第六十八話 「これは戦闘じゃない教育よ(前編)」
邪神軍地下帝国のとある一室。様々な集落から連れてこられた子供達がいる。その中で異質を放つ集団が密談をしていた。
「アンディ、どう見る?」
「まったく魔力を感じなかった。あの金髪女、下手をしたらそこらの村人にも不覚をとりそうだ」
「お前もそう思うか。まぁ、我らの油断を誘う擬態の可能性もあるが……」
「それは考えすぎだろ。あの馬鹿な態度が演技か? しかも、我らはか弱い子供を演じていたのだ。そんな弱者に演技をする理由はあるまい」
「サンドラ、油断するな。我ら漆黒殺戮団の教示を忘れたか!」
「わ、わかってるよ」
「なら、いい。邪神が戻ったら決行だ」
「「ヴァベーネ(りょうかい)」」
四人の子供が冷徹な表情を見せる。
この四人、見かけはただの子供に見えるが、実年齢は違う。ゆうに五十は超えている名うての暗殺者達だ。エルフの生血と禁術魔法を使い半不老の体を持っているため、子供の姿に見えるのだ。無害な幼児を装いターゲットを殺害してきたプロの殺し屋。アンディ、ビィビィア、サンドラ、カーチェイス、二つ名を持つA級の賞金首である。
その四人の中でもひときわ異彩を放っているのが黒髪黒目の美少女カーチェイスである。四人のリーダーであり、技も年季もとびぬけた存在だ。
そのカーチェイスは壁に背をあずけると、ほっと溜息をつく。
浮かれすぎだ。
三人の甘い認識にカーチェイスはもう一度、溜息をついた。こいつらはなまじ腕が立つせいで、これまでの任務に失敗がない。そこが不安だ。失敗から学びとる経験がなかった。それはいつか大きな失敗となって返ってくる。
確かに邪神の言動は素人そのものだ。とても強者には見えない。だが、気になる。私はこいつらがガキの頃から殺しをやってきた、そのカンが囁く。
この案件、一瞬の油断が命取りとなる。
邪神軍……。
近頃、台頭してきた不気味な組織だ。短期間で次々と王都周辺の集落を陥落させている。
そして、とうとう漆黒殺戮団の隠れ里まで手を伸ばしてきたのだ。仮初の棟梁であった長老達が殺され、里は占領されてしまった。九割の増税、里の人質を要求され、漆黒殺戮団は壊滅の危機に陥る。そこで起死回生を狙い、指折りの精鋭トップフォーが、邪神軍に潜入したのだ。
ガキのふりをして敵の懐に入り、敵の頭を殺る。
だてに子供の姿で生活をしていたわけではない。その仕草、口調に違和感を覚えさせない完璧な子供に化けられる。邪神は完全に信じきっていた。今なら無害を装って確実に始末できる。
「敵の頭を殺るためにわざと捕まったが、ここまでする相手ではなかったな」
「サンドラ、気を引き締めろ。オルティッシオの部下のギルとか言ったな。我らトップフォーが仕事で外に出ていたとはいえ、奴は里の精鋭を独りで打ち倒したのだぞ」
「カーチェイス、心配しすぎだぜ。俺は長老達の戦闘力などガキの頃にとっくに超えている。その程度の力がなんだと言うのだ」
「その通りだ。里の占拠なんか俺らでもできる」
「そうそう、俺達トップフォーがそろい踏みだぞ。こんな回りくどい作戦などせず、本当は正面から殺したかったぜ」
だめだ。こいつら完全に油断している。この案件を終えたら再教育だ。
「お前達、老害とはいえ里の実力者を屠った集団だぞ。慢心も大概にしろ!」
「へいへい、リーダーはあんただ。従うよ。ただ……」
「ただ、なんだ?」
「カーチェイスよ。金髪娘を殺したら即撤収か?」
「あぁ、そうだ。作戦に変更は無い。不満か?」
「不満だ。もともと邪神が強敵という話だから今回の作戦に乗ったのだ。だが、蓋を開けてみれればただの馬鹿女じゃないか!」
「油断をするな。ギルの隊長であるオルティッシオ、さらにその隊を統率しているのが邪神だ。普通に考えれば、かなりの強者と予測できる」
「あの魔力でか?」
「おそらく、抑えているのだろう。私は昔、自分の魔力を十分の一以下に抑えていたターゲットに遭遇したことがある」
「仮にそうだとしても、せいぜい魔力五百がいいところだろ?」
アンディの言にも一理ある。魔力を抑えるにも限界があるのだ。
邪神の魔力は、概算で二十。規格外な抑え方をしてたと仮定しても、魔力は千程度と見積もれる。
ならば、考えられる可能性は一つ。
「戦闘タイプではない。邪神はおそらく洗脳の類が得意なのだろう」
「ひゃひゃひゃ、なんだそりゃ! 俺にはわからんが、女の武器を使って部下を操っているのか?」
「くっく、カーチェイスよ。お前も中々の美人だ。邪神の真似をしてみてはどうだ?」
アンディとサンドラが冗談交じりに言い放つ。
まったく、お前達はわからんのか!
邪神は魔力千程度で魔力万に匹敵する猛者共を操っている。生半可な洗脳ではない。おそらく魔眼持ちだろう。
「お前達、いい加減にしろ。私が予想するに邪神は魔眼持ちだ」
「魔眼だと?」
「おそらく、その制御に全魔力を消費しているため、あの低魔力なのだろう。お前達、邪神の目を決して見るなよ」
「なるほど。妖術を使って部下を統率してたのか。なんとも殺りがいのないターゲットだ」
「まぁ、俺達の精神耐性は群を抜いている。その魔眼ってやつも効くか怪しいがな」
「サンドラ!」
「怒るな、怒るな。油断しない。わかっているよ」
サンドラは軽口を言って煙に巻く。アンディも似たような反応だ。
そして、アンディ達はこれ以上の説教はたくさんとばかりに席を立ち、周囲を散開する。
「ひっく、ううぅええええーん!」
「てめーらうるせぇぞ!」
「ひぃい!」
アンディは、ピーピー泣くガキ共を一喝する。
愚か者め。目立つのはまずいとあれほど釘を刺しておいただろうが。
アンディは戦闘センスはあるが、頭が悪いのがたまに傷だ。
「ところでよ。魔眼に気をつけるのはいいとして。このお宝は見逃せないなぁ」
周囲を散開していたアンディが棚にあった調度品を手に取り、ニヤリと顔をゆがませる。
「あぁ、俺も思っていた。下手な王宮よりも質の高い調度品だ」
「アンディの言う通りだ。敵の頭だけというのも味気ない。どうせなら殲滅してお宝も根こそぎいただいてしまおうぜ」
「貴様ら……」
「カーチェイス、怒るな。な~に、あの金髪娘を人質にとれば、数の差も補える」
「右に同じ。このまま敵のトップを殺したら暴動が起きるぞ。そのドサクサでここにある貴重なお宝が全部持ってかれるのは忍びない」
こいつら……舌の根も乾かないうちに油断か。
どうするか?
リーダー特権で無理やり言うことを聞かせてもいい。だが、ビィビィアはともかくアンディ、サンドラは反発するだろう。特に、アンディは寝首をかきにくるかもしれん。
ここは、敵地の真っ只中だ。チームの連携にヒビが入るのはまずい。教育するにしても里に帰ってからがベストだろう。
「わかった。作戦は少し変更する。確かにここの調度品を見逃すのは惜しい」
「ひょお! カーチェイス、なかなか話がわかるじゃないか!」
「ただし、命令には絶対に従え。危険と判断したら、すぐに撤収するからな」
「わかっているって」
言葉に重みがない。こいつらはいよいよとなるまで本気にならないな。しかたがない。要所要所できちんと指示をだせば、まだマシだろう。
「……お宝は今のうちに袋につめておけ。決して目立つ行為はするな」
アンディ達に指示を出す。
アンディ達は棚にあった宝石や壺をテーブルにまとめ、袋につめていく。
「ちっ、邪魔だ!」
運ぶのに邪魔だったのだろう、アンディはガキ共が食していたほっとけーきを皿ごと叩き落とす。
「な、何をしているの?」
アンディ達の行動を不審に思った兎獣人のガキが声をかけてきた。
目立つのはまずい。
「お前達――」
「糞ガキ、ひっこんでろ!」
「いやぁああ!」
アンディが兎獣人のガキを吹っ飛ばす。兎獣人は壁に激突し呻いている。
頭の悪い行動をするなと言ったのに……。
兎獣人のガキに駆け寄りヒールをかけてやる。怪我をした獣人がいたら、邪神が警戒するだろうが。
「アンディ、指示には従え。二度は言わんぞ」
「わ、わかったよ」
半ば殺気を込めてアンディに釘をさす。
脅しが効いたのか、その後はアンディ達も調度品を黙々と袋につめていく。獣人のガキ共は、アンディ達の様子に怯えて部屋の隅に移動していた。
「盗みなんてやめなよ」
「そうだぞ。どんな酷い目に合わせられるか……」
「ふん、プライドのない獣人共だ」
「お前ら、俺達の邪魔をしたらぶっ殺すからな」
「うぅ、邪神様に逆らうなんて……」
「くっくく、何が邪神だ。これからは俺を神と呼ばせてやるよ」
アンディ達と獣人のガキ達の会話が聞こえる。
会話の節々からアンディ達の慢心が手に取るようにわかった。
「アンディ、油断はするな!」
「わかっている。目は合わせないからよ」
「魔眼持ちだけじゃない。カンだが、邪神はもっと何かあるやもしれん」
「なんだそりゃ。また戦闘タイプという気か? それは決着がついただろう。金髪女は幻術使い、それだけだ。勘繰りすぎるのもいい加減にしろ」
「カーチェイス、あの女は戦闘タイプに見えないぜ。まぁ、魔眼使いにも見えないがな。強いて挙げればただの村人が一番らしい」
確かにそうだ。魔力、口調、歩行、すべてを統括して考えると、アンディ達の言う通りだ。
だが、ひっかかる。それは長年培ってきた経験からと言えばよいだろうか、のどに小骨が刺さったような違和感を覚えるのだ。
そして、とうとう邪神が戻ってきた。どかどかと足音を立てながら歩いてくる。
「カーチェイスよ。あれが実力者の歩行か? どう考えてもど素人だ」
「お前達、油断は……」
「アンディ、よせ。くっく、きっと足音を出しながら歩くのが癖になってんだろ」
サンドラの嘲笑後、邪神が扉を開けて入ってきた。すぐさま、私達はフォーメッションを発動し、魔法弾をつきつけた。
「動くな。動くと殺す!」
「ほぁあ!?」
邪神は、すっとんきょうな声をだし驚いている。慌てふためくその姿からは微塵も脅威を感じない。
ふむ……確かに素人だ。簡単に背後をとらせる。
「くっく、金髪女よ。俺の魔法剣は、鋼鉄の鎧も貫通する。下手に動けば貴様の頚動脈を斬るぜ」
アンディは魔法弾の形状を剣に変化させ、邪神の首筋へと当てる。
バターのようにスパスパと強者を斬り殺す、アンディ得意の漆黒刀だ。あの距離で当てられたら誰も防ぎきれぬ。リーダーの私ですら無理だ。
「え、えーと、あなた達が怒るのもわかるよ。でもね、ちゃんと話をつけたから。税率は下がったのよ」
どうやら税率を下げたらしい。邪神は、部下のオルティッシオの暴走でつり上っただけだと説明する。
「ふん、部下もろくに掌握できんとは情けない。やはり恐るるに足らん」
「あ、あのね、落ち着こうよ。そんなに怒らないで」
「くっく、さっきから何を勘違いしている。我らの行動は重税を課したせいではない。もともと敵の懐に入る予定だったのだ」
「えっ!? 君達、九割も税を課したから怒ったんじゃないの?」
「九割がどうした! 別に珍しくはない。隣国サイードではカカオ農家に九十四パーセントの税率を取っていた。昔の唐国でも同様、軍閥政治でそれだけ徴収していた歴史もある」
「そうなんだ」
「まぁ、そのうちこの辺一帯を制圧して俺達が王になったら、そのくらいの税率で締め上げてやるよ」
「あ、そういう考えはいけないな」
「黙れ。舐めてると殺すぞ!」
「は、はい」
漆黒殺戮団の最強フォーメッションで邪神を捕らえている。邪神は大人しく捕まったままだ。経験上、この状況からの逆転はない。
だが、なぜだ?
胸騒ぎがしてたまらない。心中の警報はやむどころか激しさを増し鳴り響いているのだ。
■ ◇ ■ ◇
居室に戻ってみると、なんか知らんが四人の子供達に囲まれ脅された。
この四人はずっと俯いてて無表情だったから、感情がよくわからなかった。だけど、今はわかる。なんてギラギラと野望に満ちた視線をしているのだろう。
クソ生意気な悪ガキだ。憎らしさが顔に出ているね。まぁ、紅一点、黒髪黒目の美少女は冷たい表情をしているけど、少し毛色が違う。
けっこう可愛い。笑ったらもっと可愛いと思う。
とにかく、この四人が魔法弾で脅してくる。最初は重税に怒ってこんなことをしたのかと思ったけど、どうも違うらしい。
なんでも彼らは漆黒のなんちゃらと言う有名な暗殺集団だそうだ。一人で数百人の組織を潰したこともあるとか。一騎当千の暗殺者なんだって。今回も同じように邪神軍を滅ぼしにきたんだと。ついでに調度品も盗みにきたみたい。ご丁寧に宝石や壺などを袋に入れている。
泥棒だね。中二病だね。
本来であれば、こういう悪ガキ達はお仕置きだ。お尻ぺんぺん百回の刑に処す。
ただね……本当に暗殺強盗集団だったら困る。
全てアンディとか言ったクソガキが自称で言ったことだけど、本当かなぁ……。
まさかこんなガキンチョ達がね……。
でも、この自信に満ちた不敵な面構えを見てると本当にそうなんじゃないかとも思ってしまう。
漫画やアニメだとこういう子供達が強者だったりするからね。でも、エディムのようなケースは別として、この世界で生まれてから、そんなギャップを見たことは一度もない。子供が大人を凌駕するなんてありえないのである。
首筋に当てられている魔法剣、頭に向けられている魔法弾を見る。
うん、魔法使っているね。手から光って剣が伸びているし、円形の球体が浮かんでいる。
まぁ、子供が魔法を使えるのは驚かない。この世界の魔法使用率は驚くほど高いのだ。俺の周りだけでもほぼ百パーセントである。そのうち赤子でも魔法を使ってきそうだ。
問題は、どれだけの威力があるかだ。
このポテンシャル。
本当に首をちょんぎられたりして……。
スカ●ターか鑑定スキルが欲しい。そしたらぱぱっとこのクソガキ達の戦闘力がわかるのに。
うぅ、とにかくやれるだけやってみよう。気よ。気を感じるのだ。
くわっと目を見開いてガキンチョ達を見る。
するとガキンチョ達はさっと目をそらしてきた。
なんだ、なんだ、照れ屋さんだね。美人なお姉さんとはおめめを合わせられないってか。
とにかく現状把握だ。
まずは紅一点、黒髪黒目の美少女カーチェイスちゃんを見る。
戦闘力を測ろう。
ピピピピ、ピ、ピ、ピ……。
髪型は……ツインテールをしている。可愛さを強調しているね。
眼は……少しつり目で活発なイメージだ。ポイント高いぞ。
魔力は……いっぱいあるのかな?
気は……どうだろう。うん、これもいっぱいあるんじゃない?
総合的に……。
む!? わかったぞ!
戦闘力、一から一万の間だね(適当)。
ごめんなさい。さっぱりわかりません。
じゃあ次はアンディ達を測ろう。
アンディ達を見る。
「無駄だ。貴様の魔眼には捕らわれんぞ」
「魔眼ですって!」
「とぼけるのか。ネタは上がっているんだ」
「その通り。俺達を操ろうとしても無駄だ。まぁ、その魔眼を打ち破って見せてもいいけどな」
アンディ達を見つめようとすると、アンディ達は目線を合わせようとしない。
何が魔眼だ。馬鹿かこいつら!
そんな能力があったら真っ先にレミリアさんとの仲を進展してやるよ。
一気にこいつらが中二病くさくなってきた。こいつら、やっぱりただの中二病のガキでしょ。漆黒の殺戮者か狼か知らないけど名前からして怪しすぎる。
でもね、万が一を考えたら……。
「ちょっとその魔法弾をぶつけてみてよ」とは言えないんだよね。本当に漆黒の狼達なら俺の体は跡形もなく吹っ飛んでしまう。
そうだ! 壁にでもぶつけさせてみようか?
本当に強者なら壁に大穴が開くだろう。
いやいや、だめだ。これ以上、オルの別荘を壊すわけにはいかない。ここはあくまで他人の家だぞ。
保険が欲しい。
そんなことを考えてたら、エディムが部屋に入ってきた。
そうだ、忘れてたよ。子供達の為にお茶を頼んでいたんだ。エディムはポットとカップを人数分トレーに乗せて持ってきてくれたのである。
「ん!? 貴様ら、なんの真似だ? 殺されたいか!」
エディムが取り巻く現状に気づき、声を荒げる。
「ふふ、女。邪神を殺されたくなければ言うとおりにしろ!」
「そうだ。お前もついでに人質にしてやる。こっちにこい」
漆黒の狼達が無謀な言葉を放つ。
エディムはあっけにとられた顔をしている。
あなた達は知らないでしょうけど、エディムは吸血鬼なんだよ。怒らせたら怖いのわかってないね。仮に、あなた達が本当に暗殺技術を持っていたとしてもエディムには敵わないよ。
「何をぼさっとしている。これが見えないのか? 邪神を殺すぞ!」
「はぁ? お前ら、バカか? はぁ~ティレア様、殺しましょうか?」
エディムはやれやれといった表情で言ってくる。
うん、だめだよ。殺すのはだめだめ。こいつらは中二病を拗らせただけのただのガキンチョかもしれないんだから。
「エディム、一つ質問するね」
「なんでしょう?」
「この子達がさっきから『我が剣に斬れぬものはない』とか『魔法弾で私の首を木端微塵』とか言ってるけど本当かな? この子達ってそんな実力者なの?」
某戦闘民族と化したエディムなら冷静に戦力を分析できるだろう。
こいつらは、中二病を拗らせたただのガキンチョか、それとも本当に強者なのか。
ガキンチョ達は「本当にいいのか。殺すぞ!」と喚いているし、どっちなんだよ?
もし、本当に強者なら泣いて土下座しよう。俺はただの一般庶民だ。エディムにバトンタッチして、後の処理を任せる。
「ご冗談ですか? それとも真面目に回答をしたほうがよろしいのでしょうか?」
「どういう意味?」
「あまりに簡単と言いますか、常識と言いますか。なぜ、そのような当たり前のことをお聞きになるのかがわかりません」
ふむ、まるで「1+1=2よね?」とでも聞いたかのような態度だ。そんなに簡単なことを聞いたつもりはないのだが……。
「エディム、真面目に回答をお願い」
「わかりました。えーと、そのような脆弱な魔法剣に魔法弾を何千発くらおうともティレア様はびくともしないかと」
「それはニールやオルでも同じことが言える?」
「もちろんでございます。ニールゼン様然り。脳筋バカもそうです。このような脆弱な輩にダメージを受ける者などこの邪神軍には存在しません」
「そう」
エディムがそこまで言い切るなら安心だ。ニールやオルにすら劣るようでは強者なんてギャグだよ、ギャグ。何が凄腕の暗殺者だ。
漆黒の狼? バカじゃないの?
いまどき、そこまでベタな集団なんているはずがない、ない。
はぁ~びびって損しちゃった。
よく考えればエディムがこれだけ冷静なのだ。本当に俺がピンチだったらエディムは何も言わずに助けてくれている。そう、こいつらが本当にただのガキンチョだという証拠だ。
「女、最終通告だ。言う事を聞かねば、この金髪女の手足を吹っ飛ばす。一秒遅れるごとに一つずつ破壊していくからな」
「お前ら、本当に無礼千万だな。ティレア様、殺しますね?」
エディムは怒りを露わにして叫ぶ。
そうだね。ガキンチョとはいえ、言動が危険だ。ウサ子ちゃん達と違って血色もいい。こいつらは本当に我儘に育てられただけなんだろう。ここは、大人としてきっちりしつけをしないといけないね。
「いいからいいから。こいつらの面倒は私が見る。エディムは他の子供達にお茶でもごちそうしてやって」
「ははっ、承知しました」
「お、おい、いいのか? 殺すぞ!」
「ふぅ、君達ね。殺す、殺す、うるさいよ。まるでガキね。まぁガキンチョだからいいんだけどさ。もう少し分別をつけた行動を――」
「「死ねぇええ!」」
俺の言動に切れたのか、ガキンチョ達が一斉に魔法弾をぶつけてきた。
魔法弾が俺の顔や胸に直撃する。
うん、少々びっくりしたが、なんの衝撃もなかった。ただ光っただけである。エディムの言う通りだ。これはただのお子様達だね。
「ふっ、気が済んだ?」
「バ、バカな。無傷だと……」
「ならばこれだぁああ!」
アンディが俺の腹に魔法剣を突き刺してきた。
うん、かっこいい剣だ。ただ、おもちゃだから全然効かない。アンディの魔法剣は、俺の腹のつぼにいい具合に指圧してくれていた。
腹筋を使ってその魔法剣を抑え込んでみる。
「ぐぬぬ。ぬ、抜けん……」
「ふふ、私がリアルに腹筋を固めた時は諦めた方が良いわよ」
「ば、ばかな……まさか俺の必殺剣をただの筋肉で止めたとでも言うのか」
「その通り。ナイフだって貫けないんだから」
ちょっと、いやかなり盛ったけど、いいよね。大人なお姉さんの力がわかったはずだ。
「こ、これが邪神……」
「あ、ありえねぇよ。何か幻術でも使ったのか?」
「お前達、やっと邪神の力を理解したか。油断するな。これからが本当の戦いだ」
黒髪美少女のカーチェイスちゃんが皆に気合を入れなおしている。この子はまだ他のガキンチョ達と違って話がわかりそうだ。だけど、まだまだね。根本的な勘違いをしている。
「君達、勘違いしないで。これから始まるのは戦闘じゃない教育よ」
「「なっ!?」」
勘違いしたガキンチョ達にしつけをするべく、近づいて行った。