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第七十三話 「エディ父登場。親子和解に協力だね(後編)」

 エディムの中二病は、ティム達と友好を深めるいいスパイスであった。


 だが、今回は悪い方向に出てしまったよ。


 エディ父は、幽気のような顔で剣を向けてくる。


 す、すごい殺気……。


 エディ父は、娘の仇とばかりに睨んできた。


「エ、エディムのお父さん、お、落ち着きましょう。まずは中二病から説明します」

「くっく、まんまと騙されたよ。そうか、娘をこんな化物に変えた元凶は貴様だったか」

「い、いや違います。誤解です。エディムを吸血鬼に変えたのは、アルキューネとかいう魔族ですよ」

「ティレア様、それは昔の話です。今はティレア様をご主君として忠誠を誓っております」


 エディム、昔のトラウマを吹っ切るのは素敵なことよ。あなたがそういう風に言ってくれるのは嬉しい。


 でもね、今言うタイミングかな~。


 ほら、エディ父見てよ。あの憎悪の篭った目、すでに俺をロックオンしてる。


 剣先だってエディムじゃなく俺に向けているんだぞ。今すぐナマス切りしたいって顔してるよ。


 あばばばばばばば! 誤解を、誤解を解かないと!


「エディムのお父さん、誤解しないで。エディムの説明は不十分です!」


 そう、エディムはティム達に習って俺を主君呼ばわりしている。要するに、邪神軍ごっこの遊びで言っているに過ぎないのだ。


「エディム、その言い方は誤解を招くでしょ。訂正しなさい」

「こ、これは申し訳ございません。さも私がティレア様直属の家臣みたいな物言いをしてしまいました」

「あ、いや、何を……」

「マラーノ、聞け。私はティレア様の陪臣にすぎぬ。その私如きに手も足も出ないお前は、地を這う蛆虫以下の存在だ」


 な、なに誤解を加速させてんだよぉおお!


 エディ父は、ますます怨嗟の目で睨んでいるよ。


 とにかく誤解を解かねば!


 魔族アルキューネがエディムを襲ったことが、エディムの不幸の始まりである。そこをうまく伝えないといけない。


「エディム、違うでしょ。まずはアルキューネのところから説明しようか」

「承知しました」


 そうそう、早く誤解を解いて。このままじゃ、エディ父から悪の首魁みたいに思われてしまう。


「いいか。私はかつて魔族アルキューネに襲われ吸血鬼となった。学生に過ぎなかった自分にとって、魔族は絶対の強者だった。襲われた時は恐怖で震えたよ」


 うんうん、いいぞ。


 ことの始まりをうまく伝えている。


 エディ父もとりあえず矛をおさめてくれた。エディムの話を聞いてくれている。


 このまま穏やかに決着をつけたい。


「それがどうした? エディム貴様が被害者だとしてもだ。この国に害を及ぼすのなら私はお前を斬らねばならぬ」

「ちっ、いいから聞け!」

「そうよ。せっかく自分の娘が心情を語っているんだから、ちゃんと聞きなさい」

「わかった。続きを」

「吸血鬼となり、アルキューネの強さを肌で感じ思ったよ。私は一生、この人の下僕としてお仕えするのだと……だが、違った」


 おぉ、いい感じだ。エディム、あなたの心情が伝わってくる。


 そうだよね。そこでジェシカちゃんとの友情を思い出し、人間の心を取り戻したんだよね。


 その下りは重要よ。


 しっかりお父さんに伝えなさい。


「そんな絶対の強者アルキューネ。それをいとも簡単に倒した御方がいる」

「へっ!?」

「それがそこにおられるティレア様だ。いいか、肝に銘じておけ。ティレア様こそ、この世で最強の絶対君主なのだ」


 うぉおおおい、エディムはしょりすぎだ!


 ジェシカちゃんとの友情を思い出すところ、そこが肝心なの!


 俺の転生知識チートの話なんて蛇足も蛇足だ。


 むしろ、エディ父からの誤解が急速に加速してしまった。ヘイト率上昇に繋がっているよ。


「エ、エディム、確かにアルキューネは私が倒したけどさ。あれは――」

「怨敵、魔族喰らえぇ――っ!」


 うそぉ!? 話の途中なのに、エディ父がすごい形相で斬りかかってきた。


 切れ味の良さそうな大剣が俺を真っ二つにしようと迫ってくる。


 き、斬られる、身構えた瞬間――。


「貴様、聞いていなかったのか? 分を弁えろ!」


 斬ろうとするエディ父の腕をエディムががっちりと掴んだのだ。


 た、助かった。


 エディムのおかげで斬られずに済んだ。


 エディムは、斬ろうともがくエディ父の腕をギリギリと(ひね)っていく。


「痛っ!? こ、殺す。人間の大敵、魔族めぇ!」

「これ以上、無礼を働くな!」

「ぐはっ!」


 エディムの拳がまたもやエディ父に突き刺さる。


 エディ父は地面を転がり、数十メートルは吹っ飛ばされた。


 し、死んだ……?


 いや、ぴくぴく動いている。死んでいない。なんてタフなんだ。


 吸血鬼に二度もぶん殴られ満身創痍のはずなのに。エディ父はヨロヨロと立ち上がり、闘志満々で睨みつけてくる。


 (おも)に俺を……。


 理不尽だ。


「ティレア様、もう眷属化させるか殺しましょう!」


 ……エディムの言うとおりかもしれない。エディ父は、国粋主義で凝り固まっている。決してその主義を曲げないだろう。


 もう無理だ。眷属化するしかない。


 ここは一旦解放して、後日また説得するという方法もある。だが、このままエディ父を解放したら斬られそうだ。下手をすれば、ティムまで魔族と誤解され逮捕される可能性もある。


 覚悟を決めよう。


「眷属化して……」

「承知しました」


 俺の言葉を受け、エディムがエディ父に歩み寄る。


 エディ父は魔法弾をエディムにぶつけるが、エディムの歩みは止まらない。


 自身の魔法弾が効かないのを理解したのか、エディ父は剣に魔法付与をかけて斬りかかっていく。


「甘い、甘い。止まって見えるわ。デスガラスの戦いで名をあげた将軍にしてはお粗末な剣技だ」

「ぐぬぬ!」


 エディ父の剣は空を切るばかり……。


 それでもエディ父は諦めない。縦横無尽に剣を振り回す。ただ、その全てをエディムは軽やかに躱していくのだ。


「スピードもパワーも話にならない。全てにおいて未熟だ。この程度の腕で隊長とは……人間とは本当に低級な種族だな」

「はぁ、はぁ、はぁ、くそ!」


 あ、圧倒的すぎる。


 エディ父も有名な軍人なのに、エディムに手も足もでない。吸血鬼って本当に強いんだね。


「くっ、なんて強さだ。このぉ!」

「往生際が悪いぞ」


 エディムはエディ父の大剣を片手で薙ぎ払い、その首を鷲づかみにした。そして、苦悶の声を上げるエディ父の首に牙を突き刺そうとする。


「光栄に思え。お前は生まれ変わる。下らない王家など一片たりとも考えられないようにしてやる」

「こ、殺す。貴様はアルハス家の癌だ」

「抵抗するな。受け入れろ。それが貴様のためだ」

「や、やめろ!」

「私に直接吸われる。とても栄誉なことだぞ。お前は私の一次眷属となり、我が吸血部隊の一隊を任せるとしよう」

「だ、だれが魔族の手先になるか!」

「ふふ、マラーノお前は元父だから、ここまで優遇してやるのだ」


 エディ父は血管が浮き出るほど力を入れ、エディムの吸血から逃れようとしている。


 ……時間の問題ね。


 エディムは余裕綽々だ。エディムの牙から逃れられないだろう。


 でも、本当にこのままエディ父を眷属化させていいのかな? まずい気がしてきた。


「あ、あの……」

「なんでしょうか?」

「いやね。思ったんだけど、このままエディ父を眷属化させたら『ははっ、偉大なるエディム様!』みたいになるのよね?」

「端的にいうとそうです」

「さらに言えば『はぁ、はぁ、エディムたん、最高! 太ももペロペロ』とかなっちゃうんだよね?」

「い、いや、そ、それはどうでしょうか……」

「可能性は無いとはいえないよね?」

「は、はい。可能性はないとは言い切れませんが……」

「実の父に、そんな態度されたらエディム嫌よね? いや、そうに決まっている」

「は、はい」

「じゃあさ、その眷属化する時に親子の関係のままでいられないかな?」

「それは難しいですね。主従関係を結ばないのであれば、こいつは国に忠誠を誓ったままです」


 そっか。なんとかエディ父の国粋主義を転換できないだろうか……。


 ん!? そうだ!


「じゃあ国家の代わりに邪神軍に忠誠を誓わせるようにできない?」

「なるほど。吸血で私でなく邪神軍に忠誠を誓わせるのですね」

「うん、できる?」

「初めての試みでどうなるか予測できません。ですが、やってみます」

「お願い」


 そう、エディム個人でなく組織に忠誠を誓えば、エディム自身に信奉が集まり過ぎないと思う。エディムが実の父から「はぁ、はぁ、エディムたん」みたいに迫られることがあってはならない。


 主従関係がある親子なんて変だからね。


 それに、邪神軍というサークルに忠誠を誓わせれば、エディ父の行き過ぎた国粋主義も無くなるはずだ。吸血鬼になったエディムを許してくれるだろう。


「ティレア様のご命令だ。さぁ、覚悟はいいか?」

「く、くそ、ぬかったわ。まさか、こんな金髪の小娘が魔族の首魁とは……」

「マラーノ。ティレア様にそんな無礼な口を叩けないようにしてやる」

「お、おのれぇ……うっ、ぐはっ!」


 エディムがエディ父の首筋に噛み付き、血を吸っている。


 一分、二分……三分。


 なんか長いぞ。ジェジェ眷属化の時はそんなに時間がかからなかったのに。やはり特殊な条件付けをしているから時間がかかるのだろう。


 四分、五分……六分。


 大丈夫か? エディ父、失血死しないよね?


 七分、八分……九分。


 の、飲み過ぎじゃない? そろそろエディムを止めたほうがいいかも。


 そして……。


 エディムの吸血が終了した。エディムが口元の血を拭い、エディ父はそのままばたりと地面に倒れたのである。


 さらに幾ばくかの時間が過ぎ、エディ父はのそりと立ち上がった。


 さぁ、結果はいかに?


「エディム」

「マラーノ、気分はどうだ?」

「すごぶる良い。エディム、よくぞやってくれた。父さん、どうかしていた。あんな屑国家に忠誠を誓っていたとは痛恨の極みであった」

「やっと理解したか」

「あぁ、これからは栄えある邪神軍のために命を捧げよう」

「そうか、私も骨を折ったかいがある。嬉しいぞ」

「それにしても、邪神軍で立派に働くお前を手にかけようとしていたとは、あきれてものがいえん」

「その通りよ。まったく父さん(・・・)にも困ったものね」


  おぉ、なんか親子の会話をしている!?

 

  二人は和やかに笑顔で談笑しているのだ。

 

  まぁ、会話の内容は置いとくとして……。

 

  これで万事解決?

 

「あ~ごほん。エディム良かったね?」

「これはティレア様、身内の恥ずかしいところをお見せしました」

「いやいや、親子の和解ができて良かったよ」

「ありがとうございます。これからは親子ともどもティレア様に忠誠を誓います」

「う、うん……まぁ、はい」

「それではマラーノ、邪神軍総帥であられるティレア様にご挨拶しろ」


 エディムに促され、エディ父が俺のそばにくる。そして、片膝をついて頭を垂れてきた。


「ティレア様、今までのご無礼申し訳ございません。改めて、アルハス・マラーノと申します。栄えある邪神軍のために粉骨砕身、お仕えいたします」

「ま、まぁ、適当によろしく」

「ティレア様、国家元首がそのような適当な発言をされては困ります。軍の士気にかかわりますぞ」


 うん、なんかジェジェ二号みたいな……厄介な人ができあがったみたいだね。

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