第一話 「ミレスと噂の転入生」★
時間軸は少し遡ります。王都襲撃直後、カミーラ学園編です。
魔族による王都襲撃……。
死者数千人、負傷者、行方不明者も含めると、その数倍とも数十倍とも言われるこの大惨劇。
アルクダス王国史上最も被害をもたらしたと言われる第五次東征事変の一・五倍の犠牲者を出したのである。吸血鬼達が一斉に蜂起した日が金曜日だったことから、悪夢の金曜日と呼ばれるようになった。
そんな大惨事から一か月が経過した。
人々は悲しみに暮れながらも復興に励んでいる。魔法学園も再開し、元通りの生活に戻った……いや、強がりはよそう。
私、魔法学園中等部二年のミレス・ヴィンセントは、頬に手をつき溜息を吐く。
はぁ~全然元通りじゃない!
私のクラスメートの半数が死傷した。生きている者もその爪痕に苦しんでいる。親しき者を亡くし、自分の無力さを嘆き、落ち込んでいる者は山ほどいた。
初めての実戦では、新人の兵士が心的外傷で精神をやられるとよく聞く。まさにその現象が学園に蔓延しているのだ。
私の親友ジェシカもその一人だ。
親友のリリスが亡くなってすごく落ち込んでいる。というかあの不良のリリスとジェシカが友達だったとは驚きだ。
けっこうリリスの悪口を言った記憶がある。
ジェシカ、その度に気分を害してたよね。
それは反省だ。
とにかくジェシカは、寮にこもって塞ぎ込んでいる。私がいくら慰めても、あまり効果はない。
親友が死んだのは、無力な自分のせいだと責めているのだ。
生真面目なジェシカらしい。
あんな大惨事、誰であっても防ぎようがなかった。ジェシカには、しばらく時間が必要だろう。時がジェシカの心を癒してくれる。
問題は、もう一人の親友、エディムだ。
エディムは、ジェシカよりも重症である。エディムも悪夢の金曜日以降、様子がおかしい。私やジェシカにそっけなくなった。
ううん、それどころか虫でも見るかのような冷たい態度を取ってくる。
まるで別人……やめよう。友達を悪く思いたくない。
エディムは、私やジェシカ、いや、学園の関係者全員を拒絶しているような態度を取る。
きっと、アルキューネのせいだ。
あのクソ野郎は、教師のふりをして生徒を殺していたことが、後の調査でわかった。巧みに人間世界に入り込み、学園の生徒を襲っていたのだ。今まで起こった生徒の失踪事件も奴のせいである。
本当に許せない!
ただ、救いなのは、あの騒動の際にアルキューネは殺されていた。顔が陥没した死体となって発見されたのである。おそらく治安部隊に始末されたのだろう。
ざまあみろ!
このアルキューネを慕っていた生徒は多い。まさか正体が魔族とは思わなかったらしく、皆ショックに打ちひしがれていた。中には、疑心暗鬼に陥って、周囲にいる者すべてに疑いの目を向ける生徒もいるようだ。
エディムもこのパターンなのだろう。
確か「アルキューネ先生、かっこいい。頼りになる!」とか言ってたしね。
信頼していた者の中に魔族がいた。これほどショックなことはない。きっとエディムの目には、魔法学園にいる者すべてが魔族のスパイと映っているのかもしれない。
疑心暗鬼に陥ったエディムは、学園に来なくなった。
寮に戻ってくることも少ない。
一体、どこで何をしているか?
心配になって、何度もエディムを訪問した。
しかし私がいくら言葉をかけても、敵を見るような目つきをしてくるのだ。
悲しい。すごく悲しい。あんなに仲の良かった親友が変わっていくのは、とても辛い。
そして分かった。無理強いはできない。エディムにも時間が必要なのだ。
大の仲良しだった親友ジェシカとエディムは、あの大惨事で心に深い傷を負ったのである。ジェシカは引きこもり、エディムはサボタージュ。
今すぐにでも解決したいが、焦りは禁物だ。
大丈夫、なんとかなる。こういうときこそ、親友の私が支えてあげないと!
そんな暗い出来事が続き、最近は溜息ばかりついている。
ふふ、でも、今日は久しぶりに心が晴れそうだ。
そう、今日は延ばしに延ばしていた転校生がやってくる日。
ティムちゃんだっけ?
かわいい子みたいだ。田舎暮らしと聞いてたから、きっと不安だらけだと思う。特に、魔族襲撃から王都の空気は暗い。ぜひともティムちゃんと友達になって支えてあげよう。
そして授業が終わり、ホームルームが始まった。
担任のジェジェが転校生を紹介する。
来る!?
どんな子だろう?
期待に満ちた心で待っていると、
扉が開き、一人の美少女が現れたのである。
一瞬にして心を奪われた。
き、綺麗……。
風に靡く輝かしい銀色の髪。
ルビーの宝石よりも輝く赤色の瞳。
指定の制服を着ているはずなのに、まるで大賢者のローブのように輝く気品。
着る人が着れば、制服も違って見えるんだなぁ。
そして、何より溢れんばかりのカリスマ。歴史上の偉大な女王のようにオーラを全身から滲ませている。威厳に満ちた姿から目が離せない。魅了の魔法にかけられたようにクラスの皆も声一つ上げない。
皆、このカリスマの塊のような女性の一声を待っている。どれだけの美声でどれだけの演説をしてくれるのか。
期待で胸を膨らましていると、
「我は、カミーラである」
一斉に皆の目が点になった。
ジェジェは目を見開き、睨みつけている。
き、聞き間違いかな……。
「今なんて……?」
一人の生徒が質問する。
皆のハテナを代弁してくれたのは、ありがたい。
「ふむ、二度は言わんぞ。我は、カミーラである。ただの人間には興味がない。獣人、竜人、魔人を倒せると豪語する者、我の元に来い。選別してやろう」
ち、ちょっと、ちょっと、もしかしてギャグなのかな?
笑ってあげたほうが……いや、少し不機嫌な顔である。緊張しているみたいだ。きっと田舎から都会に来てテンパっただけかも。
「え、えっと、それは無理なんじゃない?」
ティムちゃんのギャグ(困惑)に素直に返す、男子生徒ボンベイにエールを送る。
私は、どう返事を返していいかわからない。
「ん!? そうだな。貴様の言う通りだ。ざっと見渡す限り脆弱な者ばかり。戦士は期待しまい。では見目麗しい者でもいいぞ。鑑賞用として我の所有物にしてやる」
「貴様、ふざけておるのか! 天下の魔法学園の生徒としての自覚を持て!」
あぁ、とうとうジェジェの奴、切れちゃったよ。
ジェジェは、ふざける生徒を毛嫌いするからな。すぐに暴力を振るう。
はっきり言って嫌いだよ。
この前も精神がたるんどると怒鳴って、クラスメートに精神魔法をぶつけていた。
精神魔法は、すごく痛い。外傷はないかもしれないが、あれをやられるとすごく痛くて怖い。中には、精神魔法をぶつけられたトラウマから、ジェジェを見るだけで震え上がる生徒もいるぐらいだ。いくら教育だからって、こういう恐怖政治はしないで欲しい。
返す返すも前担任のケイル先生が死んじゃったのは、悔やまれる。
ケイル先生は、どんなときでも体罰なんてしなかった。生徒の話を汲んでくれる優しい人だったのだ。
とにかくジェジェを止めないと。
事情を知らないティムちゃんがかわいそうだ。きっとふざけているんじゃなくて、彼女なりにクラスに溶け込もうとした挨拶だったのかもしれない。
「ジェジェ先生、勘弁してやってください」
「だめだ。こういう不真面目な輩は、一度ガツンと言わせないと示しがつかぬ」
そう言うとジェジェは、精神魔法の発動を開始する。
「ち、ちょっと転入初日の子に精神魔法なんてひどすぎますよ」
「ミレス、口答えは許さん」
「で、でも……」
「これ以上、教師に反抗するなら、貴様にもこれを受けてもらうぞ」
「うっ……」
ジェジェの脅しに身を竦ませた。
このままでは、ティムちゃんが初日にトラウマを抱えることになる。
きっと、あの綺麗な顔が涙でぐちゃぐちゃになるだろう。
そんなの嫌だ。
でも、ジェジェのプレッシャーに身体が動かない。
その後の展開を想像し、思わず目を瞑る。
「ティム、反省するがよい」
ジェジェの声と同時に、魔力が高まるのを肌で感じた。青白い光が瞼の向こうに透けて見える。精神魔法の発動だ。
ああ、やっぱり。ティムちゃんが痛い思いをする。
でも――
「遅い」
ティムちゃんの声が、氷のように冷たく響いた。
その瞬間、教室の空気が一変した。まるで嵐の前の静寂のような、張り詰めた緊張感が肌を刺す。今度はもっと強大な魔力が動くのを感じる。でもその魔力は、ジェジェのものとは比べ物にならないほど洗練されていた。
魔力の純度が違う。技術の精度が違う。まるで澄んだ湖と濁った水たまりを比べるような、圧倒的な差があった。
そして――
「このような稚拙な魔法で我に挑むとは……愚かな」
次の瞬間、信じられない魔力の流れを感じ取った。
ティムちゃんの魔法がジェジェの攻撃を完全に飲み込み、そのまま逆流していく。まるで大河が小川を呑み込むように、一方的で圧倒的な力の差だった。
「んぎゃああああ!!」
蛙のようなジェジェの絶叫が教室に響いた。何かが机に激突する音、そして重いものが床に崩れ落ちる音。
勝負が決まったのが分かった。
恐る恐る目を開けると、悠然と立っているティムちゃんと対照的に、白目をむいて気絶しているジェジェの姿があった。ティムちゃんの表情には、まるで虫でも踏み潰したかのような、退屈そうな様子が浮かんでいる。
「皆にも言っておく。我は、カミーラである。『ティム』と呼んだ者は、誰であろうとこうする。殺しはしないが、痛い目にあってもらう。本当は殺したいが、それは禁止されておるからな」
テ、ティムちゃん……。
教師に反抗するなんてなんて常識はずれな子なの。
それにしてもすごい。
ティムちゃん、魔力千ぐらいだよね?
私の測定魔法は、それほど精度が高いわけではない。しかしざっくりとしたことならわかる。ジェジェよりも、魔力は下なのに魔法技術で上をいった。
何せ完全に後だしだったにもかかわらず、ティムちゃんはジェジェよりも早く正確に精神魔法を撃ち返したのだ。
田舎暮らしで魔法を覚えたばかりだと聞いてたけど……。
すごい才能だ。カミーラと自称するのも頷ける。
――とんでもない新入生が入ってきた……。
クラスの皆も唖然としている。
それから一躍ヒーローとなったティムちゃんは、クラスの皆に囲まれ質問攻めに遭っている。
皆、ジェジェが嫌いだからね。
嫌味な奴だが、実力はあるので誰もジェジェには逆らわなかった。ティムちゃんは、そんなジェジェをいとも簡単に打ち破った。
皆、尊敬の眼差しでティムちゃんを見つめている。
さっきの変な挨拶も誰も気にしていないみたいね。
ただ、ジェジェがティムって呼んだら、凄まじい殺気を放っていたからね。皆、空気を読んでカミーラ様と呼んでいる。
私も、あんなティムちゃんに真っ向から挑めない。心の中だけティムちゃんと呼ばせてもらおう。
「カミーラ様は、どこで魔法を習ったの?」
「魔法は親から教えてもらった。後は独学だ」
「へぇ~それでジェジェを倒したなんてすごい!」
「あの程度で賞賛とは……あまり我を落胆させるな」
……すごい上から目線。
質問したクラスメートも顔を引きつらせている。
「そ、その銀髪きれいね」
「うむ。賞賛は受け取っておこう。ありがたく思え」
「は、はは。ねぇ、その髪、触ってもいいかな? こう見えても私、髪のセットが得意なんだ――」
「だめだ。我に触れば殺すぞ」
ティムちゃん、他人に髪を触られるのが嫌なのはわかるよ。でも、もっと言い方を考えないと。彼女涙目になってるから。
「も、もしかしてさ。カミーラ様って気品もあるし、どっかの貴族なの?」
「貴族? 笑わせるな」
「ち、違うんだ。でも、カミーラ様ならすぐに爵位を貰えそう」
「はぁ~お前達が言う公爵、伯爵など興味がない。人臣極めようと思えばいつでもできるが、下らんすぎてそんな気も起こらん。わざわざゴミを取得するのも手間だからな」
爵位がゴミって……。
聞く人が聞けば、王家不敬罪で捕まってしまう。
「い、今はどこに住んでいるの?」
「西通りのベルム料理屋だ」
「へぇ~カミーラ様の家って料理屋なんだ。今度、遊びに行ってもいい?」
「だめだ。貴様程度が我の家に招待されると思うてか。腕か顔を磨きなおしてからにしろ」
テ、ティムちゃん……さすがにその返答はだめ。
皆、唖然となって会話が止まった。というか、あまりなティムちゃんの態度に列を成していた生徒達が、潮を引くように離れていった。
ティムちゃん、そんな態度では孤立しちゃうよ。
しょうがない。ここは、私が一肌脱いであげよう。
「ね、ねえ、カミーラ様」
「何だ? 貴様は?」
「あ、私、ミレス・ヴィンセントって言うの。よろしくね」
「うむ、カミーラである」
「い、いや~さっきは、すごかったね」
「何がだ?」
「風格というか雰囲気というか、とにかくそういうのが凄かった……何か特別な生まれだったりする? 本当は、皇族の生まれとかさ」
「小娘、そんな下らん講釈を述べるな」
「い、いや、でも……」
「それ以上は、その口を引き裂いてやるぞ」
「うっ……」
これは、予想以上に厳しい。皆が敬遠するのも理解できる。
皇族の生まれと言ったら不機嫌になった。
庶民のティムちゃんにとっては、嫌味に聞こえたのかな?
これは、もっと言動に注意する必要がある。
そうだ。これくらいでへこたれるな。社交性に関しては、得意中の得意な分野だ。こうなれば意地でもティムちゃんと友達になって見せる。
「ご、ごめんね。カミーラ様の風格がとんでもなく凄かったから、ついついね」
「当然だ。それを皇族の御落胤だの。ゴミと同じにするとは……次はないからな」
今度は、皇族をゴミですか。
もうね、引け目じゃない。
ティムちゃん、本当に自分をカミーラ、魔法使いの頂点と思っているね。
「あはは、本当にごめん。カミーラ様があまりにすごくてバカを言っちゃったね」
「ふむ、そういうことか。脆弱な人間ならありうる話だ」
「そう、それでそんな偉大なカミーラ様とお話がしたいなぁと思って」
「良かろう。本来であればありえぬことだが、特別だ」
「あ、ありがとうございます」
「で、貴様の名は?」
さっき名乗ったのに……まぁ、いいや。
「私は、ミレス・ヴィンセント。ミレスでいいよ」
「うむ。ミレスよ。貴様は、このクラスではまだまともな見目をしておる」
「う、うん、ありがとう」
「そこで、我の所有物として認めてやる。光栄に思うが良い」
「は、ははは」
クラスメートを所有物……。
とんでもなく酷いセリフだ。
ただ、ティムちゃんが言うと納得してしまう自分がいる。これも良くわからないカリスマのせいだろう。
とにかくティムちゃんが、私を所有物というか、知人として認識してくれた。あとは、仲良くなっていくだけだ。
★☆
それから数日が経った。
ティムちゃんは相変わらずジェジェとやりあっている。
そして、その全ての勝負に打ち勝っているのだ。
本来、先生に暴力を振るった時点で退学である。ところが、ジェジェにもプライドがあるのだろう。一度も勝てずにただ退学だけさせるのは、屈辱みたいだ。
あらゆる授業で意地悪な質問をしたり、暴力寸前の指導をしたりしてティムちゃんに一泡吹かせようと画策しているのだ。
でも、全てティムちゃんが華麗に反撃をしている。
ジェジェの態度にはうんざりしていたから、胸がすーっとするよ。
ただ、気になるといえば……ティムちゃん、授業がすごくつまらなそう。ものすごく不機嫌な顔をして授業を受けている。もしかしたら、学園そのものをつまらなく思っているのかもしれない。
よし、それならイチかバチか、あの話だけでもしてみるか。
「歓迎会だと?」
「うん。カミーラ様の入学を祝って、クラスの皆で企画したの」
思い切ってティムちゃんを誘ってみた。
できれば参加して欲しい。ティムちゃんにも学園を楽しく過ごして欲しいから。
うーん、でも無理だろうな……。
数日話してわかった。
ティムちゃんの性格だと、ほぼ百パーセント来ない気がする。会ったばかりだけど、わかる。馴れ合いとか嫌いな孤高のタイプだよ。
「うむ。参加してやろう」
「えっ!? いいの?」
「なんだ? 貴様が参加してほしいと言ったのであろう」
「う、うん。でも、こういうの嫌いなのかと思っちゃった」
「まあ、その通りだ。でも、お姉様に言いつけられておる。そういう催しは参加しなさいとな」
あ、お姉ちゃんいたんだ。
ティムちゃんは「お姉様のご命令は絶対だ。どんな下らん催しでも参加してやる」と言ってくれる。
うん、どんだけ上目線なんだろう。
まぁ、ティムちゃんは、そういうスタイルがすごく似合っている。生まれながらの支配者って感じだ。ついつい自然に敬称をつけてしまうよ。
それにしても、こんな唯我独尊なティムちゃんが素直に従っているんだ。お姉さんは、ティムちゃんよりももっと怖くてすごいカリスマの塊のような人なんだろうな。
「お姉さんも……」
「ん!」
やばい!?
ティムちゃんが切れかけている。これは、お姉さんにも敬称をつけろってことだね。
「あ、いや、カミーラ様のお姉様もやっぱり美人で凄いお人だろうなぁって……」
「ミレスよ。わかっておるではないか。お姉様は、我よりも美しく、そして偉大なお方なのだ」
やっぱりそうなんだ。身内とはいえ、人を褒めることをしないティムちゃんが、ここまで言うんだ。すごく美しくて気高い女王みたいなお人なんだろう。
会ってみたいような、会いたくないような……。
いや、無理だ。きっと、ストレスで胃に穴が空いちゃうだろう。でも、お姉さんの話はもっと聞いてみたい。
「カミーラ様のお姉様は――」
「新人が入ったクラスはここであってるか!」
突然、教室のドアが開き、怒鳴り声とともに上級生が入ってきた。
うわあ、厄介な奴らが来た。
先頭にいるのは、制服を着崩した大柄な男子生徒。腕組みをしながら、ふてぶてしい表情で教室を見回している。
その隣には、細い目をした女子生徒がいる。計算高そうな笑みを浮かべながら、まるで獲物を品定めするような目つきでこちらを見ていた。
後ろには、数人の取り巻きがぞろぞろと続いている。
皆、いかにも学園の不良といった風情だ。制服は着ているものの、ネクタイは緩く、ポケットに手を突っ込んで偉そうに歩いている。
いわゆる札付きの悪だ。
クラスの皆も緊張した面持ちで、その様子を見守っている。
「おい、聞いているのか! 銀髪の小娘と聞いた。どこだ?」
「あ、ティ、カミーラ様だめ!」
止めるまもなくティムちゃんが、上級生達と対峙した。
「我に何か用か?」
「銀髪……ふん、目立つから見つけるのは楽だったな」
「おい、何を一人で納得しておる。さっさと用件を言え」
「なんだ、こいつのえらそうな口は! やっちまうか?」
「まぁ、待ちなさい。ここではだめよ。ここではね」
「そうだな」
不良達はニヤつきながら、ティムちゃんを囲む。
「……くっく、もしや愚かにも我を襲おうとしているのか?」
「へっへ、そんな退学もののバカをするかよ」
「そうそう、こんなおおっぴらな場所でするかって――おっといけねぇ」
「もう、口を滑らせるのはよしなさい。大丈夫、ただの歓迎会よ。先輩としてきっちりと世の中の仕組みを教えてあげるからね」
「ほぉ、我の歓迎会か!」
「そうだ。断ろうものなら――」
「参加してやろう」
「へっ、いい度胸じゃないか。放課後、校舎裏まで来い。もちろん、一人でだぜ」
「そうよ。先公にチクったらあとが怖いからね」
先輩たちは最後まで脅しをかけて去っていった。
「ティムちゃん、絶対に行っちゃだめだからね。私に任せて。先生達を巻き込んで、絶対にやめさせてやるから」
「ミレス、やめろ。貴様は、我の言葉を忘れたのか?」
「えっ!?」
「言ったはずだ。我は、こういう催しには全て参加せねばならん」
「い、いや、違う、違うよ」
「何が違うというのだ。お姉様のお言いつけだ。我は行ってくる。クソのような授業を受け、我は退屈死寸前なのだ。歓迎会、楽しみである」
ティムちゃんは、楽しそうに先輩たちが呼び出した場所へと向かっていった。
だ、だめよ。ティムちゃん、その歓迎会はちがうから。