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第四十八話 「お礼はやっぱり手作りが一番だね」

  ど、どうしよう……?


 オークションが終わり、商品受け取りの手続きに移行している。現在、手持ちのお金は、オルから渡された白金五百枚の十億ゴールドのみ。白髪美少女を買うと、完全に足が出てしまう。お金が足りないってバレたら俺はドラム缶から海の底か、運良く殺されなくても、どこかに売られちゃうのは確実である。


 と、とにかく時間をかせぐしかない。


 他に買った女の子の手続きをできるだけ引き伸ばそう。


「あ、あの実は白金ばかりで細かいお金を持ってきていないんですよ。細かいお金要りますよね? 私、取りに戻ろ――」

「問題ありません。むしろこちらとしては数える手間が省けます」


 そう言って、オークション係の人はたんたんとお金を数えていく。


 冷静だね。プロフェッショナルって感じがするよ。そのかけているメガネもきらりと光っている。


 うん、メガネ君はごまかされない。細かいお金は、数えるのに邪魔だ。白金はむしろ時間短縮に繋がっている。


 そして、あっという間に俺が買った没落貴族娘ジェシー、狼獣人娘リタ、村娘キャミーの引き取りの手続きが終わった。


「あはは、手続きも大変ですよね? どうです? 休憩でもしませんか? なんなら私がお茶でも淹れますよ」

「ご気遣いありがとうございます。ですが、けっこうです。仕事がありますので」

「そうですよね。仕事中ですもんね」


 だ、だめだ。このメガネ、取り付く島もない……。


 俺がいくら休憩を促しても、世間話に花を咲かせても、のれんに腕押しだ。俺と会話しながらもたんたんと仕事を進めていくのである。


 もう既に猫娘のバラ以下、白髪美少女以外の少女の手続きが終わっている。今は白髪美少女の買取のお金を計算しているところだ。


 なにか、なにか、他に時間をかせぐ方法はないか?


 俺が頭を悩ませていると、


「ティレア様、おかしいですね」


 あれだけ手早く動いていたメガネ君の手が止まり、声をかけてきた。


「な、なんでしょう?」

「あと、一億八千万ゴールドほど足りません」

「あ、あれれ、本当ですか? お、おかしいなぁ? ひ、ひょっとして数え間違いだったり……」

「ティレア様」

「は、はい」

「私は二度ほど数え直しております。こちらの間違いではありません」


 メガネ君は目を細め、プレッシャーをかけてくる。


 ま、まずい……。


 とうとう言い逃れできなくなってしまった。


 オルは……オルはまだこないの?


「はは、そうだよね。間違いはないですよね~」

「……」

「と、ところで、あなたの眼鏡素敵ですね。どこで買ったんですか? とても理知的に見えますよ。私も眼鏡かけようかな~そしたらおバカな私の頭も少しは――」

「ティレア様、虚偽の申告は処罰の対象ですよ」


 うん、話にならない。俺が必死に話を逸らそうとしても無駄であった。メガネ君は目を細めたまま、じっと睨んでくる。


 何、このメガネ、物腰柔らかそうなのにプレッシャーがすごいぞ。インテリぶってるくせに怖い。まるで経済ヤクザみたいだね。


 とにかく言い訳を……言い訳を繋げるのだ。


「いや、そんな虚偽なんてしていないよ。残りの金はオルが……」

「足りないんですね。仕方がありません」


 あれ、もしかして見逃してくれるの?


 いやいや、本当に申し訳ないね。メガネ君にも手間をかけたよ。

 なんならここで料理兼皿洗いをしてけじめをつけるからさ……ってメガネ君?


 そのポーズは何かな? 


 メガネ君は立ち上がり、親指と中指をつけて背後に見えるように出す。


 何か不吉な予感がするんだけど……。


「衛兵!」


 ってやっぱり!


 メガネ君は指をパチンと鳴らし、合図を送る。それと同時に、オークション会場の傭兵達が集まってきた。


 うぉおお! やばい、やばい!


 オル早く来――


「申し訳ございません! エディムの足があまりに遅く、このような時間になってしまいました」

「なっ!? わかってます? もともとはオルティッシオ様あなたが原因ですよね? 私はあなたの尻拭いをしているんですよ!」


 おぉ、きたぁ――ッ!


 天の助け。オルとエディムが仲良く喧嘩しながらやってきた。


 メガネ君もオルが大金を持ってきたのを理解したらしく、剣呑な雰囲気を収めてくれたよ。


 それから、足りないお金はオルが払い、事態は収拾したのである。


「確かに入金を確認しました。それでは商品お受け取りのサインと簡単な注意事項を説明しますので、別室にお越しください」

「オル、頼んだよ」

「御意」


 オルはエディムに背負われながら、別室に向かおうとしている。


 あ、エディムはこの後の問題で必要なのだ。


「オル、待って。悪いんだけど、手続きは一人で行ってくれる?」

「承知しました」


 オルはエディムの背中から降りると、どこで用意したのか杖をつき、足を引きずりながら歩いて行った。


 ふむ、大丈夫か?


 オルはふらふらしながら歩いている。何かあった場合、単独で逃げられない。誰かに襲われたら一巻の終わりである。


 まぁ、会場でそそうをしでかしたら闇の帝王が黙っていないし、大丈夫だよね。


 最後の手続きをオルに任せ、俺とエディムはオークション会場を出る。


 しばらく歩いていると、


 俺達の後を尾行してくる集団に気づいた。


 これがヘタレ(ビセフ)が言っていた厄介事の一つだね。恐らく、俺がオークションで勝ちすぎたのが気に入らない奴らなんだろう。


「ティレア様」

「わかっている。エディム、戦闘準備はオッケイ?」

「はっ。もちろんでございます」


 うん、エディムがいれば安心である。最強の護衛がついているのだ。こちらに不安はない。ただ、手続きが終わったオルと落札した少女達が、会場の外に出たところで襲撃される可能性がある。


「ねぇ、エディム、襲撃してくる奴らはこいつらだけじゃないよ。落札した少女達も襲うに決まっている」

「承知しております。買った奴隷達を奪われぬように、わが眷族を護衛につかせております」

「おぉ、用意がいい。さすがエディムね」

「恐れ入ります」


 うんうん、エディムはちゃんとわかっている。エディムの眷属達なら十分に信頼できるね。少女達も足がふらふらのオルもきっと安心する。


 ん!? 待てよ。


 ふと思ったんだけど、オルとエディムは最近仲が悪い。もしかしてオルに護衛をつけてなかったりして……。


「エディム、もちろんオルにも護衛はつけたんでしょうね?」

「必要でしたか?」

「あ、あのね。あんな大金もって足をふらふらさせた奴がいたら格好の的でしょ」


 そうなのだ。オルが追加の資金を持ってきてくれたのはいい。だが、あいつ、また十億ゴールド以上の金をもってきやがった。


 おい、オークションは終わったんだぞ。まったく不必要な金をばんばん外に持ち出してくるなよ。危なかしくてしょうがない!


「そうですね。オルティッシオ様は邪神軍の資金を持ち歩いているのでした。人間如きに資金を奪われるわけにはいきません。さっそく眷属の警護をつけます」


 いやいや、資金を奪われるのを心配しているのではなくて、オルの命が奪われるのを心配しているんだけど……。


 エディム、わかってて言っているんだよね? オルよりお金の心配だなんて、オル涙目だよ。


 そして、エディムが眷属と念話をしていると、


「おぬしら、ちょっと顔を貸してもらうぞ!」


 金貸しのボーゼンが凄みをきかせて声をかけてきた。


 まったく予想通りの行動をしてくるね。ボーゼンは傭兵を数十人引き連れて、俺とエディムを威圧してくる。


 俺一人であればブルって縮こまる場面である。だが、今は最強のボディガードがいるのだ。なんら恐れる事はない。


「えぇ、いいわよ。邪魔が入らないところでじっくり話し合いましょう」

「ふぉふぉふぉ、話がわかるではないか!」


 ボーゼンの口車に乗ったように、俺達は人気のない路地裏へと入る。路地裏には浮浪者やジャンキーみたいな奴らがいるが、まともな者は一人もいなかった。まるで外国のスラム街みたいなところである。


 ボーゼン達は浮浪者達を追い払い、俺とエディムを囲む。


 数十人の屈強な男達に囲まれるのは、さすがにプレッシャーだ。だが、エディムがいるから強気な交渉もできる。


「あなた達用件は何――って聞かなくてもわかる。落札した白髪少女の事でしょ」

「その通りじゃ。小娘、度胸は買ってやる。だが、おイタが過ぎたようじゃな」

「あのね、私達は正規に落札したのよ。文句を言うのは筋違いだからね!」

「黙れぇ! オークションで競り負けるなど、このような屈辱を味わったのは初めてじゃ。この屈辱は小娘、貴様の体で払ってもらうぞ!」


 ずらりと私達を囲んだ護衛達がニヤニヤしながら近づいてくる。腕利きの傭兵達に狙われる、本来であれば絶体絶命の危機だ。


 だが、想定どおり!


 (スーパー)エディムの出番である。


「エディム、こいつら何分で倒せる?」

「ふっ。ティレア様、このような輩一分もかかりませぬ」


 キャー素敵抱いて!


 エディムの凛々しさが半端ない。なんて頼もしいのだ!


 どうしよう?


 エディムが迫ってきたら断れないレベルである。


「へっ、生意気なアマだ! やっちまえ!」


 傭兵達の号令を皮切りに戦闘が開始される。


 宣言通り。エディムはバッタバッタと傭兵達をなぎ倒していく。エディムの鋭い攻撃と、強烈な気迫に怯える傭兵達。エディムの素早い動きは、常人の反応速度をはるかに超えていた。


 そして……。


「ぐはっ!」


 一分も経たずに傭兵達を全員打ち倒してしまったのだ。


「ほぉ、すごいのぉ。大金をはたいて雇った兵士達を子供扱いとは……」

「何、余裕ぶっこいているの? 次はあなたの番だからね」

「ふぉふぉ、ここは暴力が支配するエビル地区。儂がこのような場合に備えていないとでも思ったか!」

「なんだと?」

「ふぉれ!」


 ボーゼンは懐からクリスタルを取り出すと、そのまま地面に叩きつけた。


 すると、何か転移陣みたいなのが現れ、その中からぞくぞくと傭兵達が集まってきたのである。


「な、何あれ?」

「転移魔法をクリスタルの形で封印していたみたいですね。あれを壊すと魔法が発動し、あらかじめ契約していた傭兵達を召喚する仕組みみたいです」

「へぇ~魔法ってそんな事もできるんだ」

「はい。国外の魔法大国で研究されている代物です。私も話には聞いていましたが、実際に見るのははじめてです」

「ふぉふぉ、よく知っておるな。そう、このクリスタルを持っているのは王都でも魔法大国ゼノアに繋がりを持っている儂ぐらいのものじゃ」


 そうして、新たに召喚した傭兵達が俺達を取り囲む。


「エディム、もう一回いける?」

「問題ありません。先ほどより多少質が上がりましたが、たかが知れています」

「ふふ、聞いた? あなたが腕利きをいくら集めても無駄なあがきよ」

「ふん! 増長するのも今のうちじゃ! 今回、召喚した奴らは各ギルドの上層部に掛け合って選りすぐりの者を紹介してもらったのじゃ。ただの傭兵と思うたら痛い目にあうぞ」


 確かに今回、召喚された奴らはなんというか目が違う。裏の人間というか暗殺集団みたいな感じがする。


「へっへっへっ、なんだ俺達を召喚するからどんな野郎が相手かと思ったらただのガキじゃないか!」

「まぁ、待て。ボンクラ共だったとはいえ、ここに散らかっている死体はあいつらがやったんだろ? なかなかの腕じゃないか!」


 辺りに倒れている死体を見てもびくつかない。戦場に慣れている証拠である。まったく余裕かましてくれるね。


 だけど、それでもエディムならエディムがいればなんとかしてくれる。


 ……なんとかしてくれるよね?


「エディム、話を聞いているとなんか強そうな敵みたいだけど大丈夫?」

「ティレア様、私が悪鬼に不覚をとったのでご心配されておられるのですね?」

「うん、まぁそうかな」

「ティレア様、あの件は私も言いたい事がいっぱい、い――――ッぱいあるんです。要約すると、オルティッシオ様が全ての原因です。ですが、言い訳はしたくないので、これからの働きで汚名返上させて頂きます」


 なんかオルのせいって言い訳しているみたいだけど……まぁ良し。エディムがやる気なのだ。モチベーションを下げたくない。


「ふぉふぉふぉ、やる気か! 今度の傭兵達は一味違うぞ。さらに、こいつらよりも一味も二味も違う凄腕の剣士も用意しておる。こいつは冒険者ギルドの超新星、ランクこそCランクじゃが、Aランク、Bランクの強者をものともしない強さをみせつけた。殺しに対する冷徹な判断は、儂でさえ身震いするほどじゃ」


 囲んでいるこいつらでさえ只者ではないのに。


 さらに上をいく奴が?


 ボーゼンが自信を持って推薦する傭兵だ。女子供も容赦しないゴルゴ的な眉毛の濃いどこかの殺し屋をイメージしてしまう。


「ほぉほぉ、腕利きの護衛百人を皆殺しにしたその自慢の剣裁きを見せてくれ!」

「へい、お仕事ですからねぇ」


 そう言って、その凄腕剣士が転移魔法の魔法陣から現れた。


 すごい。その物腰、仕草、口調などから只者でない事が一目でわかる。名工といっても良いぐらいに惚れ惚れする剣を差し、年季の入ったその顔は歴戦の勇者を表す。


 まずい。これはさすがにエディムでも――ってミュー!?


「ミューあなただったの?」

「これはティレア様」


 な、なんてこったい。凄腕剣士ってミューだったのか!


 でも、納得だ。ミューの凄腕ならギルドでも一目置いているはずだしね。


 まぁ、でも心配して損したよ。そうか、そうか。ミューか、ミューなら仲間だ。


「ミュー元気そうね」

「へい、おかげさまで」

「召喚してきたのもギルドの仕事だよね?」

「へい、その通りでやす」

「そっか……うん、とりあえず仕事は置いといてこっちに来てくれる?」

「へい」


 ミューが一切の躊躇もせずに奴らと袂を分かつ。


「お、おい、どうしたのじゃ? 殺せ! この生意気な小娘達を殺すのじゃ!」


 ボーゼンが血相を変えて叫ぶ。だがミューは動じない。たんたんと俺達のもとに歩いてくる。うーん、やっぱり仲間っていいもんだ。


「おい、何をやっている! ミュッヘン、俺達の仕事はボーゼンさんのご命令を聞く事だぞ」

「そうだ、早く殺せ! あの馬鹿そうな金髪娘を――」

「ふぅ、無礼な輩だ。不敬にもほどがある」


 そう言って、俺を殺すって喚いていた男にミューは剣を振るう。


「え!?」


 そいつは何が起きたかわからなかっただろう。


 ミューはあっという間にその男の首を切り飛ばしたのである。


 一瞬、静寂が生まれるが、我に返り騒然とする群衆。


「う、裏切ったか!」

「ミュッヘン、お前は契約を反故にする気か。ギルドの大問題になるぞ!」

「ミュッヘン、貴様一人の問題ではない。ギルドの信用問題に関わってくる!」


 ギルドの仲間なのか、罵声がすごい。


 そうだよね。今、ミューがやった行為は契約違反だ。護衛の任務を放棄して、仲間だった男の首を刎ねたのである。


 きっと友達である俺やエディムを殺すって言われて我慢がならなかったんだね。素直に嬉しいよ。


 何も殺す事ないのに、なんて変な正義感はもちろん出さない。だって俺達のためにミューがしてくれたんだもの。感謝こそすれ非難なんてもってのほかだ。


 ミューが味方で本当によかった。ただ、一つ気になるのは、ミューのキャリアを台無しにしてしまったかも。


「あ、あのミュー、なんかすごい罵声を浴びているけど、大丈夫?」

「はぁ、何か問題がありやすか?」

「いや、なんかさぁ、私が言うのもなんだけど、ギルドでのあなたの立場が悪くなるんじゃない?」

「そうですね、ランクは下がるかもしれやせん。Sランク到達まで多少時間がかかってしまいやすが、よろしいですか?」


 よろしいですか――ってなんで俺にお伺いをたてるの? 自分のキャリアだよ。


「私はいい。むしろ奴らを裏切ってくれて大歓迎だけど……あなたはいいの? ひょっとしたらランクが下がるどころか、これってギルドを首なんじゃない?」

「申し訳ありやせん。ティレア様を侮辱されてかっとなりやした。本来であればギルドでのレベル上げが最優先でした。あっしの未熟さをお許し下さい」

「いやいや、そんな謝らないでよ。ありがとね」


 ミューの奴、なんて器がでかいんだ。仲間のためならキャリアなんて気にしない。普通はね、こういう時はシビアに行動する人とかいるんだよ。仕事とプライベートは別とか言って、友達を斬るなんて冷徹な人とかね。


 ミューは違う。仲間思いのいい奴さ。うぅ、ちょっと感動しているよ。


「ミュッヘン、どうやらその小娘と知り合いのようだな。情にほだされたか!」

「ふん、愚かな男だ。女子供を気にするような奴は一流にはなれぬ」

「鬼武者とまで言われた男がかたなしだな」


 何か周囲の傭兵達が好き勝手に喚いている。


 はぁ、あなた達にミューの凄さがわからないだろうね。何も冷徹に行動するだけがプロじゃない。その中にも優しさがあってこそだよ。


 まぁ、奴らに味わってもらいましょう。本当の強さってやつをね。


「ミュー、こいつら何分で倒せる?」

「ふっ。ティレア様、このような輩一分もかかりやせん」


 キャー素敵抱いて! とは言わないけど……。


 ミューの凛々しさが半端ない。なんて頼もしいのだ!


 どうしよう?


 ミューが迫ってきたら……はもういいか。


 そして、ミューはなますのように敵をなで切りにしていく。


 な、なんて鬼武者だ。

 

 もうね、一太刀浴びせたと思ったら次に斬りかかっている。


 敵が可哀想なくらいだ。ばったばったと殺られていく。敵もね、弱くはないと思うよ。ボーゼンの切り札だし。


 でもね、相手が悪かった。


 そして、宣言どおり。ミューは一分もかからないうちに敵を殲滅した。エディムの出番は無し。独壇場だったね。


 累々と積み重なる屍達。そして、取り残されるボーゼン。


「さーてどうする? また援軍呼ぶ? まぁ、誰が来ても無駄でしょうね」

「ふぉふぉふぉ、見事、見事! クリスタルはもう無い。援軍は呼べんのぉ」

「じゃあ詰みね。さんざん悪い事をしでかしたんだ。罪を償ってもらうわよ」

「詰み? 罪を償う? ふふぉふぉふぉふぉ。これは愉快、愉快じゃ」

「何を強がっているのよ。あなたに勝目はないわ」

「小娘、それはどうかのぉ?」


 どう考えても終わりなはずなのに。ボーゼンは、不敵な笑みを崩さない。もしかして、こいつ自身、悪鬼と同じような使い手とか?


 う~ん、でも見るからに強者には見えないなぁ。俺でも勝てそうである。奴は腹も出ているし、戦士タイプではない。じゃあ魔法タイプ?


 まぁ、仮に奴が走れるデブだとしても関係ない。こっちにはミューとエディムがついているんだ。最強タッグだよ。


 さぁ、どんな奥の手を持っているか知らないが、どうする? ボーゼンさんよ。


「ふぉふぉふぉ、ミュッヘンはもちろん、エディムと言ったな。すばらしい使い手じゃないか! 驚いたぞ!」

「あなた何を薮から棒に――」

「どうじゃ、過去は水に流す。儂の専属護衛にならんか?」

「あ、あなた何をいっているの? 馬鹿じゃないの? まさか隠し玉が買収なんて愚かにもほどがあるわ」

「買収のどこが愚かじゃ!」

「あのね、あなたみたいな拝金主義にはわからないでしょう。私達には、お金では買えない深い絆があるんだから」

「ふん、儂に言わせれば『絆』や『友情』をほざき、ただで人を動かす貴様のほうがよっぽど非道じゃわい」

「な、ななな……」

「貴様の口ぶりから察するにこやつらには給金を払っておらんじゃろ。大金持ちの愛人のくせにケチな奴じゃ。それとも自慢の体で釣ったか?」

「なっ!? 愛人? 体で釣った? そんな事するわけないだろ!」

「なら正真正銘のただ働きか! いいか。貴様は金も払わず命をかけた戦闘をしろと命じておる。ずうずうしいにもほどがあるわ」


 くそ! こんな外道に一理あるかもとか思っている自分がいる。


 よし、それじゃあ俺もお金を払う……いや、やっぱりおかしい。


 友情にお金のやり取りが入るなんて失礼だ。かといって、今までどおり感謝の言葉だけというのも何か奴の主張が正しい気がするし。


 どうしようか?


 こうしている間にも奴の買収劇は続いている。


 ミューもエディムも奴の言葉に怒り心頭みたいだ。


 当然だ。金で俺達の絆が壊れるわけがない。


 二人共「殺していいですか?」って何度も俺に聞いてくるのだ。


 だけど、俺は二人を止めている。


 だってね。奴を倒したお礼をどうするかまだ決めていないんだもの。言葉だけじゃだめ、かといってお金を渡すというのも違う気がする。


「はぁ、はぁ、はぁ。なぜじゃ? どうしてあんな小娘の下につく? どうじゃ一千万ゴールド払おう。出来高によってはさらに倍じゃ!」


 おぉ、一千万ゴールドだと!?


 年収一千万ゴールドを越す冒険者なんてなかなかいないぞ。だが、二人はボーゼンの言葉を意に介さない。


 まるで一千万ゴールドを百ゴールドぐらいに見ている感じだ。というかどれだけ金を積まれようとも無駄だとばかりの鉄壁の意思が感じられる。


 な、なんて気高い二人なんだ。


「ならば一億ゴールドじゃ。あの小娘を殺したら一億ゴールド即金で出すぞ」


 な、な、な、一億ゴールドだと!?


 そこまでするか! 俺も負けていられない。


「私だって奴を倒したらえ~と……そうだ。手作りのペンダントをあげるわ!」

「ふぉふぉ手作りのペンダンド? アホか! そんな安物より儂の秘蔵の――」

「黙れぇ――ッ!」

「ひぃ!」


 エディムがふいに大声を叫ぶ。怯えるボーゼン、俺もちょっとびびっている。


 あれ? もしかしてしょぼい謝礼に怒った?


 だってね、言い訳はあるんだよ。お金は払えない、なら手作りのプレゼントならどうかって思ったんだ。形に残るものだしね。


 でも、命のやりとりをさせているのにあまりに安あがりすぎたかもしれない。


「あ、あのね、エディムこれには理由が――」

「ティレア様。そ、そのペンダントというのは以前、カミーラ様にお渡ししたものですか?」

「うん、ティムとお揃いの奴を作ってあげようかなって思って……ごめんね、いらなかったよね?」

「そ、そんな、めっそうもないです。欲しいです! 何がなんでも欲しいです!」


 あれ? エディムの目の色が変わったぞ。さきほどボーゼンの買収劇では修行僧のごとく欲の欠片もない感じだったのに。


 今は物欲の権化になっている気がする。


「ティレア様、それはあっしが奴を斬ってもペンダントを頂けるのでやすか?」

「いや、ミューが倒したら手作りで剣を打ってあげようと思ってたけど……」

「ふぉふぉふぉ、そんな駄剣より儂は天下の名剣をいくつも――」

「黙れぇ――ッ!」

「ひぃ!」


 今度はミューが大声で叫ぶ。怯えるボーゼン、俺もちょっとちびっている。


 なんだろう? もしかして素人が剣を作るなんて言ったから怒ったのかな? ミューは武人だし、素人が勝手に入ってきていい場所じゃないとか?


「あ、あのね、ミューこれには理由が――」

「ティレア様。そ、それはあの『邪神金』を使った剣でやすか……?」

「うん、そうだね。材料から手作りで作ってあげるよ。まぁ、素人が作った剣なんていらないよね?」

「そ、そんな、滅相もございやせん。いりやす! 何がなんでもいりやす!」


 あれれ? なんかミューまで物欲百パーセントの顔をしているぞ。


 それになんだろう?


 何かエディムもミューも二人で牽制しあっているような感じである。二人共、あんなに仲が良かったのに、急に競争意識を持ち出したみたいだ。


 もしかして俺、何かまずい事言ったかな?

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