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第四十七話 「はじめてのオークションだよ」

 俺達は、再びオークション会場に入る。


 今度は奴隷商スレグの紹介がないので、参加料を払わなければならない。


 一人二百万ゴールドである。贅沢をしなければ、一年は暮らせる金額だ。庶民では、到底出せない。中にいるのはまさにブルジョア連中だ。


 オルにお金を払ってもらい、中へと入る。


 中は相変わらずの熱気だ。


 好色なおっさん達が、ワンサかいやがる。おっさん達は談笑し、くつろいでいる。高級な服を纏っているが、その性根は醜い。


 金貸しのボーゼンも椅子にドカッと座り、王様のように偉そうな態度だ。時折、下卑た笑い声が響くのがカンに触る。きっとあの白髪少女を落札した後のことを考えているのだろう。


 だが、そうは問屋が卸さない。少女は俺、正確にはオルが落札してやるからな!


 会場の柱時計を見る。間もなくオークションが再開しそうだ。オークションの参加メンバー達も私語を止め、ステージを注視する人達が増えてきた。


 よし、ここからが本番だ。海千山千の強者を退け、オークションを制してやる。


 俺は自分の参加番号である六十四番のテーブルに移動し、設置している椅子に座った。


 会場は百人足らずのメンバーで埋め尽くされている。中にいるのは、交渉上手な者、金に糸目をつけない者、恫喝してくる者、様々な悪党達だ。


 いくらエディムを連れてきているとはいえ、油断したら身包みを剥がされ、袋だだきにされるかもしれない。悪鬼との戦いでもわかるように、吸血鬼といえども強い人間相手だったら足元をすくわれることもある。一瞬の隙が命取りとなるのだ。


「オル、エディム、ここは敵地。気を引き締めて行動するわよ」

「ティレア様、ここは敵地ではありません。私、第二師団の庭でございます!」


 オルがエディムの肩ごしから身を乗り出して、そう言い放つ。


 ふぅ、こいつは足を痛めて女子中学生におんぶされておきながら、そんな強気なセリフをのたまってくる。奴隷の売買といったある種、暗黒街のような場所であっても、その態度は変わらない。


 オル、あなたの戦闘力でそこまで言えるなんて……もうね、その根拠のない自信を尊敬してきたよ。


「オル、ここがあなたの庭なのはわかったわ。で、足はもう大丈夫なの?」

「はっ、お恥ずかしながらやっと息が整いました。現在は、ズタズタになった足の内部を修復中でございます」

「そう、修復中ね。それじゃあ、しばらく走れないか」

「ぎ、御意」


 もしもの時に、こいつは自力で逃走できない。エディムにきちんと面倒を見てもらう必要がある。


「エディム、オルを頼んだよ」

「はっ、お任せください。オルティッシオ様が同行されるとお聞きしてから、覚悟しておりました。多少のお荷物を抱えようと、任務に支障はありません」

「なっ!? エディム、私がお荷物だと!」

「そうでしょ。違いますか?」

「き、貴様!」


 おんぶごしに取っ組み合いの喧嘩をしようとするオルとエディム。


 お前ら、器用な真似するね。


「喧嘩はやめなさい」

「で、ですが、エディムがあまりに無礼で傲慢で――」

「そのセリフ、そっくりそのままお返しします」

「二人共、いいからやめなさい。それとも、私の頼みなんて聞けない?」

「「い、いえいえ、めっそうもございません。し、承知しました、ティレア様」」


 神妙にこうべを垂れる二人……。


 まったく、先が思いやられる。今は喧嘩をしている場合じゃない。一致団結することが重要なのに。


 それにしても、この二人いつからこんなに仲が悪くなったんだ? まるでどこかの猫とネズミのアニメを見ているようだ。悪鬼討伐に行く時は、けっこう意気投合していた気がするんだけど。


 まぁ、いいや。今はオークションを乗り切る。それが一番大事だ。


「オル、エディムの眷属から聞いたと思うけど、現金どれくらい持ってきた?」

「はっ、白金を五百枚ほどでございます」

「ご、五百!?」

「も、申し訳ございません。足りないですよね。さっそく追加で資金を――」

「いや、いい。もういいから」


 相変わらず金銭感覚がおかしい奴だ。


 白金五百枚って……約十億ゴールドだぞ。俺もあの時は焦っていたから、どのくらいの金額を持ってきて欲しいか言い忘れていたけどさ。


 オルが懐から出した袋の中を覗くと、白金の硬貨がジャラジャラ入っていた。


 うん、本当に十億ゴールド持ってきてやがる。


 こんなに使わな――いや、待てよ。オークションだから何があるかわからない。使わないとしても、それぐらいは保険で持ってても損にはならないだろう。


 よし、とりあえず軍資金はおっけいだ。


 次は、奴隷を買ってメイドさんとして雇う件について、オルの了承をとらなければならない。


「オル、ぶっちゃけメイドさん欲しくない?」

「メイドですか。いえ、どちらかといえば戦闘員を希望します。我が第二師団は、ただでさえ戦力低下を余儀なくされております。できれば魔王軍捕虜の――」


 くっ、こんな時でも中二病か!


「ええい、戦闘員(バカ)はもう十分よ。よく考えなさい。メイド欲しいよね? 欲しいに決まっている。欲しいって言いなさい!」


 俺は、オルの肩をがくがく揺らしながら迫る。


 おい、おい、オルが首を縦に振ってくれないと、この作戦自体がおじゃんになってしまうじゃん。


「ごほ、ごほっ。テ、ティレア様、わかりました。メイド欲しいです。ですので、どうかご容赦を。く、苦しい……」

「あっ、ごめん、ごめん。つい熱くなっちゃって……」


 すぐにオルから手を離す。


 いかん、いかん。虚弱体質のオルに暴力は厳禁だ。あやうくメイドどころか、オルを冥土行きにしていたよ。


 とにかくオルの許可は取った。これで少女を救える。


「ティレア様、それではメイド用にここにいる女奴隷達を徴収しますか?」

「徴収って……オ、オル、もしかしてエディムに頼んで無理やり少女達を拉致しようとしている?」

「いえ、無理やりも何も、私が部下に徴収するように命じれば済む話です。何せここは私の庭ですので」

「オル、庭の話はもういい。私は真面目に聞いているんだからね!」

「わ、わかりました。では荒事をお選びになるのですね。そうですな。この程度の些事、エディムで十分でしょう」

「当然です。私は誰かさんと違って任務時に動けぬ愚か者ではありませんから」

「エディム、それは誰を言っているのだ?」

「さぁ、誰でしょう? 自分で歩けず、おんぶされている間抜けなお人なんて、よもや邪神軍にいませんでしょうからね」

「じ、上等だ。貴様の保護など受けぬ。私がティレア様の任務をまっとうする!」


 オルはエディムの背中から降りると、足をプルプルさせながら、会場ステージに特攻をかけようとする。

 

 お前、死ぬ気? 腕利きの傭兵が会場をガードしているんだぞ。ランポーでも無理。まして虚弱のくせに、さらに言えば今はろくに歩けもしないじゃないか!


「オル、ストップよ。とりあえず座りなさい」

「し、しかし……」

「座りなさい!」

「は、はっ」


 オルを椅子に座らせる。本当にこいつは目が離せない。


「あのね、強硬手段はあまり使いたくないのよ」


 その手は一応、考えていた。


 オークションで落札できなかった場合の最終手段、エディムの力で無理やり彼女達を解放させる。だが、それをやると闇の帝王に喧嘩をふっかけることになる。そのリスクは避けたい。


「それではオークションに参加するのですね?」

「うん、お金で競り落とす。オル、悪いけど資金のほうは頼むわね」

「お任せください」


 オルの自信満々の笑顔……。


 本当に大丈夫か? さっきも目を離すと、ステージに特攻かけていた。


 う~ん、はなはだ不安だが、オルの資金力に頼るしかない。


 そして、あまり作戦が練れなかったが、オークションが再開した。


 ステージに司会が上がる。


「さぁ、お待たせしました。オークションの再開です」


 司会の声に会場のおっさん達が沸く。


 よし、なんとしても白髪少女を落札するぞ。


「ここで、お客様に朗報です。この休憩時間に追加の奴隷が出品されました。奴隷を落札できなかったお客様に再度のチャンスです。どれもが一級品でございますよ。また白髪美少女をお待ちのお客様、焦らして申し訳ありませんが、メインイベントの前にまずはそちらをご紹介致します」


 司会がそう言うと、屈強でマッチョな男が鎖をひいてあらわれた。


 その鎖に繋がれた少女を見る。


 あ、奴隷商スレグから紹介された子だ。


 そっか。結局、オークションに出品されたのか……。


 うん、目は虚ろで世の中を絶望しきっている顔だ。この娘もオークションの後、オルに頼んで救おうと思っていた娘なのだ。


「ねぇ、オル。あの娘、欲しいんじゃない?」

「ティレア様、見るからに覇気がありません。あのような虚弱者では、栄えある邪神軍のメイドは務まらないと思います」

「はぁ~虚弱ねぇ」


 俺はオルのプルプル震えている足をつつく。


「ふぎゃあ!」


 足をつつかれて叫ぶオル。足を抑えて呻いている。


「あのね、虚弱なんてあなたに言われたくないんじゃない? たかが走ったぐらいでこうなるようなあなたに」

「テ、ティレア様、ですが……」

「まぁオルが買うんだし、最終決定はオルよ。私の意見なんて参考程度にしかならないけどさ」

「いえ、滅相もございません! ティレア様のご意見が絶対です。そうですね。はい、ぜひあの娘を買いましょう」


 相変わらずチョロイン並に俺の頼みを聞いてくれる。色々言いたいことはあるが、とにかくオルの了承を得た。これであの娘を救える。


 ステージでは司会が饒舌に説明を始めていた。


「没落貴族の娘ジェシー、ギャンブル好きの父に売られた薄幸の美少女。もちろん中古品ではございません。初モノでございますれば調教のしがいがありますよ」


 司会の説明に舌なめずりをする観客達。どいつもこいつもゲス野郎だ。絶対に落札してやる。


「皆様、準備はいいですね? それでは、オークション開始、三百万ゴールドからはじめます」

「三百五十!」

「四百!」

「四百三十!」

「五百!」

「五百四十!」

「十三番の紳士から五百四十が出ました。さぁ他にありませんか?」


 観客達が掛け声とともに指を立てて宣言していく。まるで魚の競りみたいなやかましさだ。煩い。声が聞き取りにくい。


 そうか、だから声と指を立てているんだな。俺も乗り遅れないようにする。


「六百!」


 俺は両手を使い、六百万ゴールドを宣言する。


 だが……。


「おぉ、六十四番の淑女から六千万が出ました!」

「ぶっ!? ろ、六千万! そ、そんなつもりじゃ――」

「さぁ、他にいませんか? いなければ六十四番の淑女が落札します」


 な、なんで、なんで? 六百万ゴールドじゃないの?


「ティレア様、どうやら両手をお出ししたために桁上がりしたようです」

「え!? でも、じゃあ『六』はどう表現するのよ」

「恐らく指を立てる順番で決まるのではないでしょうか」

「エディム、詳しいね」

「いえ、私も学園で少し聞いた程度ですので、深くは知りません」


 エディムからの指摘に呆然としてしまう。


 初っ端からやっちまった。いきなり六千万ゴールド使っちゃったよ。


 結局、その後だれも手を挙げず、ジェシーちゃんを落札した。


「オ、オル、ごめん。なんか一桁、余計に多くつけちゃったみたいで……」

「はっ、問題ありません」


 問題無いって……恐らくだけど、あの娘、一千万ゴールド前後で落札できたと思う。それを六倍も多く出しちゃったんだよ。


 それなのに何も感じないの?


 オル、まじで俺のために全財産貢いで破産しそうだ。うん、これは俺も自重しないといけない。オルにお金を借りるのはもうやめよう。オルが破滅しちゃうよ。


 まぁ、今回は人助けだから、今回だけ目をつぶってもらうけどね。


「次は、竜人ダイソー。その腕は強靭、戦争傭兵にもってこいの男です。どうです、筋肉が良いでしょう? 使い勝手の良い兵隊ですよ」

「ティレア様、魔族には及びませんが、なかなか力がありそうです。その面構えもいい。どうですか?」

「そーね、面構えはいい。きっと奴隷になっても強く生きていけるよ」

「それでは、落札しましょう、我が第二師団の奴隷に――」

「何を言っているの? 資金は有限、大切にしないとね」

「わ、わかりました」


 うん、男は大丈夫。解放しなくてもきっと強く生きていける。理不尽なご主人様だったら、その自慢の牙で噛み潰しちゃうよ、きっと。


 それから、男奴隷が何人か続いたが、どれもスルーした。オルは何人か買いたがっていたけどね。


「次は、狼獣人のリタ。愛らしい容姿もさることながら、獣人なだけあって力がある。護衛にするもよし、痛めつけるもよし。もちろん純潔を守った初モノです!」


 今度は獣人娘のリタちゃんだ。本来は元気いっぱいの美少女だったと思う。それなのに生気がない。当然だ。今は奴隷の身分だもんね。うん、この娘も助けたい。


「ねぇ、オル、あの娘いいかな?」

「はっ、承知しました」


 パブロブの犬のように頷くオル。


 今度は間違えないように慎重に競りをする。


 結果……。


 獣人娘リタちゃんを一千五百万ゴールドで落札した。


 勢いづいた俺は、その調子で村娘のキャミー、さらに猫娘のバラも落札した。


 やばい、男奴隷の時はスルーできたが、女性はきつい。止めどなく少女達を落札していく。


 もうやめよう!


 まだ白髪少女の落札が控えている。資金を温存しておかないといけない。


 だが、司会が次から次へと薄幸の美少女を紹介してくるのだ。その誰もが涙なしでは語れない事情を持っている。とても見捨てられない。


 俺は、まるで次々と洋服や宝石をねだる悪女のようにオルに頼み込んだのだ。それに対し、オルは一切の躊躇もせずスマイル顔で承諾する。


 もうね、プリチーウーメン男の器を超えたね。


 だってね、ここまで……。


 没落貴族娘ジェシー  六千万ゴールド

 狼獣人娘リタ    千五百万ゴールド

 村娘キャミー     八百万ゴールド

 猫娘バラ      千三百万ゴールド

 

 ……

 …………

 ………………


 結局、今まで出てきた女奴隷、全て買ってしまったんだよ。


 かかった費用はかるく「億」を超えている。


 これはもうオルの奴、愛人というより宗教に貢いでいる域だよ。

 

 俺は教祖様かっての! オルの将来が心配だ。


 ん!? 周囲の視線が痛いぞ。注目をすごく浴びている。今にも殺さんばかりの勢いで睨んでいる奴もいるよ。


 そうか! 突然現れたオークションの新参者が、奴隷の女の子を次々と落札していったからね。顰蹙もだいぶ買ったと思う。


 これはオークション後、襲われる可能性が高いな。本当にエディムを呼んできて良かった。護衛無しでは無事に家に帰れなかったよ。


 そして、殺気を放っている輩のうち二人が俺に近づいてきた。一人は、太鼓腹のデブ、趣味悪い派手な服を着ている。もう一人は神経質そうな顔をしたガリだ。


「六十四番の貴様、さっきからポンポン落札していってるが、本当に金を払えるんだろうな!」

「そうだ。俺が狙っていたジェシーを落札しやがって、嘘だったら承知しねぇぞ」


 案の定、二人は文句をつけにきたのである。


「殺しますか?」


 エディムが早速、物騒な言葉を仕掛けてきた。


「まぁ、待って。それは最終手段。ここは話し合いが先よ」

「殺すだぁ? このアマ、俺達が誰かわかってほざいているのか!」


 む!? これは話し合いにならない?


 突っかかってきた二人は今にも剣を抜こうとしている。


 おい、やめろ。それを抜いたらマジで戦争だからね。俺はエディムを止めないから、一瞬でやられるのはお前達だぞ。


「お静かに、お静かに願います。オークション会場での乱暴狼藉は許しません!」


 司会の男がそう言って傭兵達を急行させる。この地区を預かる顔役が雇っている兵達だ。誰もが一騎当千の強者に見える。


 その強面な傭兵達の様子に、文句をつけにきた二人組は、顔を青くしてすごすごと引き下がっていった。


「ご理解いただき恐縮です。このオークションはエビル地区を代表するイベント、闇の帝王様が管理しておられます。くれぐれも粗相のないようにお願いします」


 出たね「闇の帝王」マフィアばりにその存在をチラつかせるね。その効果は絶大だよ。一瞬にして静寂を取り戻した。


「ぷっ。闇の帝王って……」


 エディムが失笑する。


 俺も同意。そのネーミングにはちょっと笑った。でも、恐ろしい奴なのだ。ここは慎重になろう。どこに闇の帝王の手先が潜んでいるかわからないからね。


「エディム、シーよ、シー」


 俺は、指を一本口に当てて注意する。


「はぁ。ですが、闇の帝王というネーミング、これはティレア様への侮辱にほかなりません。反逆と捉えてよろしいのでは?」

「エ、エディム、何を言うか! ティレア様、違うんです、誤解です。あれは勝手に周りが、闇の帝王と――」

「あなた達、シャーラップ!」


 オルが「闇の帝王」について語ろうとするのでむりやり口を閉じさせる。


 この中二病が! どうせ「闇の帝王は俺の手下だ、庭だ!」とでも言うのだろう、言わせないよ。まったく口は災いのもと、壁に耳あり障子に目ありだからね。


 俺の心配をよそに、司会がステージに戻りオークションが再開する。


「今日は波乱の回でしたね。さぁ、オークションも最後の一品となりました。本日のメインイベント、グルダ族の末裔、絶世の美少女、本日限りの品物です」


 司会が興奮冷めやらぬ口調でそう言うと、屈強な男が鎖をひいてあらわれた。


 鎖の先に繋がれている少女……。


 すごい、やっぱり見とれる。なんという美少女だ。観客達も感嘆している。


「ふふ、お客様も思わず感嘆したことでしょう。見てください。この髪の色、どこまでも白く輝いていませんか? 肌もきめ細やか、目の色も美しく透き通っている。そう全てのパーツが高貴な血筋の姫であることが窺えると思います。本来であれば大臣、いえこの国の王様に献上してもおかしくない逸材ですよ。ですが、あえてこのオークションの目玉商品として提示させてもらいました」


 勿体ぶった司会の口舌、そのリアルな説明で観客達を引き込んでいく。これは値段が釣り上がりそうだ。


「それでは、お値段は二千万から始めさせていただきます」

「二千五百!」

「三千!」

「四千!」

「一億じゃ!」


 ボーゼン来たか。他の少女落札時は本腰を入れておらず、あっさりと引き下がっていた。それもこのメインイベントのためね。


 いきなり「一億」で攻めてきやがった。


「さぁ、三十一番の紳士から一億があがりました。他にありませんか?」

「二億」

「おぉ!」


 俺はびしっと二本指を立ててコールする。


「二億じゃと! お前ら本当に払えるんじゃろうな!」

「当たり前よ、ほら見なさい!」


 オルからもらった袋を開け、潤沢な白金を見せる。


 ざわめく観衆達。


「お静かに、お静かにお願いします。念を押すまでもありませんが、オークションでの虚偽申告は処罰の対象になります。多大な罰金だけではありません。一生牢屋で過ごすこともありえますので、ご注意ください。お客様の中にそのようなリスクを犯す者がいないと信じております。それでは、再開しましょう。二億から、他にありませんか?」

「おのれぇ、三億じゃ」

「負けない、三億五千」

「くっ、四億じゃ!」

「おぉ!」


 またどよめく観衆達。どうやらボーゼンと俺の一騎打ちになったみたいだ。他の客達は全員降りたみたいである。


 ボーゼン、あなたがいくら頑張ろうと無駄よ。こっちはあなた以上の大金持ち、オルの若旦那がついているんだ。


 現在、落札価格は四億……。


 一気に上げてとどめを刺す!


「五億!」


 俺は、びしっと五本指を立ててコールする。さすがのボーゼンも唖然としているようだ。奴の懐具合も限界が近いのかな?


 うーん、それならヒートアップして五億はやりすぎたかもしれない。一千万単位で刻んでも良かったかな? こんなに使っちゃって、胴元である闇の帝王はほくそ笑んでいるだろうね。


「ご、ご、五お……」


 ボーゼンめ、コール出来ないみたいだ。やっぱりここら辺の額が、奴の限界なんだろう。


 よし、勝利だ。思わずガッツポーズを出す。


「おぉ、出ました! 倍プッシュで十億、本日最多記録でございます!」

「え!? なんで? 他のコールが無いんだよ」

「ティレア様、他のコールがなくても追加でプッシュは可能です。つまり、先ほどのティレア様のご行為は、前額の倍をコールしたことになります」


 え? え? え? うそ?


「さぁ、他にありませんか? ないようですね。それでは六十四番の淑女に落札が決定しました。おめでとうございます!」


 はは、十億ゴールドで落札だって!


 うぉおおお、や、やっちまった。今度はうっかり倍プッシュしちゃったよ。


 十億……物価も安いこのご時世、軽く三代は遊んで暮らせる額を使っちゃった。


 さすがにオルの顔が見れない。十億の金を使い込んだんだよ。まじで一回ぐらいオルに抱かれないといけないぐらいのポカをやってしまった。


 まぁ、抱かせないけどね。


 とにかくここは下手に出て謝ろう。


「あ~オル、オル様、てへっ♪ うっかり十億使っちゃった。は、払えるかな?」

「ティレア様……」

「はいはい、なんでしょうオル様、なんでも言ってください。愚かな私をとことん罵倒してもらって構いませんぜ」

「も、申し訳ございません! 持ってきた資金では足りず……至急、資金を取りに戻ります。いくぞエディム!」


 オルはそう言って、エディムにおんぶされてそのまま会場を後にした。


 ふふ、どうしよう?


 会場に一人取り残されちゃった。オル、本当に資金を持ってこれるの? さすがにポンポン大金を動かしてたら、オル父も止めるに決まっている。


 そうなれば……。


 くっ、恐ろしい。


 このままオルが戻ってこなければ、終わりだ。闇の帝王を謀った罪で、俺はドラム缶に入れられて海の底って奴だよ!


 あばばばばばば、だ、だれか助けてくれ!

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