第八十三話 「ぼったくりにあっちゃった(後編)」
あぁ、ジェジェの奴め。とんでもないことをしてくれた! いくら社会のダニだからって、殺しはだめだ。
どうする?
幸いオルが大量に金を持ってきてくれた。女親分達の機嫌はすごぶる良い。
このまましらばっくれて解放されるか?
ただ、住所はばれている。殺された手下達が最後に立ち寄ったところは俺の店だ。
今は大金に目がくらんで忘れているみたいだ。だけど、部下達が戻ってこなければ、女親分も不審がるだろう。部下達は俺の店で用心棒達とやりあったと思っている。絶対に因縁をつけにくるだろう。
そうなれば……。
もちろん、お店の警護はエディム達吸血部隊が担っているので、危険はない。だが、俺の醜態がティムや邪神軍の仲間達にばれてしまう。
それは嫌だ。
よし、ここは正直にことの顛末を話す。いくらかの賠償金を払って示談だ。オルには負担を強いて申し訳ないけど、秘密の共有はオルだけに留めたい。
ま、まぁ、なんといっても恐喝をして返り討ちにあったのだ。正当防衛だよ。それにことを公にしたら奴らも困る。悪事を働いているんだ。奴らも強くは言えないはずだよね。
うんうん、よく考えたらこれが一番現実的だ。あと百万ゴールドほど上乗せして示談にしてしまおう。
交渉を邪魔されないように、俺がいいと言うまで目を瞑り、耳をふさぎ、一歩も動くなとオルに厳命した。
オルは素直に従ってくれている。
これでオルが女親分との交渉中に横から口を挟み喧嘩を売ってくることはない。
後顧の憂いは断った。
パンパンとほおを叩き気合を入れ、白金の束をじゃらじゃらさせて浮かれている女親分のもとへ向かう。
「あ、あの~」
「なんだい?」
「そ、そのですね……」
「ふふ、そんなに怯えなさんな。これだけの物をもらったんだ。解放してやるよ」
「けけけ、良かったな。無事にお家に帰れるぞ。お嬢ちゃん」
女親分とその部下達は喜色を浮かべ、話してくる。
機嫌がいいね。これはいけるかも?
「その帰る前にお伝えしたい事項があります」
「くっく、そんなに改まってなんなんだい?」
「実はですね。まことに遺憾ながら、不幸な事故がありまして……」
「不幸な事故?」
「はい。そちらの部下さん達がうちの用心棒とやりあった際、打ち所が悪かったらしく死亡したみたいなんです」
「「なんだと!」」
喜色から一変、ヤクザ紛いに怒鳴りつけてきた。
「あ、あの、なんといいますか……」
こ、これはもしかしてやばい?
俺の予想と違う反応だ。
奴らは顔を真っ赤にしてがなりたてている。
こいつら部下なんて眼中にないんじゃなかったの?
利害関係だけで結ばれた集団だと思ったのに。
「殺したって……簡単にほざきやがって。この落とし前どうつけてくれる!」
「は、はい。まことに遺憾だと思ってます」
「お前、舐めてんのか! ぶっ殺してやる!」
女親分の部下達が、一斉に懐からナイフを取り出してきた。
うぁああ! やばい、やばい!
滝のような汗を流しながら右往左往する。
「お前ら、待ちな」
「で、ですが……」
「いいから待ちな!」
「「へ、へい」」
女親分の一喝で制止する部下達。ひとまず、ナイフでぐさぐさに刺されることはなくなった。
助かった。
ふ~と息をつく。
女親分はツカツカと俺の前まで歩みより、ふーっとキセルの煙を吹きつけてきた。
「ごほ、ごほ……な、なにを?」
「……殺したってのかい?」
「は、はい。ですが不慮の事故でして」
「お嬢ちゃん、勘違いするな。故意だろうと偶然だろうと殺しは殺しだ。とっ捕まった程度であれば金で済ませてあげた。だが、さすがに殺されたんじゃ黙ってられない。素人にコケにされて、はいそうですかとはいかないんだよ」
「え、えっと、別に素人というわけじゃ……相手は冒険者ですよ」
「馬鹿か! 実際に殺したのは冒険者かもしれないが、雇ったのは料理屋だ。この世界じゃね。殺されたら殺し返す。プロが素人に舐められたら終わりなんだよ!」
そうか。さすがに切った張ったの世界だ。ヤクザが素人に返り討ちにあって殺されたのなら、報復しないと舐められてしまう。
こ、これは予想以上に厄介なことになってしまった。
女親分は顔を青くしている俺の肩に手を回し、憤怒の表情からいくらか緩和させた表情を見せてきた。
「まぁ、そう仁義を語ったけどね。あいつらはアタイの命令を無視して、陰で女を襲ってた屑共だ。そこまで仲間と言うわけじゃない。正直に話したお嬢ちゃんに免じて譲歩してやってもいい」
「ほ、本当ですか!」
「あぁ、命は助けてやる。その代わり賠償金をもらってくよ」
「あ、ありがとうございます!」
仲間の敵と殺されるより金で済むのはありがたい。
「それでご遺族にお渡しする賠償金はいかほどですか? 一応、一人百万ゴールドぐらいかなと思ってます」
「全部だ」
「は、はい?」
「全部だと言っただろ。全財産だ。お店の権利から身包み全部剥いでもらうよ」
「そ、そんな無茶苦茶な!」
「何が無茶さ。本来であれば、命で贖ってもらうとこなんだよ。全財産で済めば安いものだろ?」
女親分が獰猛な顔を見せてニヤリとする。
言っていることは理解できる。だが、全財産はひどすぎだ。生活できなくなるじゃないか。ティムの学費もある。それはいくらなんでも飲めない。
すぐさま女親分の前で土下座する。
「か、勘弁してください。幾らなんでも全財産取られたら、私達家族はどうやって生活していけばいいか……」
「けけけ、簡単じゃないか。いい身体してるんだ。それを売ればいいだろ?」
「なっ!?」
「そうだな。お前ならエビル地区でナンバーワンになれるぞ。なんなら俺が客一号になってやろうか?」
男達の下卑た声が響く。
人の弱みに付け込みやがって。誰が体を売るかよ。
「も、元はといえば、あなた達が因縁をつけてきたから――」
「ふぅん。口答えする気かい? それじゃあ命で購ってもらおうか?」
「ひぃ。ご、ごめんなさい。払います。払いますから」
「わかったんなら、さっさと金を持ってきな」
「は、はい。それではすぐに取りに行ってきます」
「待ちな。その手は食わないと言ってるだろ! そのまま治安部隊に駆け込まれたら、たまったもんじゃない」
女親分に止められる。
くっ、どこまでもお見通しか。
さすがに全財産毟り取られるぐらいなら、治安部隊に直訴しようと思った。もしくはエディム達に助けてもらってもいい。ティムの生活が困窮するぐらいなら、俺が恥をかいたほうがはるかにましだ。
「オルティッシオに金を持ってこさせる。アンタはそれまで人質だ」
ど、どうしようか?
もう恥も外聞もない。オルにエディム達を呼んできてもらう。俺は軽蔑されてもいい。とにかくこいつらを叩きのめしてもらおう。
オルがいるテーブルへと向かった。
オルは律儀に目を瞑って、手で耳を覆っている。こんな騒ぎがあったのに微動だにしていない。本当に視覚と聴覚を遮断していたんだね。
「オル、目を覚まして」
オルの肩をゆすぶる。オルはゆっくりと目を開いた。
「ティレア様、もうよろしいのでしょうか?」
「うん、それでオル、頼みがあるの。聞いてくれる?」
「ははっ。仰せのままに」
「実は――」
「お嬢ちゃん、念のために言っておく。治安部隊にチクらせたら、すぐにアンタを始末する。もちろん、アンタの家族もだ。いいかい。金を持ってこさせる以外のことをさせるなよ」
女親分はさすがに抜け目がない。
これでは、オルに伝言を頼んだとたんに二人とも殺されてしまう。こうなれば、女親分に察せられない程度の合図をオルに送るしかない。
「オル、あなたにまた金を持ってきて欲しい」
「そうさ。金を持ってきな。有り金全部。全部だよ。全力で持ってきな」
女親分が俺の台詞にのっけて恫喝してくる。
「御意。それは問題ないのですが、この人間の無礼をまだお許しになるのですか? 先ほどからティレア様への無礼千万な態度、許せません。ティレア様の制止命令がなければ、八つ裂きにしていたところです」
うん、俺も怒っている。だけどね、それを口にだすのは待って。
ほら、女親分の瞼がぴくぴくしているよ。
「オルティッシオ、わかってると思うが、治安部隊にチクるなら、このお嬢ちゃんの命は無い。お前は言われたことに馬鹿みたいに従って金を持ってくればいいんだ」
「人間、もう許せん。貴様の――」
まずい。
弱いくせに人一倍煽り耐性の無いオルだ。今にも女親分に殴りかかりそうである。このままではオルの命が危ない。
オルを引っ張り俺の正面に向けさせる。
「オル、あなたは私の命令が聞けないの! 余計な口を利かずに金を持ってくればいいの!」
「も、申し訳ございません。すぐに全力で金を持ってきてまいります!」
「あ、別に全力じゃなくても……」
「くっく、いや、全力で持ってきてもらう。安心しな。アタイの手下を大勢連れて行っていいから。たんまりと持ってくるんだ」
オルは怒られてテンぱったみたいである。言葉のアヤも分からずに全力で金を持ってくるにちがいない。
「オル、た、頼んだよ」
女親分が監視しているので、迂闊なことは言えない。
女親分に見えないようにウィンクをする。パチパチと意味ありげな合図をオルに送った。
察しの悪いオルだが、この危機的状況はわかっているはず……うん、わかっていてほしい。わかってくれ!
とにかく、空気を読んで金と一緒にエディムを呼んでくれば一発逆転だ。
オルは「承知しました!」と威勢の良い声を出して出て行った。
大丈夫だろうか……。
「くっく、お嬢ちゃん。何か頑張っていたようだが、あの様子では何もわかっていないようだね」
「なっ!?」
ウ、ウインクがばれていたのか……。
「お嬢ちゃん、無駄だよ。よしんば理解していたとしても、大勢アタイの手下を連れていったんだ。多数の監視の中、そうそう出し抜けるとは思わないことだね」
くそ。その通りだ。
オルが金を持ってくる以外の行動を取ろうものなら、すぐに殺されるだろう。エディムに助けを呼ぶ隙はない。
なら、せめて、せめて持ってくるお金は最小限の被害におさめたい。
しばらく後、オルが戻ってきた。
「ティレア様、任務完了しました」
「鬼が島帰りの桃太郎かよぉおお!」
オルは、俺の合図の意味にまったく気づけなかったようだ。荷車一杯に財宝を詰めて帰って来たのである。大判、小判がざっくざっく、珊瑚や宝石の数々。
女親分の手下達が、ほくほく顔で運んでいる。
これ、総額数十億ゴールドぐらいいってるんじゃないか? いや、下手したら百億ゴールドいってるかも。
「あ、あ、あぁ~」
「ティレア様、ご安心ください。財宝が少ないことをお嘆きなのですね? 量より質でございます。この荷車に乗っている品々は、全て超一級の品々でございます。全力を出しましたぞ」
「へっへ、姉御、こいつ相当の金持ちでしたぜ。俺達が財宝をよこせといったら山のように持ってきやがった。あの様子じゃまだまだあるようだ」
な、なんてこと……。
奴らにオル家の総資産がばれた。
オル、あなたにアドリブは期待していないけどさ。せめて自分に何が起こっているかぐらい認識してくれ。
これ、後で相当な問題になるだろう。オル家の資産をこんなに持ち出して、しかもヤクザの資金源になるんだよ。下手したらオル家がつぶれるかもしれない。
「オ、オル、あなた勝手に財産を持ち出して大丈夫なの?」
「はぁ、ですが勝手に持ち出してはおりません。ティレア様のご命令ですよね?」
「うっ。そ、そうだけど……だからって私のせいにするのは――いや、そうね。うん、その通りだ」
もとはといえば俺が蒔いた種だ。オルは、俺に巻き込まれただけである。こんな勘当されるかもしれない愚かな行為をしたのもすべて俺のためなのだ。感謝こそすれ、非難するのは間違っている。
「ティレア様、もしや私の行動が間違っていたのでしょうか?」
「ううん、よくやってくれた。オル、ありがとね」
「ははっ!」
オルは、嬉しそうに返事をする。
そんなにこやかな顔をされても……これからが大変だぞ。
まぁ、いいや。とりあえず帰ろう。帰ってドリュアス君達と善後策を話し合えば、解決するかもしれない。
オル家の資産をなんとか取り戻さないとオルが破滅するからね。
オルを連れて今度こそ帰ろうと出口へと向かった。
「ちょっと待ちな」
女親分がストップをかけてきた。
なんだ? まだ足りないとでも言うのか? 数十億ゴールドもふんだくっといてまだ不足なのかよ!
「まだ何か? いくらなんでもがめつすぎじゃないですか? 慰謝料にしても十分すぎるでしょ」
「あぁ、額は十分さ。ゴロツキのあいつらの命が数十億ゴールドになったんだ。文句はない」
「じゃあなんで?」
「額が多すぎなのさ。このまま帰って『はい、終わり』って額じゃない。あんた、いやオルティッシオと言ったね。彼は何者だい? 只の店の従業員じゃないね。おそらく名のある貴族なんだろ?」
くっ。鋭い。まんまと正体がばれてしまった。
「図星のようだね。ふんふん、察するに貴族のぼんぼんが、料理屋の看板娘に熱を上げて店に入り浸っているってところか」
「いや、それは違――」
「とにかく、そんな貴族の金をいただくんだ。後で報復されたらたまらないからね」
「ま、まさか口封じする気ですか!」
ひぃいい! 最悪の展開だ。額が額だけに女親分達も警戒したみたい。
そうだね。オルはともかく大貴族の当主であるオル父がこのことを知れば報復措置に出るのは目に見えている。
ど、ど、ど、どうしょう?
「ティレア様、いい加減にこいつら殺しませんか?」
オルは、こんな緊急事態でも平常運転だ。俺のパニックもなんのそら、おめでたい言動を繰り返している。
事態の悪化を避けるため、再度、一言も口を利かないように、さらに人形のように突っ立っておくようにオルに厳命した。
オルは俺の言葉を神託か何かと思っているのか、言葉通り石のように突っ立っている。
うん、本当に素直で良い奴なんだけどね。
さて、オルへの対処はこれで良いとして、この場はどうするか。もうこうなったら強行突破しかない。
「アンタ達、動くなよ。動いたら殺す」
俺が逃げようとする気配を感じたらしく、女親分がナイフを取り出した。手下達が俺達を輪に囲む。これでは迂闊に動けない。
「わ、わたし達をどうする気ですか?」
「そうだね。口封じ――と言いたいが、オルティッシオは、どうやら貴族の坊ちゃんのようだ。どうするかは上に相談してみるよ」
そう言って、女親分は何やら手下達に命令をする。
手下達が外に出て行き、しばらくすると、一人の老人が現れた。老人であるが、威厳がある。ギロリと一瞥され身震いした。
こ、怖い。
まるでイタリアンマフィアのボスみたいな風格がある。
あわわわわ、この人ってもしや噂の闇の帝王なのでは……。
「ご足労ありがとうございます。ザマの親分」
女親分がこれでもかってぐらい低姿勢でお迎えしている。相当上の人が来たみたいだ。やはり闇の帝王なのかもしれない。
「ふん、この俺をわざわざ呼びつけたんだ。並みの貢物じゃ許さんぞ」
「へ、へい。エビル地区の七星と呼ばれたザマの親分に嘘はつきません」
女親分の手下が揉み手をしながら頭を下げる。
七星? 闇の帝王じゃないのか?
あ、そう言えば、噂好きのミレーおばさんに聞いたことがある。
昔のエビル地区は、七人の親分によって仕切られてたとか。その親分達は七星と言われて恐れられてたらしい。逆らう奴は容赦しない鬼のような奴らだったって。そのカリスマと恐怖政治で長い間、ゴロツキ共を支配していたとか。そんなすごい七星も闇の帝王が現れたら、あっという間に支配下に置かれたみたいだけどね。
この人、そのうちの一人だったんだな。
「おい!」
「へ、へい。なんですか? 七星の親――」
「馬鹿野郎! その名は捨てたと言っただろうが! 今は闇の帝王様に仕えているんだ。二度とその言葉をほざくな。その舌を引っこ抜くぞ!」
「ひぃ! も、申し訳ございません!」
「はぁ、はぁ、まったく心臓に悪い。俺が謀叛を企てているなんて思われてみろ。破滅するだろうが!」
こんなゴットフ●ザーみたいな凄みのあるヤクザがびびっている。
闇の帝王とは一体、どこまですごいのか。
「ザ、ザマの親分。機嫌を直して下さい。こいつらは再教育しておきますので」
「ふん、胸糞悪いが、まぁいい。俺は忙しいんだ。本題に入るぞ。それで、今までに類をみない財宝とはどこにある?」
「は、はい。こちらです」
女親分が、オル達が持ってきた荷車を示す。
ザマは瞳孔を大きく開き、驚いていた。
「こ、これはすげぇ……俺も長年、裏の道を歩んできたが、ここまでの財宝は見たこともない」
「どうです? 素晴らしいでしょ。これを献上しますので、アタイもファミリーの一員にしていただけますか?」
「良かろう。これだけの貢物だ。お前の忠誠を認め、俺の組の枝にしてやる」
「あ、ありがとうございます!」
「へっへ、俺も運が向いてきた。これだけの物を献上すれば、闇の帝王様も喜んでくださる。俺の地位も飛躍するな」
ザマのお親分は上機嫌で、手下に何やら命令している。さっそく闇の帝王に財宝を献上するために連絡を取っているのかもしれない。
「それでザマの親分、相談したいことがあるんですが……」
「なんだ?」
「はい。この貢物は、この貴族のぼんぼんから掠め取ったんです。こいつら、どうしますか?」
女親分がオルを指差す。
ザマはギロリとこちらを睨みつけてきた。
「そうだな。生かしておくのはリスクがある。殺すか……」
「ひぃいい。ち、ちょっと待ってください!」
慌ててザマの親分の前に進み出て哀願する。
「ほぉお。こいつは上玉じゃないか! 殺すには惜しい。俺の――いや、貢物をちょろまかしたと思われるのはまずいな。よし、お前は闇の帝王様に献上する」
ぐはっ!
なんという急展開だ。俺はこのままエビル地区の最大権力者、闇の帝王のお妾さんになるのか。
俺が自分の運命を悲観していると、誰かがドアを開けて出てきた。
今度こそ、闇の帝王?
ドナドナの牛の気持ちで身構えていたら、一人の少女が現れた。
可愛い。
意外も意外、まさか闇の帝王の正体がこんな美少女だとは――ってうそ!
「エディム!」
「あ、ティレア様、こんなところにいらっしゃったんですか?」
「う、うん」
なんと闇の帝王が登場と思いきや、なぜかエディムが現れたのだ。
ど、どういうこと?
「あ、あの、どうしてエディム様がこちらに? それにミリオ様は?」
ザマが恐縮しながら、エディムに質問をしている。エディムは興味なさげにザマを見つめていた。
「ザマか。ミリオは別件で忙しい。だから、近くにいた私がこちらに来た。で、貢物はどれだ?」
「はっ。こちらに……それと、この女とお知り会いですか? 先ほどティレア様とは一体……」
「お前は知る必要のないことだ。余計な詮索をすると殺すぞ!」
「も、申し訳ございません。どうか、どうかお許しを……」
ん? ん? ――ん?
先ほどから目の前で広がる展開に頭がついていけない。
どうやらザマの親分の上役がミリオで、その上役がエディムみたいだ。
エディムが闇の帝王ってこと?
俺の困惑をよそにザマとエディムは何やら難しそうな話を繰り返している。
「あ、あの、ザマの親分。この女は一体? どうしてザマの親分ともあろうお方が、こんな小娘に敬語なんて使ってるんです?」
女親分もいきなり現れたエディムに困惑していたみたいだ。俺と同じようにフリーズしていたが、復活してザマに質問をしていた。
「口の利き方には気をつけろぉおお!!」
「ひぎゃあ!」
ザマの平手が女親分を襲う。
女親分は、平手の衝撃で地面に倒れた。ドシンと音がして、強かに腰を打っている。
地味に痛そうだ。
「この方は、闇の帝王様の直属配下、俺の上司より偉いお方だぞ!」
「ひ、ひぃい。申し訳ございませんでしたぁあ!」
ザマの叱責に、女親分が土下座する。
「エディム様、申し訳ございません。この非礼、この女の指を詰めて、いや命で償わせていただきます」
「ひぃい、お許しを! お許しください。エディム様!」
「はぁ~もうどうでもいい。指も命もいらん。面倒だ。それより、この財宝なんだが……」
「はい。すばらしい代物でしょ。俺も長年、生きてきましたが、これほどの財宝は見たことがありません」
「あぁ、素晴らしいのは確かだ。だがな、なんとなく見覚えがある気がするんだ」
「そ、それはどういう意味でしょうか?」
「ちょっと待て」
エディムがザマとの会話を切り上げ近づいてきた。
うん、質問したいことが山ほどあって、逆に何を質問したらいいかわからんぞ。
エディムは俺の困惑を余所にツカツカと歩いてきて、オルの前で止まる。
「オルティッシオ様、何でこんなところにいるのか知りませんが、一つ質問があります。あの財宝って、もともと邪神軍の宝物庫にあったものではありませんか?」
「……」
「オルティッシオ様、聞いてますか? あれ、もともとうちのものですよね? なんでここに?」
「……」
「オルティッシオ様?」
「……」
「くっ。おい、聞こえているだろ? あんまり調子に乗らないでくださいよね。私は私で忙しいのに、第二師団の仕事を手伝っているんですよ。本当に無駄で無駄でたまらないのに少しは協力しろや!」
「……」
「こ、殺す!」
「……」
オルは、エディムの再三の質問に無視を続ける。
オルは「俺の口を利くな!」という命令をひたすら厳守しているのだろう。知り合いのエディムからの質問だ。答えてやればいいのに。
ったく律儀というか、融通が利かないというか……。
エディムは、オルが無視をするのでかなり立腹しているようだ。罵詈雑言を繰り返している。そして、言い疲れたのか、俺に縋るような目線を投げかけてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ、も、もう許さん……テ、ティレア様、見ましたか? この不遜な態度、オルティッシオは職務怠慢です。早速処刑しましょう!」
「……」
「あぁ、ティレア様まで無視をされるのですか? 私、またティレア様のご不興を買ったのでしょうか? あぁ、どうしたら」
エディムが頭を抱えて悩み始めた。
いかん。あまりな出来事に脳内の処理速度がオーバーヒートしてしまい、返事が遅れてしまった。
「エディム、ごめん。ちょっと混乱してたから。私はあなたを嫌ったりしないよ」
「ティレア様!」
「あとオルが無視をしてたのは、私が『口を利くな』って命令してたからだよ。他意はないから」
「そうだったんですか。でも、なぜそのようなご命令を?」
「うん、そんなことよりエディムに聞きたいことや突っ込みたいことが山ほどあるの。でもね、まずは一つだけ聞くわ」
「はっ。なんなりと!」
「闇の帝王って誰のことかな、かな?」
「え~と、ご質問の意味が……」
「そのままの意味よ。誰なの?」
「はい。ここにいるオルティッシオ様ですね」
「「うそだろぉお!!」」
俺と女親分とザマの声が部屋中に響く。
俺とエディムの会話に怪訝な顔をしていた女親分とザマだったが、この事実はさらに驚愕だったみたいだ。
そうだよね。俺もびっくりだ。
「オル、しゃべっていいから。質問に答えて」
「はっ」
「あなた、闇の帝王なの?」
「はっ。そのように呼ばれておりますが、私は名乗った覚えはありません。決して他意はありません。ティレア様、信じてください!」
ふぅ~本人からも肯定された。
何よりエディムの証言だ。事実なのだろう。
オルが闇の帝王……。
全ての悪を従え、エビル地区の頂点に立つ絶対君主……。
噂とは真逆の位置にいるオルが闇の帝王とは、どんなマジックを使ったか?
はっ!? そういうことか。大体わかったぞ。つまりこういうことだ。
『ふぅ、暴対法も進み、ゴロツキ共の勢力が弱まっている。そろそろエビル地区を大貴族であるオル家で支配する時期だな。我がオル家の総力を上げて取り組む』
『パパ、お願いがあるんだ』
『息子よ。頼みとはなんだ? なんでも聞いてやるぞ。馬が欲しいのか? それとも城が欲しいのか?』
『そんなのいらないよ。僕はもう子供じゃないんだ』
『そうか、そうか。では何が欲しい?』
『僕、そろそろ領地経営というものをしてみたい」
『おぉ、なんと向上心のある息子か。よし、それでは我が領地で候補を決め――』
『候補なら決めているよ。エビル地区がいい』
『む、息子よ。さすがにエビル地区はなぁ。あそこは、ヤクザが仕切っていて危険が多い。実地支配するのがとても難しい場所なんだよ。最初はもっと簡単、そうだ、ザイール地方はどうだ? あそこは比較的治安も安定している。それに豊かな土地だぞ』
『パパ、僕は逃げない。難しい土地を治めてこそ跡取りとして相応しいでしょ』
『おぉ、なんと……わが子とはかくも成長するものか。涙が出てきたぞ。親泣かせの息子め。よっしゃ。よっしゃ。見事治めてみせよ』
『わぁい、治めるぞ! 内政チートしてやるもんね。楽市楽座に刀狩だ!』
『コラコラ、検地も忘れるんじゃない』
てな感じだな。
そして……。
『ふふ。息子め。あんなに喜んで飛び出して行きおったわい。あとは……セバス、セバスはいるか!』
『ここに』
『息子を助けよ。陰から陽から東西南北全ての方角から息子を助けるのだ!』
『お任せください。若様の手を煩わせる真似はいたしません。若様は、椅子に座っているだけで良いようにあらゆる難題を粉砕してごらんに入れます」
『うむ。さすがは我が家が誇る完璧執事セバスよ。頼んだぞ』
こんな感じの会話が成されたんだろうね。
エビル地区の当主は、オルの思いつきで決定したのだろう。
さすがは中世、絶対王政の世界だ。こんな市長か領主みたいなすごい地位を実力の無い者が血縁ってだけで任命されるのだ。怖いね。
もちろん、血縁主義が百パーセントだめだと言う気はない。血縁主義でも優秀な人が任命されることもあると思う。才能は遺伝するとか言うしね。
だが、今回は、悪い場合だ。オルに統治能力はない。統治は超優秀なオル家の部下達が全てやっているにちがいない。
「オル、あなたがエビル地区を治められているのは、優秀な部下がいるおかげよ。決して自分の力と驕っちゃだめだからね」
「もちろんでございます。優秀な部下が私を支えているのです。それは古の頃から変わりません。部下は私の誇りです」
「うんうん、それがわかっているのなら、あなたなら大丈夫」
「ははっ」
さてさて、今日は驚くことがありすぎて大変だったよ。
オルが闇の帝王!?
思わず笑っちゃったね。
そう言えば、エディムも闇の帝王の話題を出したらくすくす笑っていた。闇の帝王の正体を知っていたからか。
謎が解けたよ。
それにいつもオルが「エビル地区は私の庭だ、庭だ」って言ってた理由もわかった。
ふ~何はともあれ結果オーライだね。
オルは飾りとは言え、このエビル地区のトップだ。もう何も怖がる必要はない。俺は、闇の帝王様とマブダチなのだ。
ふふ、あんなに怖そうだったザマや女親分が小さく見えるよ。
さ~てと、さっさと帰ってお布団に入って寝ようと。
今度こそ、というかもう止められはしないだろう。
俺は出口へと向かった。
「あ、待て!」
「ん!? 何か用でもあるの~?」
余裕綽々で女親分に返事をする。
「あ、あ、ど、どういうことだ? 闇の帝王が、この男? それにティレア様? と、とにかくザマの親分、チャンスです。闇の帝王がこんな青二才とは、幽霊の正体見たり枯れ尾花です。やってしまいましょう! エビル地区はザマの親分のものになりますよ!」
女親分は、ザマを炊きつけている。
でも、残念。ちょっと惜しかったね。謀叛は成功しないよ。
俺とオルだけだったら成功したけど、ここには、最強の矛がいるんだから。
「ば、馬鹿野郎! そんな恐ろしい真似……」
「チャンスですって! ここには闇の帝王のボディガードはいません。小娘二人だけですよ」
「だが、しかし……お前は、ミリオ様の怖さを知らないのだ。ミリオ様の荒れ狂うような暴力を見た。謀叛なんてしようものなら、どんな目に合わせられるか」
「武闘派であるザマの親分がここまで言うんです。ミリオ様はとてつもない暴力の塊なんでしょう。ですが、そのミリオ様はここにはいません」
「だ、だが、そのミリオ様の上にいるのが、エディム様なのだ。エディム様に手を出そうものなら、あのミリオ様率いる恐ろしい部隊が……」
「殺してしまえば、わかりません。ザマの親分、このまま搾取される日々を我慢されるのですか? エディムは間抜けにもボディガードでのミリオ軍団を連れてきていません。さらに闇の帝王がお飾りと判明しました。こんな機会は二度とありませんよ」
「そ、そうだな。俺もこのまま使われるだけで人生終わる気は無かった。へっへ、本当に今日はついてるぜ」
「そうでなくっちゃ。お前達、囲め!」
「「へい!」」
女親分の手下達がぐるりと囲む。
「ふふ、お嬢ちゃん、巻き込んじまって悪かったね。目撃者は生かしておけない。かわいそうだけど、死んでもらうよ」
「ふふ」
「何がおかしい?」
「いや~なんでミリオが強くてエディムが弱いって決めつけたのかなって思って」
「なんだと!」
「エディム、ちょっと懲らしめてきなさい」
「はっ、不遜な輩達です。ずたずたに引き裂いてご覧に入れます」
「いや、殺しはだめよ。半殺し、いや、二割殺しでやっちゃって!」
「御意」
エディムが返答するや、風のような速さで女親分以下ゴロツキ共をぶっとばしていく。
途中、火がついたのかオルが「私めも参加しますぞ」と言って飛び出しそうだから、羽交い絞めにして止めた。
俺に考えがある。そのためにもあなたが弱いことがばれないようにしないとね。
それから……。
「こんなものですかね……」
エディムが拳に大量の血をつけながら呟く。
もちろん、エディムの血ではない。
うん、さすがだね。寒気がしてきた。
二、三十人いたゴロツキ達を圧倒したよ。
「ひ、ひぃ。お、お許しを……」
「げふぉ。うぅ、た、助けて」
あまりに哀れなゴロツキ共のぼこぼこにされた姿がそこにあった。
視界に広がる血の海……。
中にはピクピク痙攣している奴もいる。
死んでないよね?
二割殺しでなく一割殺しで良かったかもしれない。
「エディム、手ぬるいぞ。こいつらは謀反人だ。もっと手荒くいかんか!」
オルが、早速、居丈高にエディムを責める。
普段であれば注意するが、ここは闇の帝王として都合が良い。オル父には地下帝国のことからなんやかんやでいつもお世話になっている。
ここは俺もオルの闇の帝王カリスマ計画に協力してやろう。
「あなた達、闇の帝王様の御前よ。ちょっと頭が高いんじゃない?」
「ひ、ひぃ。は、ははっ!!」
エディムにボコボコにされて皆がビビッている。ゴロツキ達は、コメツギバッタのように土下座をした。
「そう、そうやって平伏してなさい。ここにいるお方を誰だと思っているの? 先の副将軍――ではなく、闇の帝王オル様よ!」
「「ははっ。ご、ご無礼お許しください!」」
「うんうん、許してあげよう。あなた達、運が良かったね。オル様が怒ってたらあなた達、一瞬でミンチだったよ」
「ミ、ミンチですか……」
ゴロツキ達は、顔を青くしている。
いい感じだ。オルへの畏怖を感じているね。
「ティレア様、ティレア様」
「な~に?」
「私は怒っています。こいつらミンチにしてもよろしいですか?」
「「ひ、ひぃ!」」
オルの恫喝に、ゴロツキ達が顔を引きつらせてびびっている。
いやいや、あなたの力ではミンチにできないでしょ。
それとも、エディムに頼む気?
そんなのは許さない。エディムに人殺しはさせないよ。
オルの言葉を無視して芝居を続ける。
「そうですか、さすがはオル様。こいつらを許しますか。闇の帝王は器がでかい」
「いえ、許せません。こいつらは極刑です。謀叛人を――ふんぎゃあ!」
オルの足を踏みつける。
ぐりぐりとゴロツキ達の視界に入らないように踏みつける。
まったく、どこまで手間をかけさせれば気が済む。
空気を読め。わかったな。
「オル様、こいつらを許しますね?」
「は、はっ。わ、わかりました」
そうして、オルから無理やり同意の言葉を吐かせた。
「あなた達、闇の帝王のご慈悲に感謝することね」
「は、はっ。お許しいただき、感謝します」
「うむうむ。これからは正規の値段で庶民を泣かせないようなお店経営をすること。恐喝なんてもってのほか。わかった?」
「「ははっ。二度と闇の帝王様には逆らいません!」」
「その言葉忘れないように。忘れたら闇の帝王の制裁でミンチだからね」
「そ、それほどのお力を持っておられるのですか?」
「そうよ。オル様の力はエディムを十倍するよ」
「「十倍!」」
ゴロツキ達は、口をパクパクさせている。
驚愕してるね。
嘘は苦手だが、これで闇の帝王のハクがつけば安いものだ。
「ティレア様、ティレア様」
「な~に?」
「お褒め頂き恐縮ですが、さすがに十倍ではありません。三倍ってところですか」
うん、本当に空気が読めないな。
これはハッタリなの。ハッタリに突っ込むなよな。
実際は、エディムの百分の一以下の実力でしょうに。その微妙な強気はなんなんだ。
「コ、コホン。オル様は謙虚だからね。自分の実力を過少に言っちゃうのよ。実際、オル様が本気でパンチを繰り出せば、音を置き去りにして放つことができるんだから」
「「音をですか!!」」
「そうよ。見かけに騙されちゃだめ。オル様は青二才に見えるけど、歴戦の戦士よ。あんなに強いエディムがその強さに敬服して配下になっちゃうぐらいなんだから」
女親分とザマは目を見開いて驚いている。
エディムの強さは身を持って実感しているから、より驚愕しているだろう。
エディムが「……別に敬服してませんけど、むしろ憎悪」とポツリとつぶやいたり、オルが「さすがに音は難しいです。私の最高速度は、一秒間に十三連打」とか弱気なのか強気なのか分からないセリフを吐いたりしたけど……。
頼むからあなた達も協力してくれと思っていたら、
「ところで、ティレア様はなぜこのような場所におられるのですか?」
闇の帝王カリスマ化計画にエディムから横槍が入った。
そ、そうだった。
俺がここにいる説明をしないと、わけわからないよね。
うぅ、正直に言えば、エディムから軽蔑されちゃう。さらに言えば、オルのカリスマ化にも影響する。それは悪手だ。
どうすれば……あ! いいことを思いついた。
女親分達に向き直る。
「あなた達が改心してよかった。私が内偵調査をしたかいがあったね」
「「内偵調査ですと!!」
全員がハモる。
驚いているね。
そう、俺が風俗に行ったのは、オルのエビル地区統治のための内偵調査に来たことにする。決して趣味で行ったわけでない。お店経営の実態調査に来たのだ。
うむうむ、実はそういうことなのだ。
「ティレア様が、このような場所にいらっしゃったのは、そういうことだったのですね」
「ティレア様、密命の意味がわかりました。私にエビル地区の内偵調査に協力して欲しいということでしたか!」
「エディム、オル」
「「はっ」」
「さすがね。その通りよ。バレちゃあしょうがない。エビル地区の上がりがどうなっているか身を持って体験したんだよ」
「「ははっ。さすがはティレア様。御自ら調査にあたられるとは、予想もつきませんでした」」
よっしゃあ! 危機を乗り切ったぞ。
エディムとオルは俺の言葉を信じこんでいる。後は、女親分達を言い包めれば、一件落着だね。
「な、内偵調査……あれだけベソをかいてたのが演技……?」
まずい。女親分が不審がっている。
まぁ、不審がって当然か。あれは演技ではない。厳然たる本気の行動だ。これ以上、女親分達に余計なことを言われ、疑われる前に機先を制す。
「あ、はははは。そうよ。すごいでしょ。私の演技はアカデミー賞を総なめするぐらいすごいんだから」
「はは……まいったよ。本当に、すごいお方がいるもんだ」
「貴様、ティレア様に気安いぞ。分を弁えろ!」
「え!? 闇の帝王様が敬語を使うって、そういえば闇の帝王様の首も絞めていた……あなた様は一体?」
しまった……。
俺のオルへの扱いをこいつらは知っている。俺はオルをさも格下のように扱っていた。ここで俺がただの町娘だとばれたら、闇の帝王のカリスマが低下してしまう。
こうなれば……。
「ば、ばれたみたいね。そうよ。わ、私が実はエビル地区を影で操る裏番よ。闇の帝王よりもすごい存在なの」
「ほ、本当ですか!」
「そ、そうよ。ちなみに戦闘力はオルの十倍はある」
「「十倍!?」」
驚いている。
よしよし、どうやら俺を凄腕の影の裏番って思ってくれたみたいだね。
「ティレア様、ティレア様」
「な~に?」
「そんなにご謙遜されますな。ティレア様のお力は私の十倍どころか、千倍はありましょう」
だから空気読めって。
千倍って……小学生か! ハッタリにも限度があるだろうが。ほらほらゴロツキ達も口を空けて呆然としちゃってるよ。
まったくKYッシオめ。この調子で本当にエビル地区を統括できるのか?
統治にエディムを引き入れたのは褒めてあげるけど、不安でしょうがないよ。