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第三十六話 「エディムと解決の道」

 悪鬼討伐での横槍をはじめ、バカティッシオにはずいぶんと迷惑を被った。言いたい事は腐るほどある。だが、立場は向こうが上なので我慢した。だが、「ティレア様を蔑ろにしている」とふざけた讒言でとうとう怒りが爆発してしまった。


 私はカミーラ様の御前でバカティッシオと罵り合戦をやらかしたのである。

 途中、ニールゼン様に(たしな)められ、ドリュアス様には「一週間以内に目を見張る手柄を立てろ!」とご命令を受けた。


 うぅ、なんて無茶な指令だ。こんなの絶対に無理に決まっている。こんな目にあうのも全てバカティッシオのせいだ。


 私は恨みを込めてバカティッシオを睨む。バカティッシオもまるで私のせいとばかりに睨み返してきた。


「エディム! お前の不手際で私まで信頼を失ったわ」

「はぁ? もともと信頼なんて無かったでしょ。それはこちらのセリフです。あなたこそ、何かしでかしましたね? お願いですから私を巻き込まないでください」

「なんだ、その言い草は! 半魔族のくせに生意気な!」


 バカティッシオが激昂して首を絞めてくる。


 く、苦しい。この馬鹿力め!


 そう、こいつはバカだが、力だけは本物なのだ。吸血鬼の中でもトップを誇る私の体がみしみしと悲鳴をあげる。


「ああ、あぐぅうう!」

「仲間割れはよせ。見苦しい。とにかく成果を出せ。出さなければ死ね。以上だ」


 ドリュアス様からの無情な一言……。


 はは、バカティッシオと仲間だって……もう笑うしかない。


 ドリュアス様の通告後、幹部の方々は会議室を出て行く。


 残されたのは私とバカ二人……。


 はぁ~今日はなんて日なんだ。


 ティレア様から不審がられたかと思えば、軍議でさらし者にされた。さらに忠誠心がないと疑われ、石抱という拷問まで受けたのだ。


 うぅ、まだ足に違和感がある。バカティッシオの「もう一段追加せよ!」が余計だった。恐らく私の足には百キロ近くの負荷がかかっていただろう。吸血鬼の身体でなければ、百パーセントつぶれていた。本当に邪神軍はクレイジーな方々ばかりである。


 まぁ、そうは言っても拷問自体はまだ良い。多少の怪我ぐらいではびくともしない身体なのだ。ただ幹部、特にカミーラ様からの冷たい視線のほうが痛かった。


 このまま私は処刑されるのだろうか?


 居場所がなくなる。

 私の拠所、カミーラ様がおわすところが私の全てなのに……。


 はぁ、はぁ、はぁ、くそ!


 悲観的に思いつめたせいか激しく動悸してしまう。人間の体は捨て去ったにもかかわらず……感情のなごりってやつなのかもしれない。


 はぁ、はぁ、息苦しい。息が荒くなる。


 ふと横を向くと、バカティッシオも顔面蒼白である。私のせいにしておけばいいと思っていたようだ。だが、そうは問屋は卸さない。事は二人の連帯責任みたいになっているのだ。バカティッシオもようやく事の重大さを理解したか……?


「エディム」

「なんですか?」

「我らは争っている場合じゃない」

「えぇ、わかってます」


 早く気づけよ。


 と言うか、一方的に喧嘩を売ってきたのはてめーだろうが!


「エディム、今回の理不尽な仕打ち、クソ参謀が仕組んだことだ」

「えっ、本当ですか?」

「間違いない」


 バカティッシオは確信をもった物言いだ。


「で、でもなぜドリュアス様がこのような仕打ちを?」

「決まっておろう。己が権勢を高める為、そして、ティレア様のご寵愛を独り占めするためだ」


 いや、違うと思うぞ。ドリュアス様はあんたと違って理由もなしに権力を振りかざさない。今日の仕打ちも何かしらの理由があるはずなんだ。


 分析しろ、エディム。バカティッシオに任せていたら身の破滅だ。


 今日までの生活を振り返ってみる。


 いったい、なぜ、こうなった?


 昨日までは普通だったはず……。

 悪鬼討伐でもティレア様は私を褒めてくれた。

 ティレア様、カミーラ様へのご挨拶も欠かしたことはない。

 眷属の統率だってうまくいっている。


 いったい、なぜ?


「エディム!」

「は、はい」


 バカティッシオの声で思考が中断される。


 せっかく原因を探っていたのに。こいつはどんな時でも私の邪魔しかしない。


「エディム、ぼっとするな! 今、我々は窮地に立っている事を忘れるでない」

「……はい」

「敵は卑劣で巨大だ。ゆえに我らは手を組む必要がある」

「えっ!?」

「何をあっけにとられておる! 要するに私を主軸とする派閥を形成するのだ」

「派閥ですか……」

「そうだ、お前達吸血部隊も入れてやる。感謝しろ」


 は、入りたくない。


 バカティッシオの派閥なんてもろ泥舟じゃないか!


 藪から棒に何を言いやがる。いったいこのバカのもとに誰が集まるというのだ。


 開いた口が塞がらない。


 あっけにとられていると、バカティッシオは断られると思ってもいないのか「次の会合はどうするか?」とさも当然とばかりに話を進めてくる。


 おい、まだ私は受諾していないんだぞ!


 さらにバカティッシオは「数は力だぁあ――っ! クソ参謀め、目に物を見せてやる!」と叫び、目をギラギラさせていた。


 こ、こいつ絶対に頭に蛆が湧いているよ。だめだ、このバカに付き合っていたら身の破滅だ。とりあえず、このバカとは距離をおかねばならない。


「あ、あのオルティッシオ様」

「なんだ? クソ参謀への対策でも考えたのか? お前も我が派閥のメンバーなんだからな。しっかり頼むぞ」

「その派閥なんですが、大変ありがたいご提案です。ですが、私共のような半魔族がお役に立てるかどうか……」

「問題ない。実力不足は数で補えばよい。エディム、現在いる眷属を倍にしろ!」

「倍って、無理です!」

「何が無理だ。眷属一人が一人増やせば倍々に増えていくだろうが」

「おっしゃるとおり理論的には可能ですが、ティレア様から眷属を増やす事を固く禁じられているんです」


 ティレア様発案のもと吸血鬼諸法度なるものが発布されている。そこの第二条「眷属を増やすべからず」に違反してしまう。


「そうか。ティレア様のご命令であれば仕方ない。それでは現在いる眷族のリストをよこせ!」

「な、何故ですか?」

「決まっておろう。お前の眷属を我が配下に組み入れるためだ」


 なっ!? あつかましいにもほどがある。


 なぜ、私が苦労して作り上げた眷属網をお前に委ねなければならない。


 冗談じゃない。お前には借りどころか恨みしかないんだぞ。


「どうした? さっさとリストを作れ。持って来い。ぐずぐずするな!」

「そ、それがリストと言われましても私ではよくわかりませんので、担当の者を呼んできますね。そいつと話をしてもらえませんか?」

「貴様は自分の部下も把握しておらんのか? まったく先が思いやられるぞ」


 それはこっちのセリフだ。反論してもいいが、今はバカの相手はしてられない。


 私は会議室を出ると、眷属のダルフへ連絡を取る。


 念話発動!


『ダルフ応答しろ!』

『これはエディム様』

『忙しいところ悪い。至急、会議室Bまで来て、バカ……オルティッシオ様の相手をしてくれ』

『御意。すぐに参ります』

『うむ。で、オルティッシオ様は提携とか派閥とかの話をしてくる。だが、のらりくらりとかわしてくれればいい』

『お受けしないのですね?』

『無論だ。何が悲しくてわざわざ破滅の道を歩まねばならぬ。いいから適当に話をあわせておけ』

『わかりました』


 よし、後はダルフに任せよう。はっきりいってダルフには眷属の統括から情報収拾など、やる事が山積みだ。バカティッシオの思いつきに使わせたくはないのだが、仕方がない。


 今回の件、自分なりに考察する。


 やはりティレア様が原因だろう。なぜかわからないが、私はティレア様から著しく信用を無くしている。今朝からおかしな事が連発しているのもこのせいだ。


 邪神軍はなんといってもティレア様を中心に動いている。あれだけ険悪なバカティッシオやドリュアス様でさえ、ティレア様の前では一致団結するのだ。


 そのティレア様に嫌われたとしたら……。


 バカティッシオもあれだけ失敗を繰り返しても、ティレア様のお気に入りだからなんとかなっている。そうでなければ今頃、皆から吊るし上げられ、とっくに処刑されているだろう。


 ティレア様から見放される。それは邪神軍にいる者にとって死刑判決に等しい。


 怖い。嫌だ。


 なんとしても信頼を取り戻す。お許しを頂くまでひたすら頭を下げる。ティレア様のためなら王都中の民を殺してもいい。ティレア様が懲罰をお望みならひたすら耐えてみせる。


 だからお許し下さい。


 私は覚悟をもってティレア様のもとへと向かった。

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