寿命餅
皆さんは「赤福」をご存知だろうか。
伊勢神宮の門前町などで売られている、言わずと知れたあのあんころ餅だ。
波のような餡の筋は五十鈴川の清流を、白い餅は川底の小石を表しているのだという。
実は私の地元、長野県松本市にも、これとよく似たあんころ餅が存在する。
その名は『寿命餅』。
年に一度、多賀神社の例大祭の日だけに販売される特別な餅だ。
なんでも「ひとつ食べると二〜三年くらい寿命が延びる」とまことしやかに囁かれている。
……どこかで別の伝承が混ざっていないか?と首を傾げたくもなるが、無病息災を願う人々の大らかなロマンに水を差すのも野暮というものだろう。
なにせ年に一度の縁起物だ。当日は神社の境内や出店はもちろんのこと、近所のイオンからコンビニの店頭に至るまで、街じゅうが寿命餅一色に染まる。
当時、私は朝7時から夜11時まで営業していそうな、イイ気分になりそうなコンビニでアルバイトをしていた。
地元以外の場所から訪れた客にとって、突如としてレジ横に大量発生した『寿命餅』なる謎の銘菓は、やはり異様な存在に見えるらしい。
「これ、なに?」
買い物ついでにそう尋ねられるたび、私はこう答えていた。
「まあ、赤福みたいなもんですよ。今日しか売ってないんです」
すると大半の客が「へぇ、じゃあ買ってみようかな」と素直に手に取っていく。
我ながら卓越したセールストークだったと今でも思っている。
そんな多賀神社の例大祭、今年2026年は9月10日と11日に行われるそうだ。
近くに住んでいれば、久しぶりにあの素朴な甘さを味わい、ちゃっかり寿命を二〜三年ほど延ばしに行きたかったところなのだが。
あいにく仕事で地元を遠く離れているため、今年も指を咥えて遠い空から眺めることになりそうである。




