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10.へたれ長じて従士(候補)となる(2)

「あの時は、本当に――」

「ああ、いいよ。改まってお礼なんか言わなくたって」

 コウイチが助けられた礼を言おうとすると、ラヴィスは手をひらひらと振りながら言った。

「すまないな。こういう娘だ。何か気にさわるようなことを言うかもしれんが、悪気はないので許してやってほしい」

 と、グレイセンが実の娘のことのように言う。

 言われた本人はひょうひょうとして、たいして気にした様子もなさそうだった。

「はあ……」

 どうも、明け透けというか、ざっくばらんというか、そういった性格らしい。自分とは真逆のタイプだ。苦手なタイプだが、悪い印象は抱かなかった。

「あの、それで……?」

 なぜ彼女がここにいるのかわからないが、さっきまでの話題にあった“悪霊”のことが関わっているというのは容易よういに想像できた。

 グレイセンとラヴィスが視線を合わせる。

「ではラヴィス、後は頼む」

「はいはい」

 事前に打ち合わせでもしていたのか、グレイセンがそれだけ言って部屋を出ていった。コウイチは呆然とそれを見送る。

「え……」

 なんで、二人きり?

「さて、と。じゃ、始めようか」

「……何を、でしょう?」

「狭い部屋で男と女が二人きりなんだ。やることなんて一つしかないんじゃない?」

 そう言ってつやのある笑みを浮かべるラヴィス。

 あまりに想定外の事態に、コウイチの脳が活動を数秒停止する。

(……はっ!?)

 いつの間に、というかなんで、そう言う流れに。気づかないうちにそういう関係に!? いやいや、さっき名前を知ったような相手ですよ?

「それとも何? わたしじゃそんな気になれない?」

「いえ……そういう、わけでは」

 いやいやいや、なんで真面目に答えている自分。これはあれだ。からかっているだけに違いない。第一そんな気ってどんな気だ。純朴じゅんぼくな青年を挑発してこの人はいったい何がしたいのか。

「なんてね。冗談は置いといて」

 と、あっさり艶を消すラヴィス。

 ……まあ、そんなことだろうと思ったが。

 思ったのだが。

 少し前までの自分のテンパり様を思い出し、コウイチは自分で自分の首をめたくなった。

 そんなコウイチに、ラヴィスがすっと歩み寄る。

「ふぅん……やっぱりね」

「あの……?」

「あんた、何かにかれているね?」

「っ!?」

「顔色が変わった……ってことは図星か」

「な……何の、ことか――」

「いいよ隠さなくて。わたしもグレイセンも知ってる・・・・側だから」

 意味ありげな発言に、コウイチが目を見張る

(まさか……カセドラのことを、知っている?)

「じゃあ、さっそく見せてもらうよ」

 コウイチの目を見ながら、ラヴィスは指を鳴らした。

 パチンと音がした直後――

 視界がほんの一瞬黒く染まり、元に戻った時にはさっきまで何もなかったはずの空間に、見慣れた紫色の球体が浮かんでいた。

「な……今、何を――」

「何ってほどでもないさ。あんたの目を通して憑いてるヤツを引っ張り出しただけ」

 事も無げに言うラヴィスに絶句したコウイチだが、すぐにおかしなことに気づいた。

 姿を現したカセドラが、ピクリとも動く様子がない。目を閉じ、宙に浮かんでいるが動き出す気配すらない。

「……」

「……カセ、ドラ?」

 寝ているわけでもなさそうだった。状況がわからないままカセドラを見つめていると、

「カセドラって言うんだね、こいつ。これはまた……ずいぶんとくっきり見える。しかも――」

 ラヴィスにもカセドラが見えているらしい。眉間にしわを寄せ、焦点を合わせるように視線を向けている。

「前からこんな調子なの?」

「いえ、ここまでは……少し前から、元気がなくなってきたみたいですが」

「ふぅん……とりあえずその理由を知りたいから、知ってることについて話してもらえる?」

「わかるんですか?」

「多分ね」

 ここまできてごまかす理由もなく。コウイチはカセドラと初めて会った時の状況を説明した。とはいえ異世界云々はごまかして、この世界での記憶があるところからである。

「森の中で、ね……。これと会ったのはその時が最初なんだね?」

「だと、思います」

 記憶がないことにしているので、ここは曖昧あいまいに答えておく。

「なら根源はそれか……そこから離れて、それでこんなふうに……」

 なにやらぶつぶつと呟くラヴィス。

「あの……?」

「あんまり長々と説明してる時間もないみたいだから、一つだけ聞かせて」

 かと思えば、顔を上げ真剣な様子で口を開いた。

「あんたにとって、これは必要な存在?」

「……?」

 意味がわからず、まばたきするコウイチに、ラヴィスは急かすように言い放った。

「いなくなってもいいかってこと。放っておくと、そう遠くないうちに消滅するよ、これ」

「なっ……カセドラ、が? それは、いったい――」

(消、滅? なんでそんな……)

 いきなりのことに、コウイチの思考が疑問で埋まる。まさかそこまで深刻なことになっているとは思いもよらなかった。

 それでも、真偽を疑う気になれないのは、ラヴィスがあまりにも真剣な表情をしているからか。

「難しく考える必要はないから。理由なんて後付けでもいい。必要かそうでないか、それだけ答えてくれればいい」

 そう聞かれれば。迷う間もなく浮かんだ答えを、コウイチは反射的に口に出していた。

「必要、です」

「わかった」

 ラヴィスがいきなりコウイチの服をまくり上げる。

「ちょっ、何を――」

「じっとしてなよ。痛くしないから。なんだったら天井のシミの数でも数えてればいいさ」

 それ、ちが――

 問答無用とばかりに、ラヴィスはコウイチの胸に手を当てた。逆の手が、カセドラの丸い体をがしっと掴んだ。意識がないのか、カセドラは反応すらしない。

 ラヴィスが目を閉じる。

「……!」

 ラヴィスの手が当たっている部分に熱を感じたと思った、刹那せつな――

 糸が見えた。カセドラと、自分をつなぐ糸。無色透明であるにもかわらず、なぜかはっきりと存在を確認できる。カセドラから伸びる糸は二本あり、そのうちの一本は自分、もう一本は違う方向に伸びて、部屋の壁をすり抜けてはるか先まで続いているようだった。

 いや、糸というよりはくだといったほうが近いかもしれない。

 管の中を、何かが流れていた。その何かは、一定の速さでカセドラの体に流れ込んでいる。

 二本の管は同じ太さ、同じものに見えたが、そこを伝わるその流れの速さが違うようだった。自分からカセドラへは速く。もう一本の管からの流れはかなり緩やかに見えた。

 その流れが急に途絶とだえる。ピンと張られていた管が張力を失ったようにゆるみ、ゆらゆらと動きを見せた。

 ゆるやかに動いているように見えた管は、実はすごい勢いで縮んでいたらしい。どこかに伸びていたはずの管の先端が壁から飛び出し、コウイチとカセドラをつないでいた管に絡まるように束ねられた。あっと思う間もなく、すぐに二本の管は溶け合うように一つに重なる。

 ――胸から手が外された。

「はい、終わり」

 いつの間に目を開いたのか、軽く汗ばんだ様子のラヴィスが言うやいなや、カセドラの体がビクリと震えた。その体に繋がっていたはずの管はいつの間にか消えてなくなっている。

 パタパタと翼を動かしてカセドラが体勢を整える。翼の先っぽで目元をゴシゴシとこすり、

「ふぁああ……あ、兄さん、おはようッス。ってあれ、なんか……」

「なるほど。問いかけられてもいないのに喋れるんだ、それ」

 ラヴィスを見てパチクリさせるカセドラ。一人と一体の視線が合う。

「へ……を、ををっ!? ひょっとして、オイラが見えるんスか?」

「見えるし、言っていることだってわかるよ」

「あの……」

 どうやったかは知らないが、カセドラはすっかり元通りになったようだった。そのことでコウイチが礼を言うと、

「いいよ。予定外だったけど、知らないフリして放っておくのも後味悪いからね」

「ですが、いったい、何を……?」

「そうだねぇ……どうせだから、一から説明しようか」

 あごに指先を添え、もう一方の指でカセドラを指す。

「まず最初に、ソレの正体はなんだと思う」

(……なに、と言われても)

 改めて問われ、はっきりとした答えを持っていないことにコウイチは気づいた。

 自分だけにしか見えず、いつも宙に浮いていて、不思議な力が使え、人間とはかけ離れた姿をしているくせに人間の言葉で会話ができる。

 一から十までコウイチの知識にはない生き物だった。

「やっぱり知らないか。それはね、精霊と呼ばれているものさ。分類的には、守護精霊だね」

「守護、精霊……?」

(せい、れい……? っ!)

「精霊!?」

 カセドラ不満げに口を挟む。

「最初っからそう言ってるじゃないッスか。今までいったい何だと」

「いや、正体不明の謎生物かと」

 がっくりとうなだれるカセドラ。まあそれはいいとして。

(よかった……!)

「兄さん、オイラのことそんなに心配して――」

 自分にしか見えないものだから、てっきり幻覚的な何かだと……。

「……あ?」

 若い身空で精神科に通うことになったらどうしようかと……! そんなものがこの世界にあるかどうかは別として。

「……」

感極かんきわまるのはいいけど、話の続きをしていいかい?」

(はっ!?)

 どこか呆れたようなラヴィスの声に我に返り、咳払いを一つ二つ。

「……それで、守護精霊、とは」

「呼び名の通り、ある特定の人間のそばにいて、その人間の守り手となる精霊のことさ」

 守護霊のようなものだろうか? だがあれはご先祖様の霊とかだっていうのがお約束だし……。

 なんかジト目でパタパタと浮いているカセドラを見て視線をそらす。

 まあ。それはないだろう。というかないと願いたい。そもそも人間じゃないし。

「それで、それの調子が悪かった理由だけど、簡単な話さ。力の供給源から離れたことで、存在する力が尽きかけていたんだよ」

「供給源、というと」

「最初にそれと会った場所のこと」

(……あの森、か)

 確かに言われてみれば、森から離れたクレイファレルの街で生活を始めた頃からカセドラの調子が悪くなった気がする。

「精霊はものを食べたりしないからね。代わりに人や自然から生命力――そこに存在する力を得ているのさ」

「へ~。そうだったんスか」

 なぜかカセドラも意外そうにしていた。……なぜ本人が知らないし。

呑気のんきだねぇ。あのままだったら、近いうちに消えて無くなってたってのに」

「ちょっ……そんなのイヤッスよ!」

 途端、動転どうてんしたようにあっちこっちに飛び回るカセドラ。

「もうその心配はないよ。そことの繋がりは完全に断ち切ったからね」

「断ち切った……? それだと、もっと大変なのでは」

「だからその代わりに、あんたとの繋がりを太くしたのさ」

「……?」

「どういうことッスか?」

「森から力を得られないなら、もう一つとの繋がりを深めて、そっちから得られる力の量を増やすしかないからね」

(確かに……)

 胸にラヴィスの手を当てられている時に見たアレは、たしかにそんな感じだった。

 なんでそんなことができるのかは知らないが――とりあえずそういうものだと思って納得する。そもそも精霊というものが実在する世界、それに対する様々な手段があってもおかしくない。

(……あれ?)

 これまで、カセドラは森と自分から存在する力とやらを得ていた。ラヴィスの話が事実なら、そういうことなのだろう。だが……もしそれが、自分一人だけにしぼられると。

 それ、大丈夫なのだろうか?

「その……力の供給源を一つに絞ると、何か不都合とかは……?」

「普通に生活している分にはないよ」

「普通……に?」

「そうだね……これは推測だけど、あんたかその精霊のどちらかが傷を負えば、もう片方も影響を受けることになるだろうね」

「……それは……」

 なんとも言えず、複雑な顔をするコウイチ。

「だから聞いたろう? 必要かそうでないかって。必要じゃない人間にしてみれば、繋がりのある精霊はただ厄介やっかいな存在でしかないのさ。もっとも、厄介だからってあっさり見捨てるような奴はあまり好きになれないけどね。特に一人の人間から生まれた精霊ってのは、その人間の一部みたいなものだから。それを切り捨てるってのはどうもね……」

「……?」

 一人の人間から生まれた? どういうことだろう。

「話を聞く限りじゃ、この精霊はちょうどあんたの記憶があるあたりから存在しているみたいだからね。精霊なんて滅多なことで生まれるものじゃないし、あんたが記憶を失った何かの出来事がきっかけになったのかもしれない」

「え……? オイラ、兄さんから生まれたんスか?」

 なぜかイヤそうな顔をするカセドラは見なかったことにして。

 正確には記憶を失ったわけではなく、別の世界から飛ばされてきたわけなのだが。理屈はわからないが、ラヴィスの言うきっかけとしては十分なのでは、と思えた。

 黙り込んだコウイチに勘違いしたのか、

「あまり難しく考えないで、あんたはその精霊と仲良くやればいいよ。守護精霊はその人間の忠実ちゅうじつ護衛ごえいみたいなものだしね。意思に応じて現れ、意にそわないことは決してやらない」

(え……)

 コウイチの脳裏によみがえる、カセドラとのあれやこれや。

「その割には、色々と嫌がらせをされている気が」

 とてもではないが、“忠実な護衛”という言葉が当てはまるとは思えない。

 首を傾げるラヴィス。わざとらしく口笛を吹いて明後日の方向を向くカセドラ。あからさまにごまかそうとする態度にイラっときたので、軽く尻尾を引っ張ってやる。

「おうっ……って、何するんスか兄さんっ」

「妙だねえ。普通だったらそんなことありえないんだけど……。ひょっとしてあんたがそれを望んでいるとか?」

「え……兄さんそっち系だったんスか?」

 そっち系ってなんだ。人を勝手に嫌がらせをされて喜ぶような変態にしないでほしい。あとそれをしてきた張本人が引くってどういう……。

 ぶんぶんぶんと。変な誤解が生まれそうだったので、ここは首を振って全力で否定する。

「……あんたのそれが、かなり個性的なのは認めるけどね。ここまで輪郭りんかくがはっきりした精霊はまれだし」

 どうやら、精霊は幽霊みたいに姿があやふやなのが主流らしい。

「ふぅん……ならちょっと干渉しといたほうがいいかな」

 言うや否や、ラヴィスの手がさっと伸びてカセドラを鷲掴わしづかみする。

「ちょっ、何するんスか!」

「はいはい、大人しくしなよ。痛くしないから」

 さっきと違って暴れようとしたカセドラだったが、すぐにくたっと全身の力が抜けたようにうなだれた。

「逃げようと思っても逃げられやしないよ。そういうふうにしたからね。……やっぱり相当に自意識の強い精霊だね。ならまずは使役しえきするやり方を覚えてみるかい? ある程度言うことを聞かせられるようになるよ」

(え……?)

「使役、とは」

「そのままの意味さ。もしあんたがうるさく思うようなら口数を減らすことができるし、何かしてほしいことがあれば、なんでもってわけじゃないけどやらせることもできる。どうする?」

「……」

 本音を言えば、かれる内容だった。だが。

「……このままにさせてもらえれば、と」

「ふぅん」

 ラヴィスが意外そうに眉を持ち上げた。

「変わってるね。普通ここまで個性の強い精霊に付きまとわれるとなると嫌がるものだけど」

「それは……たしかに困ったりもしますが」

 何かにつけて消極的な自分の尻を叩いてくれるのも、カセドラが今のカセドラだったからこそだし。

 この先もカセドラを頼りにしているからというわけではなかったが、そのことを考えると、カセドラとは使役という手は使わずに対等な立場でいたかった。

 それに……カセドラには何度か命を救ってもらっている。ここでラヴィスの提案を受け入れるということは、恩を仇で返すような気がして抵抗があった。

「まあいいよ。生まれたてでここまではっきりと自分を持っている精霊も珍しいからね。あんたがそう言うなら、このままにしとけばいい」

 ただし、と前置きをしてからラヴィスは言う。

「そいつを自由にさせるってことは、そいつが何か悪さをしでかした時はあんたが責任をとらなきゃいけないってことだよ。それはわかってるね」

「……」

「すごく不安そうな顔してるけど、ホントにいいのかい?」

「いや、まあ……」

 正直、早まったかなあ、と思っています。

「ところで、今さらだけど、名前はなんて言うんだっけ?」

「コウイチ、と言います」

「そう。コウイチ、ね。グレイセンが見込んだ男だから大丈夫だろうけど、もし精霊を使って悪さをしたら……死んだ方がマシってほど痛い目見てもらうから」

 さらっと恐ろしいことを言われた気がして、コウイチの背中に冷や汗が浮かぶ。

「……わ、悪さ、とは?」

「たとえば……これに女の裸を覗かせて、どんな体つきをしているかとか知らせるとか」

 冗談混じりにの口調だったが、コウイチは大慌てで首を振った。

「っ! ……いえ、そんなことは」

「本当に?」

 しない。しないはず。しない……と思う。そもそもバレないとわかっていても、そんなことする度胸ないし。

「それならそれでいいさ。私だってあんたがそんなつまらないことをするようなヤツだとは思いたくないしね」

 言いながら、カセドラを解放する。

「……あれ?」

 何が起こったか分からない様子で、カセドラが左右を見渡していた。今までの会話は聞こえていなかったらしい。どうやったらそんなことができるのかさっぱりわからないが……聞いてもわからない気がしたので、そういうこともある、と覚えておくだけにしておく。

「そうだ。ついでに教えておくけど」

 ラヴィスがカセドラを見る。見られたカセドラはビクッと体を震わせた。

「な、なななななんスかっ?」

 すっかり苦手意識が擦り込まれたらしい。上擦った声だった。

「さっきからあんた、声に出して話しているだろう? 今のままじゃ、アタシみたいに“える”人間にはなんて言ってるか筒抜けだよ」

「へ? ……はあ。そりゃまあ、そうかもしれないッスけど」

「それじゃあいざって時、困るだろう? コウイチとだけなら、喋らなくても意志をやりとりする方法があるけど……知りたいかい?」

「どんな方法なんスか?」

 元々好奇心が多い自称――もとい、本物の精霊は興味を引かれたようにラヴィスの言葉に食いついた。

「口に出すんじゃなく、心で相手に呼びかければいい。それほど難しいことじゃないはずだよ」

「って言われても……」

 いまひとつ理解が追いつかないのか、カセドラが困惑したような声をあげる。

(……まあ、こっちからも心の中で思うだけで通じるので、それと同じようなものだと考えればいいのでは)

 アドバイス的なことを、人前でしているように心で思い伝える。こちらからカセドラへはできるのだから、その逆も可能なはずだ。

 頭をかしげ、傾げすぎてくるりと一回転したカセドラは意を決したようにこちらに向き直った。その動作の合間、ラヴィスの方をちらりと見てから、

“兄さん、なんかこの女の人、怖いッスよ……”

(っ!?)

 急に、エコーがかかったようなカセドラの声が聞こえた。

「あれ? もしかして今のでいいんスか?」

「あ、ああ……ちゃんと、聞こえた」

「わかったかい?」

 上手くいったことを察したらしい。ラヴィスが口を挟む。

「これを使えば、精霊が視える人間にもわからないように意志のやりとりをすることが出来る。そうは言っても、それだって聞き取れる奴もいるけどね」

 カセドラを見て、ラヴィスがにこやかに笑った。

「ところで、私のどこが怖いのかたっぷり聞かせてもらいたいんだけど?」

「……」

 ……どうやら、ラヴィスも“聞き取れる”らしい。

 ひいい、とカセドラが背中に隠れる。巻き添えはごめんと逃げだすコウイチに、見捨てるんスかーと、カセドラがくっついていく。

 その光景をおもしろそうに眺めていたラヴィスが、パンと手を打ち合わせた。ピタリと動きを止めて、ラヴィスに向き直るコウイチとカセドラ。

「さて、本題といこうか」

「本題、というと」

「コウイチ、あんた――まだ隠していることがあるんだろう?」

 断定的な口調の問いかけに、コウイチは思わず息を呑んだ。

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