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第六十九話 「これは戦闘じゃない教育よ(中編)」

「なめるなよ。俺達は泣く子も黙る漆黒殺戮団(ブラックマーダー)だ!」

「そうだ。どんなトリックを使ったか知らんが、俺達を見くびると痛い目にあうぞ」

「よほど強力なマジックアイテムを使ったようだな。お前の強さの秘密を暴き、殺してやる!」


 アンディ達は、生意気な態度を崩さない。他人の家の家具を盗み、乱暴を働いておいて反省の欠片もないのだ。本当にクソガキ達だね。


「あなた達さ。漆黒の狼か何か知らないけど、そんな態度がどこでも通用すると思ったら大間違いだよ」

「くっ、馬鹿女め。我らは漆黒殺戮団(ブラックマーダー)だ。A級の賞金首だぞ」

「ふぅ~もうそんなくだらない嘘はやめなさい。いくら子供でもみっともないよ」

「嘘ではないわぁあ! ガーナ王国騎士団の殲滅。政治結社ジョルジョアの崩壊。全て俺達がやった」

「そうだ。各国で指名手配されたが、誰も捕まえられない。俺達は、縛不出来者達(アンチェイン)と恐れられているのだ」


 だめだこりゃ。こいつら相当な中二病患者だよ。


 何が縛られない者達だ。おそらく普段から身分をかさに我儘放題なんだろう。このガキンチョ達の御守りで、周囲は大分苦労していると見た。


 上等だよ。縛られないと言うのなら、俺がとことん縛ってやる。


「君達、【うそつきは泥棒の始まり】ってことわざ知っている? そんなくだらないうそばかり言っていると、しまいには泥棒する悪党になっちゃうよ。まぁ、君達はすでに泥棒しているんだけどね。とにかく、悪党になって牢屋に入りたくなかったら反省しなさい」

「ふざけるな。俺達を子供扱いするんじゃねぇえ!」


 キレた少年が激高し、襲い掛かってきた。


 この少年、たしかアンディって呼ばれてたっけ?


 アンディはすごい形相で突進し、拳や蹴りをくり出してくる。


 パンチ、キック……それにナイフだと!? 


 このバカ、凶器まで所持してやがる!


 これだから金持ちのボンボンは困る。こいつ、いつか人を遊び半分で刺してたね。将来は、犯罪街道まっしぐらだ。


 事件が起きる前に俺が対処できて良かった。


 アンディの連続攻撃を(かわ)しつつ、突き刺してきたナイフを強引に奪い取った。


 アンディは、死角からの真剣白刃取りに驚愕しているようだ。口をパクパクさせている。


 ふふ、完全に目で追えてなかったね。まったく何をそんなに驚いているのか。名うての暗殺者(笑)がだらしない。


「アンディ、あなた凶器まで所持しているなんていけない子ね。これはお姉さんが預かっておくから」

「お、俺の宝剣ベンスルナイフが……」

「何? そんなに大事なものなの? でも、だめ。返さないよ。あなたがこれを使うのは早すぎる。そうね、子供用のはさみでいいなら代わりにあげるわよ」

「くっ、どこまでもなめやがって!」


 アンディは必死に攻撃してくる。


 殴る、蹴る、飛ぶ。蹴りも正面からだけではない。空中からの回転蹴りまで様々だ。さらに魔力を増幅させて魔法剣まで生成した。それも二つも。


 アンディはニヤリと笑うと、生成した剣を両手に持つ。そして、二刀流の構えから斬りかかってきた。


 ふっ、本当に格好だけは一人前ね。


 俺は、アンディの成すがままに斬らせてやった。


 斜めに斬る【袈裟斬り】から水平に斬る【横一文字斬り】まで。


 どの斬撃もまったく効かなかった。子供だからパワーが絶対的に足りないのだ。


 そして、とうとう攻撃するのに疲れたのか、アンディは地べたに膝をつく。額からは大量の汗を流し、激しく呼吸を乱していた。


「はぁ、はぁ、はぁ。手、手が……」

「あぁもう大丈夫? 突き指しちゃった? 君達ぐらいの時期は、骨がまだ固まっていないんだよ。無茶しちゃだめ」

「はぁ、はぁ。く、くそ、こんな屈辱は初めてだ」

「そうそう、そうやって人は成長していくの。きっちり反省しなさい」


 人生の先達者として優しくアドバイスしてあげた。


 だが、アンディ達からの敵意はいっこうにやまない。むしろ、ぎらぎらと闘争心をさらに燃やしているようだ。これは、よっぽど叱られ慣れてないのだろう。親が相当甘やかしている。反発心マックスだ。


 ふむ、人様の子だからあまり手は出したくなかった。だけど、こいつら言葉だけでは反省しない。ティムの時と同様にお仕置きが必要みたいだね。


 お尻ぺんぺんの刑だ。


 おしりペンペンするべくガキンチョ達に近づいた。ガキンチョ達は「化け物!」とか「魔力十万はある!」とか騒いで逃げ出そうとしているみたいだ。


 ふふ、逃がさないからね。


 あなた達の周りには叱ってくれる人はいないようだから。ここは俺が親代わりになる。あなた達のお母さんになって叱ってあげよう。




 ■ ◇ ■ ◇




 カーチェイスは冷静を装っているが、頭の中は混乱していた。


「く、来るか!」

「いったいどんなトリックを使ったのだ? どう見ても魔力は微々たるものなのに」


 アンディ達も狼狽えている。


 今までの経験則が通じない。これは、先入観を捨てたほうが良いかもしれん。頭の思考を切り替えることにした。


「お前達、冷静になれ。おそらく邪神は瞬間的に魔力を増幅させているのだろう。それも規格外にだ」

「なんだと……それはどの程度だ?」

「そうだな。あの防御力から考えるに……少なくとも魔力十万はあるだろう」

「十万!? そこまでか」

「あぁ、ここは撤退を優先すべきかもしれん」

「君達、盛り上がっているところ悪いわね。逃がさないよ。あなた達にはきっちりお仕置きをしてあげる」


 邪神から挑発を受ける。戦闘は避けられない。少なくとも一撃ないしニ撃入れて相手に隙を作らせないと、逃げることもままならないだろう。


「お前達、力を開放しろ。ここで魔力を空にしても構わん。邪神に全魔力を叩きつけるのだ」

「「「ヴァベーネ(りょうかい)」」

「なんか抵抗するみたいだけど、やめたほうがいい。私とあなた達の戦力差は歴然よ」

「黙れ。全力を持って貴様を殺す!」

「はいはい。もう言葉では伝わらないって理解しているから。ちょっと痛いよ」


 邪神は、全身を脱力させていく。


 この脱力……嫌な予感がする。


 この脱力から発生する力、危険大だ。


「お前達、気をつけろ。こいつは得体が知れぬ」

「了解、ボス」


 サンドラが俊足を活かして邪神に飛びかかった。


 サンドラのスピード攻撃である。得体の知れぬ相手には攻撃させてはいけない。相手に先手を取らせず攻撃する、サンドラ得意の戦法だ。


 サンドラの拳が邪神に届く瞬間――眼を疑った。


 邪神は魔豹のように素早く動き、サンドラを簡単に捕まえたのだ。まるで大人がおイタをした子供の首根っこを掴むかの如くだ。


 なんて動体視力とスピードだ。我々の常識のはるか上を行っている。


 そして、邪神は暴れるサンドラをがっちりと固定し、腕を鞭のようにしならせると、サンドラの臀部を目がけて打ちすえたのだ。


「うっ……うぎゃああああ! い、いてぇ。いてぃええええよぉおお!」


 サンドラが地面を転がり呻いている。


 ばかな!?


 サンドラは、大声で人目もはばからず泣きわめいていた。一流の暗殺者であるサンドラがなぜ、ここまでの醜態をさらす?


 そうか! 邪神は鍛えられない皮膚を狙ったのだ。そこは、どんなに鍛えた鋼の肉体も通用しない。


 な、なんと恐ろしい暗殺者泣かせの技なのか……。


「もう一発いっとく?」


 さらに邪神は手を上下に振り、サンドラを打ち据える動作をする。邪神からの追い打ちだ。


「い、いやだ。や、やめて。やめてください!」


 サンドラは邪神の足元に縋り、必死に哀願している。その様はまるで親に許しを乞う子供のようだ。


「う、嘘だろ? サンドラは特殊部隊のあらゆる拷問にも耐えた男だぞ」

「アンディ、本来、人間はいたがり(・・・・)なのだ。我々はあらゆる修行でそれを奥深くに沈めていただけに過ぎん。邪神は一発でその本能を呼び起こさせた」

「な、なんて奴……」

「お前達、痛覚を遮断しろ。あっとういうまに心を折られるぞ」


 もうサンドラは使い物にならないな。邪神の力を前に牙を抜かれてしまった。


「あ~サンドラ君泣いちゃったね。ごめん、ごめん。ただのおしりぺんぺんだったんだよ。やっぱり体罰はいけないのかな。でも、子供だから手加減したんだけどなぁ」


 邪神は、サンドラを壊したこの恐るべき技ををただの女子供用の技と言う。じゃあ、本格的な戦闘技はどうなるのだ?


 冷や汗が止まらない。これほどの強敵、初めての経験だ。


「……我々の力では到底かなわない」

「ようやく、理解した? そう、私の魔力は五十三万よ。あなた達の魔力は小さすぎる。さぁもう大人しくしなさい」


 なっ!? 五十三万! そこまで増幅できるのか。予想よりはるか上の魔力にただただ唖然とするしかなかった。


 アンディ達も無言だ。絶望を噛みしめている。ただ、腐っても我らは漆黒殺戮団(ブラックマーダー)だ。どんなに絶望的な相手でも諦めない。


 突破口を開いてやる!


「ふぅ、どうやらまだ反省しないみたいね。しょうがない。気が済むまでかかってきなさい。ただし、お姉さんは大人です。フルパワーで相手しません。右手、いや左手、いやいや()だけで相手をしてあげる」


 舌だと!


 邪神は舌をペロッと出し、余裕綽々な顔で言い放ったのだ。


 な、舐めてくれる。


 そこまで馬鹿にされたら覚悟を決めよう。一族のとっておきの秘技を見せてやる。

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