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第五十七話 「なまじ頭がいいのも考えものね」

「ドリュアス君、どういうこと?」


 颯爽と現れたドリュアス君に質問を浴びせる。この一連の騒動、何か知っているのならぜひ聞きたい。


「今回の騒動、魔王軍の仕業です」

「何! 魔王軍だと!」

「うぬぬ、ヒドラーめ。とうとう動き出したか!」


 ティムをはじめとして、邪神軍幹部達が騒ぎ出す。


 皆、驚きを隠せないようだ。

 

 俺も驚いている。


 魔王軍って、また懐かしい響きだ。

 

 だけど、ヒドラーさんがそんな陰険なイタズラをするとは思えない。


「ドリュアス君、それは本当なの? 誤報じゃない?」

「いえ、間違いはございません。騒ぎの主犯であるコウアンが昨夜ひそかに陣を抜け出し、魔王軍に投降したところを確認しております」

「そうなんだ。でもコウアンって奴は、なぜこんな酷いことをしたんだろう?」

「それも仔細は入手しております。第二師団食料部隊で働いていたコウアンは、食料調達遅延の罪で鞭打ちの刑に処せられたそうです。しかも、オルティッシオは満座で奴をさんざん侮辱したらしくそれを恨みに思っての行動でしょう」


 説明をしながら、ドリュアス君はオルをにらみつけた。


「それは奴が食料調達を遅延したあげく、賊に奪われぬように雨露をしのいでいたと言い訳を抜かしたからです。正当な理由による懲罰ですぞ」


 オルも負けじとドリュアス君に反論する。


「ティレア様、これはあきらかにオルティッシオの管理能力の欠如が原因です。魔王軍、正確に言うと情報部局長のヨーゼはそのコウアンに目をつけました。奴を手駒にし、地下帝国でオルティッシオが謀反をたくらんでいると噂を流させたのです」

「なっ!? 参謀殿は私が原因とおっしゃるのか!」

「そう言っておろうが、貴様の間抜けな行動がコウアンを敵方に走らせたのだ!」


 オルとドリュアス君が激しく口論を始めた。


 「鞭打ち」とか「百叩き」とか物騒な言葉は飛び交っているが、今回の騒動はオルとコウアンの喧嘩が原因のようだ。


 ドリュアス君はさすがと言わんばかりに事情を知っていた。伊達に統合参謀本部を取り仕切っているわけじゃない。


 ふんふん、なるほどね。


 コウアンが魔王軍から寝返った。つまりこっちの邪神軍(サークル)に入ってきた仲間がいた。だけど、オルとそりが合わなかったので、また魔王軍に戻ったっていう話だ。


 ドリュアス君の話を簡単にまとめるとこんな感じだろう。


 まぁ、ここまではよい。サークルでよくある事例だ。嫌いな奴がいるからサークルやクラブを辞めるのは、別に悪いことではない。


 ただし、コウアンは、辞めるときにオルの悪口を周囲に言いふらして後を去った。


 これが問題なのだ。


 立つ鳥後を濁さず……どうして気持ちよく去らなかったのか!


「タチ悪いわね」

「お姉様の仰る通りです。そやつは邪神軍を、お姉様を舐めきっておる!」


 ティムが立ち上がり怒りをあらわにした。


「コウアンは許せぬ。それにドリュアス、完全に敵の策略にはめられたぞ!」

「そうだ。邪神軍の軍師としてどう責任を取るつもりだ」

「もちろん、軍師として敵の策略は見抜いておりました」

「むむ、では何ゆえ止めなかったのだ!」

「「そうだ、そうだ」」


 変態(ニール)の追及に他の幹部達も同意する。


 責める矛先がオルからドリュアス君に変わった。


「策略」とか「陰謀」とかいちいち中二くさいが、皆の言うとおりだ。どうして知っていながらこの騒動を止めなかったのか、ぜひ説明してもらいたい。


「ドリュアス君、皆の言うとおりよ。これ、あなた達流に言えば、完全に離間の策にはまっているよね? 頭のいいあなたが、こんな策略に引っかかって放置するなんて失望よ。普通はね、知力九十以上の軍師がいる国ではこんなチンケな策に引っかからないんだから」

「ティレア様、策を止めるのは可能でした。ですが、魔王軍は不気味な存在です。こちらから情報を探ろうとしても知りえない情報は多々あります。そんな折、向こうからアクションをかけてきたのです。これを活かす手はありません。もともとオルティッシオの管理能力の欠如で発生したこと、敵の計略にはまったふりをして、逆に奴らをはめる算段なのでございます」

「なるほど。さすがは邪神軍の頭脳だ。ドリュアス見事だぞ」

「うむ、敵を騙すにはまず味方からだ」


 ドリュアス君の軍師チックな言葉に皆が納得している。


 そうね、離間の計を逆手に取るなんてさすがよね――とでも言うと思ったか!


 ……ハァ……開いた口がふさがらない。


 暴動騒ぎにオルの命までかかった問題だ。


 魔王軍ごっこの勝ち負けでここまでやるか?


 見てごらんなさい。オルなんてドリュアス君の勝手な言い草に怒りでワナワナしているよ。


「ドリュアス君」

「はっ」

「こっちへ」


 ドリュアス君に傍に来るように命令する。


 俺の言葉を受け、ドリュアス君はこちらに近づき片膝をつく。


 そして、ドリュアス君が顔を上げた瞬間にドリュアス君の耳を引っ張った。


「うぐっ!」


 ドリュアス君が苦悶の声を上げるが、かまわず続ける。


 形の良いエルフ耳はさらにビミョンと伸びた。


「ドリュアス、あなた何してくれたの? こんなことしでかすなんて寝耳に水よ。わかっている?」

「は、はっ。そ、それは……」

「ティレア様、横から口を挟むご無礼お許しください」


 第四師団のベルがおもむろに口を開いてきた。


 ベルはドリュアス君の部下である。何か言いたいことがあるのだろう。


「何? あなたも私に黙ってこんな無茶な計画を実行した共犯よね?」

「い、いえ。ティレア様、ドリュアス様は決してティレア様を蔑ろにしているわけではありません。今回の作戦も提案書を事前に配布したはずですが……」


 提案書?


 そういえば、数日前ベルが何か分厚い書類を持ってきてくれた気がする。


 後で見ようと思って、ついつい忘れてた。


「……見てない」

「そうですか。それに全容を記載しております。決してティレア様を差し置いてことに当たる気はありませんでした」

「なによ。見なかった私が悪いって言いたいわけ? ベル、いい根性しているじゃない」

「ひっ。い、いえ、決してそのような……」


 俺の脅しに、ベルが見る見る青ざめていく。


 お前ら、事前に言っておけば済むって問題じゃないぞ。


 参謀本部でこいつらは、こんなくだらない事を考えてやがったのか!


「確かに作戦書を読まなかった私にも非があるよ。それは、ごめんなさい。でもね、こんな暴動が起きるような真似を私が許すとでも思ったの?」

「はっ。相手側に察せられますので、ある程度はこちらも騙されたふりをしておかなければなりません。それに暴動とオルティッシオの処刑により真実味が増すで――ぐはっ!」


 ドリュアスの後頭部をはたく。


 まったく、暴動まで起こすなんてやりすぎだ。ゲームの枠を超えている。


 そういえば、ドリュアスは毒薬まで作ったんだ。


 作戦書にはそれどう書いてあったんだ? 本当に飲ませる気だったのか?


 しゃれにならんぞ。


「ドリュアス、あなた案外なたわけね。やっていいことと悪いことの区別もわかんないの?」

「ティレア様、それは今回の計略に問題があったということでしょうか?」

「ありまくりよ。いい、あなたのせいで、下手したらこの地下帝国が火事になるところだった。オルなんて絶望に染まって今にも死にそうだったのよ」

「ティレア様、ご安心ください。仮にこの地下帝国が焼失しても、新たな拠点をご用意致します。オルティッシオが用意したあばら屋よりも数段優れたお屋敷にございます。また、オルティッシオ程度の将、掃いて捨てるほどおりますれば、ティレア様が不安に思われることはありません」

「ドリュアス君、突っ込みたいところは山ほどある。だが一つ言わせてもらうわ」

「はっ」

「勝手にこの地下帝国を燃やす権利は、あなたには無い。あのまま暴動を放置して火事になってたら大問題になってたよ」


 まったく、まったく、この地下帝国はオル父の所有物だぞ。勝手に貴族の別荘を燃やしていたら、俺達は全員処刑されてたよ。


「お、おっしゃるとおりでございます。この地下帝国を自由に出来る権利は私にはありません。ティレア様のご裁可を頂くべきでした」

「い、いや、私の許可って……」


 俺だって権限なんてないんだぞ。というか火事なんて起こしたら持ち主だろうと罰を受ける。それとも何か? 俺が許可したら燃やすのか? 


 どうなんだ? てめーら?


 ドリュアス君だけでなく邪神軍の奴らの顔を見渡す。


 うん、そんな顔をしているな。


 俺が命令したら、厳重な警備を誇る王宮にでも突っ込んでいきそうだ。忠誠度で言えば九十五以上、そんな忠臣面で俺を見つめてくる。


 どうやら、俺は君達を甘くみていたみたいだね。


 これだから中二病者共は……。


 まぁ、いい。


 この中二病気質を逆手にとってやる。


 俺は一応、君主だ。君主の命令なら実直に従うだろう。


「とにかく、私の命令は絶対なのよね?」

「もちろんでございます。ティレア様のお言葉は、何を置いても最優先されます」

「そう。それじゃあ、もうこんな暴動騒ぎは絶対にやめなさい」

「はっ。肝に銘じます」


 よし、これでもうこんな暴動騒ぎは起きないはずだ。


「それでお姉様。この後はどうするおつもりですか?」

「そうね、ここまでの騒ぎになったのもコウアンのせい。魔王軍にちょっと文句の一つでも言ってやりたい気分ではあるわ」

「それは、魔王軍へ侵略を開始するということでしょうか?」

「おぉ、ついに起たれますか!」

「「天下布武万歳!」」

「また、あなた達は……」


 いかん。こんな中二病のバカ共を行かせたら、向こうで喧嘩の火種を作ってしまう。ヒドラーさんにもご迷惑をかけてしまうね。


 じゃあ、俺が行くか?


 いや、だめだ。俺にはお店がある。そんな遠出はできない。


 しかし、このままコウアンをほおっておくのも癪に障るよね。一言文句は言いたい。


 う~ん、そうだ!


 こんな中二病患者共を喧嘩腰にせず、おとなしく行かせる方法があった。


「あなた達、これは外交よ。いきなり戦争ばかり考えても国は運営できない。内政、調略、外交があって戦争があるの、わかる? あなた達のように戦争、戦争ばかり言っている戦争バカじゃだめ。少しは冷静になりなさい」

「「ははっ、ティレア様のおっしゃる通りでございます!」」

「わかればよろしい」

「それではティレア様、外交の内容としまして、今回我が軍が被った被害に関する賠償金、並びに戦犯コウアンの引渡しの要求、魔王軍と邪神軍の領土境界の決定といったところでしょうか?」

「う、うん、そんなところかな」

「承知しました。詳細は参謀本部で詰めておきます。あと、我が軍の使者は?」

「もちろん、当事者のオルに行ってもらうわよ」

「オルティッシオにそのような大役を任せて大丈夫でしょうか?」


 ふむ、魔王軍って今はザルギー方面に展開しているんだったっけ?


 道中は、盗賊や魔獣もいるかもしれない。確かにオル一人だと不安だ。はじめてのお使いを見守るスタッフが必要である。


 ここは最強吸血鬼であるエディムに護衛を頼むのがベストだろう。


「そうね、オルだけじゃ何かと不安でしょう。エディム、悪いけど、オルのサポートしてくれる?」

「はっ!? わ、私がですか!」

「嫌?」

「い、いえ、そういうわけでは……しかし、私如きが魔王軍のど真ん中に――」

「エディム、お姉様の下知を無碍にするとは言わせんぞ。そんな不敬なおもちゃはすぐに捨てる!」

「ひぃ。そ、そんな事はありません。カミーラ様、私は邪神軍の忠実なる下僕でございます」

「そうか。なら返答はわかっておろうな」

「も、もちろんでございます。その大任、身命を賭けて果たしてご覧に入れます」


 うんうん、これで坊ちゃん育ちのオルも見聞を広められるだろう。


 道中はエディムが警護すればバッチシだしね。

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