表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/256

第七十二話 「エディ父登場。親子和解に協力だね(中編)」

 ティムが帰宅した。


 銀髪を(なび)かせ相変わらず可愛い。


 どうしよう?


 これからエディム親子の修羅場が始まる。ティムはエディムの親友だ。ティムも蚊帳の外は心外だろう。ティムにもエディムのフォローを頼むべきだね。


「ティム、お願いがあるの」

「なんでしょう? なんなりとお申しつけください。お姉様のためなら全ての敵を根絶やしにしてご覧に入れます」

「うぐっ。やっぱりいい」


 うん、そうだった……。


 ティムは中二病患者だ。口出しすれば、話がややこしくなる。


 ティムには悪いが、ここは俺がエディム親子の仲を取り持つ。ティムは部屋で学校の勉強でもしていてもらおう。後は俺が、エディムと協力してあの石頭を説得するのだ。


 って――あれ? 肝心のエディムがいないぞ。


「ティム、エディムは一緒じゃないの?」

「あやつならあそこです」


 ティムが指し示す方向を見ると、エディムが何やら大きな荷物を持って歩いていた。自分の背丈以上の大荷物を軽々と持って歩いてる、さすが吸血鬼だ。


 だけど、前も見えないほどの大荷物を抱えるのはやりすぎじゃないか?


「エディムは何を運んでいるの?」

「ふふ、お姉様お喜びください。お姉様がご所望していたマンゴスチンの魚肉、アセロラ果実等等、もろもろの食材を手に入れました」


 おぉ、それはすごい。


 料理に欲しい思っていた食材ばかりじゃないか。入手難度Bはいくぞ。そのうちオルにでも頼んで入手しようと思っていた。


 ただね、ティム、そんな高価な食材を買うお金はどうしたの――ってオルの金だな。俺も人のことは言えないが、頻繁にお金を借りるものじゃないよ。


 お金の貸し借りは友情にヒビを入れるからね。


 それとだ。エディムにだけあんな大荷物を持たせて、自分は手ぶらっていうのはいかがなものかな。はたから見ると主人と小間使いみたいに見えるよ。


「ティム、あなたエディムにだけあんな大荷物を持たせて、何か思うところはないの?」

「と、いいますと?」

「ほら、エディムを見なさい。前を歩くのも大変そう。いくら吸血鬼でも石につまづいてコケちゃうかもしれないよ」

「お姉様、ご安心ください。エディムには食材を地面に一つ落とすごとに首を一つ切り落とすと約束させております」


 いやいやいや、どこから突っ込めばいい。


 ティム、人の首は一つしかないから。それに食材をを心配しているわけじゃなくて、あなた達の友情が壊れないか心配しているのよ――って今はこんな話をしている場合じゃなかった。


 エディ父も怪訝そうにこちらを見ている。この問題は後回しだ。とにかくティムはこんな調子だ。自分の部屋にいてもらったほうがいいね。


「ティム、あなた部屋で宿題でもやってなさい」

「し、宿題ですか……あれは上の者が下の者に与える課題です。ですので我にはあてはまりません。今は我が教師共に宿題を与えてます」

「また、あなたは……」


 さては、エディムに頼んでジェジェを言い含めたか? エディムはティムに甘いし、ジェジェはエディムに甘い。担任であるジェジェなら一人の生徒だけに宿題を出さないという無茶ぶりも通せるだろう。


 ティムめ、そんなに宿題をしたくないのか。こずるいことしてくれちゃって。


 この問題も後で話し合わないといけない。だが、今はティムを部屋に連れて行くことを優先させる。


「それじゃあ明日の授業のために予習に復習よ」

「お姉様、授業も一緒です。最近では我が教鞭を……」


 ええい、この中二病が! ああ言えば、こう言う。何が授業をしているだ。生徒のくせにそんな真似できるわけないでしょ!


 いや、待て。担任がジェジェならティムの奴、学園でやりたい放題できるよね。


 ほ、本当にティムが授業をしているのかな?


 これは後で抜き打ちの父兄参観をする必要がある。


 俺がティムの言動に頭を悩ませていると、


「なかなか個性的な娘だね」


 エディ父が話の輪に入ってきた。


「なんだ? 貴様は?」

「ティム君だね。お姉さんの言うとおり、部屋に戻ってなさい。ここにいると辛い光景を見せてしまう」

「藪から棒に何をほざく。勝手に我の名を呼ぶとは許しがたし。その無礼な口を引き裂いてやろう!」

「ティム、いい子だから向こうに行ってようね」

「しかし、お姉様。こやつの無礼な――ふにゃ!?」


 はい、そこまで――。


 ティムの首根っこを掴み、地下帝国の階段を下りていく。このまま変態(ニールゼン)に引き渡そう。


 変態(ニールゼン)を捜して地下帝国の通路を歩いていると、変態(ニールゼン)でなくオルがいた。オルはあてもなくブラブラ歩いている。この際、オルでいいだろう。


 今にも親子の戦いが始まるかもしれない。悠長にはしてられないからね。


「オル」

「これはティレア様」


 オルは俺に気づき、そのまま片膝をついて臣下の礼を取った。


 そんなオルに近づき、


「ティムをよろしくね」


 はいとばかりにティムを引き渡した。


 オルは童貞ばりに緊張してティムを抱き抱える。


 素人童貞とはいえ、一応は女性経験あるだろう。緊張しすぎだ。まぁ、ティムはこいつらのアイドルだ。この反応は、当然といえば当然か。


「あ、あのティレア様、これはいったい……?」

「いいから部屋に入れて勉強でもさせてて」


 オルにティムを託し、そのまま階段を駆け上がる。


 階段を駆け上がる際に、


「いつまで我に触っておる!」

「ひぎぃやああ!」


 オルの悲鳴が聞こえたが、それはまぁいい。


 地下帝国から店内へ戻ると、エディ父とエディムが対峙していた。


 エディ父は悲壮な覚悟でエディムを睨んでいる。それに対し、エディムはめんどくさそうにエディ父を見ていた。


 二人の会話が聞こえてくる。


「エディム、何かの間違いだと信じたかった。だが、その剛力、お前は吸血鬼になったのだな」

「はぁ~次から次へとなんでこんなに問題が降りかかってくる。まぁ、手紙の返事をしていなかったので当然といえば当然か……」

「エディム、私は軍人だ。国に仇名す輩は始末しなければならん」

「わかった、わかった。後でちゃんと殺してやる。少しだけ、待ってろ。食材を『れいぞうこ』に入れてからだ」

「なっ!? ふざけるな!」


 エディ父が激高し、エディムの肩を掴んだ。


「ちっ。貴様、食材を落としたらどうする!」


 エディムの鉄拳がエディ父の顔面に容赦なく突き刺さる。エディ父は、紙切れのように簡単に店外にふっとんだ。


 なんと強烈な一撃!


 まぁ、父親に殺すと言われたのだ。怒りに我を忘れたんだろう。


「エ、エディム……」

「これはティレア様、お見苦しいところをお見せしました」

「そんなことより大丈夫なの?」


 ちゃんと手加減したよね? エディ父、大型トラックにでもぶつかったかの如く吹き飛ばされたよ。普通に全治三ヶ月ぐらいいきそうだ。


「も、申し訳ございません。食材は新鮮さが命でしたね。腐らせるような真似はいたしません。すぐに『れいぞうこ』に食材を入れてきます」


 いやいやいや、食材の心配じゃない。エディ父の心配だって!


 エディムは勘違いをしたまま、地下帝国の冷蔵庫に食材を入れにいった。その様子からは一片たりとも父親への配慮を感じさせない。


 エディム……。


 明らかに父親を意識しない行動をしているね。当然か。あの石頭の父親だ。娘のエディムならその性格を十二分に知っている。もう説得を諦めているのだろう。エディムは父親と対決する覚悟を決めたのだ。


 あぁ、このままでは親子で血みどろの戦いが始まってしまう。


 だめだ。そんな悲しい結末になってはいけない。俺がなんとかする。


 まずは、エディ父の容態の確認だ。


 店外に出て、エディ父に駆け寄る。エディ父はふらふらと頭を押さえて立ち上がろうとしていた。頭からは血が出ており、かなり痛そうである。


「あ、あの大丈夫ですか?」

「あ、ああ……」

「ひとまず横になってください。すぐに手当てをします。包帯の代わりにハンカチで――」

「問題ない」

「で、でも、血が……」

「構わないでもらおう!」

「あ、う……」

「ティレア君、気遣いは感謝する。だが、君達姉妹を巻き込むつもりはない」


 エディ父は、頑なに態度を崩さない。本気でエディムを断罪するつもりなのだ。


「本当に本当に自分の娘を殺すつもりですか?」

「そう言っている」

「くっ、あなたの矜持はさんざん理解させられました。ただ、家族を壊してまで通すものなんですか!」

「君にはわからんよ。軍人には国を守る責務がある」

「あなたは間違っています。軍人の前に一人の父親じゃないですか!」

「誰かがやらればならん。そして、国を脅かす元凶が娘にあるなら、軍人として何より親として私が責任を取らねばならない」

「で、でも、やっぱり間違っている」

「しつこい。これ以上邪魔をするなら国家反逆罪で君も討たねばならぬ」

「うっ」

「さぁ、もういいだろう。不肖の娘にこれほどの友情を示してくれた。そんな君を討ちたくはない」


 だ、だめだ……。


 話は平行線だ。説得できそうにない。


「ティレア君、娘と友達になって君も危ない目にあったと思う。それなのに娘を見捨てず頑張ってくれた。一人の親として……嬉しく思う」


 エディ父は目に涙を浮かべ、剣を抜く。そして、その大剣を担ぐと、エディムを斬りに歩いていく。


 くっ、頑固者め!


 こうなれば一旦、エディムに逃げて――あっ!?


 遅かったか……。


 エディムが食材を冷蔵庫に入れて、戻ってきたのである。


 店外で対峙するエディム親子。


 さ、最悪の展開だ。


 もう二人の戦いを止められない。


「エディム、事情はおおよそ聞いた。辛い目にあったな。すぐに楽にしてやる。許せとは言わん。その代わり父さんもすぐに後を追う」

「ティレア様、こいつどうしますか? 殺すのも眷属化させるのも自由です」


 エディムは冷静だ。さも何も感じていないような態度を取る。わざとだ。わざと冷徹さを父親に見せている。本当は辛いのに諦めているのだ。もう親子の関係は修復できないと考えているのだろう。


 エディム、諦めないで!


 俺は無理だったけど、娘のあなたなら父親の頑固な心を溶かせるかもしれない。


「エディム、なんとかお父さんを説得するのよ」

「そ、それは眷属化無しでこいつを寝返らせるという意味でしょうか?」

「うん、厳しいかもしれないけど、やるの」

「ティレア様、私はこいつの娘でしたので性格をよく知っています。とてもじゃないですが、こいつが国を裏切るとは思えません」

「ティレア君、無駄だよ。たとえ娘が泣いて詫びたとしても、私が矜持を曲げることはない」


 エディム親子が揃って共存を否定する。


 あなた達、それだけお互いをわかっているなら、なんとか歩み寄りなさいよ。


「エディム、諦めちゃだめ。やってみるのよ」

「は、はい」


 エディムが不安そうな顔でエディ父を見ている。


 説得できるか自信がないのだろう。でも、大丈夫。きっと親子の絆が二人を繋ぎ止めてくれる。


「マラーノ、よく聞け。あんなカビ臭い王家に忠誠を誓う必要はない。今、邪神軍に寝返れば、それ相応の地位を与えてやる。光栄に思うがよい」


 エ、エディム、その説得は悪手よぉお!


 そ、そうだった……。


 エディムは父親に捨てられたも同然だ。心中は怒りに満ちている。それに中二病も患っているし、父親の石頭もよく知っている。


 怒り、中二病、諦め、今のエディムはそんな感情が入り混じっているのだ。泣き叫んで親子の情を取り戻す、なんてできるわけがない。


 ここは俺がフォローする。


「あ、あの――」

「エディム、王家をなんと心得る。吸血鬼に身をやつしたとはいえ、お前は誇り高きアルハス家の娘だぞ。国の禄をもらって生活しておき、恥を知らんか!」


 俺の言葉はエディ父の大声にかき消されてしまった。エディ父は激高して頭に血が上っているようだ。


「くっく、王家? そんな脆弱な屑国家に何ゆえ恩を感じねばならん」

「エディム、お前は身も心も魔族になったのだな」

「当然、私は進化したのだ。人を超越した存在、貴様のような愚物とは違う」

「あい、わかった。魔族襲撃の際に私の娘は死んだのだ。今のお前は娘ではない。国に仇をなす敵だ」


 あぁ、エディムが自暴自棄になっている。


 吸血鬼になって良かったとか父親を愚物同然とか心にもないことを言っているのだ。


 エディム、しっかりして。


 エディ父もエディ父だ。エディムの言葉をまに受けている。本当に馬鹿だ。


 エディムはね、本当は父親であるあなたに吸血鬼である自分を受け入れて欲しかったの! それを「国の敵だ、殺す!」とか言われたら反抗するに決まっているでしょうが!


 完璧に対応を間違えているね。


 エディ父は「国賊、覚悟!」と叫んで自分の娘を斬りつけている。


 手加減は感じられない。本気だ。


 エディムが可哀想すぎる。


「エディムのお父さん、あなた娘の気持ちがわからないんですか! あまりに酷すぎます」


 感情のままに大声でエディ父を怒鳴る。


 だが、エディ父は戦闘に集中しているようで、こちらをチラリと見るだけだ。何も反応しない。


 ええい、こうなったら!


 思い切ってエディ父の前に回り込んだ。


「いい加減、娘を信じたらどうなんですか!」

「ティレア君、君達姉妹は騙されていたんだよ。こやつはもはや私の娘ではない。人間ではない別の何か、化物だ!」

「あ、あなたねぇ……」


 それは親として一番、言っちゃいけない言葉だ。


 あぁ、エディムがどんなにショックを受けたか。


「ティレア様、やはり説得は無理です。眷属化するか殺しましょう!」

「ま、待って。まだ何か、他に方法が……」

「ティレア様、確かにこいつは王家でそこそこ高い地位についています。ですが、そこまで役に立ちません。ティレア様がご執着する必要はないかと。仮に眷属化させてスパイとして使ってやったとして――」

「ええい、化物! 娘の声で、身目で、そのような大罪をほざくな。もう許せん!」


 エディ父が形振り構わずエディムに斬りかかる。


 魔法を使い、剣を使い、完全に殺す気だ。


「もうわからず屋! どうしてそこまでするの? おかしいよ。娘のほうが大事でしょ。そんな国だか王様だか知らないけどさ」

「わからないか! 国があり王家があるからこそ民が生活できるのだ。それを脅かす存在はこの私が全て叩き切る!」

「バッカじゃないの! 国? 王家? たまたま身分が高かっただけの王家のボンボンがどれほど偉いって言うの! バカ、バカ、あなたバカすぎよ」

「なに?」

「へっ?」


 俺の言葉の何かがエディ父のカンに触ったらしい。エディムに向けていた殺気を俺に向け始めた。


「お前、本当にアルクダス王家の民か? 国民なら誰もが持っている王家への敬意を欠片も感じん」

「そ、それはですね。戦後民主主義教育の賜物と言いますか、弊害と言いますか」

「それに、考え方が危険すぎる」

「そ、そうかな。むしろ平和的ですよ。だいたい血筋で決めるほうが危険ですって。エディムのお父さんもよく考えてみてください。どんなにバカでも王様の子は王様。どんなに優秀でも農民の子は農民。こんなのありえないですよね? あ、そうだ! いっそ選挙で王様を選んだらどうです? それだけ国を思えるのなら、あなたが立候補したらいい」

「貴様、王に謀反しろと抜かすか!」

「いやいや、そのような意味じゃありません」

「やはりお前はただの庶民ではない。ん!? そういえばエディムがティレア()と抜かしていたな」

「そ、それは……中二病がなせる技と言いますか、なんといいますか」


 まずい。これはやばい流れだ。


 エディム、あなたもフォローをして!


 助け舟を期待してエディムを見る。


「ふん、当然だ。ティレア様は私のご主君だ。貴様如きクズが対等な口を聞けるご存在ではない。さぁ、ティレア様に(ひざまず)け。そして心から詫びて、邪神軍の軍門に下るのだ」


 お~いエディムさん、それはNGワードですよ!


「そうかお前……魔族の手先か?」


 ほらほらほら、エディ父が変な誤解しちゃってるよ。ジェジェばりの勘違いだ。また俺を魔王の手下かなんかと勘違いしてやがる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ