてぇ。いてぇよ」
「た、助けて。ほ、骨が折れた」
「どうした? まだやるか?」
「ひぃ。あ、あなた庶民のくせに……貴族の私達を怪我をさせて、どうなるかわかってんの!」
テンテンと呼ばれた細目の女が、肋骨を抑えながらも吠えてくる。
「なるほど、まだやる気というわけだな。それではもう一回喰らわしてやろう!」
「ひぃいい! ま、待って。もうやめて。ごほ、ごほ、肋骨が折れてるのよ。こ、これ以上は、ひっく、うぅえええん」
「ふん」
なんともつまらん歓迎会だった。
遊ぶにしても、耐久力が無さすぎる。壊さぬように扱ったため、余計にストレスが溜まった。
我は憤懣やるせなく、きびすを返す。
パチ、パチ、パチ。
空き家から出ると、一人の男が拍手をしながら我の前に現れた。
「ふふ、君やるねぇ。それ、古武術ってやつだろ? たしか東方の武術だ。文献で読んだことがある」
「なんだ、貴様は?」
「俺はアナスィー。ここの三年だよ」
「そうか。貴様も奴らの仲間か。我と遊びにきたのだな」
「いやいや、そう興奮しないで。あいつらは、苛めをやり過ぎてたからね。俺も気に入らなかったんだ。君がやらなければ俺がやってたよ」
「そうか。で、我に何か用か?」
「一応、上級生として忠告に来た」
「忠告だと?」
「そうだよ。君がエンケのグループをつぶしたから、目をつけられている。この学園の女王様にね」
女王だと? 人間如きが笑わせる。
我が学園を支配するのだ。
「……それで」
「うん、調子に乗らないこと。たしかに君の武術は素晴らしかった。庶民ゆえの魔力の少なさを補うほどの技のキレだった。でもね、君程度の強さは腐るほどいる。増長すれば、この学園の闇に埋もれるよ」
このヤサ男……どうやら本当に忠告をしに来ただけのようだ。
敵意はない。
ふむ、口ぶりからすると、その女王とやらの手下の一人という感じか。
「そうか。それでは、その女王とやらに伝えておけ。そのうち、お前の首を取りにいくとな」
「あ、あのね。俺の忠告、聞いてた?」
「もちろんだ。我の耳は正常だ」
「なら、聞け! 田舎でどれだけガキ大将していたか知らないが、我が学園に君臨する女王様は、エンケなんかとは比べ物にならない。とても恐ろしいお方なんだぞ。彼女自身とびぬけた魔法の才を持っている。屈強のボディガードだって何人も控えている。君が、いくら首を狙おうが無駄だ。しかも、王都最強の守護神までついているんだ」
「なんだ。そんな奴もいるのか。初耳だ」
「守護神を知らんって……君は編入生とはいえ魔法学園の生徒だろ? 本当に知らないのか?」
「知らん」
「まぁ、田舎から出てきたばかりなら無理ないか。そいつはな、魔獣を素手で狩れる。肉弾戦だけなら、レミリア様よりも強い。伝説は数知れず、霊長類最強とも言われている」
ほぉ〜霊長類最強だと!
瞬間、我の心に戦闘への欲求が湧いてきた。
退屈な学園生活に、ついに光明が見えた気分だ。
ふふ、面白い。今度こそ退屈しのぎになりそうだ。