第2話:村の監査——隠された『中抜き』
翌朝。
俺は村の中を歩き、すべての家を訪問した。
120人の住民。
そのほとんどが、老人か子供だった。
働き盛りの大人は、マナを求めて都市部に出稼ぎに行ったか、あるいは——死んだ。
『フローズン・ホロウ村:人口構成』
『0-14歳:18名(15%)』
『15-64歳:32名(27%)』
『65歳以上:70名(58%)』
『平均年齢:61歳』
『5年間の人口減少率:65%』
俺は、一軒一軒の家で魔法陣を調べ、最適化を施していった。
照明魔法。暖房魔法。調理魔法。
どれも古い型で、効率は30〜50%程度だった。
「この照明魔法陣、いつ作られたものだ?」
「さあ……私の祖母の代から、ずっと同じものを使っているよ」
「100年以上前の型だな。今の知識で作り直せば、消費量を3分の1にできる」
俺は、魔法陣を再構築した。
『照明魔法:旧型 消費0.03MP/時 → 新型 消費0.01MP/時』
『効率:38% → 91%』
『年間節約量:175MP(この家のみ)』
一軒の家で、年間175MP。
120世帯すべてを最適化すれば——
『推定:村全体の年間節約量 約21,000MP』
『現在の配給(実質1,100MP)で生活可能な水準を大きく上回る』
『暖房魔法の常時使用が可能に』
「カイさん、すごいです……!」
エルが、目を輝かせて俺を見た。
「これで、みんな冬を越せますね!」
「ああ。だが、まだ問題がある」
「問題……?」
「配給の中抜きだ。いくら効率化しても、届くべきマナが届かなければ意味がない」
俺は、村長の家に向かった。
*
村長は、50代の痩せた男だった。
名前はゴードン。
かつては農夫だったが、マナ枯渇で農地が死に、今は村の取りまとめ役をしている。
「監査官だと? 王都から派遣されたのか?」
「元監査官だ。今は追放された身だが、お前たちの役に立てることがある」
俺は、マナ・レジャーのデータを見せた。
「この村への配給は、年間2,400MPのはずだ。だが、実際に届いているのは1,100MP。半分以上が、途中で消えている」
ゴードンの顔が、強張った。
「……それは、何かの間違いじゃ——」
「間違いじゃない。俺の目は、嘘をつかない」
俺は、ゴードンを見つめた。
「誰が中抜きしている? 地方配給官か? それとも、中継ステーションの管理者か?」
ゴードンが、視線を逸らした。
「……言えない」
「言えない?」
「言ったら、配給が完全に止められる。今の半分でも、ないよりはマシなんだ」
「なるほど。脅されているのか」
「……」
ゴードンは、何も言わなかった。
だが、その沈黙が答えだった。
「相手は誰だ」
「……ヴィクター・ローゼンタール。この地域の配給監督官だ」
「ローゼンタール家。王都の中堅貴族だな」
「ああ。奴は、辺境の村から配給を抜き取り、私腹を肥やしている。逆らえば、配給を止めると脅される。俺たちには、どうすることもできない」
ゴードンの声には、深い絶望があった。
俺は、マナ・レジャーでヴィクター・ローゼンタールの情報を検索した。
『ヴィクター・ローゼンタール:地方配給監督官(北部管区)』
『年齢:42歳』
『年間マナ消費:推定85,000MP(管区内の中抜き分を含む)』
『私邸:王都近郊に魔法庭園付きの屋敷』
『備考:マナ運用局副局長グレンフェルト侯爵の従弟』
グレンフェルト侯爵の従弟。
俺を追放した、あの太った豚の親族か。
「カイさん」
ベルが、俺の袖を引っ張った。
「そのおじさん、悪い人?」
「ああ。最悪の部類だ」
「じゃあ、私が——」
「待て、ベル」
俺は、ベルを止めた。
「お前の力を使えば、奴を消すのは簡単だ。だが、それでは根本的な解決にならない」
「どういうこと?」
「奴を消しても、別の誰かが同じことをするだけだ。システムを変えなければ、何も変わらない」
ベルが、首を傾げた。
「システム……?」
「マナ運用局の腐敗は、個人の問題じゃない。組織全体の問題だ。一人を消しても、二人目が現れる」
俺は、窓の外を見た。
灰が、降っている。
「だが、今はそこまで手が回らない。まずは——この村を救う」
「どうするんですか、カイさん?」
エルが、不安そうに聞いた。
「証拠を集める」
俺は、ゴードンに向き直った。
「配給の記録は、どこにある?」
「中継ステーションに保管されている。だが、部外者は入れない」
「俺は元監査官だ。監査官の紋章があれば、どこでも入れる」
「でも、追放されたんじゃ——」
「紋章は剥奪されていない。連中が手続きを忘れたか、あるいは——俺が盗んだか」
俺は、懐から銀色の紋章を取り出した。
マナ運用局監査官の証。
追放の際、返却を求められたが——俺は、黙って持ち出していた。
「……あんた、本当に何者だ」
「ただの監査官だ。元、だがな」




