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第三十九話 「なんて暗黒物質、生産チートかな?」★

 今日はお嬢に連れられ、王都外に食材探しに行く。いつもは安全に市場で食材を探しているのだが、美食冒険者として名高いお嬢の警護があれば安心だ。俺みたいな素人でも王都外に未知なる食材を探しに行けるんだよ。


 ふん、ふん、楽しみだなぁ~。


 お嬢が自信を持って推薦する穴場に連れて行ってくれるらしい。俺の料理のレパートリーが広がりそうだ。


 それにしても、普通そんな穴場は美食冒険者の飯のタネであり、やたらめったに他人には教えないのが基本だ。それなのに気軽に教えてくれる。さらに言えば警護はおろか魔獣狩りもお嬢が一人でやってくれるみたいなのだ。


 お嬢、いい人すぎるぞ! まじ天使だよ!


 エディムの件だってそうさ。俺はエディムと和解した後、お嬢を説得しに行ったんだよ。あんなにエディムを目の敵にしていたお嬢の事だ。一度や二度の説得では心動かされないだろう。エディムを信用してくれるまで何度だって通い続けるって気構えだったのに。


「ティレアさんの好きになさいまし」っていきなり説得に成功した。


 エディムの事を黙認してくれるという。さらに「ティレアさん、あなたは少し迂闊すぎますわ」と俺に情報漏洩を防ぐレクチャーまでしてくれるんだよ。


 お嬢がエディムを信頼してくれるのは純粋に嬉しい。


 ただ信用しすぎだろって思う。確かに俺がエディムを信頼できるって太鼓判を押したよ。だからといって俺の言葉だけで百八十度方針を変えちゃうなんて……。


 お嬢ってさ、いいところの出みたいだし、お人好しすぎると悪い奴らに利用されないか心配になってくる。せっかく王都に来てからできた友達だ。お嬢が騙されないように俺が注意しないといけないね。


 俺がそんな風にお嬢の事を考えながら歩いていると、冒険者ギルドに到着した。


 約束の刻限は鐘が三つ鳴った頃だからちょっと早いか?


 なにぶん携帯がないから時間感覚がすごく曖昧になる。


 まぁ、でも遅れてくるよりはいいよね? 少し早いけど待たせてもらおう。お嬢がいる執務室へ向かう。


 受付に案内され部屋に入ると、お嬢は書類仕事をしていた。


 うん、何やら忙しそうだ。


 お嬢はメガネをかけてテキパキと筆を走らせている。


「お嬢、こんちは!」

「ん!? ティレアさん、あなた来るのが早すぎですわ。まだ鐘二つが鳴ったばかりですのよ」

「えへへ、楽しみだったんでつい早く来ちゃった」

「ついって……あなたねぇ。わたくしにも仕事があるんです。早く来られてもすぐに出発はできませんわよ」

「あっははは、そうだよね。ごめんごめん」


 さすがに早く来すぎたようだ。


 お嬢は忙しそうだし、一旦帰るか……。


 あ!? でも、せっかく冒険者ギルドに来たんだ。めったに中を見て回れない。待っている間、見学でもしようかな?


「ねぇ、お嬢」

「なんですの?」

「ここで待たせてもらってもいいかな?」

「構いませんが、あまり散らかさないようにしてくださいね」

「そんな事しないよ。子供じゃないんだから」

「どうかしら」


 なんだと! そんな風に言われると逆に反発したくなる。


 オラオラ、俺の極大魔法でこの部屋を――ってやらないけどね。俺は常識ある大人だ。ぶらぶらと室内を物色する。


 椅子、机、観葉植物……。


 む! このソファー……座り心地いいぞ。


 ふかふかだぁ!


 ソファーでトランポリンをしていると、お嬢からきっと睨まれる。


 はいはい、静かにしてってね。わかってるよ。


 しょうがない。どこか別の場所に……。


 おっ! なんか部屋を発見!


 お嬢がいる執務室から出ると、隣の部屋へと移動する。そこは色々な本が置いてあり、またフラスコやビーカーみたいなものが配置されてあった。何かの実験室みたいである。


 とりあえず、どんな本が置いてあるか興味が沸いた。


 俺は本棚にある本の背表紙を読んでみる。


 なになに……。


 火炎魔法の作り方。氷魔法実践レベル一。身体付与魔法の危険性。魔法基礎学Ⅱ。王都歴史学……。


 何気なしに王都歴史学の本を手にとってみる。数ページをぺらぺらとめくってみると、何か王都の歴史や風土が小難しく記載されていた。


 やばい。頭痛がしてきそうだ。別に俺は歴史が嫌いってわけじゃないが、この本はやたらわかりにくい。専門用語を多く使って書いてある。


 こんな本、誰が書いたんだよ。


 気になって背表紙の作者名を見てみると……。


 著者:ジェジェ・ジェ・アマチャール


 ジェジェかよぉお――っ!


 でも納得だ。奴のような権威主義者が書いたらこんな本になるんだろうな。王都歴史学の本を本棚に戻すと、次の本を手に取る。


 なになに? 


 初心者から始める錬金術、あなたもこれで一攫千金!


 おぉ、錬金術か。やってみたいかも!


「ねぇお嬢、ここにある本って読んでもいい?」

「えぇ、閲覧は自由ですわ。でもあなた、読み書きできますの?」


 失敬な! これでも人生経験は五十年近くあるんだぞ。昔は神童って言われたこともある。


 三日ぐらいだけど……。


 まぁ、いい。お嬢に許可をもらったんだ。気兼ねなく読書ができる。


 早速、錬金術のページを開いてみる。


 えーと、なになに錬金するには……。


 ってどのページを見たらいいんだろ? なんか最初の概論がやたら多く書いてあるし、これまた専門用語ばかりが書かれていて何が何やら……。


 少なくとも図を見るかぎりではフラスコに岩石を入れて何やら呪文を唱えるみたいだけど……。


 うーん、悔しいがお嬢の言うとおりだった。さっぱりわからない。本を読んで理解できない以上、やるとしたら自分なりに考えるしかないよね。


 魔法を使うにはイメージが大切……。


 よし、習うより慣れろだ。実際にやってみよう。


「ねぇ、お嬢?」

「もう、さっきからなんなんですの! 今、集中していますので話しかけないでくださいまし!」

「ごめーん、気をつけるからさ。もう一個だけ。実は錬金術の本を読んでいるんだけど、ここで金を作ってもいいかな?」

「はぁ~やれるものならやってみろですわ。錬金なんてその道を極めた者達の中でもほんのひと握りしか成功しませんのよ」

「へぇ~そうなの?」

「えぇ、金銀は別格、銅ですら困難ですわ。一流の魔道士を基準としてそれですからね。素人のティレアさんなら鉛の一つでもできたら褒めて差し上げますわ」


 い、言ったな~。


 これでも初期魔法は使えるんだ。鉛どころか銅もどきを作ってお嬢をびっくらこかせてやろう。俺は錬金術の本の通りにフラスコに岩石を入れる。


 そして、イメージを練る。具体的には金の延べ棒だ。


「アブラカタブラ、ピーヒャラリ♪」


 適当な呪文を唱えながら魔力をフラスコにぶち込んでいく。


 すると……。


 ん!? なんかフラスコからボコボコ溢れてきている。黒くてもやもやとした暗黒物質が出ているよ。


 うぉおお、何かやばそうだ!


「お嬢! お嬢!」

「あぁあぁもう! 話しかけるのは最後とおっしゃいませんでしたか?」

「で、でも、何かフラスコが揺れているというか尋常でないというか……」

「ふぅ、錬金もどきの魔法を使ったのならフラスコが揺れて当然ですわ」


 そう言って、これ以上話しかけるなオーラを出すお嬢。


 うーん、そうなのか?


 でも、これってただ揺れているだけじゃないような……。


 まるで濃硫酸が溢れてとんでもなく気化しているというか、すごい化学反応が発生しているみたいなんだよ。


 でも、お嬢が言うんだから大した事がないのかな? 魔法に免疫がない俺にとっては何が正常で何が異常なのかよくわからない。


 まぁ、いいや、とりあえず続きをしよう。


「アブラカタブラ、開けぇー(ゴマ)!」


 俺の適当な呪文詠唱が終了した途端、ピカーンと光る金の物質が生成された。


 う、うそ……金、できちゃったよ。


「お嬢! お嬢!」

「ティレアさん、いい加減にしてください。これ以上、仕事の邪魔をするのなら退出してもらいますわよ」

「で、でも何か金っぽいのができたみたいなんだけど……」

「金なわけないでしょ。大きさはどんな感じですの?」

「うんと、直径五十センチの金の延べ棒みたいな感じ」

「ふぅ、そんな大きさの金を生成しましたなら、ティレアさん、あなた歴史に名を残せますわよ」

「そうなんだ……」

「錬金の第一人者であるエルフェル・トラウヌですら直径五センチの金貨を作るのがやっと。それを素人のティレアさんがあっさり凌駕できると思いまして?」

「あはは……じゃあ、できたこれってなんだろ?」

「金に似せた物質『メッキン』でしょ。色は黄色で金に見えるから子供のアクセサリーによく使われてますわ」

「へぇ~そんな金属があるんだ。知らなかった」

「とにかく錬金魔法を使用したら必ずできるゴミですわ。駆け出しのヒヨッコ魔法使いがよく生成してますわね」


 なるほど、なるほど、それじゃあやっぱり錬金は失敗したみたいだ。まぁ、最初からうまくできるとは思わなかったけど……。


 お嬢の口ぶりはまるで俺の成功を期待していないみたいだ。なんか悔しいぞ。せめてお嬢の言うとおり鉛ぐらいは生成を成功させてみたい。


 それから俺はひたすらフラスコに岩石を入れて呪文を唱えていく。だが、できるものはすべて『メッキン』という金属ばかり……。


「あ~だめだ。何度やっても『メッキン』しかできないよ~。お嬢何かコツとかないの?」

「ひたすら努力ですわ」


 うん、正論どうも。


 本当はお嬢につきっきりでアドバイスを貰いたい。だが、眼鏡越しに不機嫌オーラを放っているのが、隣の部屋にいてもわかる。


 まぁ、仕事の邪魔になっているから当たり前か。なんだかんだでお嬢は俺の質問に律儀に答えてくれるし、ついつい甘えたくなってしまうのだ。


 よし、材料である岩石も残り少なくなったし、これを最後としよう。精神を集中させる。イメージだ。学園で頑張っているティムへのプレゼントを作る。ティムもきっと喜んでくれるはずだ。俺のモチベーションがぐんぐん上がる。


「我は作る、金の延べ棒!!」


 某アニメばりにポーズを決めながら呪文を唱えた。


 すると、すさまじい化学反応が起きた。フラスコの中にブラックホールみたいなものができたのである。


 うん、うん、ちょっと……怖いぞ。


 好奇心からおそるおそるそれに指を突っ込んでみたら、そのまま吸い込まれそうな勢いだった。やばい。これは放置しよう。


 そしてしばらく沈静化するのを待つ。


「で、できた」


 フラスコの中には黒光りする黒曜石みたいなものが生成されていた。おぉ、自画自賛だが、七つの秘宝と呼ばれても過言ではない仕上がりだよ。


「お、お嬢、や、やばい。何かすごいものができちゃったよ」

「ふぅ~話しかけるなと申し上げたのに……それで、ティレアさんの口ぶりから察するにうまく成功したみたいですわね。鉛ぐらいできましたの?」

「そ、それが鉛というか黒曜石? いや新金属というか、とにかくすごいものができちゃったよ」

「黒曜石? 色は黒なんですよね?」

「うん、黒だね。真の黒って感じだけど」

「恐らくそれは石炭ですわ」


 石炭? いやいやこれは石炭じゃないぞ。どう見積もっても一級の宝石に見える。やばい。俺ってもしや生産職に才能があったのかも……。


「お嬢、いいから来てみてよ。すごいのがデkたんだから」

「あぁ、もう何度言えばいいんですの。今は忙しいんです! 後でその石炭の評価をしてあげますから。ちょっとお待ちなさい」

「だから石炭じゃないんだってば! ちょっと来てみてよ」


 俺は堪らず部屋の入口からこいこいとお嬢を手招きする。だが、お嬢はプルプルするだけで席を立とうとしない。


「あ~もう埒が明かないよ」


 俺はお嬢の側に移動し、無理やり立たせようとするが、


「あ、ちょっと待ちな――」

「え!?」


 俺がお嬢の手を掴んだ拍子にインク容器が転げ、積んであった書類にべったりとインクをこぼしてしまった。


「あ、あの、そ、その悪気はないんだよ。えへへ、つい興奮しちゃって……」

「えぇ、えぇ、そうでしょうとも。悪気があったら堪りませんわ。お陰様でわたくしの半日の努力が水の泡になってしまったんですもの」

「あわわわ、そ、そうなんだ。USBメモ――バックアップなんて……ないよね?」

「えぇえぇ『バックアップ』なんて便利な魔法があれば教えて欲しいものですわ。何せまた(・・)からやり直しですからね」

「あはは、本当にごめんね。なんと言ったらいいか……その、あ、何か手伝える事ないかな? 私、頑張っちゃうよ」


 俺は腕まくりをしながらアピールしてみる。


「そうですか。それではわたくしが気持ちよく仕事ができるようにお帰り願いましょうか」

「え、いやいやそんな、手伝うよ。本当、私が悪いんだし」

「帰りなさい。わたくしが実力行使をしないうちに」

「は、はい、すんませんでしたぁああ――っ!」


 俺は脱兎のごとく、執務室を後にする。


 あ~やばい、やばい。お嬢の奴、切れかかっていたよ。


 はぁ~やっちゃった……。


 俺は調子に乗ってしまうのが欠点だ。よく考えれば俺が何かすごいものを作れるはずがない。また「メッキン」みたいなものを作ったんだろう。それなのに興奮してお嬢の仕事を邪魔してしまった。本当に悪い事したよ。今度、お嬢には何か埋め合わせをしよう。


 それにしてもこれどうしようか……? 


 せっかく作った初の錬金物質だ。このまま捨てるのもなんだし……。


 そうだ! 邪神軍での軍資金ということにするか。皆がオル家の財宝を使って遊んでいるからいつもハラハラしていたんだよ。いつかオル父に怒られるんじゃないかってね。邪神軍ごっこには俺が作った「メッキン」で十分だよ。


挿絵(By みてみん)

今回、挿絵第九弾を入れてみました。イメージどおりで素晴らしかったです。イラストレーターの山田様に感謝です。

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