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第四十話 「邪神軍の財源確保に協力だね」

  俺が錬金で作ったおもちゃ(メッキン)を持って帰ると何やら騒がしい。どうやらまた皆でオルを糾弾しているみたいだ。オルの悲痛な叫び声に皆の罵声が飛び交っている。


 はぁ、もう何度言ったらわかるんだ。オルを虐めるのはやめなさい。


 皆の会話から察するに、今回オルを糾弾する理由は邪神軍幹部としての適性がないという話だ。


 そういえばオルは一週間以内に何か目を見張る手柄を立てなきゃいけなかったんだっけ?


 あの時はエディムの事しか考えていなかったからオルの事を忘れていたよ。


 さらに会話が聞こえてきた。


「オルティッシオ、貴様はこの一週間、何をやっていた? 手柄を立てるどころか邪神軍の威信を低下させる愚劣な――」

「お、お待ちください。わ、私が、私が、いったい何をやったと言うんです!」

「ちっ、言われなければわからんか! オルティッシオ貴様、本来の任務をほったらかしてどこに行っていた?」

「そ、それは……」


 ドリュアス君の激しい詰問にオルが返答につまる。


 別にやましい場所に行っていたわけでもなし。どこにいこうがオルの勝手でしょうに。だいたい任務ってなんやねん。


 俺の内心のツッコミを無視して、ドリュアス君の口撃は続く。


「調べはついている。貴様はこの一週間で三十回以上、トヨオカ、オンゼンを往復しているな?」

「そ、そうでしたか? き、記憶にありませぬな、私は遠征で忙しい身、そのようなところに行く時間などありませぬ」


 オルの目が泳いでいる。


 本当にトヨオカに遊びに行ってたのだろう。確かトヨオカは温泉が出る有名なスポットだ。別に旅行してきてもいいんじゃないかい。


 俺はそう思うよ。ただ皆の見解は違うらしい。


「しらばっくれるな! 貴様は色々小細工していたようだが無駄だ。エディム、証言しろ!」


 そう言ってドリュアス君が猛烈な勢いでオルを糾弾し、さらに証言としてエディムを召還する。


「はっ、罪人オルティッシオは――」

「なっ!? エディム裏切ったか! そ、それに罪人だとぉ!」

「おっと失礼、オルティッシオ様。今はまだ(・・)罪人ではないのでした。まぁ、時間の問題だと思いますが……」

「ぐぬぬ、お、おのれぇ半魔族がぁ!」

「往生際が悪いですよ。私達吸血部隊はあなたの部下になった記憶はありません。まったく無様すぎます。私達に第二師団の任務の肩代わりを任せるなんて……」

「エディム、間違いないな?」

「はい、ニールゼン様。詳細はドリュアス様に報告してます。罪人オルティッシオは自身の任務を私に丸投げし、その間に任務とは関係のないトヨオカ・オンゼンに足しげく通っていたようです」

「トヨオカ、オンゼン、ここは邪神軍の新部隊が多く配置されている拠点だ。そして、その新部隊の中身は元捕虜の新参者達。オルティッシオ、この新参者達に会って何をしていた?」


 変態(ニールゼン)もドリュアス君ばりに眼光鋭く、オルを糾弾する。


「そ、それは……そう、邪神軍の掟をみっちり教え込んでいたのですぞ。べ、別にやましい事など……」

「どこまでも愚かな奴だ。調べはついていると言っただろうが! お前はこの新参者達に自身の派閥に入るように強制したな? 断れば邪神軍から叩き出すと脅して。しかも、リベートとして邪神軍の財貨を勝手に流用した」

「そ、そ、そ、そんな、ど、ど、どこにそんな証拠が……」

「ふん、貴様が第二師団軍務調査費として支出した十億ゴールドの件だ! 知らぬとは言わせんぞ、このたわけが!」

「オルティッシオ、貴様は軍務調査費をそんな私事に使ったのか!」

「オルティッシオ、軍務調査費の意義を理解しておるのか? 軍務調査費は貴様のお小遣いではないのだぞ!」


 まるでどこかの政治家が遣い込みをしたかのごとく、皆から野次られるオル。オルの手はプルプルと震えていた。


「さ、さっきから聞いていれば軍務調査費、軍務調査費と、師団長という大きな括りのまえでは、たかが、ひっく、十億ゴールドなど小さな額でしょうが!」

「貴様、居直ったか! たかが十億ゴールドとはいえ、この金はティレア様のものだぞ。それを私事に使うとは何事だぁ!」


 いつにもましてドリュアス君の厳しい追及だ。しかもティム達の冷ややかな目に殺意が篭っている。


 こ、これは下手したら私刑とか起きそうな雰囲気だよ。


 オルはそんな状況に息を乱しながら涙を流している。いつにない厳しい追及だからね。オルの様子がなんだかおかしい。


「ンァッ、ッハッ! わだじぁ、あっ、ごの邪神軍を……ウッ……ガエダイ!」

「はぁ? 貴様……?」

「邪神軍の覇業はぁ……グズッ…… 第二師団、わ、わが軍団員だけの問題じゃ……ないですかぁ! わ、わだじは命がけでティレア様を……うぅ、ッヘッヘエエェエェエエイ! さ、参謀殿にはわからないでしょうね!」


 おぉ、あまりにボロクソに言われてオルが逆ギレしたぞ。


 もう何を言っているかさっぱりわからない。ただ、これはあまりにオルが哀れで可哀想すぎる。ティム達はティム達でこんな奴が邪神軍幹部になっていたとはって絶句しているけど……。


 俺はね、助けてあげよう。


 意を決し、会議室へと入る。


「やっほー君達、中々剣呑な雰囲気ねぇ」

「これはティレア様」

「お姉様、お帰りは遅くなるはずでは……」

「うん、ちょっとアクシデントがあって王都外に行くのは中止になっちゃった」

「そうですか。実は今、オルティッシオの処刑を始めようとしておりました」

「うん、途中からだけど聞いていた。何か皆、オルに怒っているみたいだけど許してやろうよ」

「ティレア様、宜しいでしょうか?」

「ん、なぁにドリュアス君?」

「はっ。オルティッシオは私事でティレア様の財貨を使用しました。それはまさに盗人、さらにその言い訳も見苦しく餓鬼そのもの。とても邪神軍幹部としての資質があるとは思えません。邪神軍軍師として即刻処刑する事を進言致します」


 ドリュアス君の真剣な顔にうんと言いそうになる。だが、それをやっちゃうとこいつらは本当にオルをリンチしかねない。


 俺の財貨うんぬんは中二病という事で置いとく。オルが邪神軍の幹部としての資質がないと言っているのはオルのさっきの号泣釈明が原因ね。確かにすごいワンピ泣きしてて、いい年してみっともないと思ったよ。


 でもね、だからって仲間はずれは可哀想でしょ。


「ドリュアス君、いや、皆にも聞いて欲しい。確かにオルは未熟で幼稚なところがある。でもね、だからって仲間を切り捨てるような真似を私は良しとしない」

「テ、ディレアさまあ、あぁ――!」


 オルが号泣して俺にすがりつこうとしてくる。


 おい、よせ! お前、鼻水たらたらだぞ、くっつけるな!


 俺はとっさに避けようとするが、


「オルティッシオ、調子に乗るな。お姉様に無礼だぞ」


 ティムがオルの肩を掴み、地べたに叩き落とす。


 崩れ落ちるオル。


 ナイスよ、ティム。


「そ、それではオルティッシオをお許しになるのですか?」

「えぇ、そうよ。不満?」

「いえ、ティレア様のご命令が最優先でございます」


 どうやらドリュアス君も納得してくれたようだ。他の皆もしぶしぶながら頷いている。エディムが舌打ちしたのが気になるが、俺が言った事の正しさを理解してくれたみたいだね。


 そう喧嘩っぱやいところもあるが、基本は皆、素直で良い子達なのだ。というか俺の一言で済む問題なら初めからこんな喧嘩をしないで欲しい。とにかく号泣していたオルも落ち着いたみたいだ。


 早速俺が作った錬金物のお披露目といこう。


「皆、聞いて。今回の騒動もオルが財源確保してないとか資金調達がどうたらって話なんでしょ?」

「御意。それだけではありませんが、奴のおざなりな仕事が原因の一つです」

「そっか、そっか。それじゃあ財源確保に苦しむオルにプレゼントよ」


 俺は生成魔法で作った「メッキン」を渡す。


「こ、これはなんとも見事な……」

「この延べ棒一つだけで百億はくだるまい」

「まさに……魔都ベンズでも指折りの宝物と比べても遜色はありませぬ」


 早速、中二病患者共が騒ぎ出す。予想通りだね。


 皆、俺の作った「メッキン」を穴が開くほど観察し、感嘆の溜息をつく。


「喜んでくれて良かった。錬金魔法で作った失敗作だけどね」

「こ、これで失敗作なのですか! な、なんとティレア様の計り知れないお力には脱帽しかありませぬ」

「はは、本当に失敗作だよ。でも、捨てるのもなんだしオルの役に立つならって……あ、いらないなら捨てても全然構わないから」

「そんな、めっそうもございません。これほど見事な黄金を私は見た事がありません。完全なる黄金比率で作られたまさに至宝にございまする」


 そう言ってオルは狂気しながら俺が作った「メッキン」を見せびらかしている。ときおり「ティレア様から賜ったご褒美だ!」とか「私は特別だぁ!」とか「クソ参謀ざまぁーみろ!」とか言っている。


 さっき泣いたカラスがなんとやら、本当に現金な奴だ。オルらしいともいえる。


 ……いいんだけどね。オル家の財宝で遊ばれるよりはずっといい。そうやっておもちゃの黄金を使って遊んでてほしいよ。ここは多分、オル家の隠し財産を置いている場所だと思う。馬鹿息子のせいで財宝が無くなっちゃたら大変だからね。


 それと、俺がオルだけにプレゼントを渡したもんだから変態(ニールゼン)やティムはもちろん、あの冷静なドリュアス君でさえうらやましそうな顔をしている。


 ふむ、モテる女はつらいな。


 俺の手作りがこれほど人気になるとは……。


 あとで皆にも何か作ってあげよう。それまでは我慢してくれ。


 あ! ティムは悲しそうな顔をする必要はないからね。ティム用のプレゼントはあるのだ。俺は最後に作った黒曜石っぽい宝石をティムに渡す。


「あと、ティムにはこれをあげる」

「お姉様、こ、これは……」

「私が錬金魔法で作ったお手製のペンダント、いつも学園で頑張っているティムにプレゼントだよ」

「お姉様のお手製! あぁ、嬉しゅうございます。肌身離さず持ち歩きます。家宝にします!」

「あはは、喜んでくれるなら何より。チャチなもんだけど勘弁してね」

「チャチなどと! これほどの宝石、我は見たことがございません。今までの歴史に登場した事がない新しい金属、黄金よりもオリハルコンよりも価値があります。これは……なんと言い表せばよいやら……邪神金、いや邪宝、いやいや……」


 ティムはぶつぶつ独り言を言っている。


 ふむ、そんなに喜んでくれるとは姉冥利に尽きるよ。やっぱりプレゼントは手作りが一番だね。

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