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3.雨降ってなんとか(1)

 ……どうもおかしなことになった気がする。

 日課の薪割りをこなしながら、コウイチは内心で首を傾げていた。

 レナファと森に入ってからすでに五日が経っている。よほど鈍い者でも、身の回りの変化を察するには十分すぎる時間だ。

 今もコウイチは視線を感じ、うろんげに顔を上げた。

(……また)

 遠巻きにこっちを見ている子供たちと目が合う。アリヤをいじめていた子供も混ざっているから、村の子供たちなのだろう。

 ヨソ者の自分が珍しくて、一目見にきた、というのならわかるのだが。

「うわっ、こっち見た」

「逃げろ!」

 子供たちはコウイチが見ていることに気づくと、わっと蜘蛛くもの子を散らすように逃げ出していった。

「……なぜ」

 少なくともここに来る前に、子供に今みたいな反応をされたことはない。

 たしかにここでは風変わりな容姿をしているのだろうが……そんなに怖い顔に見えるのだろうか。

「なに言ってんスか」

 微妙にへこんでいると、カセドラに翼でツッコミを入れられた。バシッ、といい音がして、コウイチはうずくまる。

「……痛い」

「そりゃ痛くなるように叩いたッスからね」

 ……だから、その翼に何の意味があるのかと。

 あれか? ひょっとしてハリセンの代わりなのか?

「な、なんスか急に怖い顔をして……。ともかく、別にあの子供たちは兄さんの顔が怖いってわけじゃないッスよ。つーか昨日説明したじゃないッスか」

「……あれは、何かの間違いではなくて」

「残念ながら事実ッスよ。実際に話しているのを聞いてきたんスから」

 コウイチは頭を抱えてうずくまりたくなった。


 きっかけは、レナファと一緒に角猪つのじしを運ぶところを村人に見られたことだったらしい。

 森の主と聞いたが、実際のところあの巨大な猪もどきは近隣では有名な存在だったそうだ。

 ――凶暴で獰猛どうもう。巨体だから力もあるし、肉が厚いので矢や槍も致命傷になりにくい。弱点として名前の由来になった角があげられるが、それを狙うということは角猪の頭に近づかなければならないので危険きわまりない。

 反面、その毛皮や角は貴重で、一頭しとめればしばらくは遊んでくらせるほど高値で取引されるほどだとのこと。

 ただし、返り討ちにあって命を落とす可能性が高いので好んで狙う猟師はいない。並の猟師では、その姿を見かけたら裸足で逃げ出すほどである。

 そんなとんでもない存在が、ヨソ者の男が来た直後に狩られた――結果、何をどう間違ったのかというと、

「兄さんが凄腕すごうでの猟師だなんて……ぷぷっ、勘違いにもほどがあるッスよねー」

 まことに遺憾いかんながら、そういう噂が広がっているらしい。というか笑うな。

 ちなみに情報源が村人たちの会話である。カセドラは偶然、耳(……どこだ?)に入ったというが、相手は姿の見えない自称精霊。盗み聞きなど、いくらでもしたい放題なのだろう。

 ――それはさておき。

 そのせいでここ数日、アリヤの機嫌はすこぶる悪い。姉をさしおいて、コウイチが猟師として腕が立つと見られているのが気に入らないらしい。

 レナファは相変わらずよそよそしい態度だが、さらに距離をおいたような感じになったし。

 その姉妹はといえば、まきを食材と交換してもらいに二人そろって村にでかけていた。

 一人残されたコウイチは、斧を置いてため息。空模様は快晴なのに、心の中は曇天気味である。

「……帰りたい」

「兄さんの故郷にッスか? でも行き方がわからないんじゃ?」

「……」

 カセドラに言われて、コウイチはうつむいた。元の場所に帰る方法はわからず、そもそもここがどこなのかもわからず、居候先の姉妹とも今や微妙な関係。

 ここまでくると、もう何もする気力もなくなる。

 ……それは元から、という説もあるが、それは気にしないことにして。

「ちょっと兄さん、またうつモードに入ってるッスよ」

 ……なんだろう。呼吸をするのもめんどくさいようなこの感じは。

 ……いっそ、植物になりたい。そこらへんの雑草とかでもいいから……一歩も動かずに、光合成だけして生きていけるような、そんな存在に……。

「兄さん……?」

 ……あー……なんか……もう――

「……てい!」

 ビシッ!

「……はっ」

「もう一発いっとくッスか?」

「……いや」

 危ない危ない。もう少しで死にたくなるところだった。カセドラのツッコミに感謝しつつ、斧を持ちあげる。

 体を動かせば、少しは気がまぎれるかもしれない。まぎれたらいいなと思いながら。


「おい」

 声をかけられたのは、無心に薪割りをしている時だった。

 コウイチが振り向くと、若い男と、初老の男がすぐ近くに立っていた。

「おまえが角猪を狩ったというヨソ者か?」

 老人の声に合わせるように、若い男のほうが値踏みするような目を向けてくる。お世辞にも好意的とは思えない目つきである。

「へっ、とてもそうは見えねえな」

「……」

「なんスか、こいつら」

(さあ……)

 二人とも初めて見る顔だ。が、どうやら向こうはこっちのことを知っているらしい。

「あの、あなたたちは」

「知らんのか? わしは村の長をしておる、ゼフと言う。こいつは――」

 と、老人のほうが若い男を指さす。

せがれだ」

「……はあ」

 胸を張って言われても。初めて会ったんだから、知らないのは当たり前だし。

 気のない返事がかんにさわったのか、爺さんが眉をピクリと持ち上げた。

 ……なんというか。

 取っつきづらいというか、えらぶっているというか、少なくともこっちから声をかけたいとは思えないような爺さんである。

(……って、あれ?)

「村長……?」

「あれッスよ。アリヤの話に出てきた」

 ああ、あの姉妹を嫌っているとかいう……なるほど、それならこの険のある態度もなんとなく納得がいく。姉妹の家にお世話になっているヨソ者――嫌われこそすれ、好かれる要素はないだろう。

「それで……僕に、なにか」

 あんまり長く話したくないなー、というこっちの心情をんだわけではないだろうが、

「前置きはなしだ。おまえ、この村の猟師となれ」

 爺さんはいきなり本題を切り出してきた。

「……は?」

「おまえの腕を買ってやると言っておるのだ」

 ……いや、いやいやいや。いきなり言われても。

 これは……スカウト、なのだろうか? とすると、あのろくでもない噂を真に受けて? それにしても唐突すぎて、ピンとこない。

「いえ、あの」

「もし受けるなら、この家をくれてやる。悪い話ではなかろう?」

 そう言って顎をしゃくった先は、アリヤのレナファの家があった。

「ですが、ここは」

「何か問題でもあるか?」

「……もう住人がいるのでは」

「追い出せばすむ話だ」

 ……え?

 ちょっと待て。彼女たちを、追い出す?

「……なに言ってんスか、このジジイ」

 カセドラが不機嫌そうな声を出す。コウイチも唖然あぜんとゼフを凝視した。

「不思議に思うこともあるまい? 未熟な猟師の代わりに、腕の立つ猟師を迎え入れるだけだ」

 子供にでもわかるような理屈を話す口調だった。

「鹿や兎ぐらいしか狩れん猟師などいらん。ましてやわしに従順じゅうじゅんでない者などな」

「……」

 そりゃまあこんな爺さんを相手にしたら、誰だって反抗的になるだろうが。それにしても、それだけで追い出すとか……いくらなんでも短絡すぎだろう。

 そもそも自分が本当に凄腕の猟師とやらだったとしても、レナファと入れ替えるとか意味が分からない。単純に猟師を一人増やせばいいのではと思ったのだが。

「父親ぐらい腕が立つならまだマシだったのだがな。言うことをきかんのはともかく、あやつは腕のたつ猟師だった。それに比べてあの娘は……」

「二人の、父親を知っているのですか?」

 なんだか愚痴ぐちが始まりそうでげんなりしたのも一瞬、ゼフの口から飛び出た単語に、コウイチは思わず食いついた。ゼフは眉間にしわを寄せて、面白くなさそうな顔をした。

「知っとるもなにも、この村であそこまでわしの言うことを聞かなんだ男は奴ぐらいだ。一度なんぞ、罠にかかっていためすの獲物を、はらんでいたという理由で逃しおったのだぞ! あやつほど勝手な男は、他には知らん」

「このジジイもずいぶん自分勝手な気がするんスけど」

 カセドラの意見に内心で頷きつつも、コウイチはゼフが姉妹を嫌う理由がわかった気がした。

(……なるほど)

 一方的に話を聞いただけだが、この爺さんが姉妹の父親を嫌っていたことはわかった。となると、その憎しみがそのまま娘に……ということなのだろうか。

「そんな奴ももう死んだ。惜しいとは思わなんだし、むしろせいせいしたがな。これで娘のほうが聞き分けがいいのならよかったが、そこは親子よ。いらんところばかり引き継いでおる。今までは見逃してきたが、これからはそうはいかん。なにせちょうど代わりが来たからな」

「代わり、と言うと」

「おまえのことに決まっているだろう。もう役立たずに用はない。半端な猟しかできん姉も、びを売るしか能のない妹もだ」

 言い終えると、さきほどの問いの答えをうながすような眼差しを向けてきた。

「……」

 沈黙の最中――コウイチは口を開かないかわりに、かすかな苛立ちを覚えていた。

 自分のことをバカにされて怒ったことはない。そういうことがあれば、まず自分に原因があるのでは、と考えるような性質だった。

 だが今、さげすまれているのは自分ではない。アリヤとレナファの姉妹だ。自分なんかよりよっぽど立派に、協力しあって生きてきた二人だ。

 この爺さんがどれだけ偉いのか知らないが。

 あんたはあの二人をバカにできるほど、出来た人間なのか。

「そうは見えないッスよね」

(カセドラ……)

「どうするんスか? まさか引き受けるとか……」

 それはない。

 そもそもが誤解から始まった話だ。自分には狩猟の技術も経験もない。

 だがそれを正直に言えば、どうなるだろう? ……嫌な想像しか思い浮かばなかった。

「もし、仮に――」

 コウイチはささくれだった心を落ち着かせるように、ゆっくりと口を開いた。

「あなたの言うとおり、僕が腕の立つ猟師だとしても、ここに永住する気はない」

「なに?」

 ゼフが眉を持ち上げる。答えが意外と言うよりも、断られるのに慣れていないような反応だった。

「何が不満だ。住む家も与えると言っておるのに」

「そういう問題ではなく……それに。この家は今住んでいる姉妹のものです」

「だから追い出すと言っておろう」

 本来のこの家の持ち主が誰に当たるのかは知らないが、あまりにも姉妹をおざなりにした物言いに苛立ちが再燃する。

「……つまり、もしもっと腕が立つ猟師が来れば、その時は自分が追い出される、ということになるのでは」

「ふむ……そうなるな」

 取りつくろうこともなく、ゼフはあっさりと頷いた。

「そんなことを言われて。わかりましたと話を受ける気にはなれない」

「そんなもの、追い出されることのないよう腕を磨けばいいだけだろう。あとはわしの言うことを聞いていれば、多少の融通ゆうづうはしてやらんでもない」

 ……なるほど。

 今はっきりとわかった。この爺さんは、自分とは正反対のタイプの人間だ。

 自分の言動が、他人にどういった影響を与えるか。どう思われるかなど考えない。他人の顔色をうかがって、結局は意見を言えないことも多い自分とは、まるで逆だ。

「羨ましいんスか?」

(……いや)

 自分に問題があるとは思わない。だから、省みることもない。そうした生き方はできないし、したいとも思わなかった。

「どうしても断るというのなら、村にいさせるわけにはいかん。出ていってもらうぞ。それが嫌だと言うなら、この村の――いや、わしのために働け」

 そのために連れてきたのだろう。今まで黙って後ろに立っていたゼフの息子が、ずいと前にでる。

 頭一つ分は背が高く、肩幅も広い。いかにも荒事慣れしてそうで、ガチンコ勝負なら絶対に勝てなさそうな相手である。

 普段なら親子そろって絶対に近づかない人種だが、今はそうも言ってられない。

 とはいえ、この相手にはいくら口で言っても通じない。そもそも聞く耳を持っていないと思えた。

 ――それなら。

(カセドラ)

「なんスか?」

(手伝ってほしい)

「……へ?」

 言いおき、苛立ったように答えを待っているゼフを真っ直ぐに見据える。

 後はカセドラが、自分の狙いをくみ取り、動いてくれることを期待して。

「――それ以上、近づかない方がいい」

 言葉は、男に向けて発したものだった。

「なんだ、ビビったのかよ?」

 コウイチは黙って首を振る。

「それ以上近づけば、森の精霊が黙っていない」

「……へ? 森の……なんだって?」

 困惑した男が目を丸くする。

「……ふん」

 ゼフがさもくだらないとばかりに鼻を鳴らした。

「猟師というのは、信心深くなければなれんのか?」

「あなたは、森や動物たちのことを、ないがしろにし過ぎた」

「それの何が悪いと言うのだ」

「人と森には、それぞれの領分がある。それを踏み越えれば、待っているのは森の報復だ」

「っ……いい加減にせんか!」

 しびれをきらしたゼフが一喝いっかつする。

 いつもだったら怯むところだが。不思議と、そうはならなかった。

 うまくいく自信はあまりない。そもそも自信というものをあまり持ったことがない。

 だというのに、今は落ち着いている。

 なぜか――考えるまでもない。自棄やけになっているだけだ。

 どうせ生きている意味も見いだせない無気力人間。追い出されて野垂れ死になっても、ここでは誰かに悲しられることもない。失敗して元々、うまくいかなくて当たり前。そう思えばこそ、平然と思いつきのでたらめを口にすることに抵抗はなかった。

「……どうやらおまえもわしの言うことを聞く気はないようだな。フンッ、時間の無駄だったか」

 吐き捨て、背中を向けたその体が、急によろめいた。

「親父?」

「……なんでもない! 少しふらついただけ――ガハッ!」

 顔面に何かをぶつけられたように、ゼフが仰向けに倒れる。

「な、何が……?」

「……何やってんだ、親父?」

「な、何かいる! 何かがわしにぶつかってきたぞ!」

 目をむいて叫ぶゼフが、何もないように見える空間を指さした。

「グッ――」

 ゼフが腹を押さえてうずくまる。苦しそうにしているゼフを見て、男が後ずさる。

「な、なんだってんだ……」

 男の声は、恐怖で震えていた。

 二人が理解不能の現状にさらされている一方、コウイチにだけは見えていた。

 ゼフに体当たりをして転ばせてから、その腹の上に思い切り飛び乗ったカセドラの丸い体を。

 今もカセドラは性格の悪そうな笑みを浮かべて、宙に浮かびながら二人の混乱した様子を眺めている。

 そんな事実をつゆとも漏らさず、コウイチは重々しく口を開いた。

「言ったはずだ。森の精霊が、黙っていないと」

「そんなものがいるわギャ!」

 顔面を地面に打ちつけ、ゼフが無様な悲鳴をあげる。その後頭部にはカセドラが乗っていた。

「ま、まじかよ……ヒッ!」

 コウイチが視線を向けると、及び腰になった男は慌てて後ずさる。

「今すぐ立ち去るなら、これ以上の害はない。まだやると言うのなら……」

「い、言うのなら?」

「……命の保証は、できない」

「う……うわぁあああ!!」

「なっ!? ま、待てっ。待たんか!」

 父親を置きざりにして男が逃げ出すと、ゼフもよろめきながら慌ててその後を追った。

 わき目もふらない見事な逃げ足に、カセドラがけたけたと笑い声をあげる。

 コウイチは深々とため息をついてから、脇の下がじっとりと濡れていることに気づいた。しっかり緊張はしていたらしい。

「森の精霊ッスか。当たらずとも遠からず、ってところッスかね」

「カセドラ……ありが――」

 礼を言おうとした口を、カセドラの尻尾が塞いだ。

「あのジジイが気に入らないのはオイラも同じだったッスからね。けど兄さんがあんなふうにハッタリかませるなんて、意外だったッスよ」

「それは……自分でも、驚いている」

 なんだかんだと理由をつけつつも、振り返ってみれば本当に自分がしたことが信じられない。たぶん、もう一度やれと言われても無理だろう。

「これで、あのジジイはしばらく来ないんじゃないスかね」

 そうだといいが。

 頷きかけたコウイチは、カセドラの背後を見てぎくりと顔を強ばらせた。

(……いつの間に)

 そこには、レナファが立っていた。

 そばにアリヤの姿はない。手ぶらなのを見ると、おそらく残りの薪を取りに来たのだろうが――

(聞かれてた……?)

 カセドラとの会話を、だったら問題はない。せいぜい、独り言をぶつぶつ言う奴とかいうふうに思われるぐらいだ。

 だがもし、ゼフとのやりとりを聞かれていたら。

 詰め寄られて質問責めにされる、不気味なものを見るような目で見られる――などというコウイチの心配をよそに、レナファは何事もなかったかのように残りの薪をまとめ始めた。

「あ……手伝います」

 ほっと息を吐きながら、割ったばかりで散乱している薪を束ね、レナファは差し出し、


 パシ――


 薪が、地面に落ちてばらばらになった。

 手を払われた状態で、コウイチは硬直する。

「なんで――」

 顔を伏せているせいで、表情は読みとれない。ただ、レナファの漏らしたその声が、抑えきれない激情を押し込めているようで。

「……え」

 レナファは手早く薪を束ねると、勢いよく立ち上がった。コウイチから目をそらし、早足でその場から歩き去る。

 その背中が、コウイチには話しかけられるのを拒絶しているように見えた。

 ――結局、その日はレナファと目を合わせることもなかった。


「……はぁ」

 翌日、地面についた斧に体を預けつつ、コウイチはうなだれていた。

 レナファに邪険にされたことで、気分は昨日からずっと沈み気味である。

 今までも友好的とはいえなかったが、それでもあそこまで直接的な行為に出られたのは初めてのことである。

(やっぱり……聞いてたんだろうか……?)

 そのレナファといえば、今日から狩りに出てしまったので、話をすることも出来ない。まるで避けられているようなタイミングだが、実際に避けられていると見るべきだろう。

「……はぁ」

 昨日から、気がつけば溜め息ばかりついている気がする。

 気もそぞろなので、いつもの仕事もはかどらない。もう昼を回っているというのに、昨日の半分も進んでいなかった。

「コウイチ」

「あ、いや、これは、別にサボっていたわけではなく」

 いきなりアリヤに声をかけられ、コウイチはあたふたと言い訳をし――途中で言葉を詰まらせた。

 アリヤの表情が、目に見えて暗い。

 ちらちらと、森のほうを気にしているように見えた。

「なにか、気になることでも」

「姉さんが……戻ってこないの」

 その声は、隠しきれない不安に震えていた。

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