回顧②
あ…と思うのも束の間シロツメクサの冠が風に煽られてしまった。
慌てて追いかけること数メートル、誰かの手の上に乗ったようだ。
「す、すいません‼」
謝りつつ、慌てて相手の顔を見ると、
サッと顔色が変わるのが自覚された。というのもその相手が社交界の中心レオンハルだったのだ。
顔色が変わるのも無理ないわ…
と自己弁護してみる。いくら私が爵位にこだわりが無くともいきなり会えばびっくりする相手である。…それで無くともレオンハルの容姿には誰しもが惹かれるものがあるというのに。
「お前のか?」
硬直していた私にかけられた言葉。
その顔に似合ったバリトンボイスに含まれる嫌に一瞬さらに硬直する。
「あ、は、はい、そうです。すいません…」
最後の方には小さな声しかだせなかった。
「そうか。」眉をひそめ、冷たい声でそれだけ言うとレオンハルは冠のシロツメクサを一本抜くと
「冠さえこんなのしか被れないのだな」それだけ吐き捨てると立ち去っていった。
………この瞬間、私の中でレオンハルは「冷たい上に所詮はお坊ちゃん」というイメージがついた。…もともと大したイメージは持ち合わせていなかったけど。
野草の素晴らしさがわからないなんて所詮はその程度の人間なのよ。
その時は、どうしてレオンハルが家の近くに、しかも徒歩で、従者も付けずにあそこに居たのか、考える余裕は無かった。
それにしてもどうして私がここまで詳細に覚えているのか…
それは奇しくもこの日があの出来事が起きた日であり、何度も反芻しているから…
これは偶然なのか必然なのか…