第4話:追跡者——白銀の聖騎士
村に戻ると、異変が起きていた。
村の入り口に、武装した騎士団が集結している。
白銀の鎧。王国聖騎士団の紋章。
そして——その先頭に立つ人物。
金色の短い髪。鋭い青い瞳。
白銀の鎧を纏った、女騎士。
『クラリス・フォン・アルトハイム:聖騎士団第三部隊隊長』
『年間マナ消費:0MP』
『戦闘スタイル:完全物理特化』
『脅威度:A+(魔法が効かない)』
『備考:カイ・ヴェルナーの元婚約者』
——クラリス。
5年前に、婚約を破棄した女。
俺がマナ効率化に傾倒するにつれ、彼女との溝は深まっていった。
最後に会ったのは、婚約破棄の日だ。
彼女は、俺に言った。
『お前は、数字しか見ていない。人の心が、見えていない』
俺は、答えた。
『数字こそが、人の心を救う。お前には、それが分からない』
それきり、俺たちは会っていなかった。
——今日まで。
「久しぶりだな、カイ」
クラリスが、俺を見つめた。
「まさか、魔族と旅をしているとはな」
彼女の視線が、俺の隣にいるベルに向けられた。
「その子供は——大魔王ベルフェゴールか」
「よく知っているな」
「聖騎士団の記録にある。数百年前に消滅したはずの、最強の魔王」
クラリスが、剣の柄に手を置いた。
「カイ・ヴェルナー。お前を、国家反逆罪で逮捕する」
「逮捕? 俺は何も悪いことはしていない」
「王都で機密情報を公開し、国家の安定を脅かした。それだけで十分だ」
「安定? お前が言う『安定』とは、貴族が浪費し、庶民が死ぬことか?」
クラリスの目が、わずかに揺れた。
だが、すぐに表情を引き締めた。
「それは、私の判断することではない。私は命令に従うだけだ」
「命令に従う。便利な言葉だな」
「黙れ。お前に、正義を語る資格はない」
クラリスが、剣を抜いた。
白銀の刃が、灰色の空に光る。
「抵抗するなら、斬る」
俺は——動かなかった。
「カイさん……!」
エルが、俺の前に出ようとした。
俺は、彼女を止めた。
「エル、下がっていろ」
「でも——」
「大丈夫だ。クラリスは、俺を殺さない」
「……どうして、分かるんですか」
「彼女を、知っているからだ」
俺は、クラリスを見た。
「クラリス。この村を見たか」
「……見た」
「人々が、どんな状態か。分かったか」
「……」
「お前の『命令』は、この人たちを救うのか? それとも、見殺しにするのか?」
クラリスの手が、わずかに震えた。
彼女は、正義を重んじる人間だ。
だからこそ、聖騎士になった。
だが、今——彼女は、矛盾の前に立たされている。
『命令に従う正義』と、『目の前の人を救う正義』。
どちらを選ぶべきか。
「……カイ」
クラリスが、低い声で言った。
「なぜ、お前はいつも——私を困らせる」
「困らせているつもりはない。ただ、真実を見せているだけだ」
「真実……」
クラリスが、剣を降ろした。
「……今日は、見逃す」
「隊長……!?」
部下の騎士が、驚いた声を上げた。
「いいのですか!? 反逆者を——」
「黙れ。これは私の判断だ」
クラリスが、俺を睨んだ。
「カイ。次に会った時は、容赦しない」
「分かっている」
「……お前の目的は何だ。世界樹の欠片を集めて、何をするつもりだ」
「世界を救う」
「世界を救う? お前一人で?」
「一人じゃない」
俺は、エルとベルを見た。
「仲間がいる」
クラリスが、しばらく俺を見つめていた。
そして——
「……ふん」
彼女は、騎士団に向き直った。
「撤収だ」
「で、ですが——」
「撤収だと言っている。聞こえなかったか」
騎士団が、渋々ながら撤退を始めた。
クラリスは、最後に俺を振り返った。
「カイ。一つだけ、教えてやる」
「何だ」
「オズワルド団長が、お前を追っている。300名の討伐隊を編成した」
「オズワルド……」
「私の師匠だ。お前も知っているだろう」
「ああ。知っている」
聖騎士団長オズワルド。
王国最強の騎士。
SSSランクの戦闘力。
そして——クラリスの師匠。
「奴は、容赦しない。私のように、甘くはない」
「忠告、感謝する」
「感謝なんかいらない」
クラリスが、馬に乗った。
「……生き延びろ、カイ。死んだら、許さないからな」
彼女は、騎士団を率いて去っていった。
灰の中に、蹄の跡だけが残った。




